第3部 最近の地方財政をめぐる諸課題への対応
1 新たな地方創生の展開
地方創生の取組が本格的に始まってから10年が経過した。これまで、全国各地で地方創生の取組が行われ、様々な好事例が生まれたことは大きな成果である一方、人口減少や東京圏への一極集中の流れを変えるまでには至らなかった。こうした取組の成果と課題を踏まえ、日本の活力を取り戻す経済政策であり、国民の多様な幸せを実現するための社会政策である「地方創生2.0」を起動する必要がある。
(1)地方創生2.0の「基本的な考え方」等
令和6年10月に、内閣総理大臣を本部長、全ての国務大臣を本部員とする「新しい地方経済・生活環境創生本部」が設置され、同年12月末には「地方創生2.0」の目指す先を確認する「基本的な考え方」が取りまとめられた。
この「基本的な考え方」においては、<1>安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生、<2>東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散、<3>付加価値創出型の新しい地方経済の創生、<4>デジタル・新技術の徹底活用及び<5>「産官学金労言」の連携など、国民的な機運の向上の5本の柱に沿った政策体系を検討し、令和7年夏に、今後10年間集中的に取り組む基本構想を取りまとめることとされている。
令和6年度補正予算(第1号)において、「新しい地方経済・生活環境創生交付金」が創設され、1,000億円が計上された。令和7年度予算案においても、2,000億円が計上され、地方公共団体の自主性と創意工夫に基づく、地域の多様な主体の参画を通じた地方創生に資する地域の独自の取組や、デジタル技術を活用した地域の課題解決や魅力向上に資する取組を支援することとされている。
さらに、令和7年度の地方財政計画においては、地方公共団体が自主的・主体的に地方創生に取り組むための「地方創生推進費」(1兆円)と、地域が抱える課題のデジタル実装を通じた解決に取り組むための「地域デジタル社会推進費」(2,000億円)を内訳として、「デジタル田園都市国家構想事業費」から名称を変更した、「新しい地方経済・生活環境創生事業費」(1兆2,000億円)を計上している。
(2)持続可能な地域社会の実現に向けた地方創生の取組
地方は、人口減少や深刻な担い手不足などによる日常生活の持続可能性の低下など、様々な課題に直面している。これらの課題を解決するため、地方への人の流れの創出・拡大、地域経済の好循環による付加価値の創造等の取組を進め、持続可能な地域社会を構築していく必要がある。
ア 地方への人の流れの創出・拡大
過度な東京一極集中の進展は、少子高齢化・過疎が進む地方における地域社会の担い手不足や、災害リスクなどの観点から大きな問題であるところ、その是正は我が国全体にとって喫緊の課題であり、地方への移住や関係人口の増加など、特に「地域の担い手」としての潜在力が高い「女性・若者、シニア、外国人、副業人材」へのアプローチを強化し、地方への人の流れの創出・拡大に向けた取組を行う必要がある。
そのため、移住・定住の促進に加え、二地域居住などの関係人口の増加につながる取組について地方交付税措置を講じるとともに、地域に継続的に関わる方々が地域を応援していく「ふるさと住民登録制度」について検討を行うこととしている。また、都市部の企業の社員を即戦力として活用する地域活性化起業人について、企業退職後のシニア層の活用も可能とする「地域活性化シニア起業人」を創設するとともに、地域おこし協力隊について、現役隊員数を令和8年度までに1万人とする目標の達成に向けて、戦略的な情報発信やサポート体制を強化することとしている。
さらに、女性・若者の力を活かした魅力的な地域づくりや地域おこし協力隊等の未来の地域づくり人材の育成・確保の取組を加速化するため、大学等と地域が連携した地域課題解決プロジェクト「ふるさとミライカレッジ」について、令和7年度から新たに特別交付税措置を講じることとしている。
イ 地域経済の好循環による付加価値の創造等
人口減少・少子高齢化の進行が著しい地方において、地域力の維持・強化を図るためには、地域企業の担い手となる人材の不足の解消や、良質な雇用の確保が特に重要な課題となっている。
このことから、地域企業と地方公共団体が連携し、地域が一体となって地域企業の担い手を確保・育成するため、事業承継人材、都市部の副業人材、女性・若者、シニア、外国人等の地域内外の人材と地域企業とのマッチングの支援を強化するとともに、産官学金労言の連携により地域の資源と資金を活用した地域密着型事業の立ち上げを支援する「ローカル10,000プロジェクト」をはじめとした地方公共団体のローカルスタートアップの取組の加速化などにより、地方起点で成長し、ヒト・モノ・金・情報の流れをつくるエコシステムを形成し、地域経済の好循環による付加価値の創造を図ることとしている。
また、地域人口の急減に直面する地域において地域産業の担い手を確保するための特定地域づくり事業協同組合の取組を支援することとしている。
さらに、人口減少が進む中、公立高校を中核として産業界等と連携して実施する人材育成の取組や行政サービス等の確保のための過疎地に所在する郵便局等の活用について、令和7年度から新たに特別交付税措置を講じることとしている。
ウ 過疎対策の推進
過疎地域は、国民の生活に豊かさと潤いを与え、国土の多様性を支える重要な役割を果たしている一方で、人口減少・少子高齢化等の厳しい社会経済情勢が長期にわたり継続し、地域社会を担う人材の確保、地域経済の活性化、交通機能や医療提供体制の確保、集落の維持等が喫緊の課題となっていることから、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」(令和3年法律第19号)に基づき、過疎対策事業債や国庫補助率の嵩上げ等の特例措置が講じられている。
令和7年度においては、過疎対策事業債について、過疎地域の持続的発展に資する事業を計画的に実施できるよう、地方債計画に対前年度比200億円増の5,900億円を計上するとともに、過疎地域における人材の育成や、ICT等技術を活用した取組等を支援する「過疎地域持続的発展支援交付金」について、前年度同額の8.0億円を予算計上している。