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平成28年版
地方財政白書
(平成26年度決算)

2 まち・ひと・しごと創生

(1)まち・ひと・しごと創生の動き

我が国は世界に先駆けて「人口減少・超高齢社会」を迎えている。人口減少を契機に、地方は「人口減少が地域経済の縮小を呼び、地域経済の縮小が人口減少を加速させる」という悪循環の連鎖に陥る可能性が高く、地方が弱体化するならば、地方からの人材流入が続いてきた大都市もいずれは衰退し、我が国全体の競争力が弱まることは避けられない。我が国が直面するこうした構造的な課題に正面から対処するため、国は、平成26年9月3日に、まち・ひと・しごと創生本部を設置し、人口減少克服・地方創生の実現に向けて政府一丸となって取り組んできた。

人口減少克服・地方創生の実現のためには、地方で「ひと」をつくり、その「ひと」が「しごと」をつくり、「まち」をつくるという流れを確かなものにしていく必要がある。地方に、「しごと」が「ひと」を呼び、「ひと」が「しごと」を呼び込む好循環を確立することで、地方への新たな人の流れを生み出すこと、その好循環を支える「まち」に活力を取り戻し、人々が安心して生活を営み、子どもを産み育てられる社会環境をつくり出すことが急務である。その実現に向け、国は、平成26年11月21日に、地方創生の理念等を定めた「まち・ひと・しごと創生法案」及び活性化に取り組む地方公共団体を国が一体的に支援する「地域再生法の一部を改正する法律案」の地方創生関連2法案を成立させるとともに、同年12月27日には、日本の人口の現状と将来の姿を示し、2060年に1億人程度の人口を確保する長期展望を提示する「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」及びこれを実現するための今後5か年の目標や施策、基本的な方向を提示する「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(以下「総合戦略」という。)を閣議決定した。総合戦略においては、「地方における安定した雇用を創出する」、「地方への新しいひとの流れをつくる」、「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」、「時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する」の4つの基本目標の下、地方における30万人分の若者雇用を創出すること、東京圏への転出入を均衡させること等を、2020年までの成果指標として定め、それぞれに政策パッケージを示している。また、政策パッケージの進捗について、重要業績評価指標(KPI(注1))で検証し、改善する仕組み(PDCAサイクル(注2))を確立することとしている。

地方公共団体は、平成27年度中に策定する「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」に基づき、平成28年度から具体的な地方創生事業を本格的に推進する段階に入ることとなる。国は、平成27年12月24日に、「総合戦略」の改訂を実施し、一億総活躍社会の実現に向けた取組等を踏まえながら、地方公共団体の地方創生の取組を、情報支援、人的支援、財政支援の三つの側面から支援する「地方創生版・三本の矢」を実施することとし、「地域経済分析システム(RESAS)」の開発・普及促進などの情報支援の矢、地方創生リーダーの育成普及、地方創生コンシェルジュや地方創生人材支援制度の人的支援の矢、地方創生加速化交付金や地方創生の深化のための新型交付金(地方創生推進交付金)の創設、地方財政措置や地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)などの財政支援の矢による支援を進めることとしている。特に財政支援の矢については、一億総活躍社会の実現に向けた緊急対策である地方創生加速化交付金(平成27年度補正予算)や、先導的な取組や従来の「縦割り」事業だけでは対応しきれない課題への対処に取り組む地方公共団体を後押しする地方創生推進交付金(平成28年度当初予算)を創設し、切れ目のない支援を行うものである。また、地方公共団体が自主性・主体性を最大限発揮して地方創生に取り組み、地域の実情に応じたきめ細かな施策を可能にする観点から、平成27年度の地方財政計画の歳出において創設された「まち・ひと・しごと創生事業費」について、平成28年度においても引き続き1兆円を確保したところである。

このように、国と地方が手を携えて、人口減少克服・地方創生の実現に力強く取り組むことにより、活力ある日本社会の未来を切り開いていくことが期待される。

(注1)Key Performance Indicatorの略。政策ごとの達成すべき成果目標として、「『日本再興戦略』改訂2014」(平成26年6月24日閣議決定)でも設定されている。

(注2)Plan-Do-Check-Actionの略。Plan(計画)、Do(実施)、Check(評価)、Action(改善)の4つの視点をプロセスの中に取り込むことで、プロセスを不断のサイクルとし、継続的な改善を推進するマネジメント手法のこと。

(2)地域経済の好循環拡大推進

地方創生のためには、地方に「しごと」をつくり、「しごと」が「ひと」を呼び、「ひと」が「しごと」を呼び込む地域経済の好循環を拡大することが必要である。このため、地方公共団体が核となって、地域で生産性の高い企業を次々と立ち上げる「地域経済好循環推進プロジェクト」(平成27年6月1日経済財政諮問会議提出)を推進し、地方からのGDPの押し上げを図るとともに、為替変動にも強い地域の経済構造改革を進めることとしている。

