株式会社チアリー(STAR Programming SCHOOL)
株式会社チアリー(NSGグループ)が運営する、すべての小学生・中学生のためのプログラミングスクール「STAR Programming SCHOOL(スタープログラミングスクール)」の教材・カリキュラム、教室運営ノウハウ、講師育成ノウハウ等をベースとして、滋賀県・静岡県内の小学生に対するプログラミング教育を実施した。
当社は前期から引き続き2期連続の実施である。前期では対象メンターを学生に設定し実施したが、課題として以下が挙げられた。
そこで、今回は対象メンターを長期にわたる活動が期待できる地域の社会人とし、またプログラミングスキルを判定するために、第三者機関が実施するプログラミング検定を活用し、以下の2点を実証することとした。
1. メンターを永続的に育成するための仕組みづくりの有効性の実証。
2. メンター育成および子どもたちの成長の可視化の有効性の実証。
●「永続的なプログラミング教育メンター人材バンク」を実現するための仕組みの考え方
1. 関東13教室、東海1教室、関西3教室にてプログラミング教室を運営し、広くプログラミング教育を普及させていくための教材・カリキュラム、講師育成ノウハウをベースとした実証事業運営母体(スタープログラミングスクール)
2. 事業終了後も当該地域において継続した活動が期待できるとともに、他地域への展開を前提とした運営主体及び協力教育機関(パートナー校を含め関東関西東海新潟に35教室を展開)
3. 株式会社チアリーの運営するパソコン教室「パソコン市民講座」のインストラクター、卒業生を含む会員サイトであるプレミア倶楽部会員、パソコン市民講座受講生(地域のシニア層・主婦層が中心)及び地域人材(教員・教育実習生・保護者含む)のうち、希望者をプログラミングメンターとして育成する「永続的なプログラミング教育人材バンク」の可能性の検証。
4. 「ジュニア・プログラミング検定」を用いたメンター育成によるメンター育成の体系化と「ジュニア・プログラミング検定」を用いた子ども達の成長の可視化とその有効性についての実証
※プログラミング教育による論理的思考力や課題解決力、創造力等の育成が主眼であり、定量的に評価することだけが目的ではなく、児童生徒の到達目標の指針や、やる気アップのためのものである。
5. 小学校の教員及び教育実習生を巻き込んだプログラミング教育実証体制
実証校の選定にあたり、メンター募集の観点から、一つは「パソコン市民講座のインストラクター及び受講生」中心、もう一つは地域人材(教員・教育実習生・保護者含む)中心とし、該当エリアで候補校を絞り、直接依頼を行い決定に至った。
実証に必要な学校設備の借用、実施スケジュール調整、および講座に参加する児童の募集とともに、教員、教育実習生、保護者に対してメンターの募集も学校に依頼した。
<実証校宛て提案書:抜粋>
サーティファイ情報処理能力認定委員会が主催するScratchを活用したプログラミングスキルを認定する試験。子どもたちのプログラミング教育の指標となる到達目標を定め、段階的なプログラミングスキルの習得を支援することが目的。
https://www.sikaku.gr.jp/js/ks/対象を「パソコン教室関係者」、「教員・教育実習生等」、「小学校児童の保護者」とした。理由は次のとおり。
この候補者となりうる母集団として、株式会社チアリーの運営するパソコン教室「パソコン市民講座」のインストラクター、卒業生を含む会員サイトであるプレミア倶楽部会員、パソコン市民講座受講生(地域のシニア層・主婦層が中心)及び、地域人材(教員・教育実習生・保護者含む)をメンター対象とした。
<パソコン教室関係メンター候補者別母数>
候補者 | 全国母数 | 該当エリア母数 |
---|---|---|
パソコン市民講座のインストラクター | 約400名 | 12名 |
パソコン市民講座受講生(地域のシニア層・主婦層が中心) | 約8,200名 | 約400名 |
