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10回 国地方係争処理委員会 議事録


(増井委員長)
 それでは、第10回の国地方係争処理委員会を始めます。
 さて、本日は、「地方分権改革推進委員会第1次勧告(平成20年5月28日)について」と「住基ネットに係る最高裁判決等の概要について」お話をいただき、その後質疑応答を行いたいと思っております。
 なお、本日の委員会の議事においては、審査に係る合議に関する部分は予定しておりませんので、平成13年2月5日委員会決定に基づき、議事要旨と議事録を公表することを予定しております。
 議事に先立ちまして、庶務の方に異動がありましたので、ご挨拶いただけますでしょうか。

(佐々木課長)
 7月に異動がございましたので、ご紹介申し上げます。
 久元 自治行政局長です。

(久元局長)
 自治行政局長の久元でございます。よろしくお願いいたします。

(佐々木課長)
 佐村 大臣官房審議官です。

(佐村審議官)
 佐村でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

(佐々木課長)
 申し遅れましたが、私は行政課長の佐々木でございます。よろしくお願いいたします。

(増井委員長)
 ありがとうございました。
 それではまず、第1番目の議題の地方分権改革推進委員会第1次勧告について、平成20年5月28日付けで出されたものですが、地方分権改革推進委員会の宮脇淳事務局長からご報告いただき、質疑応答を行いたいと思います。では、宮脇事務局長、お願いいたします。

