8 東日本大震災の影響
(1)普通会計
平成23年3月11日に発生した東日本大震災は、死者19,475人、行方不明者2,587人(平成28年10月20日、総務省消防庁発表)、被害総額(推計)約16兆9千億円(平成23年6月24日、内閣府(防災担当)発表)にのぼる被害をもたらすとともに、全国的にも生産、消費、物流等の経済活動に大きな影響を与えた。
政府は、東日本大震災発生直後から、被災者の生活の支援や被災地の復旧・復興対策に当たってきており、平成27年度においても前年度に引き続き、被災地の地方公共団体を中心に復旧・復興事業に係る経費が支出されるとともに、被災地以外の地方公共団体において被災地の地方公共団体への支援事業や東日本大震災からの復興の基本理念に基づき全国的に緊急に実施する全国防災事業等に係る経費が支出されるなど、多額の東日本大震災関連経費が支出されたところであり、その状況は次のとおりである。
ア 東日本大震災分の歳入及び歳出の状況[資料編:第136表〜第138表]
(ア)歳入
東日本大震災分の歳入は4兆4,065億円で、国庫支出金の減少等により、前年度と比べると4.1%減となっている。これを団体種類別にみると、都道府県においては2兆5,818億円で、一般財源、繰入金の増加等により前年度と比べると0.5%増となっており、市町村においては2兆2,895億円で、国庫支出金、都道府県支出金の減少等により前年度と比べると9.0%減となっている。
歳入の構成比は、国庫支出金が31.6%(前年度37.1%)、繰入金が28.3%(同26.0%)、一般財源が16.7%(同13.0%)、地方債が6.5%(同6.2%)等となっている。
国庫支出金は1兆3,927億円で、東日本大震災復興交付金の減少等により、前年度と比べると18.3%減となっている。
繰入金は1兆2,471億円で、東日本大震災復興関連基金からの取崩し額の増加等により、前年度と比べると4.3%増となっている。
一般財源は7,355億円で、震災復興特別交付税の増加等により、前年度と比べると23.5%増となっている。
地方債は2,870億円で、緊急防災・減災事業債の増加等により、前年度と比べると0.5%増となっている。
(イ)歳出
東日本大震災分の歳出は3兆8,344億円で、積立金の減少等により、前年度と比べると4.4%減となっている。これを団体種類別にみると、都道府県においては2兆2,465億円で、普通建設事業費の増加等により、前年度と比べると0.7%増となっており、市町村においては2兆397億円で、積立金の減少等により、前年度と比べると10.2%減となっている。
a 目的別歳出
目的別歳出の構成比は、土木費が24.7%(前年度21.3%)、民生費が16.0%(同14.1%)、総務費が15.1%(同25.1%)、災害復旧費が12.2%(同10.5%)等となっている。
土木費は9,475億円で、普通建設事業費の増加等により、前年度と比べると11.0%増となっている。
民生費は6,137億円で、除染対策基金への積立金の増加等により、前年度と比べると8.4%増となっている。
総務費は5,778億円で、東日本大震災復興関連基金、中間貯蔵施設整備等関連基金への積立金の減少等により、前年度と比べると42.7%減となっている。
災害復旧費は4,673億円で、普通建設事業費の増加等により、前年度と比べると11.3%増となっている。
b 性質別歳出
性質別歳出の構成比は、普通建設事業費が42.2%(前年度36.9%)、積立金が20.9%(同27.9%)、災害復旧事業費が12.2%(同10.4%)、物件費が10.3%(同11.4%)等となっている。
普通建設事業費は1兆6,183億円で、農地整備事業、地域医療施設復興事業、水産業共同利用施設整備事業等の復旧・復興事業関係費の増加等により、前年度と比べると9.4%増となっている。
積立金は8,027億円で、中間貯蔵施設整備等関連基金への積立金の減少等により、前年度と比べると28.3%減となっている。
災害復旧事業費は4,673億円で、補助事業費の増加等により、前年度と比べると11.8%増となっている。
物件費は3,966億円で、災害廃棄物等処理事業費の減少等により、前年度と比べると13.5%減となっている。
イ 特定被災地方公共団体等における決算の状況[資料編:第139表]
(ア)特定被災県
a 歳入
特定被災県(「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」(平成23年法律第40号。以下「東日本大震災財特法」という。)第2条第2項に定める特定被災地方公共団体である県をいう。)9県の歳入総額は10兆8,483億円で、前年度と比べると2.4%減(全国では0.7%増)となっている。
このうち、通常収支分は8兆3,402億円で、前年度と比べると3.5%減(全国では0.7%増)、東日本大震災分は2兆5,082億円で、前年度と比べると1.6%増(同0.5%増)となっている。
歳入総額の内訳を前年度と比べると、地方税が13.6%増(全国では13.2%増)、地方交付税が0.5%増(同0.4%減)、国庫支出金が2.8%減(同2.1%減)等となっている。
b 歳出
特定被災県の歳出総額は10兆3,480億円で、前年度と比べると2.2%減(全国では1.0%増)となっている。
