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【関東総通】e−コムフォKANTO

令和5年6月29日
関東総合通信局

令和5年度「電波の日・情報通信月間」の行事として、
記念講演会『メタバースが拓く新しい現実社会』を開催

 総務省関東総合通信局(局長:新井 孝雄(あらい たかお))は、関東情報通信協力会(会長:吉村 和幸(よしむら かずゆき)KDDI株式会社 取締役執行役員専務 CTO 技術統括本部長)との共催により、令和5年5月26日(金曜日)に令和5年度「電波の日・情報通信月間」の行事として、「東京大学 雨宮 智浩 教授」をお迎えし、「メタバースが拓く新しい現実社会」をテーマとした記念講演会を開催しました。

 本記念講演会は、関東情報通信協力会会員及び一般参加者163名の方々に御聴講いただきました。

 主催者から、講演会参加への御礼とともに、電波の日・情報通信月間の開催を記念して、次のように挨拶を行いました。

 「デジタルの力で、どこにいても誰であっても、豊かで安心で夢の持てる暮らしができるような国づくりをしようというデジタル田園都市国家構想を進めております。当局としてもインフラ整備を進めながら地域課題の解決に繋がるデジタル実装や人材育成を進めていき、地域DXの更なる推進に努めて参ります。」(新井局長)

 「いまや電波は人々の生活に溶け込み、無くてはならないものとなっています。人々の新たなニーズに対応して、電波をより有効活用した技術開発も、日々目覚ましい進化を遂げており、未来の豊かな生活を作り出していきます。今後とも、情報通信分野に携わる事業者様と協力し、より豊かな生活を実現できるよう活動していきます。」(吉村会長)

 関東総合通信局長  新井 孝雄

(開催挨拶)関東総合通信局長
 新井 孝雄

 関東情報通信協力会長  吉村 和幸

(開催挨拶)関東情報通信協力会長
 吉村 和幸

【記念講演:「メタバースが拓く新しい現実社会」】
講師:東京大学 情報通信基盤センター 教授 雨宮 智浩 氏

 本公演では、講演者からメタバースが社会へ果たしていく役割、活用に向けた事例や課題など、次のようにご講演をいただきました。
 
 スマートフォン登場の前後で我々の生活が大きく変わったように、メタバースの活用が今後の生活を大きく変えるのではないかと期待が高まっている。高性能で廉価なバーチャルリアリティ(以下、VRという。)デバイスの登場やオンライン化により、大学教育を始めとする様々な学習場面や訓練場面で導入が進んでおり、ただ単に授業を行うだけではなく、インタラクティブにものごとを見聞きすることができるような空間としてメタバースを使った授業を実施している。

 VRとは、仮想現実と訳されることがあるが仮想現実を訳すとイマジナリーリアリティと訳される。VRは、ある種本質をついたリアリティなので、人工現実感という翻訳が適切と判断する人もおり、VRを学問的に見ると人間にとっては、何が「リアル」かを追求する学問である。VR(Virtual Reality)人工現実感・AR(Augmented Reality)拡張現実感・MR(Mixed Reality)複合現実感はISOで定義されている。メタバースとは、まだ合意のとれた定義はないが、本日の講演では、「オンラインで社会的活動が可能な3Dバーチャル空間」と定義してお話する。
 
 東京大学では、メタバース工学部を設立し、オープンキャンパスなどにバーチャル東大を活用しており、サークル等のコミュニティの技能伝承にも生かしている。令和4年度東京大学卒業式の総長告辞では、バーチャルリアリティ教育研究センター及び国立情報学研究所のシンポジウムでの海中メタバースから実施した講演の紹介など、全体の70%がVR・メタバース関連の内容となっており関心の深さが伺えた。

 また、心理学のプロテウス効果では、アバターを変えただけでも運動・行動も変わってくることがわかっており、実世界で対人距離をつめたり、自己開示をすることに積極的になることがわかっている。
 
 現在、メタバースは、シミュレータによる教育訓練でも活用されている。VRの強みには「Interaction」があり、インタラクティブな視点を共有(都度、視点変更)できることがメリットである。特に、「実物」のコストが大きい分野(航空機パイロット訓練や医師の手術訓練等)にて活用されており、航空機パイロット訓練では10分の1程度の費用で訓練可能となり、フライトシミュレータでの訓練時間が資格取得条件である実機の飛行時間相当となる。他にも、小動物の手術、消防士の消火・危険判断訓練、Low Vision(弱視)シミュレータによる追体験、対話シミュレータによる窓口対応訓練(生体信号センサ等から感情やメンタルを考慮したVR訓練)等といった様々な訓練に活用されている。
 
 コロナ禍によりテレワーク等が推進されたが、メタバースを対面の代替として考えると、コロナが収束すると対面に戻ってしまう。そうではなく、VR・メタバースと物理世界のそれぞれでしかできないことを掛け合わせることで物理世界を超える効果(ディープフェイク)を体験することができる。
 
 最後に、これまではバーチャルにするかリアルにするかの対立概念であり、リアルの中にバーチャルという感覚があった。これからは、VRとリアルは対立構造でなくリアルにバーチャルをどのように組み込んでいくかが、これからのメタバースの社会で果たすべき役割になる。

