2026.08.28 滋賀県 守山市

地域の特産品を次世代へ。滋賀県守山市の協力隊が拓く「農業承継」の可能性

◾ 取材協力:
滋賀県守山市都市経済部農政課
(令和8年6月取材)

この記事では、市の特産物「モリヤマメロン」の担い手不足解決を目指す滋賀県守山市都市経済部農政課にその秘訣を伺いました。

令和6年度に初めて、地域おこし協力隊員を任用した守山市。市の特産品である「モリヤマメロン」の担い手不足を解消するため、経験豊富な受入れ農家の元で本格的な栽培技術を学んでもらい、将来的に独立就農することを目指す実践的な内容となっています。

特徴的なのは、協力隊制度の導入初年度から「モリヤマメロンで新規就農しませんか」を合言葉に、農業後継者不足という課題に対し、協力隊を「担い手候補」として戦略的に育てることに注力したこと。令和6年度の協力隊着任者は、20代前半の青年一人だけでした。彼の成長にひたすら尽力し、隊員が地域に溶け込むために担当者が旗振り役となって、市長をはじめ多くのキーパーソンとの関係を構築。その結果、既存の農家コミュニティ自体にも明るい影響が及び、次なる移住者も現れはじめていることに注目が集まっています。

現在までの「小島隊員・地域(モリヤマメロン部会)・市(農政課)」の取組みが評価され、総務省主催の『地域おこし協力隊全国サミットにおける三方良し取り組み事例紹介』において優良事例に選出された守山市の事例をご紹介します。

◾ 地域概要
滋賀県の南西部に位置する守山市。琵琶湖に面した都市で、令和2年7月1日に市制施行50周年を迎えました。市のキャッチコピーは「豊かな田園都市・守山」。都市機能と豊かな自然が調和し、一級河川・野洲川や琵琶湖などの水辺環境にも恵まれています。京都・大阪への交通アクセスの良さや、充実した子育て・教育環境を背景に、全国でも人口が増加している数少ない自治体の一つです。
また、「起業家の集まるまち守山」を掲げて創業支援にも力を入れています。特産品としては、琵琶湖の豊かな水と肥沃な土壌によって育まれた「近江米」や贈答品としても市内外から高い人気を誇る「モリヤマメロン」、琵琶湖の淡水パールである「琵琶湖パール」などがあります。

◾ 地域データ
人口86,049人(令和8年3月31日現在)
面積:55.74㎢
高齢化率:65歳以上の高齢者は約22.6%(令和7年高齢社会白書)
産業別就業人口割合:第一次産業(農林水産業)約2.2%、第二次産業(建設・製造業など)約32.3%、第三次産業(サービス業など)約65.5%(令和2年国勢調査)

◼ 協力隊制度
・令和6年度より導入、任用は令和6年12月1日から
・令和8年度現在は、農政課と商工観光課に一人ずつ、合計2名の地域おこし協力隊員が着任

組織イメージ/左から隊員、地域、自治体(守山市)

募集開始まで

1.守山市の地域おこし協力隊事業の特色は?

守山市における地域おこし協力隊の制度活用は、令和6年度に開始されたばかり。
事業の一番の特色は、担い手不足に直面している特産品「モリヤマメロン」の栽培技術を学び、将来的に独立・就農する担い手を育成することが主眼に置かれている点です。
「モリヤマメロンの栽培・就農」「守山市の農産物のPR」「守山市の新規就農のPR」という3つの軸で活動を行っています。

2.現地受け入れの企業や団体との調整はどう進めた?

実は守山市では、コロナ禍の頃から「モリヤマメロンで新規就農しませんか」というスローガンを掲げて新規就農者の獲得に力を入れていました。そのため、地域のメロン農家さんとは協力隊制度を導入する前からしっかりとした信頼関係が構築されていました。

協力隊の受け入れにあたっては、この関係性の延長線上で、市が中心となって旗振りをしながら調整を進めました。具体的には、中間支援組織として「一般社団法人しがごとまるごと協力隊ネットワーク」に間に入ってもらいながら、モリヤマメロン部会の役員(三役)、隊員を受け入れる農家、モリヤマメロン部会事務局であるJA、そして行政(市)が顔を突き合わせて入念に調整を行いました。

3.募集開始までの間で特に難易度が高い事項は?

初めての地域おこし協力隊の導入だったため、市にベースとなる「募集要項」が存在せず、それを一から作り上げることが最も難易度が高く苦労しました。

募集要項は来てほしい隊員像の核となる重要な部分であるため、他自治体の募集要項を徹底的にリサーチしました。メロン部会、JA、技術指導を行う県の職員などに聞き取りを行い、何度も「壁当て」のように意見交換を重ねて修正しながら、地域が求める具体的な活動内容を言語化していきました。

モリヤマメロン栽培研修の様子

募集開始後

1.説明会実施や協力隊関連イベントへの出展など、どんなPRを行った?

毎年大阪で開催されている「就農フェア」に出展して、直接PRを行いました。

また、「しがごとまるごと協力隊ネットワーク」の協力を得て、東京で開催された「移住フェア」での周知に加えて、農業系のSNSやメディアにも募集情報を掲載。オンライン対談企画(トークセッション)も開催しています。このトークセッションでは隊員希望者がオンラインで視聴・参加し、リアルタイムで質疑応答ができる場を提供し好評を得ました。

2.募集開始後の問い合わせなど反応はどうだったか?

