◾ 取材協力:
西予市 政策企画部 まちづくり推進課 地域振興係
(令和7年7月取材)
この記事では、50代以上の隊員が多く活躍している愛媛県西予市の政策企画部 まちづくり推進課にその秘訣を伺いました。
西予市では従事者の高齢化が進み、後継者不足が深刻化している現状から、栗・柑橘農家支援、獣害対策、農業振興など、一次産業に関わる協力隊ミッションが多く設定されています。これらの分野では、人生経験や現場対応力、持続的な働き方が求められるため、ミドル世代〜シニア世代の応募者と親和性が高くなっています。
協力隊の募集・受け入れを主導するのは「地域づくり組織」という地域運営組織(RMO)で、西予市はその活動をサポートする役割を担っています。
募集時に50代以上の積極採用を謳っているわけではありませんが、採用にあたり、応募者の年齢ではなく人柄や意欲・実行力を重視して採用を決める傾向から、都市部での生活に一区切りをつけたアクティブシニアの活躍の場が広がっています。
※地域づくり組織について
西予市の「地域づくり組織」は、人口減少や高齢化が進む中で、地域課題の解決と住民の自主的なまちづくりを推進するために、市内旧小学校区を単位に27の地域で設立された団体です。市が提唱する「自分たちの地域を、自分たちの手で」を基本理念に、市民と行政が協働で取り組む「小規模多機能自治」の中心的な役割を担っています。
◼ 地域概要
西予市(せいよし)は、愛媛県の南西部に位置する市。平成16年4月1日、東宇和郡の明浜町・宇和町・野村町・城川町、そして西宇和郡三瓶町の5町が合併して誕生しました。宇和海に面したリアス式海岸から四国カルストの山々まで海抜0m〜1,400 mの様々な標高の場所が存在し、それぞれの場所で異なる景観を楽しむことができる自然豊かな町です。瀬戸内型気候に属し、温暖な気候が特徴の西予市では、愛媛の代表みかんをはじめとする柑橘類、魚介類、米、ぶどう、栗、乳製品、牛肉類など、四国一ともいえる多品目産地でもあります。
◼ 地域データ
・人口:33,128人(令和7年6月末現在の推計人口)
・面積:約515 km²
・高齢化率:65歳以上の高齢者は約44.1%(令和2年国勢調査)
・産業別就業人口割合:第一次産業(農林水産)18.7 %、第二次産業(製造・建設等)16.5%、第三次産業(サービス業等)60.5 %、他 4.3%(令和2年国勢調査)
◼ 協力隊制度について
・平成22年度より導入
・現在までの受け入れ人数:75名(累積、R7.9.1現在)、現役隊員数:24名(令和7年度9月1日時点で活動していた隊員 ※R7年度退任者含む)
・協力隊の任期終了後の定住率:市内:53.8%、県内:63.4%)
・会計年度職員、業務委託ともに受入れをしているが、主は業務委託型となっている。業務委託型の場合、地域づくり組織等の支援団体と市が業務委託契約を結び、地域おこし協力隊の支援活動を行う。
募集開始まで
1.西予市の地域おこし協力隊事業の特色は?
令和7年7月1日現在、西予市では23名の地域おこし協力隊が活動しており、そのうち会計年度任用職員としての採用が1名、個人事業主としての業務委託が22名と、個人事業主型の隊員が多いのが特徴です。今年度の50代の協力隊は6名。これは他市町村と比較しても高い割合を占めています。
協力隊制度の導入時期が平成22年度からと比較的早く、地域での認知と理解度が高いこと、「手が足りない現場で信頼して任せられる存在」として経験豊富なミドル世代〜シニア世代が温かく迎え入れられる風土が地域に熟成していることも挙げられます。
高年齢化の進む地域においては50代、60代はまだまだ若手。若手と高齢者の“中間”として橋渡し役を担う貴重な存在としてもその存在感を増しています。
地域からのニーズを主導に、浮かんだ人物像に合うよう丁寧なマッチングを心がけています。
2.現地受け入れの企業や団体との調整はどう進めた?
西予市では各旧小学校単位(27区域)で「地域づくり組織」が形成されており、この組織が協力隊の募集・受け入れを主導しています。
「地域づくり組織」のメンバーは、行政職員ではなく地域任用職員※を始めとする地域住民で構成されており、より具体的な地域課題や目指す将来像が描けるのが特徴です。
よって、協力隊の活動ミッションは基本的に「地域づくり組織」が毎年9月頃に設定し、その後「まちづくり推進課」と共に、このミッションで3年間活動が継続できるか、定住に繋がるかといった視点で検討・調整を行なっています。
※地域任用職員とは、地域づくり活動センターを拠点に、地域の課題解決や自治活動を支援するために地域が主体的に雇用する職員のこと。
3.募集開始までの間で特に難易度が高い事項は?
