次世代の交通 MaaS

 カーシェアリングサービスは街なかでよく見かけられるようになり、一部の地方公共団体や企業によって実験的にバイクシェア等も行われています。そのような状況において、自動運転やAI、オープンデータ等を掛け合わせ、従来型の交通・移動手段にシェアリングサービスも統合して次世代の交通を生み出す動きが欧州から出てきています。それがMaaSMobility-as-a-Service)です。

■MaaSとは

 電車やバス、飛行機など複数の交通手段を乗り継いで移動する際、それらを跨いだ移動ルートは検索可能となりましたが、予約や運賃の支払いは、各事業者に対して個別に行う必要があります。
 このような仕組みを、手元のスマートフォン等から検索〜予約〜支払を一度に行えるように改めて、ユーザーの利便性を大幅に高めたり、また移動の効率化により都市部での交通渋滞や環境問題、地方での交通弱者対策などの問題の解決に役立てようとする考え方の上に立っているサービスがMaaSです。
 MaaSの実現及び提供には、スマートフォンやデジタルインフラの整備・普及のほか、鉄道やバスの運行情報、タクシーの位置情報、道路の交通情報などの移動・交通に関する大規模なデータをオープン化し、整備・連携することが必要となります。ユーザーの経路検索・改札通過等の移動履歴や支払い情報などのパーソナルデータの活用、ドライバー不足を補うための自動運転やコンパクト・モビリティ1、電気自動車(EV)などのクルマのイノベーション、効率的な移動手段を分析、提案、改善するためのAIの活用など、いま急激に発展しつつある各種の技術が交差するサービスといえます。

■MaaSがもたらすメリット

 このように、MaaSが実現することで、私たちの生活は従来よりもさらに自由になることが予想されます。事故や天候によって普段利用する経路での通勤ができない場合には、すぐに別のルートを探し出して移動でき、後述するWhimのように毎月定額で指定範囲内の電車やタクシー等が乗り放題になるサービスであれば、いつもと異なる路線・交通手段を利用した際の交通費精算手続きは不要となります。駅から離れたところに住んでいても、自宅の前に自動運転車を呼んで駅まで行き、電車に乗り、駅から病院まではタクシーでたどり着くこともでき、高齢者をはじめとする交通弱者の外出も便利になります。気候が穏やかで外出が快適な時期には、あえて徒歩やバイクシェアを選ぶこともできるなど、場面に応じてユーザーが最も望む交通手段をより手軽に使えるようになることが期待されます。
 また、MaaSによって、移動の効率性向上だけではなく波及的な効果も考えられます。膨大なデータが蓄積され、オープン化されることにより、輸送サービスを提供する事業社間の競争を促したり、マーケティングに活用されることによって個人の傾向や好みに合わせたサービス提供が可能になったりすることも期待できます。さらに、バスの停留所などをより効率的に再配置したり、鉄道の不採算路線を見直すことで公共交通の運営が効率化されたり、路線跡をオンデマンドの自動運転車専用レーンにして公共交通に組み込むなど、都市計画にも大きな変化が起こる可能性があります。
 他にも、世界中で都市への人口集中の流れが加速しており2、それに起因して都市では交通渋滞や排出ガスによる環境悪化が進行しています。日本ではそれらに加えて地方の過疎化、少子高齢化により、地方での交通手段の維持の問題が顕在化しています。従来の公共交通機関に加えて、コンパクト・モビリティ等の新しいクルマが効率的に連携することで、都市・地方の双方での交通問題の解決が期待されています。
 このようなMaaSによって実現されるシームレスな交通を目指す動きは、2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)を実現しようとする世界的な潮流とも合致しています。SDGsは、2030年までに「誰一人取り残さない」 持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するために17の国際目標を定めています。その中の目標11「持続可能な都市」では、女性・子ども・障害者・高齢者等を含むすべての人々に安全で持続可能かつ容易に利用できる輸送システムや緑地・公共スペース等へのアクセスを提供することが定められています。SDGs達成の努力は各国政府・企業等にも求められるようになってきており、これに対応した交通に関する取組みとしても注目されます。

予想されるMaaSによる社会・個人への影響(一例)

都市・地域の持続可能性の向上 (1)都市部での渋滞の解消 公共交通機関やコンパクト・、モビリティ等の新しいクルマ等による効率的な移動が可能になることで、自家用車による移動が減少し都市の交通渋滞が減少する。
(2)環境への影響 自動車による排気ガスの減少により、都市の大気汚染、温室効果ガス排出が抑制される。また自家用車保有台数が減少することで駐車場面積を減らすことができ、緑地等への転用が可能になる。
(3)地方での交通手段の維持 サービスカーとしての自動運転車が導入されたり、データの活用によって最適なバス等の運用が実現すれば、交通手段が少ない地域に住む人々による駅や停留所と目的地の間のラストワンマイルの移動が可能になる。
交通機関の効率化 (4)公共交通機関の収入増加 ヘルシンキの実証実験3段階で見られたように公共交通機関の利用が増加すれば、運賃収入が増加し、税金による公的資金の投入が低く抑えられる可能性がある。
(5)公共交通機関の運営効率の向上 鉄道を維持することが難しい地域で路線を廃止し、その分の運用・維持資金をオンデマンドバスや自動運転車に投資することで、より効率的な運営が可能になる。
個人の利便性向上 (6)検索、予約、乗車、決済のワンストップ化 複数の交通機関を乗り継いだ移動において、移動経路の検索、予約、乗車、決済までが1つのサービスで完結する。
(7)家計への影響 高額の自家用車の維持費4の負担がなくなることで、その他の支出に充当する余裕が生まれる。
(8)交通費精算の簡易化 企業が従業員に支払う通勤手当の一律支給が可能になり、また既定の通勤経路以外の交通経路の把握等も容易になるため、企業・従業員双方にとって経費清算手続きが簡略化される。

