昭和49年版 通信白書

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2 通信による交通の代替

 情報の伝達は,古くは人の移動と一体的なものであった。しかし近代における通信の発達は,情報の伝達を人の移動から次第に引き離してきており,現代では多様な通信手段が人の移動とともに広く利用されている。通信の目覚ましい発達がなければ,我が国経済の発展に伴い,交通に対する需要は現在の幾倍にも増えていたであろう。
 しかし,現在なお交通は年々増加し,省エネルギー,大気汚染,通勤通学難等交通に関して多くの問題点が指摘されるに至っている。こうした問題点解決策の一環として,より積極的な通信による交通の代替を検討することが重要な課題となってきている。
 まず業務交通を対象として,通信による交通代替の可能性がどこにあるのかをみよう。業務を行う上で外出という手段を選んだ理由を示したのが第1-3-6図である。これによると「いろいろなやりとり,複雑な内容,相手の反応をみる」という理由が44%を占めている。「内容の説明は不要だが,電話では困難」という理由が15%である。この二つの理由は,現在の電気通信技術の制約からくるものであり,ここに今後の技術発展を通して外出が代替される分野があることを示している。また「儀礼上行くことが必要」という理由が10%を占めており,社会慣習の変化とか,よりフランクなビジネス観への変化を通して,外出が代替される分野があることを示している。
 次に通信によって代替される交通量をアンケート調査による試算例でみよう。第1-3-7図は業務コミュニケーションが,どのような条件のときにどのような手段を選択するかをアンケート調査で求め,技術的発展と社会的意識変化を想定することにより,業務コミュニケーションの手段としての外出が,どの程度電気通信によって代替されるかを試算したものである。これによると,外出の60%強が電気通信で代替できるという結果がでている。
 我が国では,電気通信によって積極的に交通を代替していくという考えは,まだ一般的なものになっていない。しかし,このような考えに立脚して,これを実験に移そうとする動きが既に世界各国で起こっている。
 まず国際機関では,OECDの科学局が,1975〜76年度にかけての事業として,省エネルギーのために通信をいかに利用するかというテーマで研究することを計画しているが,その中にも,電気通信による交通の代替が取り上げられている。
 英国では人の移動を不要にするため,対面コミュニケーションに代わり得る新しい電気通信システムの実験を既に始めている。
 遠方からの乗用車通勤が多い米国では,通勤に消費されているエネルギーを節約していくため,リモート・ワーク・センター構想の実験を始めている。この構想が実現すれば,勤務者はわざわざ遠くの会社まで出掛けて行かなくても,最寄りのリモート・ワーク・センターに行き,そこで遠隔勤務用に設備されている電気通信システムを使用しながら業務を行うことができることになる。ここからは更に在宅勤務への道も開けてくるといえよう。
 また,カナダにおいても,従来から電気通信システムにより,人口分散,地域開発を図る研究が進められてきたが,最近は交通に代替させるためのテレビ会議システムを実験中である。
 我が国における最近の電気通信技術の発達は目覚ましい。データ通信,テレビ電話,ファクシミリ通信などが利用分野を広げつつある。また電話では失礼だという意識も次第に薄れてきつつあるように思われる。通信による交通の代替は大きな可能性を持ってきており,省資源の立場からこの可能性を現実のものにしていく施策が求められている。

 

第1-3-6図 外出の理由

第1-3-7図 電気通信による外出の代替量

 

 

 

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