採択事業 人吉市
G空間技術を活用した地域連携型防災まちづくり実証事業
G空間情報を活用した地域連携型の災害時の対応策、さらには平時の住民サービス(新たな支え合い・移動輸送支援)への展開を図る。
実証地域
熊本県人吉市、鹿児島県伊佐市、湧水町
担当局
九州総合通信局
構築したシステムの説明
本事業では、「防災G空間情報基盤」から得られる災害情報を多様なメディアから伝達するシステムを構築しました。「防災G空間情報基盤」には、他機関の防災情報と、新たに開発した「参加型災害情報システム」により蓄積した市民からの提供情報やGISクラウドシステムを介した情報の集積機能を保有し、これらの情報から災害対策本部システムにて災害予測シミュレーションや避難等の行動誘発率を高めるために可視化されたG空間情報を生成するモデルを構築しました。提供される災害情報を活用できる媒体は、モバイル端末だけではなく、準天頂衛星メッセージシステムや可搬型Wi-Fiネットワークを活用したことで、ネット環境を有さない避難行動要支援者宅にもインターネットテレビによる災害情報を発信することも可能となっており、ネットがつながりにくい山間部や過疎地等における災害把握及び情報伝達可能なシステムとして今後の普及に向けた検討を進めています。
- 防災G空間情報基盤による情報の流れ
-
準天頂衛星メッセージシステム及び可搬型無線通信機器により携帯電話不通
地域及びテレビ難視聴地域において災害情報の伝達が可能となる。
- 支え合いシステムと輸送支援システムの連携
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災害対策本部で登録したG空間情報は、防災G空間情報基盤を介して支え合い
センター・輸送支援センターで利用される。
活用するG空間技術、G空間情報
- 参加型の災害情報収集システム(スマートフォン活用)
-
災害予測シミュレーションシステム/可視化情報生成システム
- センサー情報、雨量計、水位計、ナウキャスト、ライブカメラ等
- G空間情報の流通基盤の構築
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災害情報伝達アプリケーション
- インターネットTV(プッシュ型情報配信システム)
- 準天頂衛星 メッセージ機能
- 災害時道路ネットワーク解析ツール
- カーナビ等への情報伝達システム/動態管理システム/お知らせメールシステム
実施団体
- 人吉市
- 九州大学
- 株式会社価値総合研究所
- 株式会社パスコ 福岡支店
- 国際航業株式会社 熊本営業所
- ESRIジャパン株式会社
- 株式会社Cueform
インタビュー
九州大学大学院工学研究院教授
三谷泰浩さんに聞きました
民間の建設会社での勤務を経て、1997年より九州大学工学部助教授、2013年より現職。専門は岩盤工学、地理空間情報学。
- 今回、G 空間シティ構築事業に提案した背景を教えて下さい。
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人吉市では、過疎地や中山間地等、元々情報インフラが未整備の場所に、G空間の技術を中心とした情報基盤を作り防災に強いまちづくりを考えました。基盤を作るための参加型情報収集の手段や、その情報を集積させる仕組み、またそれを流通させる仕組み作りから取り組みました。構築した仕組みを利活用するため、防災という観点から災害情報を分析したり、可視化したりする技術も、今回の仕組みに付け加えています。この情報基盤を使い「新たな支え合い」といわれる仕組みと、「移動支援」の仕組みを構築し、この2つのアプリケーションを動かしていくということが本事業の概要となります。またG空間技術を活用し、谷沿いをまっすぐ放射上に伸びる独特の地形をネットワークで結ぶことで、中山間地の災害時に情報伝達が出来る仕組みを構築します。
- 事業におけるアピールポイントをお教え下さい。
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今回のシステムは全国展開を見据え、自由度の高いシステムとして構築しています。構築した三つのシステムはそれぞれを切り離してもサービスとして成り立つので、他自治体や国のサービスなどと連動出来るよう拡張性を持たせています。また、現在構築しているシステムが国のプラットフォームと接続し、連携が出来るようになれば、各自治体でも独自に展開できるので、全国の中山間地の問題を抱える自治体にとって良いシステムになると思います。
- 実証内容についてご説明下さい。
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災害及び被害状況を的確に把握する為、三箇所で実証実験を行います。第一に湧水町で洪水被害に対する実証です。第二に県域が異なる市町村をまたいだ土砂災害の被害を想定し、人吉市と伊佐市で実証を行いました。この二市は、それぞれの県に応じて防災に対する災害警報や、情報等を出すタイミングが異なるので、実際に起こりえる状況を考慮した形での実証を行いました。この実証は携帯電話の電波がほとんど入らないエリアを実証地域に選んでいます。第三に、人吉市での洪水における実証を考えています。今回実証を行ってみて、システムの改良が必要な点、スマートフォンのバッテリーや情報端末の操作に慣れていない多様な層へのフォローなど、いくつかの課題が見つかりました。テレビを使い詳細な情報を配信しようと試みましたが解像度や情報量の制限などの問題点があることも明らかになりました。また、多層的かつ多様なメディアによる伝達方法の実証を行います。リアルタイム情報と連携したカーナビや優先無線・地域SNS等支えあいシステムを中心に活動の可視化・避難行動を促す情報伝達、また地域支援活動に取り組んでいる方々に情報提供をいたします。今回構築した支え合い支援の仕組みは、ベースとしては要支援者の移動、保護を目的にしています。こちらは各自治体内に見守りセンターを設置し要支援者の生活管理を行います。要支援者、介護者双方からのやりとりが出来る仕組みを構築出来るよう取り組んでいます。
- 今後の取組予定や期待を教えてください。
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現在のメンバーを中心に社団法人を立ち上げ、引き続き災害対策の研究に取り組みます。今回開発したアプリケーションは拡張性が高いので、他自治体や企業等に低コストで広められるようにビジネスモデルを検討しています。他にもリアルタイムな情報の取得や、災害情報のアーカイブ化等も出来るような仕組みが作れたら良いと思っています。また今回の仕組みは、海外にも展開しやすいと考えています。ただし、災害の種類や発生するエリアが重要と考えており、エリアの特徴と災害の組み合わせにより、似たような災害でも取り組みが変わってきます。例えば人吉のような山間地で洪水被害が起きた場合と、タイで洪水が起こった場合で全く取り組み方が変わります。地域の特性や地形等の環境と災害の種類はペアリングで考えなくてはいけません。そのため、海外展開する際には、事前に地域の特性をしっかりと考えた上で展開していく必要があると思っています。
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