卒業生を含む会員サイトであるプレミア倶楽部会員 | 約13,000名 | 約700名 |
該当教室:パソコン市民講座「近江八幡教室」「南草津教室」「西友山科教室」「太秦教室」
2017年5月9日(火)〜2017年5月31日(水)
パソコン市民講座インストラクター・受講生、プレミア倶楽部会員は、株式会社チアリー内のため、該当地域の方々に対してメンター募集要項を用いてメールあるいは口頭にてメンター募集の旨を伝達した。
教員・教育実習生・保護者に対しては、実証校との協業で募集要項を作成し書面にて募集を行った。
<参考>
スタープログラミングスクールの以下の採用基準に基づき、募集要項を作成した。
合計:22名
静岡大学教育学部附属静岡小学校 小計:14名(保護者13名、教育実習生1名)
滋賀大学教育学部附属小学校 小計:8名(保護者3名、パソコンインストラクター3名、受講生2名)
スタープログラミングスクールの動画教材・テキスト・指導要綱をベースとし、スタープログラミングスクールの研修システムを一部提供する形でメンターを育成した。スタープログラミングスクールの教材・研修システムは動画等のオンラインでの実施が可能であり、それらを本事業用に改変、ブラッシュアップすることでオフライン研修に多大な時間とコストをかけることなく実施可能であり、他地域にも広く普遍的に提供することが可能である。
さらにサーティファイ情報処理能力認定委員会による「ジュニア・プログラミング検定 Scratch部門」を活用し、検定取得対策等メンターが資格を取得していく過程を含めたメンター育成に取り組んだ。
<会場および日程>
●静岡大学教育学部附属静岡小学校
メンター研修1 | 2017年7月31日(月)13:00〜16:00 |
---|---|
オンライン研修 | 約9時間の動画教材及び4つの確認課題 |
メンター研修2 | 2017年8月22日(火) 13:00〜16:00 |
メンター研修3 | 2017年8月28日(月) 13:00〜16:00 |
●滋賀大学教育学部附属小学校
メンター研修1 | 2017年7月15日(土)13:00〜16:00 |
---|---|
オンライン研修 | 約9時間の動画教材及び4つの確認課題 |
メンター研修2 | 2017年8月2日(水) 13:00〜16:00 |
メンター研修3 | 2017年8月18日(金) 13:00〜16:00 |
<研修内容>
日程 | 時間 | 形態 | 概要 | 内容 |
---|---|---|---|---|
1 | 3時間 | offline | オリエンテーション |
・プログラミング教育の意義とその効果について ・本事業の目的とプログラミング検定について |
Scratchの基本操作 (子ども達対応指導含む) |
・Scratchとは? ・Scratchのアカウント取得 ・Scratchで実現できることを知ろう ・Scratchの様々な機能についてマスターしよう |
|||
在宅 | 3時間 | online |
講座内容研修1 (スキルの修得) |
・動画教材※を用いたScratchの基本理解 Lesson.02/03 課題A実施・提出 Lesson.05 課題B実施・提出 |
在宅 | 3時間 | online |
講座内容研修2 (スキルの修得) |
・動画教材※を用いたScratchの基本理解 Lesson.08 課題C実施・提出 |
在宅 | 3時間 | online |
講座内容研修3 (スキルの修得) |
・動画教材※を用いたScratchの応用理解 Lesson.11/12 最終課題D実施・提出 |
2 | 3時間 | offline | 講座内容研修4 |
・Scratchプログラミングフォローアップ講習 ・プログラミング検定対策 ・プログラミング検定Entry受験 ・プログラミング講座の役割分担 ・質疑応答 |
3 | 3時間 | offline | キックオフ | ・本事業の詳細及び最終キックオフ |
講座内容実習1 (子ども達対応指導含む) |
・プログラミング講座6回分の指導要綱の読み合わせ | |||