このうち、通常収支分は8兆1,675億円で、前年度と比べると3.2%減(全国では1.0%増)、東日本大震災分は2兆1,805億円で、前年度と比べると1.8%増(同0.7%増)となっている。
なお、特定被災県の東日本大震災分の歳出は、全国の都道府県における東日本大震災分の歳出の97%を占めている。
歳出総額の目的別の各費目を前年度と比べると、総務費が東日本大震災復興関連基金への積立金の減少等により26.5%減(全国では10.4%減)、民生費が除染対策基金への積立金の増加等により8.6%増(同6.2%増)、衛生費が地域医療再生基金への積立金の増加等により13.6%増(同5.9%増)、災害復旧費が7.8%増(同1.1%減)等となっている。
歳出総額の性質別の各費目を前年度と比べると、普通建設事業費が補助事業費の減少等により2.3%減(全国では5.6%減)、災害復旧事業費が7.8%増(同1.1%減)、積立金が12.3%減(同7.5%減)等となっている。
c 決算収支
特定被災県の実質収支は907億円の黒字で、前年度と比べると208億円減少(全国では361億円減少)している。
d 地方債現在高等の状況
特定被災県の地方債現在高は16兆857億円で、前年度末と比べると0.4%減(全国では0.6%減)となっている。債務負担行為額は1兆5,553億円で、前年度末と比べると14.1%減(同2.6%減)となっている。積立金現在高は2兆384億円で、前年度末と比べると9.2%減(同1.7%増)となっている。
(イ)特定被災市町村等
a 歳入
特定被災市町村等(「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律第二条第二項及び第三項の市町村を定める政令」(平成23年政令第127号)の別表第1に定める特定被災地方公共団体である市町村並びに同令の別表第2及び別表第3に定める市町村のうち特定被災地方公共団体以外のものをいう。)227市町村の歳入総額は8兆2,961億円で、前年度と比べると1.1%減(全国では1.0%増)となっている。
このうち、通常収支分は6兆3,103億円で、前年度と比べると2.4%増(全国では1.5%増)、東日本大震災分は1兆9,858億円で、前年度と比べると10.8%減(同9.0%減)となっている。
歳入総額の内訳を前年度と比べると、地方税が0.0%増(全国では0.2%減)、地方交付税が2.4%増(同0.1%減)、国庫支出金が18.6%減(同1.2%減)等となっている。
b 歳出
特定被災市町村等の歳出総額は7兆7,445億円で、前年度と比べると1.4%減(全国では0.9%増)となっている。
このうち、通常収支分は6兆74億円で、前年度と比べると2.3%増(全国では1.3%増)、東日本大震災分は1兆7,371億円で、前年度と比べると12.4%減(同10.2%減)となっている。
なお、特定被災市町村等の東日本大震災分の歳出は、全国の市町村における東日本大震災分の歳出の85%を占めている。
歳出総額の目的別の各費目を前年度と比べると、総務費が東日本大震災復興関連基金への積立金の減少等により15.0%減(全国では1.3%増)、民生費が子ども・子育て関連事業費の増加等により1.5%増(同2.3%増)、災害復旧費が1.6%増(同6.9%減)等となっている。
歳出総額の性質別の各費目を前年度と比べると、普通建設事業費が水産業共同利用施設整備事業等の復旧・復興事業関係費の増加等により2.6%増(全国では3.2%減)、災害復旧事業費が2.8%増(同6.4%減)、積立金が33.3%減(同4.3%減)等となっている。
c 決算収支
特定被災市町村等の実質収支は2,522億円の黒字で、前年度と比べると90億円増加(全国では1,602億円増加)している。
d 地方債現在高等の状況
特定被災市町村等の地方債現在高は6兆3,917億円で、前年度末と比べると1.2%増(全国では0.2%増)となっている。債務負担行為額は1兆7,672億円で、前年度末と比べると1.8%減(同4.6%増)となっている。積立金現在高は2兆8,902億円で、前年度末と比べると4.7%減(同3.9%増)となっている。
(2)公営企業会計
地方公営企業については、東日本大震災財特法第2条第2項に定める特定被災地方公共団体である9県及び東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律第二条第二項及び第三項の市町村を定める政令の別表第1に定める特定被災地方公共団体である178市町村(当該団体が加入する一部事務組合等を含む。以下「特定被災地方団体」という。)を対象として、東日本大震災の災害復旧事業に係る一般会計からの繰出基準の特例等を講じている。
特定被災地方団体における地方公営企業の決算状況は次のとおりである。
ア 特定被災地方団体における公営企業全体の経営状況[資料編:第140表]
特定被災地方団体における法適用企業と法非適用企業(建設中のものを除く。)を合わせた収支の状況は、黒字事業が848事業(事業数全体の91.2%)で、前年度と比べると22事業増加(2.7%増)しており、黒字額は1,312億円で、前年度と比べると407億円増加(44.9%増)している。また、赤字事業は82事業(事業数全体の8.8%)で、前年度と比べると25事業減少(23.4%減)しており、赤字額は281億円で、前年度と比べると1,216億円減少(81.2%減)している。