■フィンランド「Whim」

 MaaSを世界で初めて都市交通において実現した事例として注目されているのは、フィンランド・ヘルシンキのベンチャー企業「MaaSグローバル」が提供するサービス「Whim(ウィム)」です。Whimは2016年にヘルシンキの交通当局と行った実証実験のあと、正式にサービス開始されました5。利用者は各自の利用形態に応じて、毎月49ユーロ(約6,300円)、毎月499ユーロ(約64,000円)、あるいは1回ごとの決済の3つの料金プランを選択し、それによって得られるポイントで、Whimが提示するいくつかの交通経路から最適なものを選択し、予約、乗車、決済まで一括して利用することができます。Whimが提示する交通手段には電車やバスなどの交通機関のほか、民間タクシーやバイクシェア、個人の徒歩や自転車などもあり、スマートフォン等のアプリ画面を提示するだけで、指定した交通手段を利用できます。ヘルシンキのWhimユーザーの交通利用状況は、Whimサービス開始前では公共交通が48%、自家用車が40%、自転車が9%でしたが、2016年のサービス開始後は公共交通が74%と大きく伸びたほか、それまであまりなかったタクシーの利用が5%に増加した一方で、自家用車は20%に減少したとのことです6
 このようなフィンランドの取組みを支援しているのは、産官学コンソーシアムであるITSフィンランドと、フィンランド運輸通信省です。ITSフィンランドは主要大学、タクシー協会、民間企業など100以上の団体・組織が参画し、MaaSに不可欠なオープンデータとオープンAPIのプラットフォーム開発・整備を担っており、それまで個別に点在していた移動に関する情報検索、決済等のサービスの統合を進めています。また2018年7月に施行予定の「輸送サービスに関する法律」(Act on Transport Services)では、それまでバス、タクシー、鉄道など種類別に存在していた輸送サービスに関する法律が一元化され、また民間タクシーの参入障壁が下がる一方、米Uberも解禁され、輸送サービスの規制緩和が進められるとのことです。

■国内の最新動向

このような移動・交通の変化の波を受けて、日本でもMaaSに必要なオープンデータやオープンAPIへの取組といった新たな動きが出てきています。今年1月に開催されたIT総合戦略本部の第1回オープンデータ官民ラウンドテーブルでは、「移動・観光」分野が取扱われ、交通情報を扱う民間企業から、政府や公的機関が持つ鉄道やバス、船舶、タクシーなどのリアルタイムの運行情報、時刻表情報、駅や停留所の位置情報などについて、オープン化の要望が寄せられました7。データを所管する国土交通省は、昨年から公共交通情報のオープンデータ化を見据えて「公共交通分野におけるオープンデータ推進に関する検討会」を設置し、中間取りまとめを行ったところで、また来年度以降実証実験を行うとしています。
 現在、自動車の走行データは自動車メーカー、鉄道やバスの運行情報は公共交通機関、高速道路の交通状況は各高速道路会社、ユーザーの乗り換え案内の検索履歴データは各種検索サービス提供会社など、移動・交通に関わる多種多様で膨大なデータは個別の企業・業界ごとに囲い込まれています。それらが連携し、日本全国の移動がシームレスにつながるようになれば、そのインパクトは非常に大きなものになると考えられます。
 他方、民間企業はすでにMaaS実現に向けた独自の計画を推進しています。JR東日本は、2016年に技術革新中長期ビジョンを発表しました8。ユーザーの軌跡や車両・設備のデータに加え、バスやタクシーといった交通機関、自動運転技術やシェアリングの進展が著しい自動車の位置情報等のデータなどとリアルタイムで連携し、乗客一人ひとりに応じた情報提供を目指すものです。将来的にはバスや自転車といった二次交通との高度な連携など、さまざまな移動手段を組み合わせたドアツードアの移動サービスを提供するとして、2017年には「モビリティ変革コンソーシアム」を立ち上げ、産学民の連携を推進し始めています9
 また、電車、バス、タクシーなどをグループ傘下に持ち、沿線の住宅地や観光地の開発も行う小田急電鉄は、今年4月、2020年までの新たな中期経営計画においてMaaSへの取組みを発表しました10。少子高齢化により沿線住民の超高齢化や若年層の流出が続けば交通機関の利用者は減少しますが、MaaSによりシームレスで快適な移動が可能になれば、駅から離れた住宅地でも利便性を維持し、住民の流出を防ぐことができます。また、MaaSは多様な交通手段を提供することで、グループで開発する観光地への集客にも寄与することが見込まれます。現時点では小田急電鉄と関連企業内でのデータ連携が意図されており、オープンデータを通じて他社の交通機関と連携するまではまだ時間を要すると見られます。
 公共交通機関以外の企業もMaaS関連ビジネスに着手しています。具体的には、乗り換え案内のNAVITIMEやNTTドコモのdカーシェアなどがそれぞれの強みを活かして参入しているほか、トヨタ自動車は自動車メーカーから「モビリティカンパニー」へのシフトを謳い、Whimにも出資しています。

■今後の展望

 上記で述べたとおり、日本においてはまだMaasの提供が始まっていませんが、官民双方において、サービス実現に向けた取組が進行しています。少子高齢化とそれに伴う都市への人口集中と地方の過疎化、経済成長の維持などさまざまな社会課題を抱える日本において、次世代の交通がこれらの解決にどのように寄与していくのか、注目されます。

脚注

問い合わせ先

連絡先:情報流通行政局
情報通信政策課情報通信経済室
電話:03-5253-5720
FAX:03-5253-6041
Mail:mict-now★soumu.go.jp
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