講座内容実習2 (子ども達対応指導含む) |
・ジュニア・プログラミング検定の受験及び試験監督実習 |
※講座内容研修のうち、動画教材は、STAR Programming SCHOOL Scratchコース スタンダードで受講生が視聴している映像全18回のうち、6回分を使用した。
<動画教材:一部抜粋>
<確認課題:一部抜粋>
<メンター研修資料:一部抜粋>
<メンター研修 スクーリングの様子>
全体 | 静岡 | 滋賀 | |
---|---|---|---|
受験者人数 | 19名 | 11名 | 8名 |
平均得点率 | 78.8% | 75.8% | 83.0% |
合格の目安となる60%以上の得点者 | 16名 | 10名 | 6名 |
合格レベル人数比率 | 84.2% | 90.9% | 75.0% |
MC | 講座の進行。各回で1名を配置。 |
---|---|
グループメンター | 児童のプログラミングや設計図制作などのサポート。児童のグループ(5〜7名)に対し、2〜3名を配置。 |
2017年5月〜2017年6月
対象児童人数 | 児童人数 | 6年生 | 5年生 | 4年生 |
---|---|---|---|---|
静岡大学教育学部附属静岡小学校 | 47名 | 10名 | 14名 | 23名 |
滋賀大学教育学部附属小学校 | 30名 | 17名 | 13名 | 0名 |
合 計 | 77名 | 27名 | 27名 | 23名 |
実習の環境 | パソコン | 実習室・ネットワーク環境 |
---|---|---|
静岡大学教育学部附属静岡小学校 | タブレットパソコン(マウスなし) | 理科室・WiFi |
滋賀大学教育学部附属小学校 | デスクトップパソコン | パソコン実習室・有線LAN |
●静岡大学教育学部附属静岡小学校:2017年9月19日(火)〜2017年9月29日(金)
講座回数 | 講座日時 |
---|---|
第1回 | 2017年9月19日(火)14:30〜16:30 |
第2回 | 2017年9月20日(水)14:30〜16:30 |
第3回 | 2017年9月21日(木)14:30〜16:30 |
第4回 | 2017年9月22日(金)14:30〜16:30 |
第5回 | 2017年9月28日(木)13:00〜15:00 |
第6回 | 2017年9月29日(金)14:30〜16:30 |
●滋賀大学教育学部附属小学校:2017年8月23日(水)〜2017年9月30日(土)
講座回数 | 講座日時 |
---|---|
第1回・第2回 | 2017年8月23日(水)10:30〜12:30 13:30〜15:30 |
第3回・第4回 | 2017年8月25日(金)10:30〜12:30 13:30〜15:30 |
第5回 | 2017年9月16日(土)13:30〜15:30 |
第6回 | 2017年9月30日(土)13:30〜15:30 |
Scratchによるプログラミングはあくまでも「手段」として、子ども達がプログラミングを実施していくことで、以下の5つの資質・能力を身につけることをビジョンとすることをメンターと共有した。
1創造力・イノベーション
プログラミングを通して、自身の考えたこと、新しいモノを自由に形にすることを体験する。そこには正解はなく、自身の発想や想いを形にし、発信することを学ぶ。
2論理的思考力
課題制作の過程において、順次処理・条件分岐・繰り返し等のプログラミングの基本を体験し、論理的に思考する大事さについて学ぶ。
3問題解決力
自由な作品を開発し、上記の学びの中で多くのトライ&エラーを繰り返す中で、自身で課題を設定する、どこに問題がある、どうすれば解決できるか考えることで問題解決力を育む。
4自己肯定感
自身の好きなもの、好きなことを伸ばすプログラミング教育を提供する。すべての子ども達の意見や作品は満点であり、子ども達の自信及び自己肯定感を育む。
5プレゼンテーション能力