募集要項作りです。募集内容のベースは9月頃に地域側が作り、11月頃には完成させて予算の査定へ。要項作りに約3ヶ月をかけ、丁寧に制作を進めています。
着任後のミスマッチを防ぐためにも、齟齬のない内容になっているか、研修などのサポート体制が組めるか、任期終了後の定住に向けた支援を提供できるかなど、募集の段階で先の先まで見据えた計画を意識することを心掛けています。
募集開始後
1.説明会実施や協力隊関連イベントへの出展など、どんなPRを行なった?
協力隊の募集開始前に「移住フェア」や独自の「移住マッチング事業」、「おためし地域おこし協力隊」を通じて、事前に多くの志望者と接触する機会を設けています。
これらの事業は、移住定住交流センターに業務委託して開催しています。特に「おためし地域おこし協力隊」は地域側と移住希望者双方の希望を丁寧に擦り合わせることで、ミスマッチを防ぐのが狙いです。この時点ですでに50代以上の方が多く参加しているのも西予市の特徴と言えますね。
隊員選考の際にも、応募者の年齢を重視するのではなく人柄や意欲を含め総合的に判断して採用を決める傾向にあり、このような事前のイベントが50代〜60代の協力隊員をマッチングする一助となっていることが伺えます。
2.募集開始後の問い合わせなど反応はどうだったか?
西予市は毎年1月半ば頃に一斉に募集を開始していますが、事前のイベント参加や問い合わせなどを機に募集開始より前からコンタクトを取っている方が多いため、募集開始と同時に応募があります。
この時点での新規の問い合わせは比較的少ない傾向にあり、新規の方には上記のおためし協力隊事業を紹介して事前に西予市への訪問を促しています。
着任時〜活動中
1.隊員着任後、自治体の協力隊担当としてどんな仕事内容がある?
隊員の支援活動は基本的には「地域づくり組織」が行ない、地域づくり活動センター主事の行政職員がサポートで入っています。
市の「まちづくり推進課」の中には隊員や同組織と連携をとる担当者がいて、研修情報の周知や報酬の支払い、活動報告会の準備や進行を担当しています。
課としては、地域づくり組織や地域づくり活動センター主事を通じて連絡を密に取りながら、地域との信頼関係を丁寧に築くことを大切にしています。
2.隊員とのコミュニケーション頻度はどれくらい?
西予市の協力隊は現在20人以上と人数が多いため、定例会は開催せず個別対応が中心です。
協力隊員は、協力隊経験者を含めたグループチャットで密に連絡を取り合っているほか、近隣の協力隊同士で対面で集まることもあります。
主に日々のサポートは支援団体(地域づくり組織)が行っており、担当課は支援団体を通じて提出される月報にて隊員の活動内容を確認することとなります。
担当課としては年に一度、地域づくり組織と協力隊との個別ヒアリングを実施してフォローを欠かさないようにしています。
3.隊員の定住に向けて工夫している点は?
地域の方が協力隊を募集しようとする際には、活動ミッションと一緒に、活動からどう定住に結びつけるかといったようなことも事前に考えていただくようにしています。
担当自身、起業や、就職等についての専門的な知識を持ち合わせているわけではないため、定住支援は一番課題に感じているところです。
行政としてできることとして、起業・事業承継に関する支援補助金制度を活用すること、県などが実施していただく、起業等に関する研修会について積極的に案内することなどを実施しています。
全体を通して
1.採用側(=地域)と隊員のミスマッチを避けるために気をつけていることは?
受け入れ側の地域の人々に対して、「良いところばかりでなく、悪いところ、不便なところなども正確に伝えること」「期待を大きく持たせすぎる不確定要素は伝えないこと」を徹底するよう注意喚起しています。
また、「おためし協力隊」として希望者が実際に現地に訪れた段階から、ミッション内容を双方で確認し合うようにと念を押しています。「受け入れる地域」「移住する人」どちらも納得した状態で関係性を築くことに、特に心を配っています。
2.こんな工夫をしたらうまく回り始めた!というエピソード
新年度に担当に着任してすぐの頃、新しく着任した隊員を前に事業の説明をうまくできず戸惑った経験から、地域おこし協力隊についての詳しいガイドブックを作成しました。
このガイドブックがあることで担当者が変わってもスムーズに引き継ぎができるようになり、役立ちました。このガイドブックを地域づくり組織や協力隊にも配布し、分からない点を一緒に確認しながら進めるためのツールとして活用しています。
3.初めて採用/受入担当になった人、悩みがある人へのメッセージを!
協力隊の皆さんは、ある意味、人生をかけてこの地域にやって来るところもあるので、受け入れる側も責任重大だと常に意識しています。隊員さんの熱意に応えられるよう、自分自身の知見もブラッシュアップすることが必要だと思っています。
協力隊関連の研修に積極的に参加したり、県内の担当者や前任者、周辺の自治体などと関係性を育んだりと、相談し合えるネットワークを構築していくことも重要であると考えています。