有識者座談会

4名の有識者がG空間について語る現状の課題と今後の無限の可能性について

那須俊宗

2000年マルティスープ(株)の代表取締役に就任。モバイル、位置情報、空間情報をキーワードに自社製品、自社サービス、様々なソリューション提供に携わる。

町田由美

1995年パスコ入社。2004年ESRIジャパンへ転籍し、現在、コンサルティングサービスグループにてシステム開発案件に携わる。

笠井崇文

平成12年(株)日立製作所 公共システム事業部入社。G空間情報ほか、PKI(公開鍵認証基盤)、マルウェア対策、ディザスタリカバリ等のシステムを担当。

小泉和久

浦安市役所に平成2年度に入庁。平成12年度から情報政策課に配属となり、GISやクラウドの推進を担当。平成24年度から市民税課に配属。

まず、G 空間シティ構築事業の中で、実際に活用したいと思われた取組を教えていただけるでしょうか。
小泉氏
自治体からみますと、やはり防災・減災です。浦安は、3.11の時に液状化等大変な思いをしましたが、あのときに市役所が持つデータだけではなく、電気・ガス・水道・通信などのインフラデータ、またこの事業でもいくつか挙がっていましたが、地域SNSなどから得られる地域住民の声、今起こっている生の声があれば、さらにしっかりとした行政からの指示や情報提供、避難所運営ができたのではないかと思います。徳島や北九州、人吉市の取り組みは、他の自治体でも非常に参考になると思います。
オープンデータ化やデータの流通の仕組みが重要になります。
町田氏
現状は、自治体から提供されるデータをダウンロードして使う形式がまだ多いですが、例えば、発災後にデータをダウンロードし、結合し、フォーマット変換をしてとやっていては、本当の災害時には迅速な対応が難しいと感じています。更に特定のアプリケーションに固執したデータではないものが理想的です。誰でもすぐに使えるデータの提供をしていただけると、日本のG 空間は使いやすくなり、どんどん伸びていくのではないかと思います。
那須氏
地域の情報をいかに安く魅力的に使えるか、特に観光や地域のモバイルサービスに非常に求められていたと思いますが、現実的には実践している方が少ない。絶対に続けるという強い意志で計画いただいたほうが、その後しっかり継続できるのではないかという気がしています。2010年にある自治体にて観光ナビゲーションアプリの開発を担当したのですが、ちょうど前年に別事業でバリアフリーを考慮したナビゲーション用の道路ネットワークデータが整備されており、それを活用させていただくことができました。しかし、翌年以降はデータ更新が難しく、ご好評をいただいたにも関わらず終了することになりました。
別の事業で作ったデータを活用できた一方で、更新が課題で継続できなかったということですね。作成したデータをG空間プラットフォームのようなところに格納して、皆が使えるようになれば良いという意見も聞かれます。
笠井氏
自治体やインフラ事業者様からお話を伺っていますが、最終的に利用・操作する方の意見をこれから反映しなければいけないと考えています。具体的には、防災・減災用途ですと消防や、下水道を管轄されている部局といった方々です。既に防災システムや業務手順が確立されている中で、現場の方々に無理なく使っていただけるようにするためには、どのような情報が最優先で、何分以内に可視化する必要があって、どのようなデータ形式が一番早く処理できるのか、というような議論をしていく必要があると思います。特に、ユースケースをはっきりさせると、集めたデータのアウトプットのフォームを具体的に示す事ができると考えています。
小泉氏
ある委員会で電気・ガスなどのインフラ事業者の方とお話をした時に、クローズとオープンの考え方に非常に距離を感じました。いきなり「さぁ、オープンにしてください」と言うと、個人情報は大丈夫か、このデータは間違っていないかなどという心配事があるため、みんな二の足を踏みます。まずは、防災や減災に関わるメンバーシップである消防・警察・インフラ事業者、行政だけでオープンにして、地図のずれやデータフォーマットの変更・不具合などを整えてから、地域にオープンにするという段階を踏むのも、1つの方法なのかと思います。
笠井氏
自治体の中で閉じた形で利活用できる情報もあると考えています。例えば、災害時の避難誘導において、要介護の方の居住情報などの個人情報は必ずしも外部に出す必要はなく、自治体側で豪雨のデータなどと重ね合わせができれば用を成すものもあると思います。
市民からの情報提供や活用方法に関するアイデアへの期待も大きいですね。
町田氏
データの間違いや更新の遅延に1番気づくのは、実は最終的に使われるコンシューマーの方々ではないかと思います。そう考えると、更新方法のワークフローの中に、SNSなどを上手く組み込んでおくのも1つの方法ではないかと思っています。例えば、KRIPP(北九州地区電子自治体推進協議会)を中心に運営されている「G-motty」は、まさにコンシューマーの方々の書き込みで成り立っています。行政がプラットフォームとしての土台だけを準備することによって、住民の方々が上手くそこに情報を載せるという使い方もあるかもしれません。