自身で開発したプロジェクトをプレゼンテーションする場を設けることで、発信力・プレゼンテーション能力を養う。
<講座内容>
講座で習得したビジュアルプログラミング(Scratch)を用いてオリジナル作品(物語)を制作し、最終日に発表会を実施する。
また、「ジュニア・プログラミング検定 Entry級」の受験を行う。これは、プログラミング教育は子ども達に前述の5つの資質・能力を身につけさせる手段であるとしても、講座で習得したScratchによるプログラミングスキル評価の必要性、および目標設定・モチベーションアップの手立てが必要と考えたからである。
<カリキュラム>
日程 | 時間 | 形態 | 概要 | 内容 |
---|---|---|---|---|
第1回 | 2時間 | スクーリング |
オリエンテーション Scratchの紹介 |
・プログラミングについて/本事業概要説明 ・Scratchってなに? |
第2回 | 2時間 | スクーリング | Scratchの基礎1 | ・Scratchの基礎を学ぶ1 |
第3回 | 2時間 | スクーリング | Scratchの基礎2 |
・Scratchの基礎を学ぶ2 ・オリジナル作品開発 |
第4回 | 2時間 | スクーリング | Scratchの基礎3 |
・Scratchの基礎を学ぶ3 ・企画書・設計書作成:オリジナル作品開発 |
第5回 | 2時間 | スクーリング | Scratchの応用 検定試験練習 |
・オリジナル作品制作・完成 ・ジュニア・プログラミング検定サンプル試験 |
第6回 | 2時間 | スクーリング | 検定試験 オリジナル作品発表 |
・ジュニア・プログラミング検定受験 ・オリジナル作品発表 |
●静岡大学教育学部附属静岡小学校
1全体説明
2課題制作
3オリジナル作品 企画書制作
4オリジナル作品制作
5オリジナル作品発表(グループ内)
6オリジナル作品発表(全体:グループ代表)
●滋賀大学教育学部附属小学校
1全体説明
2課題制作
3オリジナル作品 企画書制作
4オリジナル作品制作
5オリジナル作品発表(グループ内)
6オリジナル作品発表(全体:グループ代表)
自己紹介カード
なし
Q1-8 あなたはこれまで、「プログラミング」という言葉を知っていましたか。またはこれまで「プログラミング」を体験したことがありますか?
Q2-1 「プログラミング講座」は楽しかったですか。最も近いものをひとつ選んでください。
Q2-4 「プログラミング」の講座で利用した教材は簡単でしたか。最も近いものをひとつ教えてください。
Q3-1 講座を体験したことによって、以下の内容について達成できたと思いますか。あてはまるものをそれぞれひとつ選んでください。
1 プログラミングを通して、アプリやゲームがどうやって動くのか理解できるようになった"
2自分なりのアイディアを取入れたり、工夫したりするようになった
3自分なりの作品を作ることができるようになった
4うまくプログラムが動かないときは理由を考えて、解決策を試すようになった
5自分から積極的に取り組むようになった
6友だちと協力して作業を進められるようになった
7人前で作品や意見を発表できるようになった
8難しいところであきらめずに取り組めるようになった
9自分でもの(ゲーム等のプログラムを含む)を作りたいと思うようになった
Q3-2 プログラムが思うように動かなかったとき、どうすることが一番多かったですか。最も近いものをひとつ選んでください。
Q3-4 あなたは今後も「プログラミング」を続けていきたいと思いますか。あてはまるものをひとつ選んでください。
Q5.1 ジュニア・プログラミング検定を受験したことによるご感想としてあてはまるものをひとつ選んでください。
Q5.2 今後ジュニア・プログラミング検定の上位級に挑戦してみたいですか?あてはまるものをひとつ選んでください。
Q3-3 メンター育成研修を受けて、全体的に内容を理解できましたか。あてはまるものをひとつ選んでください。
Q3-6 実際にメンターを行うにあたって、不安はありますか。あてはまるものをひとつ選んでください。
