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平成29年版
地方財政白書
(平成27年度決算)

第3部 最近の地方財政をめぐる諸課題への対応

1 一億総活躍社会の実現と地方創生の推進

現在、政府は、少子高齢化に歯止めをかけ、若者も高齢者も、女性も男性も、ひとり親家庭の方々も、そして障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、一人一人が、家庭で、地域で、職場で、それぞれの希望がかない、それぞれの能力を発揮でき、それぞれが生きがいを感じることができる一億総活躍社会を実現することを目標に掲げている。

地方創生は一億総活躍社会を実現する上で最も緊急度の高い取組の一つであり、両者の取組を相互に連動させながら進めていく。

(1)一億総活躍社会の実現

ア 「ニッポン一億総活躍プラン」の策定

人口減少、少子高齢化の問題は、労働供給の減少のみならず、経済規模の縮小、生活水準の低下という将来に対する不安を招き、我が国の経済成長の隘路(あいろ)の根本にある構造的課題となっており、住民に身近な行政サービスを担う地方公共団体にとっても重要な課題である。

この問題に真正面から立ち向かい、女性も男性も、お年寄りも若者も、一度失敗を経験した方も、障害や難病のある方も、家庭で、職場で、地域で、あらゆる場で、誰もが活躍できる、いわば全員参加型の一億総活躍社会を実現するため、「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年6月2日閣議決定。以下「プラン」という。)を策定している。

プランでは、従来の三本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)を強化して強い経済を実現するとともに、日本の構造的な課題である少子高齢化に正面から取り組むため、新たな第一の矢として「希望を生み出す強い経済」、新たな第二の矢として「夢をつむぐ子育て支援」、新たな第三の矢として「安心につながる社会保障」を放ち、具体的にどのような施策をいつ実行するのか具体的な期限を区切って定めるとともに、継続的に実施状況を調査し、施策の見直しを図ることとしている。

(ア)新たな第一の矢:「希望を生み出す強い経済」

あらゆる政策を総動員していくことにより、成長戦略の加速等とともに個人消費の喚起を図り、「戦後最大の名目GDP600兆円」の実現を目指す。

(イ)新たな第二の矢:「夢をつむぐ子育て支援」

若者の約9割が持つ「結婚したいという希望を実現」するとともに、平均約2人という「希望どおりの人数の出産・子育てを実現」できるよう、若者の雇用安定・待遇改善、待機児童解消のための多様な保育サービスの充実・人材の確保、仕事と育児が両立できる環境整備、希望する教育を受けることを阻む制約の克服等を進め、「希望出生率1.8」の実現を目指す。

平成29年度においては、待機児童解消に向けた保育の受け皿整備に加え、保育士等の処遇について、全ての保育士等に対する2%の改善とともに、概ね経験3年以上の保育士等について月5千円、7年以上の保育士等について月4万円の加算の実施等を図ることとしている。また、これらの諸施策に係る地方負担について、所要の地方財政措置を講じることとしている。

(ウ)新たな第三の矢:「安心につながる社会保障」

年間10万人を超えている介護離職者について、介護の受け皿整備、介護人材の確保、介護と仕事の両立等を進め、介護をしながら仕事を続けることができる「介護離職ゼロ」の実現を目指す。また、高齢者の希望に応じた多様な就労機会の確保を図るとともに、障害者、難病患者、がん患者等が、それぞれの希望や能力、障害や疾病の特性等に応じて最大限活躍できる社会を目指す。

平成29年度においては、介護の受け皿整備に加え、介護職員等の処遇について、経験等に応じて昇給する仕組みを創り、月額平均1万円相当の改善の実施等を図ることとしている。また、これらの諸施策に係る地方負担について、所要の地方財政措置を講じることとしている。

プランに基づき、「名目GDP600兆円」に向けた経済政策の強化を進めるとともに、その成長の果実を活用し、「希望出生率1.8」や「介護離職ゼロ」に向けた施策を推進し、それが更に経済を強くする。このような「成長と分配の好循環」を創りながら、誰もが生きがいを持って、その能力を存分に発揮できる社会の実現を目指す。

第127図 成長と分配の好循環メカニズムの提示

イ 一億総活躍社会の実現に向けた横断的課題である「働き方改革」

プランでは「働き方改革」を「最大のチャレンジ」とし、女性や若者などの多様で柔軟な働き方の選択を広げる「同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善」、仕事と子育て・介護等の家庭生活との両立を困難にし、少子化の原因等となる「長時間労働」の是正、生涯現役社会を実現するための「高齢者の就労促進」等に取り組むこととしている。こうした取組は、労働生産性の向上にも資するものであり、プランでは、「働き方改革」を新しい三本の矢を貫く横断的課題と位置付けている。

平成28年9月に設置された「働き方改革実現会議」で、働く人の立場・視点から、(i)同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善、(ii)賃金引上げと労働生産性の向上、(iii)時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正、(iv)雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題、(v)テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方、(vi)働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備、(vii)高齢者の就業促進、(viii)病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立、(ix)外国人材の受入れの問題をテーマに議論を進め、平成28年度内を目途に具体的な実行計画を取りまとめることとしている。