(宮脇事務局長)
 地方分権推進委員会事務局長の宮脇でございます。よろしくお願いいたします。早速説明に入らせていただきます。お手元にいろいろ資料をお配りしておりますが、まず、厚手の資料、資料番号1−1が第1次勧告の本体でございます。これについては必要なところを適宜参照していきたいと思います。お手元の資料番号1−3というカラー刷りの資料、資料番号2の横長の資料、この2つの資料により第1次勧告のポイントについて御説明申し上げます。
 まず資料1−3をご覧ください。私どもは5月28日に第1次勧告を出しましたが、これはその概要を整理したものです。内容に入ります前に、1枚目の左下のスケジュールをご覧ください。私ども地方分権改革推進委員会、ないしは今回の第2次地方分権改革ですが、地方分権改革推進法に基づき設置され検討しているものですが、地方分権改革推進法は3年間の時限立法ですから、私ども委員会も3年間、平成21年度末をもって期限が来ることとなっています。今回、平成20年度5月28日の段階で第1次勧告を出しております。この後、第2次・第3次勧告、第3次勧告は来年の春になるのかなと思います。
 さて、内容についてですが、資料1−3の1枚目の左上、国と地方の役割分担のところを御覧いただきたいと思います。私ども委員会におきましては、国と地方の役割分担を明確にして、その後、財源ですとか人的資源の議論に入っていこうという筋道でおります。国地方の役割分担の考え方を整理するにあたり、いくつかのポイントをここに整理させていただいております。(1)の最初の黒丸について、「地方政府の確立」ということをあげております。これは勧告文の副題にもなっております。今回、政府の公式文書の中で、「政府」という概念を地方に初めて位置づけております。第1次分権改革において地方と国は対等・協力関係と位置づけられておりますが、現実においては残念ながら必ずしもそうはなっておりません。私どもは、対等・協力関係といいますと、いわばそれは政府間関係ではないかと考えたため、「地方政府」という言葉を使っております。ただ、ここで言う「政府」は住民自治・団体自治の観点から立法権と行政権を持った統治体、ということでして、司法権については一定の切り分けをしております。1990年代の第1次分権改革が行政権の分権に焦点を当てていたのに対し、我々は行政権だけでなく立法権の分権についてもより大きなウェイトをおいて考えております。(2)の役割分担の見直しについては、「住民に身近な行政は地方で担い」としております。資料1−1の本体資料のp7を御覧ください。(2)で国と地方の役割分担が書いておりますが、最初のパラグラフ、「住民に身近な行政は地方自治体に移譲し、地方の裁量と責任の中で実施することが基本である」とあるとおり、いわゆる近接制の原則を明確に唱っております。その後、国が重点的に担うべき役割として、地方分権改革推進法第5条をなぞっております。p7の一番下からは国と地方の役割分担に関し、現段階でのメルクマールを示しております。p8にいきまして、1)から5)に、重複型、分担型、重層型、関与型、国専担型という5つの型を示しています。1)の重複型は、事務・権限が法令上1つの主体に専属しておらず、国と地方自治体がそれぞれ処理することが許容されているものとして、例えば民間に対する助成・支援、調整、広報啓発、というように書いております。例えば職業訓練や職業紹介もこの重複型に該当するものと考えております。また2)の分担型は、法令上、事業規模の大きさや事務・権限の対象範囲等によって国と地方自治体がすでに一定の役割分担をしているものでございます。これは後ほどご報告させていただきますが、例えば一定の直轄公共事業などが該当します。3)の重層型ですが、国が専ら本府省において策定する全国的な指針や全国一律の基準に従い、地方自治体が事務事業を実施するものでして、介護保険や義務教育がこれに該当します。4)の関与型は、地方が実施する事務に関し国が広域的な見地等から調整し又は関与を行うものでして、これもいろいろなものがございます。最後は5)の国専担型でして、国のみがその事務を行うもの、例えば登記事務などがこれに該当します。このように、現在、国又は出先機関が行っている事務について、1)から5)に分ける作業を行っています。もちろんこの1)から5)の分け方で十分なのかどうかについては、実際に棚卸しを行っていく中でまた検証していきたいと思っておりますが、この結果をどうするかといいますと、本文p31を御覧いただきたいと思います。p31にありますが、第2次勧告に向けた大きな課題として「国の出先機関の改革」ということを挙げさせていただいております。国の出先機関の改革は、地方分権の観点からも非常に重要だと考えております。国の出先機関の業務について、先ほどの1)から5)までの分類で棚卸しを行っております。この後どうするのかについては、p33を御覧ください。ただいま御説明した棚卸しに従い、p33の上にあります1)から4)までの分類分けをする、ということです。1)から3)に該当するものは出先機関の事務権限とは位置づけないことといたします。我々の委員会は行政改革との関係をよく言われますが、もちろん行政改革も重要ですが、国の出先機関の事務を精査する大きな理由の1つとして、地域の民主主義の問題というものを強く感じております。例えば関東地方整備局の事業規模は2兆4千億円ほどございますが、この大きな額の予算執行は、国会の議決は受けているものの実際の執行判断は局長の権限ですから、地域に対していろいろな事業を行うに際して地域の民主主義が十分に機能していないのではないか、という問題意識の中で、国の出先機関についても大きなテーマとして挙げさせていただきました。
 資料1−3にお戻りください。1枚目の左上、(3)広域自治体と基礎自治体の役割分担ですが、「基礎自治体優先の原則」を明記しております。市町村にまず事務権限、財源、人的資源が属するのだという考え方でございます。これは、90年代の第1次分権改革の時には国から都道府県への権限移譲はある程度進んだのですが、住民に一番身近な基礎自治体への権限移譲が必ずしも進まなかったという事実がございます。そこで「基礎自治体優先の原則」を明確に打ち出しました。ただし、この原則を打ち出して分権を着実に進めるためには、市町村の行財政執行体力の強化が必要になってきます。体力を強化せずに事務権限や財源を移譲したとしても、補完性の原則が機能しますから、基礎自治体で十分対応できないものについては、周辺自治体や都道府県、国にお願いするという流れに動いてしまいます。基礎自治体の権限を強化しないまま分権を行いますと、権限を移譲した結果、逆に中央集権が強まってしまうということもありまして、これは我々にとっても、今後基礎自治体というものについて、どのように体力を強化するのかということが大きなテーマになってくると思います。このことは地方制度調査会の議論とも連携しなければならないと考えています。
 いずれにしても、今回このような大きな原則を掲げさせていただきまして、この第1次勧告の中心となるのは第2章と第3章でございます。第2章は具体的な事務権限の移譲について書いたもので、資料1−3の2枚目をご覧ください。「くらしづくり分野関係」「まちづくり分野関係」ということで、具体的な分野については、例えば「くらしづくり分野関係」ですと幼保一元化、教育、医療等が書いてございます。詳細は勧告本文を御覧いただきたいと思いますが、例えば、幼保一元化については、現在認定こども園という制度がございますが、実際は文科省と厚労省の2本立てになっております。したがって、早急に実質的に1本にしていただきたいと。ただ、地方分権改革と規制改革は一体の議論であるという側面もございますから、そこも睨みながら議論しないといけないと思います。また、例えば医療の中で、国保や生活保護についてですが、単に国から地方へ、ということではなくて、むしろより大きな行政組織で担っていただかないと、すでに制度自体を維持することが難しくなっているものと考えております。特に財政的な側面から国民健康保険や生活保護についてはこのように考えておりまして、これらについては現行制度のままで国と地方の役割分担を考えるのではなく、抜本的な制度改革を検討した上で、国と地方の役割分担を考えていきたいと思います。
 右側の「まちづくり分野関係」を御覧ください。まちづくり関係で大きなものは、1)の土地利用、2)道路、3)河川でございます。まちづくりの概念については、簡単に申し上げますと、地域の空間はできるだけ地方自治体が作ることができる、という概念を根底においております。地域の空間は地方自治体が一番よく分かっておりますから、地方自治体が中心となって作っていくということでございます。1)について最も大きな議論になったのは農地転用の問題でございます。2)の道路については、国直轄区間について、主に地域内交通、これは都道府県内という意味ですが、これを分担する道路は都道府県に移管してください、ということです。3)の河川については、都道府県内で完結する一級河川は都道府県に移管してください、ということを勧告させていただいております。
 資料2をご覧ください。資料2の左側は第1次勧告で、私どもが勧告を出しますと政府の地方分権改革推進本部により決定をいただくことになっておりますが、右側がその政府決定です。御覧いただくと分かりますように、ほとんど、約80%は我々の第1次勧告のとおりの政府決定をしていただいております。
 ただ、例えば(2)地域づくり関係の(都市計画)や(農地)は必ずしも勧告そのままではありません。(農地)については、勧告では国との協議や大臣許可は廃止するということになっておりますが、要綱ではこの点についてはさらに協議するということになっています。【道路】や【河川】についても同様の状況です。ただ、個別の道路や河川は第2次勧告までに結論を得ることになっています。このような重要な部分については、私どもも勧告を踏まえて政府がどのように対応するのか、大変興味を持っているところでございます。
 もう一度、資料1−3の1枚目にお戻りください。1枚目の右上、第3章「基礎自治体への権限移譲と自由度の拡大」でございます。現行の地方自治法では特例条例というものがあって、法律上都道府県の事務権限となっているものであっても、都道府県が条例を定めることにより市町村に移譲できることになっています。全国的に市町村に移譲されているものは、ここにありますとおり64法律、359の事務権限がございます。詳細については資料1−1p40の右側のページ、この「別紙1」を2枚めくりますと、矢印のついた一覧表が提示されております。このように、特例条例によってかなりの部分が市町村へ降りておりますが、このすでに市町村へ移譲された事務については、特例条例によるのではなく、法律により最初から市町村の業務としましょうという一覧表でございます。これを検討し、最終的には一括法により整理をしたいと考えております。ただ、これについては一点、留意点がございます。資料1−3の第3章の(1)で、まちづくり分野と福祉分野は括弧書きで(市へ)となっておりますが、その下の産業安全分野については括弧書きで(市町村へ)となっております。これは、受け皿としての基礎自治体について、市と町村の間で一定の線引きをしております。合併により市が増えまして、市は全体的にそれなりに体力がついています。このため市については一律に事務権限を移譲しても構わない、と考えておりますが、町村についてはかなり体力差が激しいですから、画一的な権限移譲についてはある意味で限定しております。
 (2)の補助対象財産の処分ですが、転用や譲渡の制限をできるだけ緩和してほしいということでございます。補助金適正化法の関係もありますが、転用等の制限を行っているのは実は法律ではなくて各府省の告示等の運用段階であるものが非常に多いので、これは運用を変えてもらえればすむ話ですから、勧告後速やかに実施してほしいということで各府省に検討を行っていただいている段階です。
 第5章を御覧ください。年末に出します第2次勧告ですが、大きな柱が2つあります。1つは、先ほど御説明したように国の出先機関の改革でございます。それから(2)「法制的な仕組みの横断的な見直し」ですが、ひとつは義務づけ・枠付けの問題でございます。国から地方自治体に対するいろいろな関与・制約ついて、現在棚卸しを行っておりまして、第2次勧告においてこの見直しを明確にしていくということでございます。また、ここには書いておりませんが、条例による上書き権の適否も検討しております。第2次勧告の後に、来年の春に第3次勧告を行うことになりますが、第3次報告は税財政関係が中心となろうと思います。
 私からの報告は以上です。

