2026.08.28 岩手県 花巻市

「カルチャーデック」で価値観を共有。岩手県花巻市が実践する協力隊との伴走支援

◾ 取材協力:
岩手県花巻市地域振興部定住推進課
(令和8年6月取材)

この記事では、独自の指針「花巻市地域おこし協力隊カルチャーデック」に基づき地域おこし協力隊制度の運用を行う岩手県花巻市地域振興部定住推進課にその秘訣を伺いました。

平成27年度より協力隊の制度を導入した花巻市。地域おこし協力隊のビジョン・ミッション・価値観(バリュー)などをまとめたガイドライン「花巻市地域おこし協力隊カルチャーデック」を作成し、市職員や地域、隊員が同じ方向を向いて活動できる体制を整えていることが特徴です。このカルチャーデックは、現役の隊員や地域の経営者の意見を聞きながら作成されました。具体的には、以下の3つの約束が書かれています。

1.まずは自分から幸せになること
2.地域の人たちと全力で関わること
3.常に新しいことに挑戦すること

これは前市長の「花巻に来た協力隊員には幸せになってほしい」という言葉を発端に、市役所と隊員が一緒になって作り上げたもの。関わるすべての人々が幸せの連鎖を生み出すための共通の拠り所となっており、迷った時や、次の指針を定める時など、どんな時でも揺るぎない「指針」としての機能を持たせています。

この「カルチャーデック」は、誰でも読めるようにPDFとして公開されています。

参考:
「花巻市地域おこし協力隊カルチャーデック」PDF

◾ 地域概要
花巻市は岩手県のほぼ中央に位置し、西には奥羽山脈、東には北上高地、その間には北上平野が広がる自然豊かなまちです。平成18年に旧花巻市・大迫町・石鳥谷町・東和町が合併して現在の花巻市となりました。
岩手県内唯一の「いわて花巻空港」があり、東北新幹線や東北自動車道などの高速交通も充実。宮沢賢治や萬鉄五郎といった文化人を輩出した土地として知られ、ユネスコ無形文化遺産に登録されている早池峰神楽や、400年以上の歴史を持つ花巻まつりなど、文化や歴史資源にも恵まれています。
また、農業や温泉、スポーツ振興など、多様な地域資源を生かしたまちづくりを進めています。

◾ 地域データ
人口:87,233人(令和8年5月末現在)
面積:908.39km²
高齢化率:65歳以上の高齢者は約34.7%(令和2年国勢調査)
産業別就業人口割合:第一次産業(農林水産業)約10.9%、第二次産業(建設・製造業など)約27.3%、第三次産業(サービス業など)約61.8%(令和2年国勢調査)

◼ 協力隊制度
・平成27年度より導入
・現在までの受け入れ人数40名(累積)、現役隊員数14名(令和8年度)
・会計年度任用職員/業務委託の受入割合:72.7%、27.3%(令和8年度時点)
 ※これまでに会計年度任用職員として採用して任期中に業務委託に移行した隊員は8名(令和5年度から業務委託を導入)
・協力隊担当は2年目で、現在は1人体制で協力隊を担当
・任期終了後の定住率:市内61.5%(16名/26名)、県内73.1%(19名/26名)(令和8年度時点)

展望台から撮影した花巻市大迫町の様子

募集開始まで

1.花巻市の地域おこし協力隊事業の特色は?

花巻市では、隊員はもちろん、市職員や地域の受け入れ先が「花巻市地域おこし協力隊カルチャーデック」という指針を折に触れて確認し、同じ方向を向いて活動できるようにしているのが大きな特徴です。

隊員個人の「やってみたい」という挑戦を全力で応援するため、隊員自らが活動内容(地域協力活動)を提案できる募集を毎年必ず用意している点や、活動内容の特性に合わせて「会計年度任用職員としての採用」から「業務委託」へと任期途中でスムーズに変更できる柔軟な選択制度を設けている点も、花巻市ならではの強みです。令和8年度は、ぶどう栽培、里山保全、地域の魅力発信などの分野で14名が活動しています。

2.現地受け入れの企業や団体との調整はどう進めた?

花巻市では、あらかじめ特定の民間企業や外部団体に隊員の受け入れを丸ごと依頼する形はとっていません。基本的には隊員が市役所に所属し、各業務に最も密接に関わる担当課が初期の受け入れ先となって活動をサポートします。募集テーマを設定する段階においても、各担当課が地域のニーズを丁寧に聞き取っています。

そして実際の活動に際しては、例えば商店街活性化に関する業務であれば商工会議所と連携を組むなど、行政と関係団体が手を取り合って隊員を支える「サポートチーム」を初期の段階から構築するようにしています。

3.募集開始までの間で特に難易度が高い事項は?

「募集要項の作成(言語化)」です。各部署や地域からの「こんな人に来てほしい」という要望や課題は、時に専門性が高すぎて協力隊の枠組みには荷が重すぎる内容であったり、逆にイメージが漠然としすぎていて具体的な活動に落とし込みづらかったりすることがあります。

地域が求める期待値と、赴任してくる協力隊員が無理なく挑戦できるラインを見極めながら、応募者がイメージしやすいように適切な言葉へ翻訳・言語化していく作業には、いつも一番の苦労と難しさを感じています。

令和8年6月1日に着任した協力隊員への委嘱状交付式(両端が隊員、中央が市長)

募集開始後

1.説明会実施や協力隊関連イベントへの出展など、どんなPRを行った?