(2)地方創生の推進

ア 地方創生の動き

我が国は世界に先駆けて「人口減少・超高齢社会」を迎えている。人口減少を契機に、地方は「人口減少が地域経済の縮小を呼び、地域経済の縮小が人口減少を加速させる」という悪循環の連鎖に陥る可能性が高く、地方が弱体化するならば、地方からの人材流入が続いてきた大都市もいずれは衰退し、我が国全体の競争力が弱まることは避けられない。

このような人口減少を克服し、将来にわたって成長力を確保するため、国は、平成26年9月3日に、まち・ひと・しごと創生本部を設置し、政府一丸となって取り組んできた。

人口減少克服・地方創生の実現のためには、地方に、「しごと」が「ひと」を呼び、「ひと」が「しごと」を呼び込む好循環を確立することにより、地方への新たな人の流れを生み出すこと、その好循環を支える「まち」に活力を取り戻し、人々が安心して生活を営み、子どもを産み育てられる社会環境をつくり出すことが急務である。

その実現に向け、平成26年11月21日に、地方創生の理念等を定めた「まち・ひと・しごと創生法」(平成26年法律第136号)及び活性化に取り組む地方公共団体を国が一体的に支援する「地域再生法の一部を改正する法律」(平成26年法律第128号)の地方創生関連2法が成立するとともに、政府として、同年12月27日に、日本の人口の現状と将来の姿を示し、2060年に1億人程度の人口を確保する長期展望を提示する「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」及びこれを実現するための今後5か年の目標や施策、基本的な方向を提示する「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(以下「総合戦略」という。)を閣議決定した。

総合戦略においては、「地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする」、「地方への新しいひとの流れをつくる」、「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」、「時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する」の4つの基本目標の下、地方における30万人分の若者雇用を創出すること、東京圏への転出入を均衡させること等を、2020年までの成果指標として定め、それぞれに政策パッケージを示している。また、政策パッケージの進捗について、重要業績評価指標(KPI)で検証し、改善する仕組み(PDCAサイクル)を確立することとしている。

イ 地方版総合戦略への支援

地方では、ほぼ全ての地方公共団体が平成27年度中に「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」を策定し、各地域の実情に即した具体的な取組がスタートしている。

国は、平成28年12月22日に改訂された総合戦略を踏まえつつ、意欲と熱意のある地域の取組を、情報、人材、財政の3つの側面から引き続き支援(「地方創生版・三本の矢」)していくこととしており、情報面では、地域経済分析システム(RESAS)の普及促進により確かな根拠に基づく政策立案(EBPM。Evidence-Based Policy Makingの略。)への支援を行うとともに、人材面では、平成28年12月に開講された地方創生カレッジや地方創生人材支援制度を通じて、地方で不足する人材の確保を支援する。財政面においては、施設整備等の取組を推進するための地方創生拠点整備交付金900億円(事業規模で1,800億円)を平成28年度第2次補正予算において措置したことに加え、平成29年度当初予算においても地方公共団体の先駆的な取組を支援する地方創生推進交付金について引き続き1,000億円(事業規模で2,000億円)を確保することとしている。地方創生推進交付金は、地方公共団体の自主性・主体性をより尊重する観点から、申請要件等の弾力化が行われている。このほか、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)や地方拠点強化税制等の税制措置を講じているところである。

また、地方公共団体が自主性・主体性を最大限発揮して地方創生に取り組み、地域の実情に応じたきめ細かな施策を可能にする観点から、平成27年度の地方財政計画の歳出に創設された「まち・ひと・しごと創生事業費」について、平成29年度においても引き続き1兆円を確保したところである。

ウ 地域経済の好循環の確立に向けた取組

地方創生と地域経済の好循環の確立に向けて取り組んできた「地域経済好循環推進プロジェクト」(平成27年6月1日経済財政諮問会議提出)の更なる推進を図り、地域に「雇用」を生み出し、「為替変動にも強い地域経済構造」を構築する。

(ア)チャレンジ・ふるさとワーク

地域経済の好循環の更なる拡大に向け、地域への「ヒト・情報」の流れを創出するため、平成28年度より、「チャレンジ・ふるさとワーク」(平成28年度第2次補正予算)として、4つの施策を展開している。

1つ目の「ふるさとワーキングホリデー」については、若者などが、一定期間地方に滞在し、働いて収入を得ながら、地域住民との交流や学びの場などを通じて地域での暮らしを学ぶ“国内版”ワーキングホリデーのスタートアップを支援し、地域の活力向上に資するとともに、将来的な地方移住を掘り起こすものである。

2つ目の「お試しサテライトオフィス」については、地方公共団体が都市部のベンチャー企業等にとって真に魅力的なサテライトオフィスを提供するため、総務省において、三大都市圏の民間企業等の基本ニーズ調査を実施するとともに、当該調査結果を活用し、地方公共団体が民間企業のニーズを実践的に把握して、地域の特性を活かした誘致戦略を策定することを支援する。