募集期間自体は非常にタイトでしたが、複数件の具体的な問い合わせが寄せられました。実際に守山市での就農を希望する方だけでなく、「就農はしないけれど移住に興味がある」という層(60代の高齢夫婦や子育て世帯など)からの反応もあり、守山市での活動に対する関心の高さを実感しました。

農業以外の目的で問い合わせてくれた移住希望者に対しても、無下に断るのではなく、市の担当者がコンシェルジュのようになり守山市独自の強みを熱心に伝えてアプローチしました。

行政担当者と隊員@就農フェア in 大阪

着任時〜活動中

1.隊員着任後、自治体の協力隊担当としてどんな仕事内容がある?

着任直後は、市長からの辞令交付式のセッティングや、メディアや記者を集めた取材対応を行い、スタートダッシュを大きく盛り上げる施策を行いました。

研修を兼ねたオリエンテーションも実施。隊員の不安を解消するため、最初の1ヶ月は「2日に1回」という非常に高い頻度で面談を行い、関係性構築に尽力しました。地域の多くのメロン農家や新規就農者、JA、県の職員などの関係者に早く顔を覚えてもらい安心してもらえるよう、紹介して回ったのもこの頃です。

また、市のホームページなどを活用した隊員の活動PRのほか、市に関係する様々なイベントへの参加を促し、地域の人との繋がりの輪を広げるサポートを行っています。

2.隊員とのコミュニケーション頻度はどれくらい?

最低でも月に2回は定期的なコミュニケーションの場を設けています。

1回目は「担当者と隊員の個人面談」です。ここでは前月の振り返り、当月の動き、来月の予定という時間軸をヒアリングして定点観測を行い、困りごとや要望、不安に思っていることを聞き取ります。

2回目は「関係者会議」です。行政(市)、メロン部会の役員(部会長・副部会長2名)、受け入れ農家、JAのモリヤマメロン部会事務局、県の技術指導員の計7〜8名が一堂に会する会議を毎月必ず1回実施しています。先の面談で隊員から出た要望や困りごとをこの会議に持ち込み全員で話し合うことで、全員が同じ歩幅で進み、確実な報告・連絡・相談(ホウレンソウ)ができる仕組みを作っています。

3. 隊員の定住に向けて工夫している点は?

まだ隊員が任期中なので卒業生の例は出ておりませんが、任期終了後に向けての準備を進めています。
例えば任期中(原則1〜3年間)は、地域おこし協力隊活動に対する報償費等が支給されますが、その後は自立して生計を立てる必要があるため、早い段階から3年後の独立に目を向けてもらう工夫をしています。

具体的には、独立した際に国からの公的資金(就農支援)を受けられるよう、今後10年間の農業経営計画を策定することをこちらから促すなど、今後の具体的なスケジュール感が見えるよう働きかけを行っています。

コミュニケーションの様子(R7.05.12)/関係者会議(地域、JA、隊員、県、市)

全体を通して

1.採用側(=地域)と隊員のミスマッチを避けるために気をつけたこと、気をつけていることは?

1次面接(書類・面接)の後に「1.5次面接」のような立ち位置で「おためし地域おこし協力隊」の制度を活用して実地体験を挟み、それを経て2次(最終)面接を行うフローを設計しました。そこで地域住民が抱きがちな協力隊への不安や、農業の厳しさについて、関係者と候補者とで膝を突き合わせて本音で語り合う時間を設け、隊員の人柄や意欲を相互に確認し合いました。

2.こんな工夫をしたらうまく回り始めた!というエピソード

着任後すぐ市長など周りの人々に紹介したことが功を奏したと先述したのですが、守山市の協力隊第一例目ということもあり、当初は担当者と隊員を中心に手探りで進めていましたが、より活動の幅を広げるために、早い段階から周囲の様々な方を巻き込むように切り替えた……というのが実際のところです。

協力隊初経験の2人だけでは早々に手詰まり感が出てしまったため、着任後1ヶ月以内という早い段階で切り替えをし、周りの様々な人に声をかけたり、色々な場所へ隊員を同行したりと、どんどん周りに頼るようにしました。その結果、周囲が自然と気にかけてくれるようになり、周りからもアイデアが出るようになったり、新しい人脈が次々と生まれたりと、市全体で隊員を育てる体制へと繋がったように思います。

また、市長が参加するイベントや視察をリサーチして市長と隊員を積極的に引き合わせる場を設けたこともあって、市長との信頼関係を作ることができました。

50年の伝統があるモリヤマメロン部会も、次の100年を見据えて販路拡大を目指していく中、隊員がその輪に入ったことで「良い意味での波紋」が広がり、「彼をフォローしよう、一緒に新しい取り組みをしよう」と地域側の結束や意識改革が劇的に進みました。

3.初めて採用/受入担当になった人、悩みがある人へのメッセージを!

手をかけたら手をかけた分だけ、地域に何かしらの変化が起きる可能性があるのが、地域おこし協力隊業務の面白さ。最初に自治体の職員が丁寧に前向きに種をまけば、その地域がより良くなっていくのを実感できる、素晴らしい仕事だと感じています。

自分一人で抱え込んだら苦しくなってしまうこともあるので、一人で悩まずに周囲を頼り、外に目を向ける意識を持ってみてください。ネガティブな面ではなくポジティブな面を見ながら業務に当たれば、きっと良いことが自分にも返ってくると思います。