(増井委員長)
 ありがとうございました。
 委員の皆様、ご意見、ご質問がございましたらどうぞ。

(大橋委員)
 条例を大事にしていくということで分権という話がありましたが、条例で定めたことを、地方自治体が自分の責任できちっと執行できることが基本だと思います。そこで、この前宝塚の最高裁判決が出ましたが、この最高裁判決により、行政代執行法の形式的な解釈から始まって民事裁判を使った、行政上の義務の執行は地方公共団体レベルでは利用できないということになってしまった。これはすごくおかしな状況です。条例で罰則は定めることができる、義務を課すなど強制的な事項は定めることができることになっているのに、課徴金をはじめとするいろいろな執行手段を作ろうとすると、それはできない。行政代執行法の一条文が自治体の執行全部をここまで制限するというのは立法者もおそらく考えていなかったのだろうと思います。最高裁のこの判決が出てしまうと仕方がないので、地方自治法か何かで地方自治体が民事の執行手段をとれるという規定をきちんと定めてもらうとか、細かい話ですがそうすることが条例を生かしていくための大きな後ろ盾になると思います。代執行法はあてにならないですし、地方自治体で条例で行政的執行を定めることができるのかという話について、地方自治法で細かなちょっとした確認規定だけだとあまりに寂しいですし、制度自体として条例を大事にしているということが少し分かりづらくなります。行政代執行法の所管がどこなのか、法務省なのか総務省なのかよくわからないのですが、細かい話ですけど大事なことだと思います。

(宮脇事務局長)
 非常に重要な御指摘だと思います。条例を大事にする際に、必ずしも罰則だとかそういうものだけで執行を担保するものではないと思いますが、そうはいうものの最終的な条例の執行権ということで、今のお話は非常に重要だと思います。例えば資料1−3ですが、今までの分権の議論の中でほとんど手を付けていない分野として、地方自治関係法制の見直しというものがございます。地方自治法関係はある意味で改正が多くて、パッチワーク的になってしまっている側面があるということと、ただいま御指摘がありましたように、根本的に条例の執行権を担保する、あるいは「地方政府」という言葉を担保する、そのような内容には必ずしもなっていない。それは、例えば自分たちの組織について、自由度を持って形成するということも制約されております。第2次勧告・第3次勧告の中で、地方自治関係法制の見直しを行うことを掲げさせていただいております。その中で、ただいま御指摘のあったようなことについて議論をし整理しなければならないと思っております。これは地方分権改革推進委員会の中でも大きな問題として考えておりまして、所管云々というよりも、我々としては、すべてに対して勧告の対象としていきたいと考えております。

(岩崎委員)
 「地方政府」という言葉は政府の文書で初めて使ったということですが、「中央政府」というと1つですしわかりやすいのですが、「地方政府」といった場合に、地方全体すべてなのか、それとも一つ一つの自治体が地方政府化するのか、そのあたりをもう少し説明いただければと思います。仮に、一つ一つの自治体が地方政府化するのだとすれば、自治体の数だけ政府ができることになりますから、条例の上書き権、条例で決めていくということになれば、国の1つの法律について、1800いくつの自治体が上書きできることになります。単一国家を維持していくのであれば、このような立法調整をどうしていくのか。このような立法調整の問題も含めて、「地方政府」というものを実際にすべての自治体に求めるのかどうなのか。そうであれば、自治体の多様性には多少目をつぶらざるを得なくなるのかな、と思います。つまり、小さい自治体はそれができないから、ということになりますから、どうなのかと思います。
 また、それに関連してですが、都道府県という広域自治体と市町村という基礎自治体では、regionalとlocalということで明らかにレベルが違うわけですが、これもフラットに「地方政府」と考えていらっしゃるのか。仮にそうであれば、都道府県が条例で上書きしたものを更に市町村が上書きできるのか、この場合の立法調整をどうするのかが気になっております。質問をまとめますと、「地方政府」ということを、具体的にはどのようにお考えなのか、伺いたいと思います。

