2 地方財政の概況

 地方公共団体の歳入及び歳出は、一般会計と特別会計に区分して経理されているが、特別会計の中には、一般行政活動に係るものと企業活動に係るものがある。

 このため、地方財政では、これらの会計を一定の基準によって、一般行政部門と水道、交通、病院等の企業活動部門に分け、前者を「普通会計」、後者を「地方公営事業会計」として区分している。

 以下、平成16年度の地方財政について、9までにおいて普通会計の状況を示すとともに、10において地方公営事業会計の状況を示す。

(1) 決算規模[第1表第5表第11表第71表]

 地方公共団体(47都道府県、2,521市町村、23特別区、1,730一部事務組合及び68広域連合(以下、一部事務組合及び広域連合を「一部事務組合等」という。))の普通会計の純計決算額は、第1表のとおり、歳入93兆4,422億円(前年度94兆8,870億円)、歳出91兆2,479億円(同92兆5,818億円)で、歳入、歳出いずれも5年連続して減少している。

 また、前年度と比べると、歳入1.5%減(前年度2.3%減)、歳出1.4%減(同2.4%減)となっている。

 このように決算規模が前年度決算額を下回ったのは、歳入については、地方交付税、地方債等が減少したこと、歳出については、歳出削減努力等により人件費、普通建設事業費を中心とする投資的経費等が減少したことによるものである。

 決算規模の状況を団体種類別にみると、第2表のとおりであり、都道府県、市町村(特別区及び一部事務組合等を含む。特記がある場合を除き、以下同じ。)ともに歳入、歳出は、それぞれ前年度決算額を下回っている。

 また、近年の決算規模の推移は、第7図のとおりである。

(2) 決算収支

ア 実質収支[第7表]

 実質収支(形式収支(歳入歳出差引額)から明許繰越等のために翌年度に繰り越すべき財源を控除した額)の状況は、第3表のとおりである。

 平成16年度の実質収支は、1兆2,208億円の黒字(前年度1兆2,046億円の黒字)で、昭和31年度以降黒字が続いている。また、前年度と比べると、黒字幅はやや増加している。

 実質収支を団体種類別にみると、都道府県においては7年連続で赤字団体が発生したものの、1,576億円の黒字(前年度1,477億円の黒字)となっている。

 また、市町村においては1兆632億円の黒字(前年度1兆570億円の黒字)であり、昭和31年度以降黒字が続いている。

 実質収支が赤字である団体数をみると、平成15年度に赤字であった28団体(1府1県、26市町村。打切り決算(市町村合併等により、出納整理期間中の歳入、歳出がないことをいう。以下同じ。)が行われたことによる赤字団体は除いている。)のうち15団体(1府、14市町村)が引き続き赤字であり、11団体(5市、5町、1一部事務組合)が新たに赤字団体となった結果、赤字団体数は26団体であり、前年度と比べると2団体減少している。

 なお、打切り決算により、これ以外に51団体(51市町村)が赤字となっている。

 さらに、近年の実質収支及び赤字団体の赤字額の推移は、第8図のとおりである。

 標準財政規模に対する実質収支額の割合である実質収支比率の推移は、第9図のとおりであり、平成16年度の実質収支比率(特別区及び一部事務組合等を除く加重平均)は前年度と比べると0.1%ポイント上昇の2.2%となっている。

 実質収支比率を団体種類別にみると、都道府県は0.1%ポイント上昇の0.7%、市町村(特別区及び一部事務組合等を除く)は前年度と同じ3.5%となっている。

イ 単年度収支及び実質単年度収支[第7表]

 平成16年度の単年度収支(実質収支から前年度の実質収支を差し引いた額)は、1,276億円の黒字(前年度1,397億円の黒字)で、2年連続で黒字となっている。

 単年度収支を団体種類別にみると、都道府県においては91億円の黒字(前年度133億円の黒字)、市町村においては1,185億円の黒字(同1,263億円の黒字)となっている。

 また、実質単年度収支(単年度収支に財政調整基金への積立額及び地方債の繰上償還額を加え、財政調整基金の取崩し額を差し引いた額)は、2年ぶりに赤字に転じており(前年度918億円の黒字)、その赤字額は117億円となっている。

 実質単年度収支を団体種類別にみると、都道府県においては1,373億円の黒字(前年度458億円の赤字)、市町村においては1,490億円の赤字(同1,377億円の黒字)となっている。

 なお、実質収支、単年度収支及び実質単年度収支の赤字団体数の状況は、第4表のとおりである。

(3) 歳入[第11表]

 歳入純計決算額は93兆4,422億円で、前年度と比べると1.5%減(前年度2.3%減)となっている。

 決算額の主な内訳をみると、第5表のとおりである。

 地方税(対前年度比2.7%増)は、都道府県の法人関係二税(法人住民税、法人事業税)の大幅な増加、地方消費税の増加等により、増加している。

 地方譲与税(同67.7%増)は、個人の所得課税に係る国から地方公共団体への本格的な税源の移譲を行うまでの間の暫定措置として所得税の収入額の一部が都道府県及び市町村(一部事務組合等を除く。)に対して譲与される所得譲与税の創設等により、増加している。

 地方特例交付金(同9.8%増)は、平成16年度の義務教育費国庫負担金等の見直しに伴う税源移譲予定特例交付金の創設等により、増加している。

 地方交付税(対前年度比5.8%減)は、前年度に引き続き減少している。

 国庫支出金(対前年度比5.2%減)は、公共事業関係の国庫補助負担金の削減による普通建設事業費支出金の減少、平成16年度における三位一体の改革による国庫補助負担金の一般財源化等により減少している。

 地方債(対前年度比10.3%減)は、臨時財政対策債の減少等により減少している。

 歳入純計決算額の構成比の推移は、第10図のとおりである。主な歳入項目の構成比の推移は次のとおりである。

 地方税の構成比は、ピークとなった昭和63年度(歳入総額の44.3%)以降低下し、平成4年度以降は33%から37%台の間で推移しており、16年度は前年度と比べると1.5%ポイント上昇の35.9%となっている。

