日本の生産労働人口が減少局面にあるなか、労働力を維持しつつ国際競争力を強化(注1)するためには労働力の有効活用や生産性を向上させるための方策が必要です。近年の働き方改革の動きの中でも、人手不足を補いながら生産効率を上げるためのさまざまな施策が講じられてきています。たとえばテレワークの推進をはじめとするワークスタイルの柔軟化による人材の確保や、ICTの高度活用による業務効率改善といったものがあげられます。
このような背景の下、従来よりも少ない人数で生産力を高めるための手段として、現在、RPA(ロボットによる業務自動化:Robotics Process Automation)が注目を集めています。2017年の調査によると、国内では14.1%の企業が導入済み、6.3%が導入中、19.1%が導入を検討中(注2)でした。市場規模は2017年度が31億円、2021年度には100億円規模になると予測(注3)されています。
RPAはこれまで人間が行ってきた定型的なパソコン操作をソフトウエアのロボットにより自動化するものです。具体的には、ユーザー・インターフェース上の操作を認識する技術とワークフロー実行を組み合わせ、表計算ソフトやメールソフト、ERP(基幹業務システム)など複数のアプリケーションを使用する業務プロセスをオートメーション化します。
RPAは業務の粒度や優先順位、コストがROI(投資収益率)に見合わないなどの観点からシステム化が見送られてきた手作業の業務プロセスを、作業の品質を落とさず、比較的低コストかつ短期間で導入できるという特徴があります。
具体的な適用業務としては、帳簿入力や伝票作成、ダイレクトメールの発送業務、経費チェック、顧客データの管理、ERP、SFA(営業支援システム)へのデータ入力、定期的な情報収集など(注4)、主に事務職の人たちが携わる定型業務があげられます。
RPAは煩雑で定型的な事務業務が多い金融業界で先行して導入され、高い効果を発揮したことから業種を問わず多くの企業・団体に導入されつつあります。ここでは、大手都市銀行の導入事例を紹介します。
業種 | 具体的な業務 | 効率化・削減効果 | 今後の展開(方向性) |
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大手都市銀行 | 煩雑な事務処理作業 (20種類の事務処理) |
年間で8,000時間(1人1日8時間労働で計算すると約1,000日分)事務処理作業を削減 |
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RPAには三段階の自動化レベルがあるとされています。現在のRPAの多くは「クラス1」というレベルで定型業務に対応しています(注7)。次期レベルの「クラス2」は、AIと連携して非定型業務でも一部は自動化されます。「クラス3」は、より高度なAIと連携することで、業務プロセスの分析や改善だけでなく意思決定までを自動化できます。
既に、クラス3において認識技術や自然言語解析技術、学習機能などにより曖昧な情報や不足している情報を補いながら作業する、これまでとは一線を画したRPAが開発されています。日本語の対話ができるAIエンジンを活用し、対話をするだけで必要なデータの入力が完成し、全プロセスを完結することも可能とのことです(注8)。
クラス | 主な業務範囲 | 具体的な作業範囲や利用技術 |
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クラス1 RPA(Robotic Process Automation) |
定型業務の自動化 |
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クラス2 EPA(Enhanced Process Automation) |
一部非定型業務の自動化 |
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クラス3 CA(Cognitive Automation) |
高度な自律化 |
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RPAは、これまで人間のみが対応可能と想定されていた作業、もしくはより高度な作業を人間に代替して実施できるルールエンジンやAI、機械学習等を含む認知技術を活用した業務を代行するツールになりつつあります。人間の補完として業務を遂行することから、仮想知的労働者(Digital Labor)として、2025年までに事務的業務の1/3の仕事がRPAに置き換わるインパクトがあるともいわれています(注9)。
RPAの導入と運用は、働き方改革につながる「業務改善・改革」の目標や方向性を明確にし、自社に合うツール選択とマネジメント方法に配慮して進めることが重要といえるでしょう。実装による自動化に伴う変化を見極め、現場部門とシステム関連部門が連携し、運用局面ごとのルール(シナリオ)策定や適用可能な業務領域の拡大を検討するなど、継続的にPDCAサイクル(注10)をまわしながら活用していく姿勢が望まれます。