実装の進むAI・IoT
本稿では、「実装の進むAI・IoT」について、情報通信白書の議論を中心に整理します。
■デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)とは
「デジタル・トランスフォーメーション」は、2004年7月、英国マンチェスターで開催されたカンファレンスにおいて、Stolterman教授ら(Umea大学、スウェーデン)が発表した論文「Information Technology and The Good Life」中の「デジタル・トランスフォーメーションとは、デジタル技術が、人間の生活のあらゆる面に引き起こし、影響を与えた変化であるととらえることができる。」の記述に確認することができます。また、平成30年版情報通信白書で、現在は、「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるデジタル・トランスフォーメーション」が進みつつある時代にあると述べています。
このデジタル・トランスフォーメーションの変化は、段階を経て社会に浸透し、大きな影響を及ぼすこととなります。その結果としては、例えば、製造業が製品(モノ)から収集したデータを活用した新たなサービスを展開したり、自動化技術を活用した異業種との連携や異業種への進出をしたり、シェアリングサービスが普及して、モノを所有する社会から必要な時だけ利用する社会へ移行し、産業構造そのものが大きく変化していくことが予想されます。
(図1)デジタル・トランスフォーメーション
(出典)「平成30年版情報通信白書」
(図2)デジタル・トランスフォーメーションの変化の段階
(出典)「平成30年版情報通信白書」から作成
■政府における議論
我が国では、このようなデジタル化が進んだ社会像として「Society5.0」が提唱されています。Society 5.0は、内閣府の第5期科学技術基本計画において、我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されたものです。これまでの狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」とされています。 これまでの情報社会(Society 4.0)では、社会での情報共有が不十分でしたが、Society 5.0で実現する社会では、「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない 新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差 などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。」 とあり、AI、 IoT化といったデジタル化の進展による全体最適の結果、社会課題解決や新たな価値創造をもたらす可能性を指摘しています。
■ データの価値
この背景として、インターネット利用の増大とIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の普及により、様々な人・モノ・組織がネットワークにつながることに伴い、大量のデジタルデータ(Big Data:ビッグデータ)の生成、収集、蓄積が進みつつあります。それらデータのAI(Artificial Intelligence:人工知能)による分析結果を、業務処理の効率化や予測精度の向上、最適なアドバイスの提供、効率的な機械の制御などに活用することで、現実世界において新たな価値創造につなげることができます。これは現実世界の変化にとどまりません。IoTによって現実世界からより多くの情報が収集できると、サイバー空間においても、現実世界の状況をより詳細に再現することができるようになり、また、サイバー空間の情報に現実世界の情報が合わさることによって、これまでとは異なる視点や考え方も生まれることで、現実世界のみでは困難だった複雑な原因の解明や将来予測、最適な対策・計画を検討することも可能となります。このような世界では、データは「21世紀の石油」とも言われるように、その利活用が国のあり方とその発展に大きな影響を与えることとなります。ただし、データを多く集めること自体には必ずしも価値はなく、そこから取り出される様々な意味や知見にこそ価値があります。さらに、AIの分析精度向上や様々な領域での活用により新たな価値 を生み出すためには、データの量だけではなく、その種類・質が重要であり、多種類(多分野、多サービス)の高 品質(高精度、高精細)なデータを大量に持っていることが競争力を左右するだけではなく、イノベーションの源泉にもなります。そのようになると、市場での優位性の基準が、データへと移転する、つまり、現実世界とサイバー空間の主従関係が逆転することとなるとも考えられます。
■ AI・IoTの導入状況
次に、今後普及が期待されるAI、IoTの企業の導入状況及び導入意向について、「プロセス」と「プロダクト」の面からみてみます。現在の導入状況についてみると、各国企業ともIoTの導入が先行して進んでおり、AIの導入率がそれを追っている状況です。日本企業のAI・IoT導入率は欧米企業と大きな差はみられないが、今後の導入予定の回答率を踏まえると、2020年以降は他国より遅れをとり、その差が開いていくことが懸念されます。(図3)
(図3)各国企業のAI・IoT導入状況と予定
(出典)「平成30年版情報通信白書」
■ AI・IoTを活用したサービスの分類(マッピング)
デジタルデータの利活用がサイバー空間から現実空間にも広がりつつある中、パソコンやスマートフォンといった通信機器だけではなく、多くの機器がネットワークに接続され、生成されたデジタルデータを高度に活用するIoT化が進展しています。また、統計的手法の適用が困難だった音声認識や画像認識の領域でもAIを活用することによって、実用可能なレベルの精度を出すことが可能になりつつあります。
我が国で実際に社会実装されているIoT・AIサービスの位置づけや特性を的確に整理するため、以下では、現在社会実装が進みつつあるIoT・AIサービス事例について、活用技術、技能レベル、データの収集(サイバー、リアル)空間の視点から分類を行いました。
(1)活用技術
「活用技術(AI)」と「分析結果の活用空間」の視点で分類すると、機械学習、画像認識、音声認識、自然言語 処理それぞれの技術が使われたサービスが幅広く登場していることがわかります(図4)。サイバー空間では、 デジタルデータが多く蓄積されているため、過去のデータの傾向などを活用し、最適提案や検知を行うことは以前から行われていましたが、AI技術の進展によって精度が向上していくと考えられます。また、画像認識や音声認識についても精度が向上したことにより、テキストデータ以外での活用も進んでいくものと考えられます。リアル空間では、刻々と変化する情報をもとに状況管理、監視、見守りなどの状況を把握する用途にも活用されています。
(図4)AI・IoTサービスマッピング(1)
(出典)「平成30年版情報通信白書」
(2)技能レベル
「技能レベル」と「分析結果の活用空間」の視点で分類すると、サイバー空間、リアル空間ともに一定の技能レベル以上の用途においても広く活用され始めていることがわかります(図5)。また、一般人でもできるレベルの内容であっても、大量の情報を瞬時に判断したり、自動化できるため、労働力不足や生産性の向上といった課題解決につながっていると考えられます。特に、IoT化の進展によってリアル空間の情報が比較的容易に収集できる ようになったため、これまで専門家の知識・経験に依存していた農業分野や各種予測においても利用が拡大しています。
(図5)AI・IoTサービスマッピング(2)
(出典)「平成30年版情報通信白書」
(3)データの収集(サイバー、リアル)空間
「データの収集空間」と「分析結果の活用空間」の視点で分類すると、リアル空間で収集したデータは多様なサービスで活用されていることがわかります(図6)。これはIoT化の進展によって、リアル空間から様々なデータを収集できるようになったことにより、労働力不足や生産性の向上といった課題を解決するためにIoT・AIの活用が広がっているためだと考えられます。今後、表示された分析結果を見て人が行動するだけではなく、得られた情報をもとにリアル空間で物理的な動作を実現するアクチュエータや、各種ロボットが発展することによって、AIの適応 範囲が拡大し、更なる効果の拡大が期待されます。
(図6)AI・IoTサービスマッピング(3)
(出典)「平成30年版情報通信白書」
問い合わせ先
連絡先:情報流通行政局
情報通信政策課情報通信経済室
電話:03-5253-5720
FAX:03-5253-6041
Mail:mict-now★soumu.go.jp
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