(宮脇事務局長)
 「地方政府」というのは、一義的には全自治体ということで当てはめております。中央政府に対する1つの「地方政府」という概念で整理しているのではございません。各地方政府が法令に対して上書きをするのであれば上書きをする、と。しかし、すべての法令について条令で上書き可能とするのではございません。まず最初に、自治事務が対象になるだろうと思います。自治事務について法令がいろいろな関与しているような場合について、それぞれの法令で、あるいは一括法で整理するか、いろいろ考え方はありますが、この自治事務について、条例による法令の修正を認めることを前提としております。現段階では、法定受託事務についてまで条例による修正を考えているわけではありませんし、法定受託事務・自治事務以外のものについて修正できるかどうかについては、それはそうではないと考えております。
 また、もう一つご指摘をいただきました、逆に多様性を奪うおそれもあるのでは、という点についてですが、先ほど御説明しました「基礎自治体優先の原則」と「補完性の原則」と密接に関係する問題だと考えております。本来ならば、基礎自治体の事務権限のあり方、現在の地方自治法ですと一定の業務は必ずしなければならないということで中核市や特例市、政令市が定められておりますが、特に町村レベルになったときに、町村にそれらのすべて事務をお願いするのかしないのか、そのような根本的な問題についても念頭に置いて委員会では議論しなければならないと思っています。我々は事務権限をできるだけ分離したいというのが基本の考えであります。分離していく中で、水平の関係といいますが、都道府県の事務権限と市町村の事務権限、そこでまず仕分けをしていこうと。この仕分けが完結すれば重複関係はなくなるのですが、そうはいいましても実際には重なるところがあるとは思います。

(増井委員長)
 さきほど第1章の(3)でお話がありましたが、市町村の職員の執行体制、能力養成というものが極めて重要ですね。時間もかかるでしょうし、出先機関の整理で国から市町村に人材が行ったとしても、一挙に均等に全市町村の能力をアップさせて、国民の期待に添うような形になるのは、けっこう大変なことではないでしょうか。

(宮脇事務局長)
 それはそのとおりです。特に町村ベースですとそれぞれ状況がかなり違いますので、我々としてはとりあえず、市を中心として体力を強化していただけないか、と。町村については、広域連携等が多様化する中で、そのような形で対応していただけないか、と。いずれにしても、国の人的資源を地方に移す、その具体的手法についてもいろいろな課題がございます。先ほど第2次勧告で出先機関の見直し、と申しましたが、この第2次勧告の検討の中で、ある程度具体化していくということを考えております。

(増井委員長)
 財政再建団体の市の実情を見ていると、どこまで市町村職員のレベルを挙げて、この分権改革の求める仕事をしていただくわけですが、そのレベルアップのスピードとこの分権改革のスピードを上手く合わせるということは、難しいですね。

(高木委員)
 財源の移譲もいろいろ難しいんでしょうけど、人的な移譲もどのようにやるのかなと思います。県のレベルでも、各都道府県で状況が違うのではないかと思います。地方都市に行くと主要な産業もないですし、県庁の職員が一番レベルが高いのかなと思いますが、それでも、いろいろな事務事業で県と接するかぎり、県庁の職員であっても分権改革が求めるレベルには必ずしも達していないのではないかと思うことも多いです。各都道府県によって都市計画レベルや生活レベルなど違いますし国がすべてに関与する必要はないですから、大枠としてはこれで構わないと思うのですが、人的資源についてはどうなのかな、と正直なところ思います。

(宮脇事務局長)
 都道府県の人的資源についてはかなり棚卸しをしております。例えば技官関係ですが、道路の技官と河川の技官、これによって国の人的資源と都道府県の人的資源は明らかに違います。道路についてはかなり重複的な人的資源を保有しておりますが、河川については必ずしも重複関係が強くありませんので、道路の移譲に関する人的資源の移行の方がよりハードルが高いと言えます。いずれにせよ第2次勧告になりますが、個別の内容について精査して、国と都道府県の間で一定の協議機関を設けて移譲するルール化をしなければ、個別に協議して解決されるものではないと思います。
 また、都道府県は、経由事務が必要に多いです。市の事務処理を国に繋げるということで、農地などもそうですが、市の事務処理の適否を県が実際に判断して、それに国がお墨付きを与えるという経由事務がかなりの部分を占めております。このような事務については、現在の国の人的資源をどの程度移す必要があるのか、個別の事務分野について精査する必要があると思います。

(長谷部委員)
 法令の上書きを条例で認める理屈はどのようなものになっているのでしょうか。立法府が条例にそのような権限を授権するという仕組みになりますか。自分を改廃できる権限を下位の条例に与えるということですか。

(宮脇事務局長)
 はい。基本的にそうです。例えば先ほどの特例条例は、その1つだと思います。

(長谷部委員)
 それは自分の事務を他に移すということでしょうけど、そうではなくて、条例による上書きについては、立法府が決めたことを他の機関が変えられるのかということだと思うのですが、それも大丈夫なのでしょうか。

(宮脇事務局長)
 いろいろと御議論はあると思いますが、我々の問題の根本は、各府省はこれまで通達等で書いていたものを法令に格上げしている例が非常に多いため、地方自治の本旨に戻って、国が法令により規定すべき事項とそうではないものとをきちんと精査しようというのが我々の根本的な思いです。その一つの仕組みとして条例の上書き権があるのではないか、という問題意識です。これは結局、自治事務とは何か、という根本的な話になるんだと思います。法定受託事務まで条例で上書きできるということは、現段階では考えておりません。

(増井委員長)
 地方6団体の要望書などを拝見しますと、地方分権で一番力を入れているところが財源の問題だと思います。消費税のあり方等も含めていろいろ議論があるようですが、その財源の手当がないまま第1次勧告が出て、要綱が本部決定されています。今後、結局財源の問題の決着がつかなかったらどうするのでしょうか。

(宮脇事務局長)
 御懸念はごもっともだと思いますが、第1次勧告から第3次勧告まですべて組み合わせて地方分権改革推進計画が作られることになります。事務の移譲だけが先行することにはなりません。例えば道路と河川の事業費をどのように地方に移すのか、これについては第2次勧告の中で議論していきたいと思いますが、具体的に、事業を地方自治体の管理に移し実行していただくことになりますと、道路法等の関係法令の一括的な見直しが必要になりますので、結果として分権一括法の成立を待たなければ現実には何もできないことになります。第3次勧告まで出た上で、政府において計画を作っていくことになります。現在の足元の状況だけ見れば、増井委員長の御指摘のような懸念はあるとは思います。