Q3-7 (3-6で4または5と答えた方)具体的にどういったことに不安がありますか。あてはまるものを全て教えてください。
Q5-1 講座は当初予定していた通りに実施できましたか。最も近いものをひとつ教えてください。
Q5-2 実施前のイメージと比較して、メンターを実施することは難しかったですか。最も近いものをひとつ教えてください。
Q5-3 実施前のイメージと比較して、どういった点でメンターをうまく実施できたと思いますか。あてはまるものを全て教えてください。
Q5-5実施前のイメージと比較して、どういった点でメンターをうまく実施できなかったと思いますか。あてはまるものを全て教えてください。
Q8-3 今後のあなた自身のメンターとしての関わり方について、最も近いものをひとつ教えてください。
Q追10.1 ジュニア・プログラミング検定を受験しメンターを担当したご感想としてあてはまるものをひとつ選んでください。
Q追後4-1ジュニア・プログラミング検定を受験したことによるご感想としてあてはまるものをひとつ選んでください。
Q追後5-1 動画教材を用いたオンライン研修についてのご感想としてあてはまるものをひとつ選んでください。
<採点基準に基づく、項目別正答状況一覧> ※ 試験問題は非公開
静岡大学教育学部附属静岡小学校:45名
滋賀大学教育学部附属小学校:29名
学習時間:10時間
学習内容:メンターによる指導(Scratch概要、基礎学習、応用学習(作品制作)、模擬試験)
※メンターは21時間の学習講座(Scratch概要、動画での基礎学習(課題提出あり)、応用学習、検定対策、児童指導方法、試験監督方法)を受講済。
静岡大学教育学部付属小学校と滋賀大学教育学部付属小学校を合わせた全受験者74名のうち、合格者は33名(合格率44.6%)という結果であった。静岡と滋賀で平均得点率に差が出ているが、静岡は約半数が4年生であり、単純な2校の比較は適切ではないと考える。
項目 | 全体 | 静岡 | 滋賀 |
---|---|---|---|
受験者人数 |
74名 小6:26名 小5:27名 小4:21名 |
45名 小6:10名 小5:14名 小4:21名 |
29名 小6:16名 小5:13名 小4:0名 |
平均得点率 | 57.8% | 54.2% | 63.4% |
合格の目安となる60%以上の得点者 | 33名 | 18名 | 15名 |
合格レベル人数比率 | 44.6% | 40.0% | 51.7% |
下のグラフは、10点ごとに区分けした得点別人数分布である。90点以上100点以下は13名(全受験者の17.5%)であった。高得点者が13名もいたことは大変好ましいことであり、メンターの指導が効果を発揮したものと考える。また、50点以上59点未満の層は12名(全受験者の16.0%)であった。これは合格基準に相当する得点率60%にあと一歩届かなかった層と言えるが、どこを頑張れば得点を伸ばすことができたかは、「4.子どもたちが得点できなかった設問」以降で分析を行った。
なお、高得点を得た子どもたちが、当受託事業とは別に、日常的にプログラミング学習にどのくらい関わっているのか、検定対策のためにかけた学習時間はどの程度か検証すべきであった。
Entry級の設問は、1「ブロックの名称と機能」2「アルゴリズム作成問題(ブロックの組み合わせ)」3「自由作成(自由問題)」の三部で構成されている。
上記記載の「採点基準に基づく、項目別正答状況一覧」を参照すると、1「ブロックの名称と機能」に該当する設問の正答率が、78%〜95%と非常によくできていることがわかる。「ブロックの名称と機能」は、受験者が設問の指示にしたがってブロックを配置していく、またそれぞれのブロックに設定値を入力する、という基本的な作業が中心の設問である。子どもたちが当事業における学習で、たくさんScratchに触れる機会を持ち、さまざまなブロックを繰り返し使っていたことで、体験的にブロック単体の動きや機能を習得できたと考えられる。