 地方交付税の構成比は、平成2年度から7年度までは低下の傾向にあり、8年度から12年度までは上昇の傾向にあったが、13年度以降、地方財政対策にあたり、交付税特別会計の借入金方式に代えて臨時財政対策債を発行し、基準財政需要額の一部を振り替えることとしたこと等から再び低下の傾向に転じ、16年度は前年度と比べると0.8%ポイント低下の18.2%となっている。

 国庫支出金の構成比は、平成4年度から9年度までは14%台で推移した後、経済対策の規模の拡大、介護保険制度の実施準備等から10年度は15%台、11年度は16%台に上昇し、12年度からは再び14%台で推移していた。しかし、平成14年度以降は普通建設事業費支出金の減少、平成16年度における三位一体の改革による国庫補助負担金の一般財源化等により13%台に低下しており、16年度は前年度と比べると0.6%ポイント低下の13.3%となっている。

 地方債の構成比は、経済対策の規模の拡大等から上昇した平成10年度を除き、8年度から12年度までは低下の傾向にあったが、13年度からは臨時財政対策債の発行により上昇の傾向に転じていた。しかし、平成16年度は臨時財政対策債の発行額が減少したこと等により、前年度と比べると1.3%ポイント低下の13.2%となっている。なお、臨時財政対策債の発行額を除いた構成比は、前年度と比べると0.2%ポイント上昇の9.2%となっている。

 一般財源の構成比は、平成元年度(歳入総額の62.7%)をピークに低下したのち、8年度から12年度までは、経済対策の規模の拡大等による国庫支出金、地方債等が増加した10年度を除き、上昇の傾向にあったが、13年度から地方交付税の減少により、減少の傾向に転じていた。しかし、平成16年度は地方税、地方譲与税及び地方特例交付金の増加に加え、国庫支出金、地方債等が減少したことから、前年度と比べると1.2%ポイント上昇の56.5%となっている。

 歳入決算額の構成比を団体種類別にみると、第11図のとおりである。

 都道府県においては地方税が最も大きな割合(33.3%)を占め、以下、地方交付税(19.0%)、国庫支出金(14.7%)の順となっている。

 一方、市町村においては地方税が最も大きな割合(34.0%)を占め、以下、地方交付税(15.2%)、地方債(10.4%)の順となっている。

(4) 歳出

 歳出の分類方法としては、行政目的に着目した「目的別分類」と経費の経済的な性質に着目した「性質別分類」が用いられるが、これらの分類による歳出の概要は、次のとおりである。

ア 目的別歳出

(ア) 目的別歳出[第34表]

 地方公共団体の経費は、その行政目的によって、議会費、総務費、民生費、衛生費、労働費、農林水産業費、商工費、土木費、消防費、警察費、教育費、災害復旧費、公債費等に大別することができる。

 歳出純計決算額は91兆2,479億円で、前年度と比べると1.4%減(前年度2.4%減)となっている。

 目的別歳出の構成比は、第6表のとおりであり、教育費(歳出総額の18.5%)、土木費(同16.7%)、民生費(同16.6%)、公債費(同14.4%)、総務費(同9.8%)の順となっており、教育費、土木費及び民生費で全体の5割以上を占めている。

 これらの費目の対前年度増減率をみると、教育費(対前年度比1.7%減)は、校舎建設等の普通建設事業費の減少等により、減少している。

 土木費(対前年度比7.3%減)は、道路橋りょう事業、都市計画事業等の減少により、減少している。

 民生費(対前年度比4.1%増)は、児童手当に係る制度改正(支給対象年齢の拡大)や被生活保護者数の増加等による扶助費の増加、老人保健医療事業会計繰出金の増加等による繰出金の増加等により、増加している。

 公債費(対前年度比0.6%減)は、近年の低金利の影響により新発債、借換債及び一時借入金の利子が低迷していることによる地方債利子及び一時借入金利子の減少等により、減少している。

 総務費(対前年度比1.1%減)は、職員の退職金の減少等により、減少している。

 目的別歳出の構成比の推移は、第7表のとおりである。農林水産業費及び土木費の構成比がそれぞれ低下の傾向にある一方、民生費及び公債費の構成比が上昇の傾向にある。

 目的別歳出の構成比を団体種類別にみると、第12図のとおりである。

 都道府県においては、市町村立義務教育諸学校教職員の人件費を負担していること等により教育費が最も大きな割合(23.9%)を占め、以下、土木費(15.9%)、公債費(13.8%)、民生費(8.3%)、農林水産業費(6.9%)の順となっている。

 また、市町村においては、児童手当支給事務、生活保護に関する事務(町村については、福祉事務所を設置している町村に限る。)等の社会福祉事務の比重が高いこと等により民生費が最も大きな割合(25.3%)を占め、以下、土木費(16.0%)、公債費(13.3%)、総務費(12.9%)、教育費(11.1%)の順となっている。

(イ) 一般財源の充当状況

 一般財源の目的別歳出に対する充当状況は、第8表のとおりである。

 一般財源総額(52兆8,278億円)に占める目的別歳出の割合をみると、公債費が最も大きな割合(19.5%)を占め、以下、教育費(19.4%)、民生費(15.5%)、総務費(11.9%)、土木費(10.6%)の順となっている。

 一般財源充当額の目的別構成比の推移は、第13図のとおりである。近年、公債費及び民生費に充当された一般財源の構成比が上昇の傾向にあり、土木費に充当された一般財源の構成比が低下の傾向にある。

イ 性質別歳出

(ア) 性質別歳出[第71表]

 地方公共団体の経費は、その経済的な性質によって、義務的経費、投資的経費及びその他の経費に大別することができる。

 義務的経費は、職員給与費等の人件費のほか、生活保護費等の扶助費及び地方債の元利償還金等の公債費からなっており、そのうち人件費が約6割(55.5%)を占めている。また、投資的経費は、道路、橋りょう、公園、公営住宅、学校の建設等に要する普通建設事業費のほか、災害復旧事業費及び失業対策事業費からなっており、そのうち普通建設事業費が大部分(97.0%)を占めている。

 歳出純計決算額の主な性質別内訳をみると、第9表のとおりである。

 義務的経費は、前年度決算額を上回っている(対前年度比0.1%増)。これは、公債費(同0.6%減)が減少するとともに、行政改革に伴う給与の適正化、定員削減等による職員給の減少、退職金の減少等により人件費(同1.2%減)が減少する一方、児童手当に係る制度改正(支給対象年齢の拡大)や被生活保護者数の増加等により扶助費(同6.3%増)が大きく増加したためである。

