5 周波数管理及び無線従事者
(1)周波数管理
電波は,「周波数スペクトラム」として時間的,空間的に占有性を有する一種の有限な資源であり,無秩序に使用すると混信を生ずるという性質がある。そのため周波数スペクトラムの有効利用を図り,また,無線通信業務を円滑に行う必要があることから,古くから国際的にちみつな管理が行われている。
周波数の割当てに関しては,国際電気通信条約附属無線通信規則で各種の無線通信業務に国際的な分配が行われ,この枠内で各国が国内分配を定め,それに従って個別の無線局の割当てが行われている。
我が国における周波数管理はこれらの国際的な枠組みの中での電波法及び関係法令の規定に基づき,次のような事項を考慮して適切に行うこととなっっている。
[1] 国際電気通信条約及び同附属無線通信規則のほか,国際民間航空条約,海上人命安全条約等の周波数に関する国際的な規律に従うとともに,国際協調を図ること。
[2] 周波数需要の動向を把握し,周波数の計画的な使用を図ること。
[3] 円滑な無線通信業務を維持し,かつ,周波数スペクトラムを有効に利用するため,適切な技術的基礎に基づいた周波数の使用を図ること。
[4] 周波数スペクトラムの開発及び有効利用に関する技術の調査研究を推進すること。
ア.周波数の割当て
(ア)固定業務

(イ)放送業務

(ウ)陸上移動業務
陸上移動業務に分配されている周波数帯は,中短波帯から準ミリ波帯まで広範囲にわたっているが,電波の特性上から陸上移動業務に適している周波数帯は,一般にVHF帯及びUHF帯が中心である。中でも,150MHz帯及び400MHz帯は,最も混雑しており,従来から割当周波数間隔の縮小,セルコール方式の採用等による周波数共用,集中基地方式の採用,マルチチャンネル通信方式の導入等による周波数の有効利用を図ってきている。
陸上移動業務では,自動車無線電話,MCA陸上移動通信及びコードレス電話等,都市部を中心に今後ますます需要の増加が考えられることから,800〜900MHz帯,準マイクロ波帯等,より高い周波数の利用技術開発が推進されている。

(エ)海上移動業務
海上移動業務は人命の安全に直接関係のある業務であり,世界的ベースで専用周波数帯が分配されている。また,500kHz,2,182kHz及び156.8MHzの周波数は,遭難及び呼出周波数として国際的な保護が与えられている。
短波帯の専用周波数帯は,無線電信用と無線電話用とに大別され,割当周波数及び割当基準が国際的に定められている。
156〜162MHz帯海上移動無線通信業務用周波数は,国際海上移動無線電話の業務に使用してきたが,59年4月から150MHz帯を使用する日本沿岸海域(港湾内を含む。)で運用する専用通信用(漁業用を除く。)無線局にも,この周波数帯を使用することができるようにした。
また,小型船舶に対する近距離通信用の26MHz及び27MHz帯の需要が増大していることから,これに対処するとともに,船舶と陸上の公共機関等との直接通話の要望にもこたえるために,58年6月から新漁業通信システムを導入し,40MHz帯を割り当てている。
(オ)航空移動業務
航空移動業務は,海上移動業務と同様,人命の安全に直接関連のある業務であり,かつ著しく国際性を有するので,原則として世界的ベースで専用周波数帯が分配されている。
航空移動業務には,主として民間航空路に沿う飛行の安全に関する通信のための航空移動(R)業務とそれ以外の航空移動(OR)業務に大別される。

(カ)無線測位業務
無線測位業務は,電波の伝搬特性を利用して,位置の決定又は位置に関する情報の取得を行う業務であり,船舶及び航空機の航行のための無線測位を行う無線航行業務,無線航行以外の目的のための無線測位を行う無線標定業務がある。

