3.地方公共団体のウェブアクセシビリティに関する事例調査
3−1 調査の目的と実施概要
本研究会では、地方公共団体の現実の業務の中で実践可能なウェブアクセシビリティ維持・向上のための運用モデルを示すことを目指している。そのためには、策定する運用モデルが、地方公共団体の現実の業務手順と十分な整合性を持つことが不可欠である。そこで、運用モデルの策定にあたって、地方公共団体で実際に行われているホームページやウェブシステムの調達、運用の業務手順と、そこで取り入れられているアクセシビリティ維持・向上のための取組内容を具体的に把握するため、詳細な事例調査をした。
3−1−1 調査内容
本事例調査では、特に次の2点について、実際の業務事例を詳細にヒアリングし、把握することに努めた。
(1)地方公共団体におけるホームページ等の調達・運用業務の手順
ホームページ・リニューアル、日常のホームページの運用、地域住民が利用するウェブシステムの調達について、複数の地方公共団体へのヒアリング調査により実際の業務手順を詳細に調査した。
(2)対象地方公共団体で実践されているアクセシビリティ配慮の内容と手順
(1)の調査と合わせて、各地方公共団体のホームページ等調達・運用業務において、どのような形でアクセシビリティ維持・向上の取組がなされているかをヒアリング等により詳細に調査した。また、アクセシビリティ維持・向上に向けての課題や今後の取組方針についても調査した。
3−1−2 対象地方公共団体
本事例調査では、次の4つの地方公共団体に対してヒアリングを行い、ホームページのリニューアル、日常のホームページ更新、ウェブシステムの調達について、詳細な調達業務プロセスを調査した。
地方公共団体のICT関連部署の位置づけや人員構成は、地方公共団体の規模によって大きく異なる。小規模の地方公共団体では、ICTを所管する専門部署がなく、ICT関連の専門知識を持つ職員がいない場合も多い。そのため、ICT関連の調達業務プロセスは、地方公共団体の規模によって大きく異なることが予想される。そこで、調査対象地方公共団体の選定にあたっては、対象地域の人口規模が異なる4団体を選定した。
ヒアリング調査対象となった地方公共団体は、以下に示す4団体である。
(1)熊本県
人口 185万人 (平成17年9月現在)
「だれもが暮らしやすく豊かなくまもと」を目標にユニバーサルデザインの取組を積極的に進めている。ウェブアクセシビリティにも早い時期から取り組んだ先進県のひとつ。
図表3−1 熊本県のトップページ |
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(2)東京都世田谷区
人口 81万人 (平成17年11月現在)
東京23区で最大の人口を抱える大規模地方公共団体。区のホームページも約4000ページと大規模。独自のアクセシビリティ指針を早くから整備するなど、ウェブアクセシビリティの先進地方公共団体のひとつ。
図表3−2 世田谷区のトップページ |
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(3)長野県伊那市
人口 6万5000人 (平成17年3月現在)
長野県南部の天竜川流域に位置する。米・野菜・花き・畜産等の農業の他、電気・精密機械等の製造業が多く立地する。日系ブラジル人が多く居住するため、ホームページにはポルトガル語のウェブページも用意されている。ホームページは約3,000ページ。平成18年3月31日に、高遠町、長谷村と合併し新伊那市となる。
図表3−3 伊那市のトップページ |
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(4)愛知県清洲町
人口:1万9000人 (平成17年6月現在)
名古屋市に隣接するベッドタウン。小規模な地方公共団体ながら、各課職員のワーキンググループや、管理職も参加する委員会でリニューアルの方向性を検討した上で実施したウェブアクセシビリティの取組が外部から高い評価を受けている。平成17年7月に西枇杷島町、清洲町、新川町が合併し清須市となった。
図表3−4 清洲町のトップページ |
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3−1−3 調査実施時期
各地方公共団体へのヒアリングは、平成16年11月から17年2月にかけて実施した。ここで記述する各地方公共団体の業務プロセスとウェブアクセシビリティ維持・向上の取組状況は、ヒアリング実施当時もしくはそれ以前の時期に関するものである。