その1 自由問題
自由問題は、前半の問題1で設問の指示にしたがって作成したプログラムに、自ら自由にアレンジを加える「問題2 自由作成問題」と、問題2で加えたアレンジの内容を、絵や文章で説明することを求める「問題3 自由作成記述問題」の2種がある。
全問を通してもっとも正答率が低かった設問が「問題3 自由作成記述問題」である。全受験者74名のうち得点を得ることができた子どもは16名(21.6%)にとどまった。
問題3は最終問題であることから、前半の問題1に多分の時間を割いたことで、最終設問を解答するための時間が不足したことが最大の要因と考えられる。
また、問題2についても、全受験者74名のうち21名(28.4%)しか解答することができていなかったのは、問題3と同様に時間不足が否めなかったと考えられる。
一方、時間不足以外の原因として、「1どのようなアレンジをすればよいか、具体的な内容を自ら考えられなかった。」「2問題の指示通り制作してきた作品に対し、どの程度のアレンジを加えればいいのか判断できなかった」の2つが考えられる。
なお、問題2にてアレンジをしたにも関わらず、問題3でアレンジした内容を適切に説明できていない子どもたちが3名、白紙の子どもたちが2名いた。できなかった子どもは少数ではあるものの、表現力・プレゼンテーション力の習得度合いを把握するための指標として有効な問題であると考える。
全体 | 静岡 | 滋賀 | |
---|---|---|---|
自由作成問題ができた子どもの数(問題2) |
21/74名 28.4% |
11/45人 24.4% |
10/29人 34.5% |
自由作成記述問題ができた子どもの数(問題3) |
16/74人 21.6% |
6/45人 13.3% |
10/29人 34.5% |
その2 “メッセージ”ブロック
Scratch機能の“メッセージ”ブロックに関する正答率が、一部30〜50%と低かった。“メッセージ”ブロックの採点項目は「1-1-5」「1−1-6」「1−1−7」「1−2−4」「1−2−5」「2-1-6」「2-1-7」「2-2-5」「2-2-6」の9箇所である。このうち“メッセージ”ブロックの配置に関わる「2-1-6」「2-1-7」「2-2-5」「2-2-6」の4箇所は、正答率が82%〜88%と高かった。これは、“メッセージ”ブロックの使用を認識しているかを判断する採点項目のため、“メッセージ”ブロックを使用しなければならないことは理解できていると考えられる。
一方、「1−1−7」「1−2−4」「1−2−5」は正答率が30%〜40%、「1-1-5」、「1−1-6」は、正答率が40%〜50%にとどまった。これらの設問の正答率が総じて低くなっているのは、メッセージ、繰り返し、動作の停止の3つのブロックの理解度が複合的に絡んでいることが要因と考えられる。
「1−1−7」、「1-1-5」、「1−1-6」の主な誤答は以下の3点である。
1“「食べられた」を送る”ブロックが正しい位置に連結されていない。(“もし「○○」なら”などの制御ブロック内に配置されている。)
2“「食べられた」を受け取ったとき”ブロックの下に指定のブロックが連結されていない。(“「食べられた」を送る”ブロックの下や別のブロックの下に配置されている。)
3“「食べられた」を送る”ブロックは正しく配置されているが、“「食べられた」を受け取ったとき”ブロックの下に“「すべて」を止める”ブロックが配置されている。(正しくは、“「スプライトの他のスクリプト」を止める”ブロックが配置される。)
※「1−2−4」「1−2−5」も同じ傾向
すなわち、“メッセージ”ブロックを使わなければならないことは理解しているが、スクリプトのどこに配置すればよいのか分からない。そして、“メッセージ”ブロックに連結した動作停止ブロックの停止範囲がどこまで及ぶのかがわからない、ということが言える。
メッセージ機能は、単体としての機能だけでなく、条件分岐や繰り返し、動作停止などと組み合わせて使う力が必要となる。そのため、ブロックの組み合わせにバリエーションをつけて指導することが、動作イメージに対応するスクリプトを作る力を習得することにつながると考える。