ア ローカル10,000プロジェクト

地域金融機関の預貸率が地方圏を中心に低下し、資金の余剰感が強まる中で、地域活性化の視点から、各地域で豊富な資金を特色ある地域資源や地域の人材と結びつけて、需要創造型のイノベーションを起こし、新たに持続可能な資金循環を創造することが必要である。そこで、中小企業庁や金融庁等と共同し、地域の資源と地域金融機関の資金を活用して、全国各地で地域密着型企業を立ち上げる「ローカル10,000プロジェクト」を推進している。このプロジェクトは、産学金官地域ラウンドテーブルを基盤に、「産業競争力強化法」に基づき市町村が創業支援事業計画を作成し、地域密着型企業を全国で1万事業程度立ち上げようとするものである。地域密着型企業とは、雇用吸収力が大きく、地元の原材料を活用し、地域金融機関の融資を伴うものである。すなわち、地域の人材と資源と資金を組み合わせ、生産性の高い事業を地域で次々に立ち上げることで、地域の人々の所得向上につながることが期待される。

そこで、「地域経済循環創造事業交付金」により、都道府県及び市町村が、地域の金融機関等と連携しながら民間事業者等による事業化段階で必要となる経費についての助成を行う場合において、その実施に要する経費を交付することとしている。これまでに287事業が実施され、95億円の交付金に対して、101億円の地域金融機関による融資が誘発されるなど、地域経済への様々な波及効果が期待されている。平成28年度から、公共性及び新規性・モデル性の観点から対象事業の見直しを行うとともに、条件不利地域で財政力の弱い地方公共団体に配慮しながら、一定の地方費負担を導入し、ローカル・アベノミクスの効果的な全国展開を推進することとしている。

また、産学金官地域ラウンドテーブルの取組、創業支援事業計画の作成及び「ローカル10,000プロジェクト」の推進に要する経費について、特別交付税措置を講じるとともに、地域の資源を活用した事業を行う法人等に対する出資について、所要の地方財政措置を講じることとしている。

イ 分散型エネルギーインフラプロジェクト

エネルギーの地産地消を通じた地域経済の活性化のため、地方公共団体を核として、需要家、地域エネルギー会社及び金融機関等、地域の総力を挙げてプロジェクトを推進し、バイオマス等の地域資源を活用した地域エネルギー事業を次々と立ち上げる「分散型エネルギーインフラプロジェクト」を推進している。再生可能エネルギー、コジェネレーション等の分散型エネルギーを整備することで、多様な新規企業を喚起するとともに、地域内で得られるエネルギーを有効活用し、自立的で持続可能な災害に強い地域づくりを進めることが期待される。

分散型エネルギーインフラの整備は、地域生活の安定、地域新産業の創出、都市環境の向上等、多大な公共的な外部効果を有するものの、費用負担時と資金の回収時期とに長期のギャップが存在すること、多様な関係者との意見調整が必要なこと等から、地域経営の主体としての地方公共団体の積極的な関与が重要である。

そこで、平成26年度に14団体、平成27年度に新たに14団体における「地域の特性を活かしたエネルギー事業導入計画(マスタープラン)」の策定を支援し、「自治体主導の地域エネルギーシステム整備研究会」を開催するとともに、地域エネルギーの事業化にあたって関係省庁が横串で集中支援できるように、関係省庁によるタスクフォースを立ち上げたところである。

ウ 自治体インフラの民間開放

地方公共団体の有するインフラを民間に開放し、地域におけるビジネス拠点の創出や地域企業の生産性向上を支援することが重要である。このため、公共施設や公用施設を活用して、民間事業者や市民に開放された新しい公共空間を生み出す「公共施設オープン・リノベーション」を推進している。地方公共団体の有する公共施設と、クリエーター等のアイデアのマッチングを行うコンペティションを開催し、平成27年度は8団体で事業を進めている。

また、地方への人や企業の流れを作っていくため、総務省と地方公共団体の共同データベースである「地域の元気創造プラットフォーム」に日本貿易振興機構(ジェトロ)及び中小企業基盤整備機構を接続させ、企業の地方への誘致や地元産品の海外への販路開拓等を進める「地域経済グローバル循環創造事業」を推進することとしている。

加えて、「公共クラウド」により、地方公共団体が保有する行政データのオープン化を通じて、民間事業者を含む様々な主体が共同で利用できる情報インフラの整備を進めることとしており、その推進に要する経費について、地方交付税措置を講じることとしている。

(3)地方大学を活用した雇用創出・若者定着の促進

ア 経緯

国を挙げて「人口減少克服・地方創生」という課題に取り組む中で、地方大学が地方公共団体や地元企業などと連携して「地方への新しいひとの流れをつくる」取組や「地方にしごとをつくる」取組を実施することが期待されている。

とりわけ、地方からの人口流出は、大学進学時と卒業後の最初の就職時という2つの時点において顕著であることから、大学進学時や就職時の学生に直接働きかけることや、卒業後に地方に定住して働くことのできる雇用を創出することが重要である。

このため、平成27年度から総務省と文部科学省で連携し、地方大学への進学、地元企業への就職や都市部の大学から地方企業への就職を促進する取組を支援している。

イ 施策の概要

(ア)「奨学金」を活用した大学生等の地方定着の促進

地方公共団体と地元産業界が協力して基金を造成し、地域に就職・定着し、かつ地域の中核企業を担うリーダー的人材として指定した学生の奨学金返還に対して、当該基金から一定の助成を行うことにより、地方への定着を促進するものである。