3−2 各地方公共団体におけるウェブアクセシビリティ維持・向上の取組状況
3−2−1 ホームページ・リニューアルにおけるアクセシビリティ配慮
ヒアリング対象となった各地方公共団体では、最近のホームページ・リニューアル業務プロセスの中で、何らかの方法でウェブアクセシビリティへの配慮を実施している。ただし、アクセシビリティ維持・向上の取組方法やタイミングは、地方公共団体によってかなり異なっていることがわかった。
(1)熊本県における取組状況
1)ガイドラインの整備
熊本県では、県ホームページのリニューアルに合わせて、平成15年3月に「ユニバーサルデザインに対応した県庁ホームページ作成ガイドライン」を策定し、県庁内でホームページを制作する際のガイドラインとして参照を求めている。この作成ガイドラインでは、アクセシビリティ関連の事項として、文字の大きさ、PDFの扱いや色使い、音声ブラウザの対応等について定めている。
2)熊本県ホームページのリニューアル手順
熊本県では、平成15年度に県ホームページのリニューアルを行い、平成16年3月に公開した。平成14年度まではホームページは情報企画課が担当していたが、主管部署を広報課に変更したのを機に、リニューアルを実施した。検討作業は広報課が中心となって進め、調達業務も担当した。また、専門的知識が必要とされる技術面でのフォロー等は情報企画課が担当した。
熊本県では、以前から、お知らせ等の定型のウェブページは原稿入力だけで自動生成する「各課入力システム」を導入しており、このリニューアルでは各課入力システムの機能拡充も実施した。リニューアルにあたっては、各部局からの要望を広報課で取りまとめ、さらに広報課で検討した改善点を加えてリニューアル方針を作成し、一般競争入札方式によって選定された業者が行っているホームページ維持管理業務の一環として、リニューアルを実施した。
図表3−5 熊本県ホームページ・リニューアルの業務プロセス |
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3)各部局、政策の個別ホームページ調達プロセス
熊本県では、各部局、政策の個別ホームページを立ち上げるケースが多々あり、この場合は2)とは異なるプロセスで業務を行う。
個別ホームページの場合は、主管の各部局・課が中心となって企画・調達を行うが、必要に応じて、企画段階で広報課と相談・調整した上で外部業者への発注を行う。技術面のフォロー等は情報企画課が担当し、納品は主管部局・課で検収している。
図表3−6 個別ホームページ調達の業務プロセス(熊本県) |
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4)ホームページ・リニューアルにおけるウェブアクセシビリティ維持・向上の取組
平成16年3月のホームページ・リニューアルは、ユニバーサルデザイン化が狙いのひとつであり、当初からウェブアクセシビリティに対する認識があった。ホームページ上で文字拡大・縮小や配色変更の機能を提供している。
仕様書では県のホームページ作成ガイドラインに従うことの記述を盛り込んだ。
(2)世田谷区における取組状況
1)ガイドライン、マニュアルの整備
世田谷区では、平成11年12月に最初のホームページ作成ガイドラインを策定し、この中でウェブアクセシビリティにも言及されており、指針と作成マニュアルが一体となった作りだった。その後平成13年8月にガイドラインを改訂し「ホームページ利用のガイドライン」とした。このガイドラインでは、詳細を別冊のマニュアルで記述する構成とし、これに対応して「ホームページ作成マニュアル」を別途作成した。画面読み上げソフト等への対応や文字サイズへの配慮等が、この作成マニュアルに盛り込まれた。
平成14年10月の区ホームページ・リニューアルの際には、受注業者に「ホームページ利用のガイドライン」と「ホームページ作成マニュアル」を渡し、これらの基準に合わせてコンテンツを作成するよう指示した。
2)区ホームページのリニューアル手順
世田谷区では、平成10年に最初の区ホームページを立ち上げ、平成14年10月にリニューアルを実施した。
このリニューアルにあたっては、広報広聴課を中心に企画立案・業者への提案要求・業者選定・仕様確定を実施した。ただし、業者からの提案を受けた後の業者選定は、まず各課のホームページ担当者会議で候補を絞り込み、さらに広報広聴課、情報政策課、企画課の職員で構成する選定委員会が最終決定をした。