(高木委員)
 例えば道州制などの話も聞いたりもしますが、具体的なイメージをわかりやすく示していただけるとありがたいのですが。

(宮脇事務局長)
 私どもの委員会では道州制や連邦制といったことは全く考えておりません。もちろん、政府においては道州制に関する議論はされておりますが、我々の委員会が主体になって道州制の議論をするのではなく、我々は現在の国家体制での地方分権を推進することを考えております。

(岩崎委員)
 例えば大分では教育委員会の問題が出てきておりますが、教育委員会については個人的には首長の下においても構わないのではないかと思うのですが、教育委員会についてはどのように議論されているのでしょうか。

(宮脇事務局長)
 資料1−1p12の点線の囲み部分、【教育】を御覧ください。下から2行目で教育委員会制度について書いてございます。設置の選択制、首長のとの連携による教育行政の充実と総合的な行政の推進という観点、小規模市町村における共同化等の設置形態等、あり方について検討する必要がある、と記述しております。この部分は大分の教育委員会の問題が出てくる前に書かれたものですが、政府では教育改革の会議が動いておりまして、これは教育委員会を強化すべきというベクトルにあるようです。この囲み部分はどちらかといえば教育委員会をやめても良いのではないかというように読めると思います。政府内でいろいろな審議会が動いておりますから、我々としてはこう思う、ということを書いた部分でございます。

(岩崎委員)
 テレビの報道では、地方分権的であったからこそ大分のような問題が起こるのだ、だから中央集権的にすべきなのだというような意見も聞いたことがありまして、その影響力の方が強いのかなと懸念するのですが、あれが分権的だとはとても思えませんので、それについてはぜひ反論していただきたいと思います。責任の所在がどこにあるのかわからないまま、地方分権的だからこのような問題が起こったのだ、だから集権的にすべきだというのは違うと思いますので。

(宮脇事務局長)
 基本的には私どもも、あれは分権の結果ではない、と考えております。近接性や地域の自治という議論とも違うと考えております。

(増井委員長)
 政党の動きは読みにくいと思いますが、どうでしょうか。第1次勧告は約80%が要綱になったということでしたが、与党には相当程度受け入れられると考えて良いのでしょうか。それとも、与野党においては特定のテーマについて議論が行われているというような状況があるのでしょうか。

(宮脇事務局長)
 この段階だからこそ、第1次勧告は80%も受け入れられたのだと思っています。先ほどから御議論いただいているように、人や財源、又は具体的な制度設計を視野に入れた第2次、第3次勧告の段階になれば、おそらく今までのような議論のレベルではなくなってくると思っております。御指摘いただいた教育委員会の問題も含めて、かなり議論がハードになると思っております。我々も、我々の段階ですべてが実現できるとは考えておりません。ただ、問題提起をできれば、それを足場にして次へ繋ぐことができる、という思いでおります。

(増井委員長)
 時間も迫ってきましたが、その他、何かご意見等がございますでしょうか。
 それでは、宮脇事務局長、本日はお忙しい中どうもありがとうございました。
 引き続きまして、「住基ネットに係る最高裁判決等の概要について」、江畑市町村課長から説明をお願いします。

