2 令和7年度の地方財政
(1)地方財政計画
令和7年度においては、通常収支分について、累積した巨額の債務残高を抱えるなど引き続き厳しい地方財政の状況等を踏まえ、歳出面においては、地方創生や防災・減災対策、自治体DX・地域社会DXの推進等に必要な経費を計上するとともに、地方公共団体が住民のニーズに的確に応えつつ、行政サービスを安定的に提供できるよう、社会保障関係費や民間における賃上げ等を踏まえた人件費の増加を適切に反映した計上等を行う一方、国の取組と基調を合わせた歳出改革を行うこととする。また、歳入面においては、「経済財政運営と改革の基本方針2024」(令和6年6月21日閣議決定)等を踏まえ、交付団体を始め地方の安定的な財政運営に必要となる地方の一般財源総額について、令和6年度地方財政計画の水準を下回らないよう実質的に同水準を確保することを基本として、引き続き生じることとなった財源不足について、適切な補填措置を講じることとする。
また、東日本大震災分については、復旧・復興事業及び全国防災事業について、通常収支とはそれぞれ別枠で整理し、所要の事業費及び財源を確保することとする。
なお、地方財政審議会からは、令和6年5月31日に「地域経済の好循環及び持続可能な地域社会を実現するための地方税財政改革についての意見」及び同年12月9日に「今後目指すべき地方財政の姿と令和7年度の地方財政への対応等についての意見」が提出された。
以上を踏まえ、次の方針に基づき令和7年度の地方財政計画を策定している。
ア 通常収支分
(ア)地方税制については、令和7年度地方税制改正では、個人住民税における給与所得控除の見直しや大学生年代の子等に関する特別控除の創設等の措置のほか、企業版ふるさと納税制度の延長等の税制上の措置を講じることとしている。
(イ)地方財源不足見込額については、地方財政の運営に支障が生じることのないよう、次の措置を講じることとし、所要の法律改正を行う。
a 令和7年度の地方財源不足見込額1兆929億円については、令和5年度に講じた令和7年度までの制度改正に基づき、従前と同様の例により、次の補填措置を講じる。その結果、国と地方が折半して補填すべき額及び地方財政法第5条の特例となる地方債(臨時財政対策債)の発行額は生じないこととなる。
(a)建設地方債(財源対策債)を7,600億円増発する。
(b)地方交付税については、国の一般会計加算により929億円(地方交付税法附則第4条の2第1項の加算額154億円及び同条第3項の加算額775億円)増額する。
また、交付税特別会計剰余金400億円を活用するとともに、地方公共団体金融機構法附則第14条の規定により財政投融資特別会計に帰属させる地方公共団体金融機構の公庫債権金利変動準備金2,000億円を財政投融資特別会計から交付税特別会計に繰り入れる。
b 交付税特別会計借入金の償還については、平成23年度の償還計画の見直し以降に償還を繰り延べてきたもののうち令和6年度までの繰延べ分2兆2,000億円を合わせ、2兆8,000億円の償還を実施する。
c 上記の結果、令和7年度の地方交付税については、18兆9,574億円(前年度比2,904億円、1.6%増)を確保する。
(ウ)地方債については、引き続き厳しい地方財政の状況の下で、地方財源の不足に対処するための措置を講じ、また、地方公共団体が緊急に実施する防災・減災対策、公共施設等の適正管理、地域の脱炭素化、こども・子育て支援、自治体DX・地域社会DXの推進、地域の活性化への取組等を着実に推進できるよう、所要の地方債資金を確保する。
この結果、地方債計画(通常収支分)の規模は、9兆885億円(普通会計分5兆9,602億円、公営企業会計等分3兆1,283億円)とする。
(エ)自治体DX・地域社会DXや地方創生の推進、地域社会の維持・再生、こども・子育て政策の強化、住民に身近な社会資本の整備、社会保障施策の充実、消防力の充実、防災・減災、国土強靱化の推進、過疎地域の持続的発展等を図ることとし、財源の重点的配分を行う。
a 「デジタル田園都市国家構想事業費」については、「新しい地方経済・生活環境創生事業費」に名称変更した上で、「地方創生推進費」(1兆円)及び「地域デジタル社会推進費」(2,000億円)を内訳として、1兆2,000億円計上する。