業者選定後は広報広聴課から発注し、業者との詳細検討、画面デザイン確認、検収等の一連のプロセスを広報広聴課が担当した。
図表3−7 世田谷区ホームページ・リニューアルの業務プロセス |
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3)リニューアル時のアクセシビリティ維持・向上の取組
区ホームページ・リニューアルに際しては、まずウェブアクセシビリティ点検ソフトやコンサルティング業者を活用して、リニューアル前のホームページの問題点の把握を実施した。また、業者への提案仕様書に東京都公式ホームページガイドラインを添付し、さらに制作の過程では画面読み上げソフト等を意識して、人名や地名の読み上げを確認し、必要箇所にはルビを振るなどの対応をした。
(3)伊那市における取組状況
1)ホームページのリニューアル業務手順
伊那市では、平成12年度にホームページのリニューアル検討を開始し、平成13年2月にリニューアルしたホームページを公開した。リニューアルの企画・立案は企画課広報広聴係が担当したが、技術面については企画課情報統計係がサポートし、その後の業務プロセスは情報統計係が中心となって進めた。
検討はまず、庁内各課の代表(課長補佐)で構成するホームページ充実事業検討委員会で内容の見直しに関する情報収集を行い、その結果を踏まえて情報統計係が基本計画をとりまとめた。さらに、情報統計係で仕様書(「伊那市ホームページ充実事業に係る企画提案実施要領」)を作成し、提案コンペを実施した。業者選定後、受注業者を交えてさらに詳細な仕様検討、ホームページ構成検討を実施した。制作開始後の進捗管理、納品時の検収も情報統計係が担当した。
図表3−8 伊那市ホームページ・リニューアルの業務プロセス |
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2)ホームページ・リニューアル時のアクセシビリティ維持・向上の取組
伊那市では、独自のアクセシビリティガイドラインは策定していない。
ホームページ・リニューアルの際には、提案実施要領の中で「ウェブアクセシビリティの確保の必要性」に言及し、視覚障害者への配慮や文字を大きくすることなどを盛り込んだ。ただし、ウェブアクセシビリティの確保については、通常のホームページの他にテキストベースの「バリアフリーのホームページ」を設けるという対応をとった。
(4)清洲町における取組状況
1)ホームページのリニューアル業務手順
清洲町では、平成9年から観光情報を中心としたホームページを業者委託で制作・公開していたが、平成15年4月に新ホームページへの移行を行うとともに、庁内各課の職員が直接ウェブコンテンツを制作する運用方式に切り替えた。ホームページ・リニューアルの検討は、次のプロセスで進められた。
まず、全面リニューアルのきっかけとなったのは、行政情報が乏しいという旧ホームページに対する住民からの苦情であった。清洲町では助役を筆頭に各局部長が参加する情報化推進委員会で、ホームページに対する苦情の分析と住民の情報ニーズの検討を実施した。その結果、タイムリーな情報提供と積極的な情報公開を実現するために、各課が直接記事を作成し公開する体制が必要と判断され、各部署の職員で構成するワーキンググループを設けて、新ホームページの構成、運用方式を検討することになった。
ワーキンググループは、各課から選出された10名程度の職員で構成され、ホームページ作成ソフトの購入と職員研修、ホームページ作成要領の整備、トップページデザインの検討等を行い、検討開始から6ヶ月間で新ホームページの構築までを実施した。検討過程では技術面のアドバイス等を外部コンサルタントに委託したが、ウェブページの制作はワーキンググループのメンバーが実施した。
図表3−9 清洲町ホームページ・リニューアルの業務プロセス |
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2)ホームページ・リニューアル時のアクセシビリティ維持・向上の取組
清洲町では、独自のアクセシビリティガイドラインは策定していなかったが、地域の高齢者がIT講習会等でホームページ作成の知識を得、清洲町のホームページへの意見や苦情が届くようになり、リニューアルの際には高齢者・障害者への配慮が強く意識された。