 投資的経費は、前年度決算額を下回っている(対前年度比9.3%減)。これは、その大部分を占める普通建設事業費が、補助事業費(同15.6%減)、単独事業費(同7.5%減)ともに減少し、前年度決算額を下回ったためである(同10.5%減)。

 また、その他の経費は、貸付金(対前年度比4.8%増)等の増加により前年度決算額を上回っている(同1.2%増)。

 平成11年度以降の歳出決算増減額に占めるこれらの経費の推移は、第14図のとおりである。

 次に、性質別歳出の構成比の推移は、第15図のとおりである。

 投資的経費の構成比は、平成2年度以降、積極的な地方単独事業の実施や4年度以降の数次にわたる経済対策の影響等から、経済対策による単独事業の追加がなかった6年度を除き上昇の傾向にあったが、8年度に低下に転じ、16年度は前年度と比べると1.6%ポイント低下の18.5%となっている。また、投資的経費のうち普通建設事業費の内訳を補助事業費、単独事業費の別にみると、昭和63年度に初めて単独事業費が補助事業費を上回り、それ以降、単独事業費が補助事業費を上回っている。

 一方、義務的経費の構成比は、投資的経費の増加が相対的に大きかったことから、昭和60年度(48.8%)をピークに低下の傾向にあったが、平成8年度以降は、投資的経費の減少に伴い上昇の傾向にあり、16年度は前年度に比べると0.8%ポイント上昇の50.6%となっている。

 性質別歳出決算額の構成比を団体種類別にみると、第16図のとおりである。

 人件費の構成比は、都道府県において市町村立義務教育諸学校教職員の人件費を負担していることなどから、都道府県(31.6%)が市町村(21.1%)を上回っている。また、扶助費の構成比は、児童手当支給事務、生活保護に関する事務(町村については、福祉事務所を設置している町村に限る。)等の社会福祉関係事務が主に市町村において行われていること等から、市町村(13.1%)が都道府県(2.1%)を大きく上回っている。

 さらに、普通建設事業費のうち、補助事業費の構成比は、都道府県(9.2%)が市町村(5.1%)を上回る一方、単独事業費の構成比は、市町村(10.2%)が都道府県(7.7%)を上回っている。

(イ) 一般財源の充当状況[第72表]

 一般財源の性質別歳出に対する充当状況は、第10表のとおりである。

 一般財源総額(52兆8,278億円)に占める性質別歳出の割合をみると、義務的経費が最も大きな割合(59.1%)を占めている。また、投資的経費の割合は7.5%であり、歳出総額に占める投資的経費の割合(18.5%)に比べて小さくなっている。

 一般財源充当額の性質別構成比の推移は、第17図のとおりである。

 義務的経費に充当された一般財源の構成比は、昭和50年度の62.0%をピークに、平成2年度の47.5%までおおむね低下の傾向にあったが、3年度以降は、12年度及び15年度を除き上昇の傾向にあり、16年度は前年度と比べると0.7%ポイント上昇の59.1%となっている。

 一方、投資的経費に充当された一般財源の構成比は、平成3年度以降低下の傾向にあり、16年度は前年度と比べると0.8%ポイント低下の7.5%となっている。

(5) 財政構造の弾力性

ア 経常収支比率[第8表]

 地方公共団体が社会経済や行政需要の変化に適切に対応していくためには、財政構造の弾力性が確保されなければならない。財政分析においては、財政構造の弾力性の度合いを判断する指標の一つとして、経常収支比率が用いられている。

 経常収支比率は、経常経費充当一般財源(人件費、扶助費、公債費のように毎年度経常的に支出される経費に充当された一般財源)が、経常一般財源(一般財源総額のうち地方税、普通交付税のように毎年度経常的に収入される一般財源)、減税補てん債及び臨時財政対策債の合計額に対し、どの程度の割合となっているかをみることにより財政構造の弾力性を判断するものである。

 平成16年度の経常収支比率(特別区及び一部事務組合等を除く加重平均)は、前年度(89.0%)と比べると2.5%ポイント上昇の91.5%となり、集計開始(昭和44年度)以来最も高い値となっている。

 また、その主な内訳をみると、人件費充当分が37.0%(前年度36.0%)、公債費充当分が21.9%(同21.5%)となっている。

 なお、減税補てん債及び臨時財政対策債の発行額を経常収支比率算出上の分母から除いた場合の経常収支比率を求めると、99.9%となる。

 このように経常収支比率が前年度を上回ったのは、第18図(その1)のとおりであり、分子である経常経費充当一般財源については、児童手当に係る制度改正(支給対象年齢の拡大)や生活保護費の増加等により扶助費充当分が増加したこと等により、全体として増加した一方、分母である経常一般財源については、普通交付税及び臨時財政対策債が減少したこと等により、全体として減少したことによるものである。

 近年の経常収支比率の推移は、第11表のとおりであり、平成15年度は低下したものの、平成13年度以降上昇の傾向にある。

 経常収支比率を団体種類別にみると、都道府県は前年度(90.8%)と比べると1.7%ポイント上昇の92.5%、市町村(特別区及び一部事務組合等を除く。以下、この項において同じ。)は前年度(87.4%)と比べると3.1%ポイント上昇の90.5%となっている。

 このように都道府県の経常収支比率が市町村より高くなっているのは、都道府県が市町村立義務教育諸学校教職員の給与を負担していることなどから人件費充当分が大きいことなどによるものである。

 都道府県の経常収支比率が前年度を上回ったのは、第18図(その2)のとおりであり、分子である経常経費充当一般財源については、補助費等充当分の増加等により、全体として増加している。一方、分母である経常一般財源については、地方税及び地方譲与税の大幅な増加があったものの、地方交付税及び臨時財政対策債の減少がそれを上回り、全体として減少している。

 また、市町村の経常収支比率が前年度を上回ったのは、第18図(その3)のとおりであり、分子である経常経費充当一般財源については、補助費等充当分及び公債費充当分の減少があったものの、児童手当に係る制度改正(支給対象年齢の拡大)等による扶助費充当分の増加等により全体として増加している。一方、分母である経常一般財源については、地方譲与税及び減税補てん債の増加があったものの、地方交付税及び臨時財政対策債の減少がそれを上回り、全体として減少している。