(江畑課長)
 市町村課長の江畑と申します。
 それでは、資料3につきまして、住基ネットに係る最高裁判決等の概要について御説明申し上げたいと思います。まず、裁判の御説明に入ります前に、まず住民基本台帳ネットワークシステムの制度、仕組みについて簡単に御説明申し上げたいと思います。
 資料の1ページを御覧いただきたいと思います。まず住基ネットの仕組みでございますが、市町村におきましては、住民の方の基本情報を住民票に記載をいたしまして、住民基本台帳という形で管理しているわけでございます。市町村が自ら行政サービスを行う場合にございましては、その市町村が自ら管理している当該住民の情報を活用することができるわけでございますけれども、当該市町村以外の、例えば、都道府県や国その他の行政機関が、当該市町村の住民の情報を活用する場合には、その住民の方が住民票の写しを添付するとか、あるいは、国の方で市町村に対しまして住民票の公用請求をするとか、あるいは、直接住民の方に問い合わせをするとか、そういうことが必要となっていたわけでございまして、これにつきましては、住民の利便性という観点からも、行政の合理化という観点からも、改善が必要でないかということが、住民基本台帳ネットワークというシステムを構築いたしましたそもそものきっかけでございます。
 具体的には、市町村が保有しております住民票に記載している情報のうち、本人確認情報というのがございますが、これは、4情報 氏名、住所、生年月日、性別、それから各住民に符られております住民票コードと変更情報、これらにつきまして、市町村から都道府県にこの情報を送信する、都道府県が当該都道府県内の市町村における住民の情報を保有する。今度は都道府県が、全国に一つございますけれども、地方自治情報センターという機関がこの役割を担っておりますが、指定情報処理機関に、その各都道府県の住民の本人確認情報を送信して、この指定情報処理機関がその情報を保有するということになっております。
 法律に規定しております行政機関等が、法律に規定しております利用目的に沿って、この本人確認情報を利用する場合におきましては、この指定情報処理機関から行政機関等に情報を提供することになるというわけでございます。
 具体的に申しますと、例えば、旅券の発給申請でございますが、これは、具体的な事務は都道府県のパスポートセンターで行われているところでございますが、住基ネットができる前は、住民の方は申請書と併せて、住民票の写しを添付していたわけでございますが、住基ネットが導入された後は、本人は申請書のみを提出をいたしまして、受付をした県の方から住基ネットを使いまして、この本人確認情報を使いまして、この本人の同一性を確認した上で、パスポートを交付するということでございます。
 それからもう一つは、厚生年金、国民年金の支給でございますが、住基ネットが導入される前、あるいは、住基ネットによる年金情報の確認等が活用される前におきましては、年1回、年金の受給対象者が生存しているかどうかということについて、ご本人に確認をとるために現況届というものを出していただくことになっておりました。住基ネットを利用するということによりまして、本人確認情報を指定情報処理機関から提供を受けるということで、現在では年6回現況確認しておりますが、その方が現在生存しているのか、同一性があるのかどうかということを住基ネットを通じて確認しているということで、行政の合理化、あるいは、住民の利便性の向上にかなり資しているということでございます。現在、年間、国の行政機関等では、平成19年度で9,900万件、地方公共団体の場合は、旅券が中心でございますが、約400万件利用されているところでございまして、今後とも利用が拡大されるということを考えているところでございます。
 次に、こういったかたちで、個人情報を扱うわけでございますので、制度的にも運営上も、個人情報保護とセキュリティー確保のための措置について万全を期すということで、4つの項目につきまして、手当を講じているところでございます。
 まず、既に御説明申し上げましたが、保有情報の利用の制限ということで、都道府県、あるいは、指定情報処理機関の保有する情報は4情報、住民票コード、変更情報に限定されている、法律上明記されているということでございます。それから、情報提供を行う行政機関等、利用目的、これにつきましても、法律、あるいは県が独自に利用する場合は条例に明記するということになっているわけでございます。その他、住民票コードにつきましては、データマッチング等の危険性ということもございますので、民間利用等を禁止すると。具体的には、民間におきます、告知要求制限、あるいは、データベースの構築の禁止等を法律上明記しているということでございます。あと、住民の方が、変更したいという場合には、変更が可能という制度になっているわけでございます。その他、システム的には、専用回線の利用、あるいは、ファイアウォールによる厳重な通信制御、IDSによる侵入検知を行っている、それから、データの暗号化、通常のインターネットで使うプロトコルは使わないということで、実体的にも、セキュリティー確保に万全を期しているというところでございます。それから、内部の不正利用の防止ということで、公務員法上の守秘義務に係る刑罰ということで、1年以下の懲役又は3万円以下の罰金ということでございますが、それを加重することにしておりますし、操作者用ICカード、パスワードによる限定をするということ。それから、その他の措置として、これは情報提供を受ける側の行政機関の職員につきましても、公務員法上の罰則−1年以下の懲役又は3万円以下の罰金に加重する罰則を規定しているという、こういう個人情報保護とセキュリティーの確保の措置を施していると、そういうことでございます。こういう前提の下に、住基ネットの運用をしているわけでございます。
 3ページ以降が、関連訴訟についての御説明でございます。国が被告になっている訴訟と国が被告となっていない訴訟がございます。国が被告となっている訴訟につきましては、網羅的に把握しておりますが、国が被告となっていない訴訟につきましては、特に、法務大臣の権限に属さないものにつきましては、若干漏れているものもあろうかと思っておりますが、この点についてはご承知おきいただきたいと思っております。国が被告となっている訴訟でございますけれども、基本的には、住基ネットへ情報を送信される対象となる住民の方からの住民票コードの削除と損害賠償請求の訴訟が基本でございます。現在、国に対する損害賠償、住民票コードの削除に係る訴訟につきましては、全体で35件ございますが、そのうち5件が終結いたしまして、残り30件が係属中ということでございます。それから、杉並区の訴訟については、杉並区は現在まだ住基ネットに参加をしておりませんが、この訴訟は、杉並区が原告でございまして、東京都に対しまして、住基ネットに参加したい方だけの本人確認情報を受領する義務があるという確認を求める訴訟と、国・東京都に対する損害賠償請求という訴訟でございます。国が被告となっていない訴訟については、最近最高裁判決が出たということで、報道等されたものでございますが、損害賠償・住民票コードの削除を求めるという、大阪地裁係属の事件でございます。これが最高裁で、先日勝訴が確定したものでございます。その他、住民票コードの記載通知に関する訴訟等があるわけでございます。