この取組に対し、文部科学省は、所管する独立行政法人日本学生支援機構を通じて、指定された学生に無利子奨学金の優先枠(地方創生枠)の貸与を行う。また、総務省は、地方公共団体の基金造成に要する経費に対して特別交付税措置を講じる。

(イ)地方公共団体と地方大学の連携による雇用創出・若者定着の促進

地方公共団体と国公私立大学等が具体的な数値目標を掲げた「協定」を締結し、連携して雇用創出・若者定着の取組を実施することにより、地方への定着を促進するものである。

この取組に対し、文部科学省は、国公私立大学等向けの補助事業により支援を行う。また、総務省は、文部科学省の補助事業に採択された国公私立大学等と連携して地方公共団体が実施する事業に要する経費に対して特別交付税措置を講じる。

なお、公立大学については、地方公共団体が設置する大学として、地域課題の解決に取り組むことが期待されているため、文部科学省の補助事業に採択されない場合であっても、特別交付税措置の対象とする。

(4)過疎対策等の条件不利地域の自立・活性化の支援

ア 基本的な考え方

過疎地域等は、都市部の災害防止、水源の涵養、安心・安全な食料の供給、森林による二酸化炭素の吸収などにより、都市部を支えている一方、人口減少、高齢化、身近な生活交通の不足、医師不足、維持が危ぶまれる集落の問題など、多くの課題が存在している。

平成12年に制定・施行された「過疎地域自立促進特別措置法」(平成12年法律第15号)においては、経済性・効率性と都市文化を育む都市地域と並び、過疎地域を多様で豊かな自然環境、広い空間、伝統文化等を有する個性的な地域として位置づけ、両者の共生・対流により相互に機能を補完し合いつつ発展し、美しく品格ある多様性に富んだ国土を持つ国を目指すことを目的としている。

これらのことを踏まえ、条件不利地域と都市が共生するという日本型の共生社会を実現するとともに、都市部を含めた国民全体の安心・安全な生活を確保していくことが必要である。

イ 具体的な取組内容

条件不利地域の自立・活性化への支援を着実に推進していくため、以下のような取組を進めている。

  • 地域医療提供体制の確保
  • 企業誘致・雇用対策(コミュニティビジネスの起業等)
  • 生活交通の確保(コミュニティバス、デマンドタクシー等の運行)
  • 集落の維持・活性化対策(「集落支援員」による集落点検の実施、話し合いの推進等)
  • 都市から地方への移住・交流の促進(移住・交流推進機構(JOIN)などとの連携、空き家活用によるU・Iターン促進対策等)

ウ 過疎法に基づく施策

過疎地域は、「過疎地域自立促進特別措置法」に基づき市町村毎に「人口要件」及び「財政力要件」により判定され、過疎地域に対しては、過疎対策事業債等の支援が行われる。

平成22年4月1日に「過疎地域自立促進特別措置法の一部を改正する法律」(平成22年法律第3号)が施行され、「過疎地域自立促進特別措置法」の失効までの期限を6年間延長し、過疎地域の要件の追加、過疎対策事業債のソフト事業への拡充及び対象施設の追加などの改正が行われた。

平成24年度においては、東日本大震災の発生による過疎対策事業の遅延が想定されることから、法律失効までの期限を5年間延長する「過疎地域自立促進特別措置法の一部を改正する法律」(平成24年法律第39号)が6月27日に施行され、法の期限は平成33年3月末日までとなり、より長期的視野に立った過疎対策事業の展開が可能となった。

平成26年4月1日に「過疎地域自立促進特別措置法の一部を改正する法律」(平成26年法律第8号)が施行され、平成22年の国勢調査の結果に基づく過疎地域の要件の追加及び過疎対策事業債の対象施設の追加の改正が行われた。この改正により過疎対策事業債について、中小企業の育成又は企業の導入若しくは起業の促進のために市町村が個人又は法人その他の団体に使用させるための工場及び事務所、住民の交通手段の確保又は地域間交流の促進のための鉄道施設及び鉄道車両並びに軌道施設及び軌道車両、一般廃棄物処理のための施設、火葬場などの施設についても支援対象に追加されることとなった。

なお、平成27年度より、地域の特性を生かした創業の促進・事業活動の活性化により魅力ある就業機会の創出を図るため、過疎対策事業債のハード事業のうち、民間雇用の創出や産業振興に資する事業を新たに「地方創生特別分」として位置付け、優先して取り組むこととしている。

また、平成28年度においては平成27年度に引き続き、過疎地域等自立活性化推進交付金により、先進的で波及性のあるソフト事業、定住のための空き家改修や団地の整備、廃校舎等の遊休施設を活用して行う地域間交流施設等の整備及び基幹集落を中心に複数の集落で構成される集落ネットワーク圏の形成に対して支援措置を講じることとしている。

なお、平成27年4月1日現在での過疎関係市町村は797市町村となっており、過疎関係市町村の割合は46.4%となっている。

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