 経常収支比率の段階別分布状況をみると、第12表のとおりである。経常収支比率が75%以上の団体数は、都道府県においては47団体のすべての団体(前年度同数)、市町村においては全体の97.9%を占める2,467団体(同3,004団体)となっており、多くの団体の経常収支比率が高い水準にある。

イ 公債費負担比率及び起債制限比率[第8表]

 地方債の元利償還金等の公債費は、義務的経費の中でも特に弾力性に乏しい経費であることから、財政構造の弾力性をみる場合、その動向には常に留意する必要がある。その公債費の状況を把握するための指標として、公債費負担比率及び起債制限比率が用いられている。

 公債費負担比率は、公債費充当一般財源(地方債の元利償還金等の公債費に充当された一般財源)が一般財源総額に対し、どの程度の割合となっているかを示す指標であり、公債費がどの程度一般財源の使途の自由度を制約しているかをみることにより、財政構造の弾力性を判断するものである。

 平成16年度の公債費負担比率(全団体の加重平均)は、前年度と同じ19.4%となっている。

 このように公債費負担比率が前年度と同率となったのは、第19図のとおりであり、分子である公債費充当一般財源と分母である一般財源総額の伸び率がほぼ同程度であったためである。

 近年の公債費負担比率の推移は、第20図のとおりであり、平成4年度以降上昇の傾向にあり、財政構造の硬直化が進んでいる。

 起債制限比率は、地方債元利償還金及び公債費に準ずる債務負担行為に係る支出の合計額から繰上償還された額を除き、さらにこれに充当された一般財源のうち普通交付税の算定において基準財政需要額に算入されたものを除いたものが、標準財政規模及び臨時財政対策債発行可能額の合計額(普通交付税の算定において基準財政需要額に算入された公債費等を除く。)に対しどの程度の割合となっているかをみるものである。

 平成16年度の起債制限比率(一部事務組合等を除く加重平均)は、第13表のとおりであり、臨時財政対策債発行可能額の減少等により、前年度(11.6%)と比べると0.1%ポイント上昇の11.7%となっている。

 起債制限比率の段階別分布状況は、第14表のとおりである。起債制限比率が15%以上の団体数は、都道府県においては全体の12.8%を占める6団体(前年度同数)となっており、市町村(一部事務組合等を除く。)においては全体の7.6%を占める194団体(同189団体)となっている。

(6) 将来にわたる財政負担

 地方公共団体の財政状況をみるには、単年度の収支状況のみでなく、地方債、債務負担行為等のように将来にわたって財政負担となるものや、財政調整基金等の積立金のように年度間の財源調整を図り将来における弾力的な財政運営に資するために財源を留保するものの状況についても、併せて総合的に把握する必要がある。これらの状況は、次のとおりである。

ア 地方債現在高[第97表]

 平成16年度末における地方債現在高は140兆7,516億円で、前年度末と比べると1.3%増(前年度末3.0%増)となっている。なお、特定資金公共投資事業債を除いた地方債現在高は、140兆5,380億円で、前年度末と比べると1.8%増(同3.0%増)となっている。

 地方債現在高の歳入総額及び一般財源総額に対するそれぞれの割合の推移は、第21図のとおりである。

 地方債現在高は、昭和50年度末では歳入総額の0.44倍、一般財源総額の0.88倍であったが、地方税収等の落込みや減税に伴う減収の補てん、経済対策に伴う公共投資の追加等により地方債が急増したことに伴い、平成4年度末以降急増し、さらに、平成13年度からの臨時財政対策債の発行により16年度末には歳入総額の1.50倍、一般財源総額の2.66倍となっている。なお、標準財政規模に対する比率は、前年度末と比べると5.6%ポイント上昇の280.8%となっている。

 近年の地方債現在高の目的別構成比及び借入先別構成比の推移は、第22図のとおりである。

 地方債現在高を目的別にみると、一般単独事業債が最も大きな割合(36.8%)を占め、以下、一般公共事業債(20.2%)、臨時財政対策債(9.1%)、減税補てん債(5.1%)、減収補てん債(4.0%)、公営住宅建設事業債(3.5%)の順となっている。

 地方債現在高の借入先別の構成比は、政府資金(44.2%)、市中銀行資金(27.5%)、市場公募債(15.0%)、公営企業金融公庫資金(5.9%)の順となっている。

 また、前年度末の割合と比べると、近年の市場公募化の推進等に伴い、市場公募債が1.6%ポイント上昇する一方、政府資金は1.2%ポイント低下、市中銀行資金は0.1%ポイント低下している。

 地方債現在高を団体種類別にみると、都道府県においては79兆1,689億円、市町村においては61兆5,827億円で、前年度末と比べるとそれぞれ2.3%増(前年度末3.8%増)、0.0%増(同2.0%増)となっている。

イ 債務負担行為額[第98表]

 地方公共団体は、将来の支出を約束するために、債務負担行為を行うことができる。

 この債務負担行為は、数年度にわたる建設工事、土地の購入等の場合のように翌年度以降の経費支出が予定されているものと、債務保証又は損失補償のように債務不履行等の一定の事実が発生したときに支出されるものとに大別することができる。

 これらの債務負担行為に基づく翌年度以降支出予定額をみると、平成16年度末では12兆301億円で、前年度末と比べると5.2%減(前年度末1.7%減)となっている。

 翌年度以降支出予定額を目的別にみると、第23図のとおりである。

 このうち、物件の購入等に係るものについては、製造・工事の請負に係るもの(対前年度末比10.8%減)、土地の購入に係るもの(同9.8%減)が減少したこと等により、全体として8.2%減となっている。

 また、債務保証又は損失補償に係るものについては、その他の債務保証又は損失補償(対前年度末比11.5%増)が増加となったものの、特別法の規定に基づく法人のうち地方三公社(地方住宅供給公社、地方道路公社及び土地開発公社)以外に係るもの(信用保証協会、農協、社会福祉法人等)(同2.7%減)、地方公共団体が出資・出えんしている地方三公社以外の法人(財団法人、株式会社等)(同58.2%減)及び地方三公社に係るもの(同46.8%減)が減少したこと等により、全体として20.3%減となっている。