今回のG空間シティの提案を見ていると、データ活用に対する自治体の方の雰囲気が変わってきているように思います。
那須氏
SNSは震災以降、より普通のコミュニケーションとして使われるようになってきていると思います。東日本大震災は大規模、広範囲だったため、Twitterから様々なことが分かったと思います。しかし、もう少し小規模な場合、例えば大島の台風など、SNSの効果があまり発揮されないこともあります。地域に何かが起こった時にどのように情報を上げるべきか、行政だけではなく、地域住民の意識を育てるような啓蒙も必要ではないでしょうか。その場合の情報は、けっして堅苦しいものでなくて良い。SNSで集めた情報を具体的にどう使うのか、リアルなアクションに結びついてくれば、欲しい情報がしっかりと集まるようになるのではないかと思います。
町田氏
平時利用をしているものが、実は災害時にも使えるという、そこまで考えられたアプリケーションでなければ意味がないと思っています。そのようなところが肝になるのではないかと思っています。
立命館大学の事業では、地下街の来訪者向けアプリが緊急時は自動的に災害モードになるしくみを開発しています。一方、どの自治体でも、いかにダウンロードをして使っていただくか、悩んでいるのではないかと思います。
小泉氏
市ホームページ、ツィッター、Facebook、ブッシュ型メールサービス等、市民への情報伝達ツールが多過ぎ、どのツールを採用すべきか、またその運用について、頭を悩ましています。例えば、浦安市で災害が発生した場合は、地域住民はもちろん、都内に働きに出ている市民の方、またディズニーランド・ディズニーシーへの来訪者やその他観光客らに、確実に情報を伝えられるには、どのツールを使用すべきか、とても悩みます。アプリを1つだけダウンロードすれば、すべてに対応できるという状況が作れるといいと思っています。市が、そのアプリを提供する方法もありますし、既存アプリに対し、イチ情報提供者として情報発信をする方法もあると考えています。
笠井氏
一斉にブロードキャストで配信する場合は、まずベースとして119番があり、緊急地震速報のような仕組みもあります。そこに対して、どのようなプラスαがあるのかを提案していくことが必要と考えています。
利用者と運用者の両方の立場で考えることが重要ですね。どのような方法や打ち出し方が必要になると思われますか。
那須氏
非常に難しいのは、ビジネスモデルの作り方です。横展開をすることはでき得ると思います。ただし、最近の傾向として、基本的に足し算だけでは難しいと思います。実際に、お客さんのところへ行った時、割ってから引いて足すなどという工夫がないものは駄目だと現場でよく話すんです。例えば、屋内位置情報で工場や倉庫などの要員把握をする場合、製造工場などは既にかなり雑巾を絞りきっている。その中で、プラスの費用をかけるための効果が当然求められるので、それをどのように出していくかがポイントでしょう。行政・自治体でもこれからどんどん歳入が減っていく中で、足し算の事業で押し売りしても逆に難しいだろうと思います。
町田氏
同じ土台の上に、SOA(Service-Oriented Architecture、サービス指向アーキテクチャ)的な発想でいろいろなパターンのアプリケーションが簡単に乗り合えるという話に展開すると、おそらく一過性にとどまらないと思います。1つのデータでもいろいろな伝え方ができるようになるからです。今後の展開として、ある決まったアプリケーションでしか使えないデータや専用のデータではなく、データとアプリケーションが分離されることで、データがずっと使い続けられるものになるのではないかという気がします。そのような意味でのプラットフォームを作っていただけると本当に良いと思います。
今のお話を聞いて、モデルの拡張性を外に打ち出していく必要があるのではないかと感じました。
小泉氏
自治体では、パッケージシステムやクラウドの利用が浸透しつつあり、ようやく既製品(あり物)を使って、自分たちの運用やプロセスを既製品(あり物)に合わせる機運も高まっています。最近では、データを自分達で用意してフリーのソフトやアプリを使うケースや浦安市や北九州市のように自治体が他の自治体にシステムを売る・提供するという試みも出てきています。今回の成果をweb上に置いていただいて、ダウンロードできて、データの入れ込みさえすれば、簡単にスタートできるようなしくみがあると、みんな取りかかりやすいのではないかと思います。
データの出し方やツールの普及に関して、G空間プラットフォームではどのような議論がされていますか。
笠井氏