3つ目の「“地域の人事部”戦略策定事業」については、地域における人材の総活躍を促し、地域活力の維持・向上を図るため、地方公共団体が、地域人材の育成・活用のあり方についての戦略を策定することを支援する。

4つ目の「次世代コラボ創業支援事業」については、地域の将来を担う若者のアイデアを活用した創業を支援し、地域の資源と資金を活用して、地域密着型企業を立ち上げ、地域雇用を創出するとともに、次世代が地域に愛着をもち、定着することを促進するものである。

平成29年度においては、「ふるさとワーキングホリデー」や「お試しサテライトオフィス」などの施策に取り組む地方公共団体を更に支援するとともに、人口減少・高齢化によって、生活機能が低下している地域において、買い物支援など地域の暮らしを下支えするビジネスの確立に取り組む地方公共団体を支援する「“地域の暮らしサポート”実証事業」を新設し、地域への「ヒト・情報」の流れを加速することとしている。

(イ)ローカル10,000プロジェクト

産学金官の連携により、地域の資源と地域金融機関の資金を活用して、雇用吸収力の大きい地域密着型企業を立ち上げる「ローカル10,000プロジェクト」を平成29年度においても引き続き推進する。

具体的には、地域の金融機関から融資を受けて事業化に取り組む民間事業者が、事業化段階で必要とする初期投資費用について、都道府県又は市町村が助成を行う場合において、それに要する経費の一部又は全部を交付することとしている。平成27年度までに287事業が交付決定されており、地域経済への様々な波及効果が期待されている。

(ウ)分散型エネルギーインフラプロジェクト

エネルギーの地産地消を進め、自立的で持続可能な地域分散型のエネルギーシステムの構築を目指す「分散型エネルギーインフラプロジェクト」を平成29年度においても引き続き推進する。

具体的には、地方公共団体を核として、需要家、地域エネルギー会社及び金融機関等、地域の総力を挙げて、バイオマス、廃棄物等の地域資源を活用した地域エネルギー事業を立ち上げるマスタープランを策定する団体を支援することとしている。平成27年度までに28団体がマスタープランを策定しており、事業化の実現に向けた取組が鋭意進められている。

エ 若者定着に向けた地方大学の振興等

地方からの若い世代の流出が大学進学時と卒業後の最初の就職時において顕著であることを踏まえると、「地方への新しいひとの流れをつくる」ためには、地方大学の振興や地方における雇用創出・若者の就業支援は重要な課題であり、総合戦略にも位置付けられているところである。

これを踏まえ、総務省と文部科学省が連携し、平成27年度から、「奨学金(「地方創生枠」等)を活用した大学生等の地方定着の促進」及び「地方公共団体と地方大学の連携による雇用創出・若者定着の促進」の取組に対し、特別交付税措置を講じており、制度創設2年目となる平成28年度においては、前者については8県1市、後者については8県8市3町が対象となっている。

平成29年度においても、引き続き特別交付税措置を講じることとしており、地方公共団体には、一層積極的な取組が期待される。

オ 過疎対策の推進

(ア)基本的な考え方

過疎地域は、都市部の災害防止、水源の涵養、安心・安全な食料の供給、森林による二酸化炭素の吸収などにより、都市部の生活と成長を支えている。一方で、過疎地域は、従来より、人口減少、高齢化、身近な生活交通の不足、医師不足、維持が危ぶまれる集落の問題など、多くの課題が存在している。過疎地域と都市部は、共生・対流により相互に機能を補完し合いつつ発展し、美しく品格ある多様性に富んだ国土を持つ国を目指すことが必要である。

平成12年に制定・施行された「過疎地域自立促進特別措置法」(平成12年法律第15号)は、平成22年、平成24年及び平成26年の法改正を経て、平成33年3月までの期限延長、国勢調査結果による過疎地域の要件の追加、過疎対策事業債の対象施設の見直しとソフト事業への拡充等、経済・社会情勢に応じて所要の見直しが行われてきた。

(イ)過疎法に基づく施策

過疎地域は、過疎地域自立促進特別措置法に基づき市町村毎に「人口要件」及び「財政力要件」により判定され、過疎地域に対しては、過疎対策事業債等の支援が行われる。平成28年4月1日現在での過疎関係市町村は797市町村となっており、過疎関係市町村の割合は46.4%となっている。

過疎対策事業債においては、平成27年度より、地域の特性を生かした創業の促進・事業活動の活性化により魅力ある就業機会の創出を図るため、ハード事業のうち、民間雇用の創出や産業振興に資する事業を新たに「地方創生特別分」として位置付け、優先して取り組むこととしている。

また、平成29年度においては、平成28年度に引き続き、過疎地域等自立活性化推進交付金により、廃校舎等の遊休施設を活用して行う地域間交流施設等の整備、基幹集落を中心に複数の集落で構成される集落ネットワーク圏の形成、先進的で波及性のあるソフト事業及び定住のための空き家改修や団地の整備に対して支援措置を講じることとしている。

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