その3 条件分岐
プログラミングにおいて重要な概念となる条件分岐の正答率が低かった。採点項目「2−1−5」は、繰り返し+条件分岐「もし○○ならばA でなければB」の繰り返しと条件分岐が含まれる複合的な設問である。これについては正答率が42%にとどまった。主な誤答は次の2つである。
1本来、“もし「○○」なら、でなければ”ブロックを使用するところ、“もし「○○」なら”ブロックや“「○○」まで繰り返す”ブロックが使用されている。
2“もし「○○」なら、でなければ”ブロックが、繰り返しブロックの外側に配置されている。
中には正しく解答できている子どももいたが、誤答のうち、37%は条件分岐ができていない、37%は条件分岐と繰り返しブロックとの組み合わせができていない状況であった。
条件分岐や繰り返しの指導では、条件分岐の動作を具体的に見せることと、組み合わせたときの動きのみならず、うまく組み合わせられなかったときの動作の違いも併せて説明することで、子ども達の理解につながると考えられる。
その4 条件のある繰り返し
「1-1-3」「1-1-4」「2−2−4」は、「○○に触れた」や「○○まで繰り返す」、「〇回繰り返す」が含まれる複合的な設問である。これらの設問の正答率は42%〜49%にとどまった。「○○に触れた」ブロックは、比較的正解していたが、”○○まで繰り返す”ブロックや“「150」回繰り返す”ブロックの使い方がうまくできていない方が多くいた。主な誤答は次の3点であった。
1本来、“「150」回繰り返す”ブロックを使用するところ、ブロックが何も使用されていない。もしくは“ずっと”ブロックを使用している。
2“「150」回繰り返す”ブロックの動作の後の動きを設定できない。
3”○○まで繰り返す”ブロックの中に”ずっと”ブロックが指定されている。
“「○○」回繰り返す”や”○○まで繰り返す”のような条件のある繰り返しの際に、どのような組み合わせをすればよいのかを迷っていることが伺える。通常の授業や市販テキストでは“ずっと”ブロックの中にスクリプトを作っていくものが多いため、おそらくは、他の繰り返しブロックやブロックの組み方に慣れていないことが原因の一つであると考えられる。
指導上ではブロックの使い方をリファレンスのような文字による説明だけにとどまることなく、子どもたちが頭でイメージすることができるよう、複数の使用例を見せていくことが重要と考える。プログラミング学習において、繰り返しや条件分岐の習得は必須である。どの場合にどの繰り返しのブロックを使うのか、条件分岐の際にどのブロックをどう組み合わせるのか、学習初期の段階から基礎固めをしていく必要があると考える。
また、ブロック単体の動きの場合、ブロックで指示したことが実際のスプライトでどう動くのかをイメージしやすいが、複数組み合わせることにより、どのような動きが起きるのかをイメージすることは難易度が上がる。そのため、異なるブロックや組み合わせであっても、同じ動きをするバリエーションを子ども達が考え、それを出し合うことで、組み合わせや条件分岐のブロックの組み合わせと、実際のスプライトの動きをイメージとして連動させることができるようになると感じた。
静岡大学教育学部附属静岡小学校 | 滋賀大学教育学部附属小学校 | |
---|---|---|
使用教室 | 理科室 ・パソコンが持ち運べるため、グループ分けのレイアウトの自由度は高い。 ・児童グループの机の間隔が狭く、この間をメンターが移動するのは困難であった。 |
パソコン実習室 ※ ・パソコンの配置が固定されているため、グループ分けのレイアウトに制限がある。 ・メンターが移動するためのスペースは十分にあった。 |
パソコン | Windowsタブレットパソコン(マウスなし) ・画面サイズは10インチ程度 ・充電駆動のため充電不十分なものもあった。 |
Windowsデスクトップパソコン |