前述のように、清洲町のホームページ・リニューアルは、各部署の担当職員が集まったワーキンググループで仕様検討からコンテンツ制作までを実施した。ウェブアクセシビリティに関してはこのワーキンググループに外部制作業者を招いてレクチャーを受け、修正した。また、作成に際しては「ホームページ作成要領」により背景色の統一や色覚障害者に配慮した色の組み合わせについて最低限のルールを決めた。また、新ホームページは正式公開前にテスト期間を設けて仮公開し、外部からの意見を収集した。ここでも画像の代替テキストの入れ方等について意見があり、修正した。
3−2−2 日常のホームページ更新でのアクセシビリティ維持・向上の取組
ヒアリング対象地方公共団体では、日常のホームページ追加・更新業務においても、何らかの方法でアクセシビリティの維持・向上や確認が行われている。ただし、その手順や準拠する基準は地方公共団体によって異なっている。
(1)熊本県における取組状況
1)熊本県のホームページ更新業務手順
熊本県では、県ホームページのうち、イベント情報やお知らせ等の定型のページについては前述の「各課入力システム」により、情報発信者である各課担当者が直接入力・更新を行う仕組みを採用している。この場合は、各課で入力された情報は「各課入力システム」で自動的にHTML化され、公開される。
一方、上記以外の情報更新やウェブページの新規作成等については、情報を発信する各課で原稿を作成した後、広報課にウェブページ作成・更新依頼を提出し、広報課に常駐する受注業者のスタッフが制作・公開を行う流れとなる。
このように、熊本県はホームページの主管部署である広報課が一括担当する部分と、情報発信者である各部局が個別に担当する部分が混在する業務構造となっている。
図表3−10 日常のホームページ更新・運用業務プロセス(熊本県) |
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2)日常の更新作業におけるアクセシビリティ維持・向上の取組
熊本県では、平成15年3月に策定した「ユニバーサルデザインに対応した検討ホームページ作成ガイドライン」を、庁内でのホームページ制作の指針としている。
(2)世田谷区における取組状況
1)世田谷区におけるホームページ更新業務手順
世田谷区には約100の課があり、そのうち50課程度がホームページを公開している。ホームページ全体の規模が大きく、更新量も大きくなるため、世田谷区では各課がそれぞれ独自ホームページを持ち、運用管理も各課で行う方針をとっている。外部業者に制作を委託する場合も原則として各課で業者選定を行う。ただし、区のウェブサーバー上にある各ウェブページの更新システムにより、各課で作成したHTMLファイル等をイントラネット上の内部ウェブサーバーにアップロードすると、深夜に公開用サーバーへ転送され自動公開される共通の仕組みを導入している。
区全体のホームページ主管部署は広報広聴課で、各課ホームページ担当者会議を年2回開催し、ホームページ作成ソフトの研修や区が作成したホームページ作成マニュアルの解説、ネット上のモラルの解説等を実施している。
各課のホームページ更新・運用の手順は、課によって異なるが、例として平成16年に新設された「子ども部」のホームページ運用手順は次のようになっている。
子ども部では「せたがや子育て応援ガイドWEB」という個別のホームページを開設している。このホームページで日常的に更新が発生するのはお知らせ情報であり、ホームページ作成の元になる情報は広報広聴課が発行する「広報せたがや」の記事である。広報広聴課から「広報せたがや」のデジタルデータを提供してもらい、子育て関連記事をピックアップして外部受注業者に渡し、HTML化を行う。HTML化したファイルを子ども家庭支援課の職員が読み合わせして内容を確認後、イントラネットのウェブサーバーへファイルをアップロードする。
図表3−11 各課ホームページの更新業務プロセス例(世田谷区) |
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2)日常の更新業務におけるアクセシビリティ維持・向上の取組
世田谷区では、ホームページ作成マニュアルの中でアクセシビリティの維持・向上の方法や基準について記述し、年2回の担当者会議で広報広聴課が作成マニュアルを解説し、担当職員への周知を図っている。
実際のホームページ追加・更新は各部署がそれぞれ担当しており、職員がホームページ作成を行う部署、業者に外注する部署と様々である。業者に外注する場合には、「ホームページ利用のガイドライン」を業者に渡して、準拠するよう仕様書に明記している。