 具体的内容につきまして、御説明申し上げます。
 まず4ページでございますが、国が被告となっている訴訟ではございませんが、先ほど申し上げました、大阪高裁におきまして、一部行政側が敗訴した判決を変更する判決でございますので、これが一番重要かと思いますので、まずこれを御説明申し上げたいと思っております。まず、第一審は、8市の住民が住民票コードの削除、あるいは、損害賠償を求めて提訴した訳でございますが、これにつきましては、請求棄却でございます。これについて、第二審におきまして、箕面市の住民、吹田市の住民、守口市の住民から、住民票コードの削除の請求等があったわけでございますが、これにつきまして、大阪高裁判決が、住民票コードの削除について、請求を認容したという事案でございます。これについて、守口市、吹田市は上告したわけでございますが、箕面市の住民1人については、大阪高裁の判断が確定したということになってございます。これを受けまして、最高裁におきまして、この3月6日に、大阪高裁の判断を変更する判決を出したところでございます。要点につきまして、判決概要に書いているところでございます。6ページ以降に大阪高裁判決との対比表がございますので、後ほど御覧いただければと思いますが、ポイントといたしまして、まず、最高裁判決は、憲法13条についての判断ということをいたしております。これにつきましては、6ページにございますように、大阪高裁判決におきまして、原告の主張にございました、いわゆる自己情報コントロール権、これが憲法上保障されているプライバシーの権利の一内容であるかという、こういう判断が求められていた訳でございまして、大阪高裁におきましては、これを認めるという判断を下した訳でございます。ただ、最高裁におきましては、憲法13条が自己情報コントロール権を認めたものかどうかということには踏み込まず、従来の最高裁の憲法13条についての考え方である「何人も個人に関する情報についてみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される」という考え方を示して、自己情報コントロール権の存否については、判断しなかったということが一つのポイントでございます。具体的に、最高裁判決におきましては、「住基ネットがみだりに開示又は公表をしているのか」という観点から以下の判断をしているというように考えられるわけであります。まず、先ほど申し上げました本人確認情報−住所、氏名、生年月日等の4情報、それから、住民票コード等でございますが、これについての秘匿性について、高いとは言えない。それから、住基ネット自身は正当な行政目的の範囲内で行われる。住基ネット自体について、システム上、法制度上についても、情報が漏えいする具体的な危険性が生じることはないという判断をしている。それから、大阪高裁において議論になりましたのが、一つが行政機関等個人情報保護法という法律がございまして、それによりますと、「利用の目的については、合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない」という規定があることを踏まえまして、住基ネットにつきましても、「利用目的が限定されると言っているが、この行政機関等個人情報保護法の規定を踏まえると、合理的な範囲内で利用目的を超えて利用されることがあるのではないか。その結果として、データマッチング等の危険性が生じるということがありうる」という判断をして、結論として、「プライバシー権を侵害する」という判断をしたわけでございますが、この最高裁の判断におきましては、「住民基本台帳法の本人確認情報の保護規定自身が、行政機関等個人情報保護法に優先して適用されるということで、目的外利用の禁止については、法律で明記されている」ということで、原審の大阪高裁の判断で示されているような、「目的外利用が合理的な場合に許される」ということはないと判断しているわけでございます。このようなことを踏まえまして、「データマッチングの具体的危険性はない」という判断をいたしまして、情報漏えいの危険性はないということ、それから、データマッチングの具体的危険性がない、ということを踏まえて、「みだりに第三者に個人情報が開示又は公表されるものではないので、憲法上保証された自由を侵害するものではない」というように判断したわけでございます。
 それから、国が被告となっている訴訟について、3月6日に判決が出ている最高裁判決がございまして、これについては、高裁段階で行政側勝訴の判断がされていたものにつきまして、原告側が上告したものにつきまして、最高裁が同日付で行政側勝訴の判断をしたものでございまして、その概要につきましては、今申し上げました、大阪府下の市に対する訴訟と同じような考え方で憲法13条で保障された権利を侵害するものではないという判断をしたところでございます。
 最高裁判決の対象となっている事件のうち金沢の事件につきましては、地裁段階で原告の請求を認めたものでございまして、これを高裁段階で行政側勝訴と判断したものでございますが、高裁判決にあたりましては、長谷部先生の意見書を提出していただいた事件でございます。この最高裁におきましては、先ほどの大阪の事件と同様に、自己情報コントロール権には言及はしておりませんが、この控訴審であります、名古屋高裁、あるいは、東京高裁につきましては、自己情報コントロール権という言葉を使うかどうかは別にしても、本人確認情報自身が場合によっては、秘匿性が高い情報となりうるということから、憲法13条の保護の対象となるということを明示しているわけでございますが、それについては、最高裁判決は具体的にそれについての言及はしていないというものでございます。
 それから、最後でございますが、杉並区の訴訟についてでございます。現在、住基ネットに参加していない団体が3団体ございまして、東京都は杉並区、国立市、それから、福島県は矢祭町でございます。これについて、住基ネットにつきまして、法律上全員が参加する、全員の情報を送信するという法律上の義務があるわけでございますが、杉並区自身は、希望者だけの参加を求めて、希望者だけの本人確認情報を送信した場合における東京都の受信義務の確認を求める、併せて、国・東京都に対する損害賠償請求をするというものでございます。最高裁の判断は、上告理由、あるいは上告受理申立ての理由にあたらないということで、請求棄却、不受理ということになっておりますが、高裁判決におきましては、一つは受信義務の確認、これ自体が地方公共団体の主観的な権利利益の保護救済を目的とするものではないということから、裁判所法3条1項の法律上の争訟にあたらないということで不適法になるという判断をしております。それから、損害賠償の請求につきましては、そもそも、全員の本人確認情報を送信しないこと自体が違法ということであるわけで、その一部の情報のみを受信する義務はない。いうなれば、選択制自体を法律により認めたものではないという前提の下に、都、それから都を指導しなかったといっている国に対する損害賠償の請求を否定したというものでございます。
 杉並区自身は、今回の判決を受けまして、7月16日でございますが、来年の1月から住基ネットに参加すると表明しているところでございます。国立市、矢祭町につきましては、まだ具体的に態度を明らかにしていないという状況でございます。
 私からは以上です。