 翌年度以降支出予定額を団体種類別にみると、都道府県においては5兆3,719億円、市町村においては6兆6,582億円で、前年度末と比べるとそれぞれ10.0%減(前年度末4.3%減)、1.0%減(同0.7%増)となっている。

ウ 積立金現在高[第99表]

 地方公共団体は、財政の健全な運営を図るため、将来の財政需要に備えて積立てを行っている。

 この積立金現在高の状況は、第15表のとおりである。

 平成16年度末における積立金現在高は13兆351億円で、前年度末と比べると9,525億円減少(対前年度末比6.8%減)している。また、標準財政規模に対する比率は、前年度末と比べると1.9%ポイント低下の26.0%となっている。

 積立金現在高の内訳をみると、年度間の財源調整を行うために積み立てられている財政調整基金は前年度末と比べると2.7%減となっている。地方債の将来の償還費に充てるために積み立てられている減債基金は前年度末と比べると12.1%減となっている。将来の特定の財政需要に備えて積み立てられているその他特定目的基金は前年度末と比べると6.9%減となっている。

 積立金現在高を団体種類別にみると、前年度末と比べ、都道府県においては財政調整基金が増加している一方、減債基金及びその他特定目的基金が減少したことにより、全体として2,400億円減少(対前年度末比6.0%減)しており、市町村においては財政調整基金、減債基金及びその他特定目的基金が減少したことにより、全体として7,125億円減少(同7.2%減)している。

エ 将来にわたる実質的な財政負担[第97表〜第99表第130表]

 地方債現在高(特定資金公共事業債及び特定資金公共投資事業債を除く。)に債務負担行為に基づく翌年度以降支出予定額を加え、積立金現在高を差し引いた地方公共団体の将来にわたる実質的な財政負担の推移は、第24図のとおりである。

 平成16年度末における将来にわたる実質的な財政負担は139兆5,329億円で、前年度末と比べると2.0%増(前年度末3.4%増)となっている。

 なお、標準財政規模に対する比率は、前年度末と比べると6.2%ポイント上昇の278.8%となっており、また、国内総生産(名目ベース。以下同じ。)に対する割合では、前年度末と比べると0.8%ポイント上昇の28.1%となっている。

 将来にわたる実質的な財政負担を団体種類別にみると、都道府県においては80兆5,876億円(標準財政規模に対する比率351.8%)、市町村においては58兆9,453億円(同217.2%)であり、前年度末と比べるとそれぞれ2.4%増(前年度末3.7%増)、1.5%増(同2.9%増)となっている。

オ 普通会計が負担すべき借入金残高

 普通会計が将来にわたって負担すべき借入金という観点からは、地方債現在高のほか、巨額の地方財源不足に対処するための昭和58年度、61年度、平成4年度から16年度までの各年度における交付税及び譲与税配付金特別会計(以下「交付税特別会計」という。)借入金のうち地方財政全体で負担するもの及び地方公営企業において償還する企業債のうち、経費負担区分の原則等に基づき、普通会計がその償還財源を負担するものについても併せて考慮する必要がある。

 この観点から、交付税特別会計借入金残高のうち地方財政全体で負担することとなるものと企業債現在高のうち普通会計が負担することとなるものを地方債現在高(特定資金公共事業債及び特定資金公共投資事業債を除く。以下、この項において同じ。)に加えた普通会計が負担すべき借入金残高の推移をみると、第25図のとおりである。

 これをみると、近年の地方税収等の落込みや平成4年度以降の補正予算による経済対策に加え、平成6年度以降の減税による地方税の減収等に対応するための財源確保や平成13年度以降の臨時財政対策債の発行等に伴い、普通会計が負担すべき借入金残高は急増しており、16年度末には、201兆4,096億円に達し、前年度末と比べると1.6%増(対前年度末比2.7%増)となっている。

 また、その内訳は、地方債現在高が140兆5,380億円、交付税特別会計借入金残高が32兆8,177億円、企業債現在高のうち普通会計が負担することとなるものが28兆539億円となっている。

 また、この普通会計が負担すべき借入金残高の標準財政規模に対する比率は、前年度末と比べると7.4%ポイント上昇の402.5%にまで増大しており、普通会計が負担すべき借入金残高の国内総生産に対する比率は、前年度末と比べると1.0%ポイント上昇の40.6%となっている。

(7) 決算の背景

ア 平成16年度の経済見通しと国の予算

(ア) 経済見通しと経済財政運営の基本的態度

 「平成16年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」は、平成15年12月19日に閣議了解、平成16年1月19日に閣議決定された。

 これによると、平成15年度の我が国経済は、年度当初には踊り場的な状況が見られた後、米国をはじめ世界経済が回復する中で、輸出や生産が再び緩やかに増加していくとともに、企業収益の改善が続き、設備投資も増加するなど、企業部門が回復していくことにより、民需を中心に緩やかに回復していくものと見込まれていた。また、平成15年度の国内総生産の名目成長率は0.1%程度になると見込まれていた。

 このような情勢認識に立って、平成16年度の経済財政運営の基本的態度については、平成15年6月27日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(以下「基本方針2003」という。)に基づき、デフレ克服を目指しながら、規制、金融、税制及び歳出の各分野にわたる構造改革を一体的かつ整合的に推進し、創造的な企業活動の促進や地方経済の活性化等を通じた民間需要主導の持続的な経済成長を目指すこととし、また、日本銀行と一体となって、金融・資本市場の安定及びできる限り早期のプラスの物価上昇率実現に向け、引き続き、強力かつ総合的な取組を実施し、今後とも、経済情勢によっては、大胆かつ柔軟な政策運営を行うこととされた。