また、業者委託ではなく区職員が自ら作成したホームページについては、広報広聴課の職員が作成マニュアルを参照してチェックしている。
(3)伊那市における取組状況
1)伊那市におけるホームページ更新業務手順
伊那市の日常のホームページ運用は、実質的には1名のホームページ担当者がほぼすべての業務を担当している。こうした体制は、中小規模の地方公共団体ではしばしば見られるものである。
情報発信を行う各課から原稿が情報統計係の担当者に送られ、この担当者がホームページ作成ソフトを使ってHTML化している。ただし、定期的に発生する広報誌の記事掲載については、外部の制作業者へHTML化を委託している。
HTML化の完了後、制作したホームページのプリントが稟議に付され、内容チェックが行われた後、ホームページ担当者が公開作業を行う。
図3−12 日常のホームページ更新・運用業務プロセス(伊那市) |
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2)日常の更新業務におけるアクセシビリティ維持・向上の取組
伊那市では、独自のウェブアクセシビリティガイドラインは策定していないが、日常のホームページ追加・更新の際にはホームページ担当者が公開前のコンテンツをウェブヘルパーで点検している。ただし、この点検は新規の追加・更新のみを対象としており、トップページをはじめとする既存コンテンツは対象としていない。
また、市の広報誌記事については定期的に業者委託でHTML化が行われているが、この発注にあたってはアクセシビリティに関する要求は特にしていない。
(4)清洲町における取組状況
1)清洲町におけるホームページ更新業務手順
清洲町では、新ホームページへの移行後、情報発信者である各部署の担当者が公開するホームページを作成する方式での運用を徹底している。具体的な業務プロセスは以下のとおりである。
各課のホームページ担当者は、自らホームページ作成ソフトを使ってホームページで提供する記事のHTMLファイルを作成する。作成したHTMLファイルは各課で印刷し、課内での決裁をとって、その決裁プリントと電子ファイルを企画課のホームページ担当者に提出する。企画課のホームページ担当者は電子ファイルの内容を評価し、問題なければホームページに公開する。問題箇所があれば、各担当課の担当者へ修正依頼を行う。
図表3−13 日常のホームページ追加・更新業務プロセス(清洲町) |
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2)日常の更新業務におけるアクセシビリティ維持・向上の取組
清洲町では、ホームページ・リニューアルの際に独自の「ホームページ作成要領」を策定し、画像の代替テキスト設定の徹底等をルール化した。日常のホームページ追加・更新は、各課でHTMLを作成し、それをフロッピーディスクで企画課へ提出し、企画課からサーバーへアップロードする手順となっている。企画課ではアップロード前に提出されたHTMLの簡易評価を行い、問題があれば各課へ修正を依頼する。簡易評価の内容は、画像の代替テキストの有無、ページタイトルの付け方等である。
3−2−3 ウェブシステム調達におけるアクセシビリティ維持・向上
ウェブシステムの開発は、通常のホームページ構築と異なり、公開後のコンテンツの変更が困難なため、提案依頼時と業者選定後の仕様検討でのアクセシビリティ検討が特に重要となる。ホームページ・リニューアルと異なり、ウェブシステム調達ではヒアリング対象地方公共団体においても配慮が特になされていない事例もあった。
(1)熊本県における最近の調達事例での取組状況
1)業務手順
熊本県では、現在、情報企画課において「情報システムの企画・調達・契約ガイドライン」の策定が進められており、試案が完成している。今後、このガイドラインに基づいて情報システムの調達業務を進めることになる。
当該ガイドラインの調達事例として、熊本県電子申請受付システムがあるが、これは、熊本県及び県内市町村が共同で運用するシステムである。このシステムは、県及び県内市町村で構成する「熊本県・市町村電子自治体共同運営協議会」により、仕様の検討等を実施している。
2)アクセシビリティ維持・向上の取組
熊本県の最近のウェブシステム調達例として「熊本県電子申請受付システム」の開発についてヒアリングした。
このシステムの調達では、仕様書内に「使い勝手の確保」に関する記述が盛り込まれ、ウェブアクセシビリティへの配慮がうかがえるが、ウェブアクセシビリティの確保そのものを要件とはしていない。