(キ)宇宙無線通信業務

(ク)その他の業務

イ.周波数の国際通告等
(ア)周波数の通告
無線局に対し周波数割当てを行うに際し,次の場合,各国は,IFRB(国際周波数登録委員会)に周波数の通告を行わなければならない。
[1] 当該周波数の使用が他の国の業務に有害な混信を生じさせるおそれがあるとき。
[2] 当該周波数が国際無線通信に使用されるとき。
[3] 当該周波数の使用について国際的承認を得ようとするとき。
IFRBは,無線通信規則等の基準に従って,各国から提出された周波数割当通告を審査する。一定の条件に適合するものは周波数登録原簿に記録され,その周波数割当ての国際的地位が確立されることになる。
59年度我が国が行った周波数割当通告件数は,496件(うち変更・削除は148件)である。特に本年度は,WARC-MOB-83により海岸局について,約100波の周波数変更が行われた。
なお,短波放送用周波数割当通告については,1年を4期に分けた特殊な通告形式をとっているため,件数から除外している。
(イ)衛星通信系の国際調整
衛星通信系の設定には,衛星の打上げあるいは地球局の設置等膨大な準備が必要であり,設定した後の変更が困難であるため,事前に関係各国の主管庁間で十分に調整をとっておく必要がある。
衛星糸を設定しようとする主管庁は,運用開始の5年前からなるべく2年前までに,IFRBに宇宙局及び地球局の諸元等の衛星通信系の概要を記載した情報を送付し,IFRBはこの情報により各国の主管庁に対し事前公表を行う。これによりこの衛星通信系への周波数の割当てによって影響を受けると思われる主管庁との間で調整が行われることとなっている。調整の成立後,打上げ国の通告に基づき,国際周波数登録原簿に周波数,軌道位置が登録されれば,国際的な承認が得られ,混信妨害から保護されることになる。
59年度,我が国は,IFRBに対し,CS-3a及びCS-3bの衛星通信系の事前公表の情報を送付した。
また,気象観測衛星GMS-3の衛星通信網の周波数割当てについて,59年7月にIFRBに対し,通告を行った。
なお,各国の衛星通信網の状況等は,資料2-151のとおりである。
(2)電波監視等
電波監視の内容としては,電波利用の秩序を確保するため,発射電波を通じて行う電波の質(周波数偏差,占有周波数帯幅,スプリアス発射の強度)及び運用方法の監査,混信の排除,不法無線局の探査並びに電波の有効利用を図るための発射状況及び利用状況の調査があるほか,外国主管庁から要請されて行う電波の監視がある。
ア.電波監視結果
(ア)電波の監査

(イ)混信状況調査
混信状況調査は,既設無線局等に対する混信妨害の原因を究明して,混信波を排除し,無線局等の正常な運用を確保するため実施している調査であって,混信の発生原因は,周波数帯別にみると,短波帯(3,000kHz〜30MHz)においては外国の無線局,超短波帯(30MHz)以上の周波数帯においては,国内に無線局に起因するものが多い。

(ウ)不法無線局の探査
59年度は,不法無線局の大部分を占めている不法市民ラジオの根絶を図るために,6月1日から10日間を「電波法違反防止旬間」と定め,電波法令違反を未然に防止するための広報活動を全国で集中的に実施するとともに,捜査機関の協力を得て,路上及び海上における強力な取締り等を行った。この結果,不法市民ラジオは大幅に減少してきているが,依然として相当数が残存しているものと推定されるので,引き続き強力な取締り等を行うこととしている。
また,不法市民ラジオ以外に,ハイパワーの不法コードレス電話,不法改造パーソナル無線,37MHz帯不法無線局,不法ミニFM局,不法ミニTV局等,新しい形態の不法無線局が出現してきており,このため,一般不法局の摘発件数が著しく増加している。これらは,防災行政無線等の重要無線通信に混信妨害を与えるおそれがあるため,広報活動により国民の注意を喚起するとともに,悪質なものに対しては,捜査機関へ告発するなどの措置を行うこととしている。