可能な限り一般的なインターフェースでデータを提供できることを念頭に設計しています。ただ、これまで外部に公開された実績がないデータは、独自のフォーマットで運用されていることも多く、相互運用性をどう確保するかが今後の課題です。また、携帯の位置情報などの個人情報も、緊急時であれば、その時限定で自治体にだけは公開しても良いという人もいらっしゃいます。データに含まれるプライバシー情報や、公開範囲を適切にコントロールするため、どのような機能やインターフェースが適切なのか、まさに技術的な議論が繰り広げられているところです。
那須氏
例えば僕らが違う観光アプリを作ろうとする時に、現在地や水辺の危険地域情報・災害情報のAPIがあれば、防災関連機能も入れることが可能になります。非常に選択肢が広がりますし、情報だけ取得して表現はこちらで自由にできるので、非常に使いやすくなります。作ったソースコードがダウンロード可能だといっても、エンジニアがそのソースを見た瞬間、自分の思想と違い過ぎて、ファイルを閉じてしまうと思います。
町田氏
API 化してもらえると、データを二重、三重とアプリケーションごとに作る必要がなくなりますので、社会全体から見ても非常に効率が良くなります。
今後の展開はどうあるべきでしょうか。
那須氏
これが必要ですかと言われれば、地域としては「欲しいです」となる事業だと思います。ただし、ある事業案が欲しいと思っても、自分たちの地域に当てはめ、どのように活かしていくかが問題です。実際の活用を考えるとき、居住者の方なのか、ディズニーランドに来た方なのか、さらには何かに乗った後なのか、など対象者のコンテクストによって、自分たちが情報を入手できるルートが違います。そのような時、現在の位置情報が分かり、そこから情報が得られるというのは非常に大きいことだと思うんです。どのような情報をどのように提供しなければいけないか、どのように自分たちの地域にまとめていくかというところを、事業者がしっかりご提案しなくてはいけないと思っています。
笠井氏
今回の事業では、プライバシー上の懸念や、費用対効果の面で、「利活用が見送られたG空間情報」もあったのではないかと思います。それらのG空間情報が、どのような事情で出せなかったのか、どのような点の討議・検討を経て、利用しないこととなったのか、参照できるような形になれば嬉しいです。例えば、プライバシー問題に対しては、匿名化技術の適用、といったように、解決できなかった課題を技術でカバーしていければと考えています。
町田氏
私は1点だけ、一過性にとどまらないというところが重要だと考えます。皆さんももちろんお考えのことだとは思いますが、改めて強調しておきたいと思います。このようにおしなべて見ても、自動走行だったり、リアルタイムだったり、今だからこそ出てくる選択的な要素が入っています。一過性の部分を担保できれば、その時々の先進的なことを組み込む手法としては良いのではないかと思います。しかし、特定地域だけではなかなか続きません。メンテナンスの費用はどこから捻出されるのかというところまで、企業的にいえばキャッシュフローまで考えた上で、自治体にも戻るしくみがあっても良いかもしれません。
小泉氏
行政が行うべき部分と、民間に任せる部分はしっかり分けていかなければならないと感じています。自治体がサービスやコンテンツに力を入れるのも良いですが、まずは地図の基盤となる基図データ(道路・土地・家屋等)の整備と定期的な更新、またアドレスマッチングの基礎となる住所や住居表示のGIS対応等、自治体がすべきこと、自治体しかできいなことを優先して取り組むべきだと思います。また、データのオープン化については、同様の事業として思い出すのが、10年ほど前に自治体の中で起こったホームページブームです。その時にも、データを出す・出さないという議論や、この事業は何課が行い、どのように継続するのかという話がありました。最終的には、1)他の自治体がやっているという事実、2)専門的な知識が乏しく、かつ定期的な人事異動がある自治体職員でも対応できる簡単な仕組み(CMS)、3)市民の声やニーズという3つのポイントを背景に、ホームページが自治体の中で普及したと思います。オープンデータやG空間についても、その目的や期待する効果を捉えつつ、今回のような他の自治体の取組みが確認できる環境づくり、また職員にとっても、市民にとっても簡単な操作で使えるツールやアプリ、さらに地域住民の声やニーズを上手く取り込むしくみづくりなどがあると、利用や活用が一気に広がることでしょう。そうなれば、自治体側も必死にデータのオープン化や更新もするのではないでしょうか。今回の実証実験の成果を、特定の自治体の一過性のもので終わらせることがないよう、今回の成果物であるツールやプラットフォーム、そして事業推進のノウハウを、他の自治体に展開し、活用できるように、さまざまな取組みや仕掛けを進めていただければと思います。

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G空間シティ構築事業
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