(2)世田谷区における最近の調達事例での取組状況
1)業務手順
世田谷区で平成15年2月に公開した「図書館予約システム」の調達プロセスは次のようになっている。
図書館の蔵書検索・予約を行う図書館システムの導入が立案された平成13年度に、区内各図書館の代表で構成されるプロジェクトチームを結成し、仕様の検討を開始した。対外的な窓口として、中央図書館の事務調整担当者が仕様のとりまとめ、提案要求、提案書受付等の事務を担当したが、業者選定は前記プロジェクトチームで実施した。業者選定・発注後にプロジェクトチームと受注業者でミーティングを実施し、詳細仕様の検討を実施した。その後、業者からシステムのプロトタイプが提供され、プロジェクトチームで機能と画面デザインの検討・確認を実施した。また、納品後の検収もプロジェクトチームで実施した。
図表3−14 ウェブシステム調達業務プロセス例(世田谷区) |
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2)アクセシビリティ維持・向上の取組
世田谷区の最近のウェブシステム調達事例として、上記の「図書館予約システム」の調達業務についてヒアリングした。
このシステムの調達では、検討初期からシステムのアクセシビリティ等が意識されており、業者選定においては各社のパッケージの画面を比較し、画面の使いやすさや見やすさを評価した。
業者決定後には、「ホームページ利用のガイドライン」、「ホームページ作成マニュアル」を業者に渡し、これらの指針・マニュアルの中から遵守すべき事項を整理・提出させた。
開発の初期段階では、業者から表示画面のイメージを提出させ、配色は文字の大きさ、コントラスト等を確認した。特に色の区別がつきにくい利用者にとって問題がないかについて、神奈川県が策定している「色使いのガイドライン」を参考にし、区の総合福祉センターの職員も検証した。
納品前には受注業者がアクセシビリティの評価を行い、その評価報告書をシステムとともに提出させた。
図表3−15 世田谷区図書館予約システムの入力画面 |
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(3)伊那市における最近の調達事例での取組状況
1)業務手順
伊那市では、平成16年4月に、「施設予約システム」を稼動させた。このシステムは、市内の体育館、グラウンド、生涯学習センター等16施設の空き状況の確認と予約がインターネットで行えるものである。施設予約システムの検討・調達は、以下のプロセスで実施された。
本システムはもともと平成17年度以降に開発予定していたもので、平成15年7月に地域活性化センターの助成が決定したために急遽開発を行うことになったものである。主管課である生涯学習・スポーツ課スポーツ振興係が担当し、サーバー等の技術面について企画課情報統計係に相談して仕様書を作成した。平成15年10月に、4社に提案依頼を行い、提案コンペで業者選定を実施した。業者選定は、生涯学習・スポーツ課スポーツ振興係、生涯学習センター、企画課情報統計係で審査会を作り、提案評価と選定を実施した。業者選定後、業者と協議して詳細な仕様を決定した。その後の開発進捗確認は、生涯学習・スポーツ課スポーツ振興係と生涯学習センターの職員で実施した。平成16年3月にプロトタイプができ、業者がデモンストレーションを行い、改善要望を業者に出して最終的な手直しを実施した。
図表3−16 ウェブシステム調達業務プロセス例(伊那市) |
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2)アクセシビリティ維持・向上の取組
伊那市の最近のウェブシステム調達例として「施設予約システム」の調達業務フローについてヒアリングした。
このシステムの調達当時(平成15年)、本システムの調達主管課(生涯学習・スポーツ課スポーツ振興係)にはウェブシステムのアクセシビリティ配慮の必要性について十分な認識がなく、調達フローの中でもウェブアクセシビリティを特に意識した取組は行われなかった。
また、短期間の開発だったため、使いやすさ等の評価についても開発途中では十分に行うことができず、発生したバグ対応が優先した。
図表3−17 伊那市施設予約システムの入力画面 |
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