b 「地域社会再生事業費」については、4,200億円(前年度同額)計上する。
c 「こども未来戦略」(令和5年12月22日閣議決定)に掲げる「こども・子育て支援加速化プラン」における地方負担について所要の財政措置を講じる。
d 投資的経費に係る地方単独事業費については、「公共施設等適正管理推進事業費」のうち集約化・複合化事業の対象を拡充した上で、同事業費として5,000億円(前年度比200億円、4.2%増)を計上することとしており、引き続き、地域の自立や活性化につながる基盤整備を重点的・効率的に推進する。
e 「人づくり革命」として、幼児教育・保育の無償化、待機児童の解消、高等教育の無償化、介護人材の処遇改善に係る措置を講じることとしており、当該措置に係る地方負担について所要の財政措置を講じる。
f 社会保障・税一体改革による「社会保障の充実」として、子ども・子育て支援、医療・介護サービスの提供体制改革、医療・介護保険制度改革等に係る措置を講じることとしており、当該措置に係る地方負担について所要の財政措置を講じる。
g 一般行政経費に係る地方単独事業費については、自治体DX・地域社会DXの推進や社会保障関係費の増加、地方公共団体の委託料の増加に要する経費等を適切に反映した計上を行うとともに、年度途中における給与改定に対応できるよう給与改善費を計上することにより、財源の重点的配分を図るほか、地域において必要な行政課題に対して適切に対処する。
h 消防力の充実、防災・減災、国土強靱化の推進及び治安維持対策等住民生活の安心安全を確保するための施策に対し所要の財政措置を講じる。
i 過疎地域の持続的発展のための施策等に対し所要の財政措置を講じる。
(オ)公営企業の経営基盤の強化を図るとともに、水道、下水道、交通、病院等住民生活に密接に関連した社会資本の整備の推進、公立病院における医療の提供体制の整備をはじめとする社会経済情勢の変化に対応した事業の展開等を図るため、経費負担区分等に基づき、一般会計から公営企業会計に対し所要の繰出しを行うこととする。
(カ)地方行財政運営の合理化を図ることとし、行政のデジタル化、適正な定員管理、事務事業の見直しや民間委託など引き続き行財政運営全般にわたる改革を推進する。
イ 東日本大震災分
(ア)復旧・復興事業
a 東日本大震災に係る復旧・復興事業等の実施のための特別の財政需要等を考慮して交付することとしている震災復興特別交付税については、補助事業に係る地方負担分等を措置するため、871億円を確保する。また、一般財源充当分として33億円を計上する。
b 地方債については、復旧・復興事業を円滑に推進できるよう、所要額についてその全額を公的資金で確保する。
この結果、地方債計画(東日本大震災分)における復旧・復興事業の規模は、15億円(普通会計分11億円、公営企業会計等分4億円)とする。
c 補助事業費、地方税法等に基づく特例措置分等の地方税等の減収分見合い歳出、地方自治法に基づく職員の派遣、投資単独事業等の地方単独事業費等について所要の事業費2,704億円を計上する。
(イ)全国防災事業
全国防災事業については、一般財源充当分として217億円を計上する。
以上のような方針に基づいて策定した令和7年度の地方財政計画は、第41表のとおりとなっており、その規模は、通常収支分は97兆94億円で、前年度と比べると3兆3,707億円増(3.6%増)となり、東日本大震災分は、復旧・復興事業が2,704億円で、前年度と比べると73億円増(2.8%増)、全国防災事業が218億円で、前年度と比べると32億円減(12.8%減)となっている。
また、令和7年度の地方債計画の規模は、通常収支分が9兆885億円で、前年度と比べると1,299億円減(1.4%減)となっている。東日本大震災分は、復旧・復興事業が15億円で、前年度と比べると8億円増(114.3%増)となっている。
(2)公営企業等に関する財政措置
ア 公営企業
(ア)通常収支分