メタバースが拓く新しい現実社会

 雨宮 智浩 教授

 東京大学 情報基盤センター 雨宮 智浩 教授

 講演会終了後には、聴講者から受け付けた質問に対し、雨宮教授から御回答をいただきました。

Q1:ゲームと同様にメタバースでもVR酔いになる方がいるが、これは避けてとおれない課題でしょうか。

  • A1:VR酔いについては深刻な問題だと考えている。VR酔いを体験した方からは、もう体験したくないといった声もあり、VR研究者としても非常に重要な問題であるが抜本的な解決策というものはまだ見つかっていない。現状は、様々な工夫をすることで酔いづらくなるということがわかり実装されはじめている。例えば、VR酔いの原因の1つは周辺視野(特に視界の中の周辺部分の視野)が影響するとわかってきている。移動中は、その周辺視野を暗く・狭くする工夫をすると酔いにくくなるとわかってきている。また、乗り物酔いの酔い止めも効くという事例も報告されている。しかしながら、抜本的な解決方法はなく、VRゴーグルを使用する体験は酔いやすさも個人差があり、避けてとおれない(敏感な方は避けられない)。
  •  また、もう1つのVR酔いの原因としては感覚の不一致が重要と言われている。今のVRゴーグルは視覚と聴覚情報は再現・表現が可能だが、触覚やバランス感覚みたいなものが伝えきれていないことによって気持ち悪くなる。いわゆる毒を飲んだ時に生じるような違和感と似たような状況が起きていると脳が間違って感じてしまって、嘔吐や顔面蒼白につながると言われている。ネガティブな方から捉えるとまだ現状のVRシステムというのは不完全であるということが言える。そのため様々な情報をしっかりと足してあげるとうまく酔いの発生が抑えられる可能性はある。こういった様々な研究も進めてはいるので研究者という立場から、本問題を解決するための技術を整備していく必要があると感じている。

Q2:現在、ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMDという。)のようなVR機器による遅延は実用に影響のないレベルまで発展しているのでしょうか。

  • A2:どのようなアプリケーションを使用するかで変わってくる。用途によって十分だというものと、一方で、まだまだ高精細な画像が必要だという意見もある。例えば、獣医の手術実習でズームした際に解像度が荒くなる。
  •  また、目の特性の話では、(講演にて周辺視と中心角の話をしたが、)人間が周りを見た時にしっかり色・形がわかる領域は非常に小さい領域しかない。そのため、目がサッカードと言われている運動をすることで、広く綺麗な映像を得ているように脳が感じている。
  •  4K・8Kの高解像度にしていくには処理能力が求められる。そのため、パソコンやHMDのプロセッサに負荷がかかってくるため表現に限界がある。例えば、目の特性を利用した眼球が向いているところは高精細にして周りは少し荒くすると言ったようなポビテッドレンダリングという方式がある。本方式を使えば高精細な処理能力をHMDやPCでも出せるようになるので、HMD機器が普及していくのではないか。
  •  また、現在のHMDには問題(大きい・重い)があり、各メーカーの現在の目標は軽量化である。併せて、化粧をしている方がHMDを装着すると化粧が落ちるというのを含めて、今後、装着方法等を検討していくことになる。しかしながら、視覚に情報を伝達する場合には眼球前にディスプレイを置くのがベースになると思うが、小型化・軽量化・着用方法等、まだまた改良の余地の領域が多々ある。

Q3:VRがスマホのように社会に欠かせないと言われるまでどれくらいかかりますか。またその際の普及率は、何パーセントくらいなど指標はありますでしょうか。

  • A3:スマホは社会に欠かせないと言われており、スマホは高齢者にも普及している。しかしながら、高齢者のアプリ使用率について言及してみると復旧率に比べ使われていない実態もある。一方でガラケーが減ったことにより、高齢者のスマホの普及率が上がったともの考えられる。
  •  今後、HMDは普及してないけれども他ツール(スマホ等)を使用したVR体験・メタバース参加者はそれほど遠くないうちに増えてくるのではないかと考えている。その理由としては、今すでにSNSの領域でも、インターネットの向こう側のコミュニティへSNSを介して参加している。今後、現実とオンラインの同期の仕組みが改善されてくれば、電車の中でメタバースへ参加するような時代に一気に変わるよりは徐々に変わっていくと考えている。
  •  また、SNSのコンテンツは、運営会社が用意するものだけでなくプレイヤが作るもの(例えばユーザー自身の投稿など)も含まれる。コンテンツについては、VRにも共通のことが言えて、今後、ガラケーがスマホに変わっていったように、これからVRデバイスを活かしたサービスに移っていくと考える。また、普及率で言えば、現状まだ10パーセントぐらいしか普及しておらず、半数ぐらい復旧する状況になればVR・メタバースという言葉が浸透しているという状況になる。
 本講演を聴講された方からは、「とても興味深く、あっという間に時間が過ぎていました。今後のメタバースの進展が非常に楽しみです。」、「とても分かりやすい説明で専門用語も少なくお話しいただきとても良かったです。」、「今まで遠い世界だと思えたメタバースですが、言葉の定義をしていただくことで意外と身近なものなのだと思えました。」他、多くの感想が寄せられました。
 
 総務省関東総合通信局では、引き続き、地域に寄り添って、地域に必要とされる施策を展開していき、デジタル化の推進による利便性の向上のために、関東情報通信協力会との共催による講演会やセミナーなどの企画を行って参ります。

連絡先
総務省関東総合通信局
企画課総合企画担当
担当:榎戸、相原
電話:03-6238-1631

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