 以上のような経済財政運営の下において、平成16年度の国内総生産は500.6兆円程度、経済成長率は名目で0.5%程度、実質で1.8%程度になるものと見通された。

(イ) 国の予算

 平成15年12月5日、「平成16年度予算編成の基本方針」が閣議決定された。その中で平成16年度予算については、活力ある経済社会と持続的な財政構造の構築を図る必要があることから、制度・政策の抜本的見直しを行うとともに、政府全体の歳出を国と地方が歩調を合わせつつ抑制することにより、政府の大きさ(一般政府の支出規模の国内総支出比)を極力抑制し、持続可能な財政構造の構築を図り、将来においても我が国経済の活力を維持するため、歳出全体にわたる徹底的な見直しを行い、歳出改革を一層推進するものとされ、一般会計歳出及び一般歳出については、実質的に平成15年度の水準以下に抑制すること等を基本的考え方とすることとされた。また、歳出の見直しと構造改革の推進のため、「基本方針2003」に基づき、「政策群」の手法を活用するとともに、活力ある社会・経済の実現に向けた4分野(「人間力の向上・発揮―教育・文化、科学技術、IT」、「個性と工夫に満ちた魅力ある都市と地方」、「公平で安心な高齢化社会・少子化対策」、「循環型社会の構築・地球環境問題への対応」)について、これまでの実績・評価を考慮しつつ政策効果が顕著なものについて重点的かつ効率的に推進するとともに、社会資本整備、社会保障制度及び地方財政の事項についても制度・施策の見直しを行い、さらに、農林水産、ODA等については「基本方針2003」に即し歳出の見直しに取り組むこととされた。

 社会資本整備については、公共投資関係費の水準を前年度予算から3%以上削減しつつ、上記の活力ある社会・経済の実現に向けた4分野を中心に、雇用・民間需要の拡大に資する分野への重点配分を行う一方、公共事業の国庫補助負担金については、「三位一体の改革」も踏まえ、その内容を見直すとともに、公共投資関係費全体の削減を上回る縮減を行うこと等とされた。

 地方財政については、国と地方に関する三位一体の改革を推進することにより、地方の権限と責任を大幅に拡大し、歳入・歳出両面での地方の自由度を高めることで、真に住民に必要な行政サービスを地方が自らの責任で自主的、効率的に選択できる幅を拡大するとともに、国・地方を通じた簡素で効率的な行財政システムの構築を図ることとされた。また、三位一体の改革については、「基本方針2003」を踏まえ、改革工程を早期に具体化するよう取り組むこととし、平成16年度予算においても、平成15年度予算における取組の上に立って、3年間の取組の初年度にふさわしい成果を上げるよう、政府一丸となって取り組むこととされた。

 平成16年度予算は、以上のような方針により編成され、平成15年12月24日に概算の閣議決定が行われた後、平成16年1月19日に第159回国会に提出された。

 これによると、平成16年度の国の一般会計予算の規模は82兆1,109億円で、前年度当初予算と比べると3,218億円の増加(0.4%増)となり、うち一般歳出の規模は47兆6,320億円で、前年度当初予算と比べると398億円の増加(0.1%増)となった。なお、「平成16年度予算編成の基本方針」において、前年度当初予算から3%以上削減することとされた公共投資関係費については、3.3%減の8兆6,149億円となった。また、公債の発行予定額は36兆5,900億円で、前年度当初発行予定額と比べると1,450億円の増加(0.4%増)となり、公債依存度は44.6%となった。

 他方、財政投融資計画については、財政投融資改革の趣旨を踏まえ、中小企業対策などセーフティ・ネットの構築等、真に必要な資金需要には的確に対応しつつ、対象事業の一層の重点化を図ることとされ、計画規模は20兆4,894億円、前年度計画額と比べると2兆9,221億円の減少(12.5%減)となった。

イ 地方財政計画

 平成16年度の地方財政計画は、極めて厳しい地方財政の現状等を踏まえ、歳出面においては、「基本方針2003」に沿って、歳出全般にわたり徹底した見直しを行うことにより歳出総額の計画的な抑制を図る一方、当面の重要課題である人間力の向上・発揮(教育・文化、科学技術、IT)、個性と工夫に満ちた魅力ある都市と地方の形成、少子・高齢化対策、循環型社会の構築・地球環境問題への対応等に財源の重点的配分を図ることとし、歳入面においては、地方税負担の公平適正化の推進と地方交付税の所要額の確保を図ることを基本とするとともに、引き続き生ずることとなった大幅な財源不足について、地方財政の運営上支障が生じないよう適切な補てん措置を講じることとし、次の方針に基づき策定された。

(1) 地方税については、恒久的な減税を引き続き実施するとともに、現下の経済・財政状況等を踏まえつつ、持続的な経済社会の活性化を実現するための「あるべき税制」の構築に向け、所得譲与税の創設、個人住民税均等割の見直し、商業地等に係る固定資産税・都市計画税の条例減額制度の創設、課税自主権の拡大その他の所要の措置を講じる。

(2) 地方財源不足見込額について、地方財政の運営に支障が生じることのないよう、次の措置を講じる。

1) 恒久的な減税に伴う影響額及び平成15年度税制改正に伴う減収額以外の地方財源不足(以下「通常収支に係る財源不足」という。)の見込額12兆2,530億円については、次の措置を講じる。

ア 平成16年度から平成18年度までの間においては、この間に予定されている交付税特別会計借入金の償還を平成22年度以降に繰り延べることとしたうえで、なお生ずる財源不足のうち建設地方債(財源対策債)の増発等を除いた残余については国と地方が折半して補てんすることとし、国負担分については、国の一般会計からの加算により、地方負担分については地方財政法(昭和23年7月7日法律第109号)第5条の特例となる地方債(臨時財政対策債)により補てん措置を講じる。

 臨時財政対策債の元利償還金相当額については、その全額を後年度地方交付税の基準財政需要額に算入する。

 これらの措置を「地方交付税法」第6条の3第2項の制度改正として講じ、所要の法改正を行うこととする。

 なお、平成5年度の投資的経費に係る国庫補助負担率の見直しに関し一般会計から交付税特別会計に繰り入れることとしていた額等2,981億円については法律の定めるところにより、平成17年度以降の地方交付税の総額に加算することとする。

イ これに基づき、交付税特別会計借入金の償還繰延べ後の平成16年度の通常収支に係る財源不足見込額10兆1,723億円については、次により完全に補てんする。

(ア) 地方交付税については、国の一般会計加算により4兆1,818億円(うち、地方交付税法附則第4条の2第2項の加算額1,685億円、同条第4項の加算額11億円、同条第8項の加算額1,246億円、臨時財政対策特例加算額3兆8,876億円)増額する。