公営企業については、上記(1)ア(オ)の公営企業会計と一般会計との間における経費負担区分の原則等に基づく公営企業繰出金として、地方財政計画において2兆2,787億円(前年度2兆3,202億円)を計上する。
公営企業の建設改良等に要する地方債については、地方債計画において公営企業会計等分3兆1,283億円(前年度2兆9,081億円)を計上する。
各事業における地方財政措置のうち主なものは、以下のとおりである。
a 公営企業会計の適用の更なる推進について、重点事業としている下水道事業及び簡易水道事業については早急に公営企業会計を適用し、その他の事業についてはできる限り公営企業会計を適用するなど、地方公共団体において円滑に取組が実施されるよう、適用に要する経費や、市町村に対して都道府県が行う支援に要する経費について、引き続き地方財政措置を講じる。
b 水道事業については、令和6年能登半島地震の被災状況や教訓を踏まえ、水道管路耐震化事業に対する地方財政措置について、対象となる上積事業費の算出方法を、事業費を基準とする方法に見直した上で、特別対策分の対象要件を緩和し対象団体を拡充するとともに、用水供給事業者を新たに一般対策分の対象団体に追加することとしている。また、広域化を推進し、持続的な経営を確保するため、広域化に伴う施設の整備費等や都道府県が実施する広域化の推進のための調査検討に要する経費について、引き続き地方財政措置を講じる。
c 下水道事業については、広域化・共同化を推進し、持続的な経営を確保するため、広域化・共同化に伴う施設の整備費等や都道府県が実施する広域化・共同化の推進のための調査検討に要する経費について、引き続き地方財政措置を講じる。
d 厳しい経営環境に直面している病院事業については、経営改善実行計画を策定し収支改善に取り組む公立病院の資金繰りを支援し、経営改善を促進するため、新たに病院事業債(経営改善推進事業)を創設することとしている。
また、公立病院等の施設整備費に対する地方交付税措置の対象となる建築単価の上限を引き上げるとともに、不採算地区病院等に対する特別交付税措置の基準額引上げを継続する。
e 令和6年能登半島地震の被災状況や教訓を踏まえ、病院事業債(災害分)を改編の上、病院事業については災害拠点病院等における給排水管の耐震性能の確保工事を、水道事業については水道施設が被災した際の応急給水のための設備(給水車、防災用井戸、可搬式浄水設備)の整備を、それぞれ対象事業に追加し、公営企業債(防災対策事業)を創設することとしている。
(イ)東日本大震災分
公営企業に係る復旧・復興事業については、一般会計から公営企業会計への繰出基準の特例を設け、一般会計から公営企業会計に対し所要の繰出しを行うこととし、当該繰出金に対しては、その全額を震災復興特別交付税により措置することとしており、地方財政計画において0.18億円を計上する。また、復旧・復興事業に係る地方債については、地方債計画において公営企業会計等分4億円を計上する。
イ 国民健康保険事業
国民健康保険事業については、厳しい財政状況に配意し、財政基盤の強化のための支援措置を次のとおり講じることとしている。
(ア)都道府県が、都道府県内の市町村の財政の状況その他の事情に応じた財政調整を行うため、「国民健康保険法」(昭和33年法律第192号)第72条の2に基づき、一般会計から当該都道府県国保に繰り入れられる都道府県繰入金(給付費等の9%分)については、その所要額(5,718億円)について地方交付税措置を講じる。
(イ)国保被保険者のうち低所得者に係る保険料負担の緩和を図る観点から、市町村(一部事務組合等を除く。)が保険料軽減相当額に応じて、一般会計から国民健康保険特別会計への繰入れを行う際に、当該費用に対し、都道府県が一部(都道府県3/4、市町村1/4)を負担することとし、その所要額(4,358億円)について地方交付税措置を講じる。
(ウ)国保被保険者のうち未就学児に係る保険料負担の緩和を図る観点から、市町村(一部事務組合等を除く。)が保険料軽減相当額に応じて、一般会計から国民健康保険特別会計への繰入れを行う際に、当該費用に対し、国及び都道府県が一部(国1/2、都道府県1/4、市町村1/4)を負担することとし、地方負担(40億円)について地方交付税措置を講じる。