特定被災地方団体における公営企業の総収支は1,031億円の黒字で、前年度と比べると1,623億円増加(274.3%増)している。
前年度に比べ収支が改善した事業は10事業あり、宅地造成事業で716億円(対前年度比107.5%増)と最も大きく改善し、次いで病院事業で646億円(同99.8%増)、水道事業で153億円(同44.2%増)改善している。一方、前年度に比べ収支が悪化した事業は5事業あり、ガス事業で19億円(対前年度比51.5%減)と最も大きく悪化し、次いで工業用水道事業で13億円(同14.4%減)、交通事業で12億円(同45.6%減)悪化している。
また、前年度に比べ黒字事業数が増加し、赤字事業数が減少した事業は5事業あり、水道事業においては、黒字事業が15事業増加、赤字事業が18事業減少している。
イ 特定被災地方団体における公営企業の料金収入[資料編:第141表]
料金収入は1兆1,017億円で、前年度と比べると167億円増加(1.5%増)している。
前年度に比べ料金収入が増加した事業は10事業あり、宅地造成事業で99億円(対前年度比17.6%増)の増加と最も大きく、次いで電気事業で55億円(同38.6%増)、病院事業で52億円(同1.2%増)増加している。一方、前年度に比べ料金収入が減少した事業は5事業あり、ガス事業で63億円(対前年度比13.8%減)と最も大きく減少している。
ウ 特定被災地方団体における公営企業の他会計繰入金[資料編:第142表]
他会計からの繰入金は4,320億円で、前年度と比べると135億円減少(3.0%減)している。
この内訳をみると、収益的収入として2,440億円、繰入率(収益的収入に対する繰入金の割合)15.1%、資本的収入として1,880億円、繰入率(資本的収入に対する繰入金の割合)28.6%となっており、前年度に比べ収益的収入への繰入れは71億円増加(3.0%増)しているが、資本的収入への繰入れは205億円減少(9.8%減)している。
前年度に比べ他会計繰入金が減少した事業は7事業あり、宅地造成事業で354億円(対前年度比62.6%減)と最も大きく減少し、次いで交通事業で28億円(同12.8%減)減少している。一方、前年度に比べ他会計繰入金が増加した事業は8事業あり、下水道事業で165億円(対前年度比8.2%増)と最も大きく増加している。
エ 特定被災地方団体における法適用企業の経営状況[資料編:第141表、第143表]
特定被災地方団体における法適用企業の純損益の状況をみると、黒字事業は256事業(対前年度比31事業増加、13.8%増)で、建設中のものを除いた331事業の77.3%となっており、赤字事業は75事業(同28事業減少、27.2%減)で、同22.7%となっている。
総収益(経常収益+特別利益)は1兆2,941億円で、前年度と比べると216億円増加(1.7%増)、総費用(経常費用+特別損失)は1兆2,209億円で、前年度と比べると1,344億円減少(9.9%減)で、この結果、純損益は732億円の黒字となっており、前年度と比べると1,560億円増加(188.4%増)している。また、総収支比率は106.0%と前年度より12.1ポイント上昇している。
なお、総収益に占める料金収入の割合は74.9%(前年度74.8%)と前年度と比べると0.1ポイント上昇している。
経常損益(純損益−特別損益)の状況をみると、経常利益を生じた事業数は251事業(対前年度比3事業増加、1.2%増)で、経常損失を生じた事業数は80事業(前年度同数)となっている。経常損失を生じた事業数の全体事業数(建設中のものを除く。)に占める割合は24.2%と前年度より0.2ポイント低下しており、事業別にみると、水道事業、下水道事業において低下している。
経常収益(営業収益+営業外収益)は1兆2,787億円で、前年度と比べると352億円増加(2.8%増)しており、経常費用(営業費用+営業外費用)は1兆1,950億円で、前年度と比べると201億円増加(1.7%増)している。なお、経常損益は837億円の黒字で、前年度と比べると151億円増加(22.1%増)している。また、経常収支比率は107.0%と前年度より1.2ポイント上昇している。
オ 特定被災地方団体における法非適用企業の経営状況[資料編:第144表]
特定被災地方団体における法非適用企業全体の形式収支(歳入歳出差引額)は770億円の黒字であり、前年度と比べると184億円増加(31.5%増)している。また、この額から翌年度への繰越財源を控除した実質収支は300億円の黒字であり、前年度と比べると63億円増加(26.9%増)している。
実質収支で黒字を生じた事業は591事業で、全事業数(建設中のものを除く。)の98.8%、赤字を生じた事業は7事業で全事業数の1.2%となっている。黒字事業の実質黒字額は306億円で、前年度と比べると70億円増加(29.4%増)している。また、赤字事業の実質赤字額は6億円で、前年度と比べると6億円増加(1470.8%増)しており、営業収益(受託工事収益を除く。)に対する実質赤字額(赤字比率)は0.3%(前年度0.0%)となっている。