(エ)電波の発射状況等の調査
電波の発射状況調査は,必要とする周波数帯について,そのスペクトルの空間的占有状況を把握し,周波数の効率的な利用を図るために実施している調査であって,無線局の分布状況及び電波の伝搬特性を考慮して,固定及び移動により調査を行っている。
電波の利用状況調査は,特定の周波数を対象として,そのスペクトルの時間的な占有状況を把握し,電波が効率的に利用されているか,また,通信の疎通状況に問題がないかどうかを調査するものであって,固定及び移動により調査を行っている。
調査の対象を周波数帯別にみると,移動による調査においてはその大部分が超短波帯(30MHz)以上となっており,特に150MHz帯及び400MHz帯が多くなっている。
(オ)国際監視
IFRBからの協力要請に基づく通常国際監視及び短波放送専用周波数帯の監視を行っている。

イ.電波障害の防止
放送の受信及び無線通信に対する電波障害を防止し,電波の円滑な利用を図ることを目的として,関係省庁,放送事業者,その他の関係団体によって構成される電波障害防止協議会が設置されている。同協議会は,電波障害の防止に関する思想の普及,防止措置の指導,調査等を行っている。
また,テレビジョン放送等の受信障害に関する苦情等の申告に対して,適切かつ円滑な処置を行うため,56年4月から,地方電気通信監理局及び沖縄郵政管理事務所に,受信障害対策官(沖縄郵政管理事務所にあっては,受信障害担当官)を設置し,申告の一元的な受付・処理を行う体制をとっている。

ウ.高周波利用設備
高周波利用設備は,電波が外部に漏れて放送の受信や他の無線通信に妨害を与えるおそれがあるため,電波法に基づく許可が必要である。許可の対象となる設備は,10kHz以上の周波数を使用する通信設備(電力線搬送及び誘導式通信)及びISM設備(産業用,科学用,医療用,家庭用その他これと類似の用途に利用する通信設備以外の設備で,高周波出力が50ワットを超えるもの)である。

許可を要する高周波利用設備のうち,搬送式インターホン,電子レンジ,高磁誘導加熱式調理器,超音波洗浄機,超音波ウェルダー及び超音波加工機については,型式指定の制度を導入しており,郵政大臣が一定の技術的条件に適合すると認めて,型式を指定した設備は,許可を受けなくても使用できる。
(3)無線従事者
無線局の無線設備の運用,保守,管理は,電波の属性及び無線局に割り当てられた電波の有効かつ能率的な使用を図る見地から,専門的な知識技能を有する者が行う必要がある。このため,無線設備の操作は,原則として一定の無線従事者の資格を有する者でなければ行ってはならないこととしており,無線局には,特にその必要がないと認められる場合を除き,無線従事者がその操作範囲に従ってそれぞれ配置されている。
無線従事者は,無線通信士(5資格),無線技術士(2資格),特殊無線技士(8資格)及びアマチュア無線技士(4資格)の4種別に分かれ,その免許は,無線設備の操作に必要な知識及び技能について行う国歌試験に合格した者及び郵政大臣が認定した養成課程(特殊無線技士又は電信級若しくは電話級アマチュア無線技士のものに限る。)を終了した者であって,一定の条件に適合したものに与えられることになっている。
なお,一定の船舶局の無線設備の操作は,無線従事者の資格のほかに,船舶局無線従事者証明を有する者でなければ行ってはならないこととなっている。
ア.無線従事者国家試験
59年度における申請者数(全科目免除者を含む。)を前年度と比較すると総数で0.2%増加している。その資格別内訳は,無線通信士で3.2%,無線技術士で4.2%それぞれ減少したが,特殊無線技士で9.6%,アマチュア無線技士で0.2%増加している。

イ.免許付与
ウ.無線従事者数

エ.学校等の認定
予備試験等の免除のための学校等の認定制度は,36年2月に始められた。

オ.無線従事者の養成課程

カ.船舶局無線従事者証明書
59年度末現在,発給した船舶局無線従事者証明書数は,9,567件である。
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