(エ)国保被保険者のうち子育て世代の負担軽減、次世代育成支援及び負担能力に応じた負担とする観点から、市町村(一部事務組合等を除く。)が産前産後期間の保険料免除相当額に応じて、一般会計から国民健康保険特別会計への繰入れを行う際に、当該費用に対し、国及び都道府県が一部(国1/2、都道府県1/4、市町村1/4)を負担することとし、地方負担(8億円)について地方交付税措置を講じる。
(オ)低所得者を多く抱える保険者を支援する観点から、市町村(一部事務組合等を除く。)が低所得者数に応じて、一般会計から国民健康保険特別会計への繰入れを行う際に、当該費用に対し、国及び都道府県が一部(国1/2、都道府県1/4、市町村1/4)を負担することとし、地方負担(1,306億円)について地方交付税措置を講じる。
(カ)高額医療費負担金(3,517億円)については、都道府県国保に対し、国及び都道府県が一部(国1/4、都道府県1/4、都道府県国保1/2)を負担することとし、地方負担(879億円)について地方交付税措置を講じる。
(キ)国保財政安定化支援事業については、国保財政の健全化に向けた市町村一般会計から国民健康保険特別会計への繰入れについて、所要の地方交付税措置(1,000億円)を講じる。
(ク)出産に直接要する費用や出産前後の健診費用等の出産に要すべき費用の経済的負担の軽減を図るための出産育児一時金については、引き続き市町村が一部(市町村2/3、市町村国保1/3)を負担することとし、地方負担(164億円)について地方交付税措置を講じる。
(ケ)国民生活の質の維持・向上を確保しつつ、医療費の適正化を図ることを目的として、40歳から74歳までの国保被保険者に対して糖尿病等の予防に着目した健診及び保健指導を行うため、特定健康診査・保健指導事業(396億円)に対して、国及び都道府県が一部(国1/3、都道府県1/3、都道府県国保1/3)を負担することとし、地方負担(132億円)について地方交付税措置を講じる。
ウ 後期高齢者医療制度
後期高齢者医療制度については、実施主体である後期高齢者医療広域連合の財政基盤の強化のための支援措置を次のとおり講じることとしている。
(ア)保険料軽減制度については、低所得者に対する配慮として、後期高齢者の被保険者の保険料負担の緩和(均等割2割・5割・7割軽減)を図るため、都道府県及び市町村(一部事務組合等を除く。)が負担(都道府県3/4、市町村1/4)することとし、その所要額(3,914億円)について地方交付税措置を講じる。
(イ)高額医療費負担金(5,077億円)については、後期高齢者医療広域連合の拠出金に対し、国及び都道府県が一部(国1/4、都道府県1/4、後期高齢者医療広域連合1/2)を負担することとし、地方負担(1,269億円)について地方交付税措置を講じる。
(ウ)財政安定化基金については、保険料未納や給付増リスク等による後期高齢者医療広域連合の財政影響に対応するため、都道府県に基金を設置しその拠出金(216億円)に対して国及び都道府県が一部(国1/3、都道府県1/3、後期高齢者医療広域連合1/3)を負担することとし、地方負担(72億円)について地方交付税措置を講じる。
(エ)後期高齢者医療広域連合に対する市町村分担金、市町村(一部事務組合等を除く。)の事務経費及び都道府県の後期高齢者医療審査会関係経費等について所要の地方交付税措置を講じる。
エ 公営競技納付金制度の延長
公営競技納付金制度は、公営競技施行団体のうち、一定の黒字団体が、収益の一部を地方公共団体金融機構に納付し、同機構において基金に積み立て、その運用益等を活用することにより、地方公共団体向け貸付金の金利を引き下げる仕組みである。
公営競技施行団体に偏在する収益金の全国的な均てん化を図る目的で昭和45年度に創設され、累次の見直しを経て、現行の公営競技納付金制度は令和7年度までとなっている。
今般、制度を活用している地方公共団体からの要望等を受け、現行制度と同内容で、令和12年度までの延長を図ることとし、「地方交付税法等の一部を改正する法律案」を第217回通常国会に提出している。