(増井委員長)
 ありがとうございました。
 委員の皆様、ご意見、ご質問がございましたらどうぞ。

(高木委員)
 憲法違反だと騒がれているのは何故なのでしょう。

(江畑課長)
 一つは、情報が漏えいしてしまうということ。それは、システム上、あるいは、人為的にという両方あります。もう一つは住民票コードという番号、そのコードをキーにして、いろいろな情報が結びつけられて、行政機関自身がいろんな情報を一元的に管理するという、そういうことになってしまうではないかと。そういう2つの面からの話でございます。

(増井委員長)
 私は、横浜に住んでいるのですが、横浜では住基ネットへの参加について同意を求められたという記憶があるのですが。

(江畑課長)
 横浜は若干複雑でして、横浜は一時参加を見合わせているという状況がありまして、他の団体は稼働と同時に全住民について住基ネットに参加していただいたのですが、横浜は杉並のようなスタンスで、同意を各住民に求めるということをやっていたのですが、セキュリティーのための委員会をつくりまして、そこで「住基ネット自身は、安全性が確保されている」という判断がなされ、最終的には、市長の判断で、段階的にすべての住民について住基ネットに参加をしていただくという方針になったものでございます。

(高木委員)
 個人情報保護法の制定などを契機として過剰な個人情報保護のケースが見受けられます。弁護士会においても資格の登録のために提出するのは名前と生年月日と住所で、ほとんど個人情報と営業情報が一致しているのですが、弁護士会会員名簿を作るとかになると、「勝手に個人情報を使うな」等の主張は弁護士会の会員でもあるんですよね。ただ、それをもって弁護士業務をしているのだから、個人情報であるといっても、それは仕方ないでしょうと思いますが、住基ネットについても、同じような話なのかなと。

(江畑課長)
 そもそも住民票自体、4情報については、市町村が持っており、行政実務上、他の行政機関に提供するという形で利用されることもあります。そのこと自体については、日本で生活し、行政サービスを受けている以上は必要なことだというのがこちらの主張です。ただ、住基ネットの危険性を主張される側は、それがいろいろなところで漏れてしまうとか、あるいは、行政機関がすべての情報を結びつけて、いろいろな情報を一元的に管理することになってしまうのではないかということを危惧しているようです。
 住基ネットにおいては、住民票コードを各人に配布しておりまして、そのコードをキーとして、いろんな情報を結びつけられるのではないか。コードが漏れたときに、そのコードをベースに、いろんなところでデータが集められるのではないかということを主張しておられます。

(高木委員)
 主張される側は、それを悪用するという性悪説に立っているのでしょうか。

(江畑課長)
 法律で利用目的を制限し、それを罰則で担保しているのですが、主張される側は、「法律を守らなかったらどうなるんだ」ということをおっしゃいます。しかし、法律を守らないという前提では、なかなか制度というのは作れない、と。

(岩崎委員)
 住民票コードはいつでも変更は可能なのですか。

(江畑課長)
 はい。

(岩崎委員)
 住民票コードを変更した場合には、古い住民票コードも残ることになるのですか。

(江畑課長)
 はい。変更情報は5年間保存しなければならないとされております。

(岩崎委員)
 5年間であれば、その間のすべての古い情報が残るのですか。それとも直近のものだけ残るのでしょうか。

(望月企画官)
 先生がおっしゃるとおり、過去5年間何回か変えていれば、それは全部履歴という形で残ることになります。

(岩崎委員)
 5年間は何回変更しても、変更前の住民票コードものっているということですね。

(高木委員)
 司法試験や建設業法による技術検定というのは、住基ネットの情報をどのように使用するのですか。

(江畑課長)
 従来、試験を受ける際に住民票の写しの添付をしていただいていたのを省略するということでございます。本人を確認するために必要なことということで。

(高木委員)
 現況届を出さなくてよくなったのですね。年6回も確認しているとは知りませんでした。

(江畑課長)
 現況確認については、年6回やっているのですが、そのうち5回は既存の介護保険などの情報を基にして確認を行っており、それで足りない部分を住基ネットで確認しており、年1回は全員について住基ネットで確認をすることとなっておりまして、年1回より年6回確認することで、過誤払のリスクが低くなったというメリットがございます。

(大橋委員)
 以前住民票にある4情報を本人に関係のない人が勝手に見ることができて、「これはひどいな」と思ってみていたのですが、その後に制限がかかるような形に変わりましたよね。法制的には4情報の取り扱い、あるいは、法益的な価値を上げたという言い方もできるような気がします。

(江畑課長)
 平成18年は閲覧、19年は住民票の写しの交付ついての改正を行いまして、請求者、請求目的等の限定をしておりますので、そういう意味では、4情報であっても不正な目的で使われることを防止すると。

(大橋委員)
 判決でそのあたりの言い回しが変わっているのも、そういったことを勘案しているのかなと。それと、ある程度罰則があってそういうことができないはずだと、判決は規範論なのですが。従って、もし、今後何か具体的な事件とかが出てくると、また旗色が悪くなるのでは。

(江畑課長)
 最近の訴訟の中で主張されておりますのが、住基ネット自身から情報は漏れていないのですが、住民基本台帳のシステムから情報が漏えいする事件が起きてきているので、そこを捉えて、必ずしも住基ネットが事実上万全と言えるのかどうかということについて、まだ係属中の訴訟においても原告側が主張しているということはあります。

(増井委員長)
 最高裁判決が出た後、残った訴訟についても、近い将来すべて結審しそうだということにはならないのでしょうか。

(江畑課長)
 原告の方も、最近の漏えい事件が最高裁の結審以降に起こったものであるので、その後の訴訟については、必ずしも最高裁判決に拘束されるべきではないと主張しているのですが、高裁におけるやりとりを聞いておりますと、最近の既存住基からの情報の漏えいについて、違う配慮をしているという様子は伺われず、基本的にはやはり最高裁判決を踏まえた議論をしていると。ただ、我々も気を付けなければならないのは、最高裁は明確には触れておりませんが、高裁レベルでは、データマッチングの危険性などについて、差し止め請求の理屈となりうると示している例もありますので、そういったところについて、気を付けていかなければと考えております。
 もう一つは、未だ参加を表明していない団体も2つあります。ですから、これらの団体の参加がすべてそろって初めて住民の利便性の向上、あるいは、行政の事務の効率化という目的も達成されますので、ここは何とか早く参加していただきたいというように思っております。

(長谷部委員)
 住基ネットはしっかりした制度を作りすぎた結果、かえって注目を浴びてしまったという感じがします。例えば、年金番号については、制度も何もなくて、他の目的に使おうと思えば使い放題である。これも運動をしている学者の中では結構知られている話なので、住基ネットに反対する方々は攻撃目標を間違っているのではないでしょうか。

(増井委員長)
 その他、ご意見等ございますか。
 特にご意見等がないようであれば、以上で予定の議題をすべて終了いたしましたので、本日の委員会はこれをもちまして閉会とさせていただきます。
 本日の委員会の議事においては、審査に係る合議に関する部分はございませんでしたので、議事要旨と議事録を委員の皆様にご確認していただいた上で会議資料とともに公表したいと思いますので、よろしくお願いいたします。



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