6 財政マネジメントの強化
地方公共団体や公営企業が、中長期的な見通しに基づく持続可能な財政運営・経営を行うためには、自らの財政・経営状況、ストック情報等を的確に把握することが重要であり、地方公会計の推進、地方財政の「見える化」や公営企業の経営改革等に取り組む必要がある。
(1)地方公会計の整備・活用及び地方財政の「見える化」の推進
ア 地方公会計の整備・活用の推進
発生主義・複式簿記を採用している地方公会計は、現金主義・単式簿記では見えにくいストック情報の総体や減価償却費・退職手当引当金といった発生主義特有の行政コストなどの把握を可能とするものであり、把握した情報を資産管理や予算編成等に積極的に活用していくことが重要である。
財務書類の整備状況について、決算年度の翌年度末までに財務書類を作成している団体が令和7年度末までに100%となることを目標としているが、令和5年度末時点では全団体の94.6%に当たる1,692団体となっている。
令和6年12月に公表された「今後の地方公会計のあり方に関する研究会」報告書では、地方公会計のより一層の活用に資するよう、統一的な基準の改善について整理し、地方公共団体において、これを踏まえた財務書類を令和8年度決算までに整備することとしたほか、早期作成に向けた効率化策等を示したところである。
イ 地方財政の「見える化」の推進
地方財政の「見える化」については、「地方財政白書」、「決算状況調」、「財政状況資料集」等により積極的な情報開示を行ってきた。
財政状況資料集においては、各地方公共団体の性質別・目的別の住民一人当たりのコストや、ストックに関する情報について比較可能な形で公表するとともに、基金の使途・増減理由・今後の方針等について公表している。
地方公共団体においては、住民等に対する説明責任をより適切に果たし、住民サービスの向上や財政マネジメントの強化を図る観点から、住民等へのより分かりやすい財政情報の開示に取り組むとともに、公表内容の充実を図っていくことが求められる。
こうした中、地域の実情や住民のニーズを踏まえて実施されている地方単独事業(ソフト)についても、決算情報の「見える化」を進めており、全ての歳出区分を回答対象とする調査を実施している。
(2)公営企業の経営改革
公営企業は、料金収入をもって経営を行う独立採算制を基本原則としながら、住民生活に身近な社会資本を整備し、必要なサービスを提供する役割を果たしている。今後の急速な人口減少等に伴うサービス需要の減少や施設の老朽化に伴う更新需要の増大など、公営企業を取り巻く経営環境が厳しさを増すことを踏まえ、各公営企業が将来にわたりこうした役割を果たしていくためには、経営戦略の策定・改定や抜本的な改革等の取組を通じ、経営基盤の強化と財政マネジメントの向上を図るとともに、公営企業会計の適用拡大や経営比較分析表*1の活用による「見える化」を推進することが求められる。
ア 公営企業の更なる経営改革の推進
(ア)経営戦略の改定の推進
経営戦略については、令和5年度末までに97.8%の事業が策定を完了しており、未策定の事業においては、速やかな策定が求められる。
今後は、策定済みの経営戦略について、取組の進捗と成果を一定期間ごとに評価・検証した上で、今後の人口減少等を加味した料金収入の反映やストックマネジメント等の取組の充実により、中長期の収支見通し等の精緻化を図るとともに、料金改定や抜本的な改革を含め、収支均衡を図る具体的な取組の検討を行い、令和7年度までの経営戦略の改定に反映することが求められる。
(イ)抜本的な改革の検討の推進
各公営企業が不断の経営健全化等に取り組むに当たっては、事業ごとの特性に応じて、民営化・民間譲渡、広域化等及び民間活用といった抜本的な改革等に取り組むことが求められる。令和5年度においては、第42表のとおり、広域化等100件、包括的民間委託35件などの取組が実施されている。
(ウ)公営企業会計の適用拡大等による「見える化」の推進
「公営企業会計の適用の更なる推進について」(令和6年1月22日付け総務省自治財政局長通知)においては、適用が完了していない下水道事業及び簡易水道事業に対し、早急な適用を求めるとともに、その他の事業についても、できる限り適用することを要請している。公営企業会計適用の取組状況は第43表のとおりであり、これまで重点事業として推進してきた下水道事業及び簡易水道事業については、ほとんどの地方公共団体で適用が完了している。
このほか、各公営企業において、経営比較分析表の作成・公表を行い、引き続き経営状況の「見える化」を推進することとしている。
イ 水道・下水道事業における広域化等の推進
水道・下水道事業の広域化等については、令和5年度末までに全ての都道府県において計画が策定されたところであり、都道府県のリーダーシップの下、計画を着実に実施することにより、中長期の経営見通しに基づく経営基盤の強化を進めることが重要である。このため、引き続き広域化等に伴う施設の整備費等に対する地方財政措置を講じることとしている。
ウ 公立病院経営強化の推進
公立病院は、地域における基幹的な公的医療機関として、へき地医療、救急・小児・周産期・災害・精神などの不採算医療や高度・先進医療を提供する重要な役割を担っているが、医師不足や人口減少等により、厳しい状況が続いている。
このため、「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」(令和4年3月29日付け総務省自治財政局長通知)を踏まえて策定した「公立病院経営強化プラン」に基づき、経営強化の取組を推進するとともに、各公立病院を取り巻く経営環境の変化を踏まえ、必要に応じプランの改定を行うよう要請している。
令和7年度においては、厳しい経営環境に直面している病院事業について、経営改善実行計画を策定し収支改善に取り組む公立病院の資金繰りを支援し、経営改善を促進するため、新たに病院事業債(経営改善推進事業)を創設するとともに、不採算地区病院等については、依然として厳しい経営状況が続いていることから、特別交付税措置の基準額引上げを継続することとしている。
(3)経営・財務マネジメントの強化
地方公共団体の経営・財務マネジメントを強化し、財政運営の質の向上を図るために、地方公共団体の状況や要請に応じてアドバイザーを派遣する経営・財務マネジメント強化事業(地方公共団体金融機構との共同事業)については、令和7年度も引き続き実施し、これまでの支援分野に加え、新たに「地方公共団体間の広域連携(公共施設の集約化等、専門人材の確保、事務の共同実施)」についてアドバイザーを派遣することとしている。
*1 各公営企業の経営及び施設の状況を主要な経営指標やその経年の推移、類似団体との比較により表し、分析を行ったもの