(イ) 地方財政法第5条の特例となる地方債(臨時財政対策債)を4兆1,905億円発行する。

(ウ) 建設地方債(財源対策債)を1兆8,000億円増発する。

2) 恒久的な減税に伴う地方財政への影響額3兆3,296億円については、次の措置を講じる。

ア 恒久的な減税の実施による地方税の減収1兆7,991億円について、その4分の3相当額を国と地方のたばこ税の税率変更による地方たばこ税の増収措置(1,179億円)、法人税の地方交付税率の引上げによる増収措置(3,575億円)及び地方特例交付金(8,739億円)により、その4分の1相当額を地方財政法第5条の特例となる地方債(減税補てん債、4,498億円)により完全に補てんする。

イ 恒久的な減税の実施による地方交付税への影響額1兆5,305億円のうち、平成16年度に新たに発生する地方交付税の減収1兆4,271億円については、交付税特別会計借入金により措置し、その償還は国と地方が折半して負担することにより完全に補てんする。

 また、平成11年度以降地方交付税への影響額の補てん対策として措置した交付税特別会計借入金に係る利子相当額のうち国負担分508億円は一般会計からの繰入れにより、地方負担分526億円は交付税特別会計借入金により措置する。

3) 平成15年度税制改正に伴う平成16年度の地方税及び地方交付税の減収額6,479億円については、次の措置を講じる。

ア 地方税の減収3,521億円については、減税補てん債の発行により完全に補てんする。

イ 地方交付税の減収2,958億円については、交付税特別会計借入金により完全に補てんする。

4) 上記の結果、平成16年度の地方交付税については、16兆8,861億円(対前年度比6.5%減)を確保する。

(3) 三位一体の改革の一環として、次のとおり国庫補助負担金の一般財源化と、これに対応した税源移譲等の措置を講じることとする。

1) 平成16年度に行われる児童保護費等負担金のうち公立保育所運営費分等の国庫補助負担金の一般財源化及び平成15年度に行われた国庫補助負担金の一般財源化に対応して所得譲与税を創設し、税源移譲する。

 所得譲与税は、平成18年度までに所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実施するまでの間の暫定措置として、所得税の一部を、使途を限定しない一般財源として地方へ譲与するものであり、人口により都道府県及び市町村(一部事務組合等を除く。)へ譲与する。

2) 義務教育費国庫負担金及び公立養護学校教育費国庫負担金のうち退職手当及び児童手当に係る部分については、暫定的に一般財源化を行うこととし、税源移譲予定特例交付金を設け、税源移譲までの各年度の退職手当等の支給に必要な額を確保することとし、人口を基準として都道府県に交付する。

(4) 地方債については、地方財源の不足に対処するための措置を講じるとともに、極めて厳しい地方財政の状況の下で、その健全性の確保に留意しつつ、地方公共団体が個性豊かで活力ある地域社会の構築を目指して、それぞれの地域の特性を活かした魅力あふれる地域づくり、ITを活用した住民生活の向上と地域経済の活性化、地域資源の有効活用等による地域再生、災害等に強く安全な地域づくり等の当面する政策課題に重点的・効率的に対応しうるよう所要額を確保する。この結果、地方債計画の規模は17兆4,843億円(対前年度比5.4%減,普通会計分14兆1,448億円、公営企業会計等分3兆3,395億円)とする。

(5) 社会経済情勢の推移等に即応して使用料・手数料等の適正化を図る。

(6) 地域経済の振興や雇用の安定を図りつつ、個性と活力ある地域社会の構築、住民に身近な社会資本の整備、災害に強い安全なまちづくり、総合的な地域福祉施策の充実、農山漁村地域の活性化等を図ることとし、財源の重点的配分を行う。

1) 投資的経費に係る地方単独事業費については、中期的に事業規模の計画的抑制を図ることとし、平成16年度においては、国の公共投資関係費の取扱い等も勘案しつつ、前年度に比し9.5%減額することとする一方で、地域活性化事業、合併特例事業及び防災対策事業などにより、引き続き、地域の自立や活性化につながる基盤整備を重点的・効率的に推進する。

2) 一般行政経費に係る地方単独事業費については、地方公共団体の自助努力を促す観点から既定の行政経費の縮減を図る一方、人間力の向上・発揮(教育・文化、科学技術、IT)、個性と工夫に満ちた魅力ある都市と地方の形成、循環型社会の構築・地球環境問題への対応、少子・高齢化対策、市町村合併の推進等の分野に係る施策に財源の重点的配分を図る。

3) 消防力の充実、自然災害の防止、震災対策の推進及び治安維持対策等住民生活の安全を確保するための施策を推進する。

4) 過疎地域の自立促進のための施策等に対し所要の財政措置を講じる。

(7) 地方公共団体の公債費負担の軽減を図るため、普通会計における高利の公的資金に係る地方債等に対する特別交付税措置及び一定の公営企業金融公庫資金の借換え措置を講じる。

(8) 地方公営企業の経営基盤の強化、上・下水道、交通、病院等住民生活に密接に関連した社会資本の整備の推進、社会経済情勢の変化に対応した新たな事業の展開等を図るため、経費負担区分等に基づき、一般会計から公営企業会計に対し所要の繰出しを行う。

(9) 地方行財政運営の合理化を図ることとし、一般職の定員削減を行う等定員管理の合理化を図るとともに、事務事業の見直し、民間委託等の推進など行財政運営全般にわたる改革を推進する。

 以上のような方針に基づいて策定した平成16年度の地方財政計画の規模は、84兆6,669億円で、前年度と比べると1兆5,438億円減少(対前年度比1.8%減)となった。

 歳入についてみると、地方税は32兆3,231億円で、前年度と比べると1,506億円増加(対前年度比0.5%増)(道府県税1.9%増、市町村税0.6%減)、地方譲与税は1兆1,452億円で、前年度と比べると4,513億円増加(同65.0%増)、地方特例交付金は1兆1,048億円で、前年度と比べると986億円増加(同9.8%増)、地方交付税は16兆8,861億円で、前年度と比べると1兆1,832億円減少(同6.5%減)、国庫支出金は12兆1,238億円で、前年度と比べると1,362億円減少(同1.1%減)、地方債(普通会計分)は14兆1,448億円で、前年度と比べると9,270億円減少(同6.2%減)となった。