オンラインでのPRでは、市の公式ホームページでの案内に加え、民間の移住情報サービスを積極的に活用して情報発信を行っています。

対面のPRとしては、東京などで開催される「移住イベント」に年4〜5回ほど出展。広く移住に興味がある方に向けて「実は花巻には、地域おこし協力隊という形での移住も可能ですよ」と声をかけることも。その方のキャラクターに合った業務をこちらから提案していくアプローチを大切にしています。実際に今年度着任した4名の隊員も、全員がこうした移住イベントでの対話が出会いのきっかけとなっています。

2.募集開始後の問い合わせなど反応はどうだったか?

募集を開始した直後の反響は非常に大きく、特に民間の移住情報サービスで募集情報を公開すると一気に多くの反響を得られます。花巻市では、いきなり正式に応募してもらうのではなく、まずは気軽に「仮エントリー」をしてもらうステップを挟み、仮エントリー後に専用のLINEオープンチャットへ招待して丁寧に情報提供を重ねる仕組みを取り入れています。

昨年度の事例では、この仮エントリーの段階だけで30名を超える方々からのお申し込みがあり、全国から花巻市の取り組みに高い関心が寄せられていることを実感しました。

花巻ワインPRイベントで提供するワインカクテルの試作会の様子

着任時〜活動中

1.隊員着任後、自治体の協力隊担当としてどんな仕事内容がある?

新しい隊員が着任した際には、まず市長からの辞令交付式を執り行い、その後は市の一般新規採用職員向けの初任者研修を受講してもらいます。この研修を通じて、市役所の制度理解や、花巻市全体が取り組んでいる事業の全体像を深く学んでもらう機会を設けています。

研修が無事に終了した後は、隊員をそれぞれの受け入れ課へと繋ぎます。着任直後の数日間は、地域での活動がスムーズに始められるよう、担当職員が同行して4日間ほどかけて各所への丁寧な挨拶回りを一緒に行うなど、地域に無理なく溶け込めるようサポートしています。

2.隊員とのコミュニケーション頻度はどれくらい?

すべての隊員が必ず月に1回一堂に会する「定例ミーティング」を対面で実施しています。また、年1回の全体研修会や市民向けの活動報告会を含め、年間で少なくとも14回は直接顔を合わせる機会があります。

日々の細かなやり取りにはチャットツールを活用しており、会計年度任用職員・業務委託を問わず全隊員がいつでも連絡の取れる環境を整えています。毎日密に連絡を取り合う隊員もいれば、月1回ほどで自立して動く隊員もいますが、担当者からは「夜間や土日でも何かあればいつでも連絡していいよ」と伝えており、何かトラブルや不安があった際にすぐ手を差し伸べられる体制と信頼関係を維持しています。

3.隊員の定住に向けて工夫している点は?

隊員の任期終了後の定住支援として、資金面では「起業支援補助金」や「空き家の改修補助金」といった支援制度を整備し、経済的な後押しができる環境を整えています。

また、日々の細やかな活動サポートや定例ミーティングの運営を、地域の中間支援組織に委託している点も大きな特徴です。中間支援組織のスタッフが定期的に「卒業後は起業したいのか、就職したいのか、そもそも花巻に残る意思があるか」といったキャリアの意向を丁寧にヒアリングすることで、それぞれの希望に応じた定住・定着へのサポート体制を構築しています。

現在の市内への定住率は61.5%となっていますが、今後はこの数字をさらに高めていきたいと考えています。

毎月開催している定例ミーティングで各隊員に活動報告をしてもらっています

全体を通して

1.採用側(=地域)と隊員のミスマッチを避けるために気をつけたこと、気をつけていることは?

花巻市では「おためし地域おこし協力隊」制度を活用したツアーへの参加か、もしくは定期的に開催する「オンラインサロン」への出席のいずれかを、本応募のための必須条件に定めています。これらを通じて実際の花巻の風土を肌で感じてもらい、地域住民や関係者とのリアルな交流の場を事前に持ってもらっています。

応募者には決断を焦ることなく「自分自身の幸せ」を最優先に考えることを進言しています。また、受け入れ側の担当課や地域団体に対しても「隊員は人生をかけて花巻に来てくれるのだから、その人生を預かる覚悟を本気で持ってほしい」と毎回強く呼びかけ、双方が当事者意識と着任後のリアルなイメージを持てるよう心を配っています。

2.こんな工夫をしたらうまく回り始めた!というエピソード

前任の担当者から引き継いだ「何か問題が起きたときは、まず隊員目線で解決策を考える」というマインドが、事業をうまく回すための大きな鍵になっています。

自治体の職員は、地域全体のバランスを考慮する客観的な立場も求められますが、見知らぬ土地で活動する隊員にとって一番身近な相談相手でもあります。

「この隊員はどんな思いで行動したのか」「どんな言葉をかければ前を向けるだろう」と、常に隊員と同じ目線に立って二人三脚で向き合うことを大切にするようになってから、より強固な信頼関係のもとで活動が円滑に進むようになっています。

3.初めて採用/受入担当になった人、悩みがある人へのメッセージを!

地域おこし協力隊の制度はとても複雑で自由度が高いからこそ、多くの調整先に挟まれて一人で不安や悩みを抱え込んでしまう担当者の方も多いと思います。そんな時は決して一人で悩まず、自治体の前任者はもちろん、地域に暮らす協力隊経験者が持つ素晴らしいノウハウや人脈を大いに頼り、周囲を巻き込みながら進めていってください。

隊員たちが人生をかけて地域に来てくれる以上、私たちにはそれを受け止める大きな覚悟と責任が必要です。しかし、それだけでは担当者自身が疲れてしまう。何よりも大切なのは、担当者自身も隊員と同じ気持ちになって、地域の未来に一緒にワクワクしながら活動を楽しむことです。

「自分も一緒に地域おこし協力隊をやるんだ!」という前向きな気持ちで、隊員と共に一歩ずつ歩んでいきましょう。