通信ネットワーク | 無線LAN ・通信が安定せず、第2回講座よりオフラインエディタの運用に切り替えた。 |
有線LAN |
データの保存 | 原則、固有の機器への保存は不可。 電源切り時に自動消去される。 |
原則、固有の機器への保存は不可。 電源切り時に自動消去される。 |
その他設備 | プロジェクターの明るさは十分であった。 | プロジェクターのルーメン値が低く、遮光カーテンにより暗室にしないと視認性がかなり悪い。 この状態で、児童に配布プリントの閲覧や記入は困難であった。 |
※機器入れ替え期間につき隣接の中学校での実施となった。
<現状の課題認識>
【課題1】 プログラミング教育環境の地域・経済格差
【課題2】 プログラミング教育メンターの不足、教育の質の確保及び平準化
【課題3】 プログラミング学習における定量的評価や目標設定・動機づけの必要性(受講生・メンター共に)
当社は、「継続的なメンターの募集及び育成」、「動画教材を用いた継続的でより深い学びの実現」、「低価格で質の高い教育の多拠点展開に向けたシステムの構築」、「学校・行政・地場企業と連携したプログラミング教育環境の実現」を目指して本事業に取り組んでおり、今後、地域のプログラミング教育推進コーディネーターとして以下の役割が担えると考える。
<目的>
未来を担う子ども達に必要な学びである、“プログラミング”を普遍化するべく、クラウドや地域人材を活用した、効果的・効率的なプログラミング学習の実施モデルについて実証を行うことが目的である。
特に、プログラミング学習のメンターは、現状において十分満足な人数及び質が確保できていない。またプログラミング学習は定量的な評価や目標設定、動機づけが難しい領域である。
特に教育課程外において、地域における永続的なプログラミング教育メンター人材バンクの発足とジュニア・プログラミング検定を用いた子ども達の成長の可視化、及びメンターの成長指標の確立を目指しており、これは他地域についても展開することは可能である。
<学校のICT環境に対する課題と提言>
プログラミング教育に限定していえば、学校のICT環境により、何をするか(何ができるか)は制限される。ただし一方では、プログラミング教育は「この環境でないと実現できない」という制限はない。
各自治体・学校単位で、まずは現状のICT環境の中でどんなプログラミング教育を実現するかを検討するべきであると考える。Scratchに代表される「ビジュアルプログラミング言語」の導入ハードルは比較的低く、当社からの様々な環境に応じた教育プログラムの提供は可能である。
<メンターに必要な資質>
小学生に対するプログラミング教育においては、まず第一に、プログラミングの専門性よりも、子どもに対するホスピタリティマインドを求めるべきと考える。
<本年度のゴール>
1プログラミング講座のメンターの募集、及び育成(導入段階)の内容・方法のトライアル及びブラッシュアップ
2ジュニア・プログラミング検定を用いたメンター育成講座の体系化とメンターの対応力・自信アップ
3当該地域における継続的なメンター募集・輩出の仕組みの構築
<中長期目標>
1滋賀県・静岡県内におけるプログラミング学習メンターの継続的な募集・育成体制の構築
2本事業に類似した内容及び体制でのメンター募集・育成システムのブラッシュアップ、及び拡大展開
3いつでもどこでも誰でもプログラミングを指導することができる環境、及びプラットフォームの構築
<本年度のゴール>
1プログラミング初学者の小学生、及び小学校にその楽しさや意義を体験的に伝達すること
2小学校におけるプログラミング学習による、初学者のプログラミング学習講座のコンテンツの深化
3ジュニア・プログラミング検定を用いたプログラミング学習の定量的な評価指標の確立、及びモチベーションアップ・動機づけ
<中長期目標>
1滋賀県・静岡県内におけるプログラミング学習講座の継続的な実施体制の構築
2より発展的で応用的な学びの場としての民間スクールの拡大展開
3いつでもどこでも誰でもプログラミングを学べる環境及びプラットフォームの構築
以上