 一方、歳出についてみると、給与関係経費は22兆9,990億円で、前年度と比べると4,393億円減少(対前年度比1.9%減)となった。なお、地方財政計画全体の職員数については、一般職員(義務教育教職員、警察官、消防職員、非義務制学校の教員を除く職員。)について、国家公務員の定員削減の方針に準じ、10,369人を縮減するとともに、保健師の増員、施設増に伴う所要の増員等に義務教育教職員、警察官、消防職員、非義務制学校の教員の増減員を加え、10,980人の減員を見込んだ。一般行政経費は21兆8,833億円で、前年度と比べると8,570億円増加(同4.1%増)、公債費は13兆6,779億円で、前年度と比べると894億円減少(同0.6%減)、投資的経費は21兆3,283億円で、前年度と比べると1兆9,585億円減少(同8.4%減)となり、投資的経費のうち、公共事業費中の普通建設事業費は6兆6,419億円で、前年度と比べると5,133億円減少(同7.2%減)、地方単独事業費は13兆4,700億円で、前年度と比べると1兆4,100億円減少(同9.5%減)となった。

ウ 財政運営の経過

(ア) 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004

 平成16年6月4日、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」(以下「基本方針2004」という。)が閣議決定された。

 「基本方針2004」においては、平成16年度をバブル崩壊後の負の遺産からの脱却に目途をつけるための「集中調整期間の仕上げの年」と位置づけたうえで、「金融再生プログラム」を着実に推進し、金融システムを強化するとともに、「基本方針2003」など、これまでに策定されてきた施策を引き続き着実に実行することにより、構造改革の成果を我が国の隅々にまで浸透させることとされた。そのうえで、平成17年度及び平成18年度を新たな成長に向けた基盤の重点強化を図るための「重点強化期間」と位置づけつつ、(1)「官から民へ」、「国から地方へ」の徹底、(2)政府部門の本格的な改革(「官の改革」)の強化、(3)民間の成長力を強化するための改革(「民の改革」)の推進、(4)「人間力」の抜本的強化、(5)「持続的な安全・安心」の確立の5つの改革に取り組むこととされた。

 具体的には、「『官から民へ』、『国から地方へ』の徹底」については、郵政民営化を着実に実施し、規制改革・国及び地方公共団体の事務事業の民間開放を積極的に推進するとともに、地域の真の自立を図るために三位一体の改革や市町村合併等を着実に推進することとされた。「『官の改革』の強化」については、国民に理解される分かりやすい予算への転換を図るとともに、公的債務管理の充実を通じた市場の安定を図り、併せて公務員制度や特殊法人等の行政改革、包括的かつ抜本的な税制改革等に取り組むこととされた。「『民の改革』の推進」については、将来の人口減少や少子高齢化の下での成長戦略の確立、起業等を促進するための新しい企業法制の整備、金融システムの一層の改革の推進等が掲げられた。「『人間力』の抜本的強化」については、若年者の雇用・就業対策の推進、障害者の雇用・就業及び自立の支援、利用者の立場に立った雇用関連事業の再編、教育現場の活性化等を図ることとされた。「『持続的な安全・安心』の確立」については、社会保障制度の総合的改革、少子化対策の充実、健康・介護予防の推進、治安・安全の確保、循環型社会の構築に向けた地球環境の保全、持続的な発展基盤の確保等を進めていくこととされた。

(イ) 平成16年度補正予算(第1号)

 平成16年度補正予算(第1号)は、平成16年12月20日に閣議決定され、平成17年1月21日に第162回国会に提出され、2月1日に成立した。

 この補正予算においては、歳出面では、災害対策費1兆3,618億円、義務的経費5,957億円、地方交付税交付金1兆1,686億円、改革推進公共投資事業償還時補助等8,642億円等を追加計上したほか、既定経費の節減9,258億円、予備費の減額500億円の修正減少額を計上した。また、歳入面では、最近までの収入実績等を勘案し、租税及印紙収入2兆2,940億円の増収を見込むとともに、前年度剰余金受入1兆4,910億円を計上したほか、その他収入9,828億円の増収を見込んだ。

 この結果、一般会計予算の規模は、歳入歳出とも平成16年度当初予算に対し4兆7,678億円増加し、86兆8,787億円となった。

(ウ) 平成16年度補正予算(第1号)に係る地方財政補正措置

 平成16年度補正予算(第1号)の編成により、国税の増収見込み等に伴い地方交付税の増加が見込まれたとともに、災害復旧事業の追加等に伴う地方負担の増加が生じた結果、以下の地方財政補正措置が講じられた。

a 地方交付税の追加等

(i) 平成16年度地方交付税の総額に、普通交付税の調整額の復活に要する額639億円及び特別交付税の増加に要する額701億円を加え、1,340億円を加算する措置を講じる。なお、特別交付税については、平成16年度の台風や地震による災害の状況にかんがみ、国の補正予算により増加する地方交付税の額の6%相当額を、当初予算額に加算して交付することとする。

(ii) 国の補正予算により増加する平成16年度分の地方交付税の額1兆1,686億円(平成15年度精算分4,388億円、平成16年度国税五税の自然増に伴うもの7,298億円)については、上記(i)の1,340億円を交付することとしたうえで、残余の額1兆347億円について平成17年度分として交付すべき地方交付税の総額に加算して交付する措置を講ずることとする。

b 追加の財政需要等に対する財政措置

(i) 国の補正予算により平成16年度に追加されることとなる災害復旧事業等投資的経費に係る地方負担額(普通会計分4,559億円)については、原則として、地方債(充当率100%)を充当することとし、後年度においてその元利償還金の全額を基準財政需要額に算入することとする。

(ii) 介護給付費、生活保護費、老人医療給付費等地方債の対象とならない経費(2,637億円)については、追加財政需要額(5,100億円)の取崩しにより対応することとする。

(エ) 予備費使用に係る地方財政補正措置

 平成16年度においては、国の補正予算による措置のほか、国直轄災害復旧事業等について国の予備費使用による措置が講じられたが、これにより平成16年度に追加されることとなる災害復旧事業等投資的経費に係る地方負担額(普通会計分128億円)については、原則として上記の国の補正予算により追加される地方負担額に対する措置と同様の措置を講じることとされた。