非常通信の基礎知識

1 非常通信

(1) 非常通信とは

 非常通信は、電波法(以下、同法と言う。)第52条第4号において、地震、台風、洪水、津波、雪害、火災、暴動その他非常の事態が発生し、又は発生するおそれがある場合(以下「非常の場合」という。)において、有線通信を利用することができないか又はこれを利用することが著しく困難であるときに人命の救助、災害の救援、交通通信の確保又は秩序の維持のために行われる無線通信と規定されています。
 非常の場合の無線通信については、同法第74条第1項の規定により、総務大臣は、非常の場合において人命の救助、災害の救援等必要な通信を無線局に行わせることができます。
 なお、同法第74条の2で、総務大臣は、同法第74条第1項に規定する通信の円滑な実施を確保するため、非常の場合における通信計画の作成、通信訓練の実施その他の必要な措置を講じておかなければならないと規定されています。
 非常通信協議会は、同法第74条の2に規定されている非常の場合における必要な通信の円滑な実施を図るため、無線系に加えて有線系も含め、あらかじめ運用上及び訓練上必要な諸計画を作成しております。

(2) 非常通信の取扱い

 非常通信の取扱いについては、様々な法律に規定がありますが、主要な法律の規定は以下のとおりです。

1 電波法関係

 無線局は、原則、免許状に記載された目的又は通信の相手方若しくは通信事項の範囲を超えて運用できません。(電波法第52条)
ただし、非常通信は行うことができることとなっています。(電波法第52条第4号)
 総務大臣は、非常の場合においては、人命の救助や災害の救援等に必要な通信を無線局に行わせることができます。(電波法第74条第1項)
 なお、総務大臣には、非常の場合の通信を円滑に実施するために必要な体制を整備する必要があります。(電波法第74条の2)
 非常通信協議会は、これらの体制を整備することを目的として組織され、「非常通信規約」、「非常通信運用細則」等を定め、非常通信の取扱について取り決めています。

2 有線電気通信法関係

 総務大臣は、非常の場合は、有線電気通信設備を設置した者に対して、災害の予防、救援等に必要な通信を行い、又はこれらの通信を行うため、その有線電気通信設備を他の者に使用させ、若しくはこれを他の有線電気通信設備に接続すべきことを命ずることができます。(有線電気通信法第8条)

3 電気通信事業法関係

 電気通信事業者は、非常の場合は、災害の予防、救援等に必要な通信を優先的に取り扱わなければなりません。(電気通信事業法第8条)

4 災害対策基本法関係

 都道府県知事又は市町村長は、災害に関する通信が緊急を要するものである場合において、電気通信事業者の電気通信設備を優先的に利用し、若しくは警察事務、消防事務、水防事務等を行う者が設置する有線電気通信設備若しくは無線設備を使用し、又は放送事業者に放送を行うことを求めることができます。(災害対策基本法第57条)

5 消防組織法関係

 消防庁及び地方公共団体は、消防事務のために警察通信施設を使用することができます。(消防組織法第41条)

6 災害救助法関係

 厚生労働大臣、都道府県知事又は都道府県知事から職権の一部を委任された市町村長等は、非常災害が発生し、現に応急的な救助を行う必要がある場合には、電気通信事業者の電気通信設備を優先的に利用し、又は警察事務、消防事務、水防事務等を行う者が設置する有線電気通信設備若しくは無線設備を使用することができます。(災害救助法第28条)

7 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(以下「国民保護法」という。)

 電気通信事業者である指定公共機関及び指定地方公共機関は、武力攻撃事態等において、自ら定めた国民の保護に関する業務計画に基づき、通信を確保し、及び国民の保護のための措置の実施に必要な通信を優先的に取り扱うため必要な措置を講じなければなりません。(国民保護法第135条第2項)
 指定行政機関の長若しくは指定地方行政機関の長又は地方公共団体の長は、国民の保護のための措置の実施に必要な通信のため緊急かつ特別に必要があるときは、電気通信事業者の電気通信設備を優先的に利用し、又は有線電気通信法に掲げる者が設置する有線電気通信設備若しくは無線設備を使用することができます。(国民保護法第156条)

8 その他

1〜7以外の非常通信の取扱いとして下記のものがあります。

水防上緊急を要する通信のための事業用電気通信設備の優先的利用等(水防法第27条第2項)
気象庁による津波・高潮等の警報事項の通知義務(気象業務法第15条)
防衛出動を命じられた自衛隊の電気通信設備の優先的利用等(自衛隊法第104条)

2 非常通信協議会

(1) 非常通信協議会とは

 非常通信の円滑な運用を図るには、平素から非常通信計画の策定、通信訓練の実施、その他非常通信に関する周知・啓発に取り組むことが重要です。
 このために、非常通信協議会は昭和26年(1951年)7月に設立されました。
 非常通信協議会は、設立当初、電波法第74条第1項に規定する非常の場合の無線通信の円滑な運用を図ることを目的に「非常無線通信協議会」として活動してきましたが、平成7年(1995年)1月17日の阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、無線通信だけでなく有線通信も含めた非常時の通信全般を取り入れ、平成7年(1995年)4月に名称を非常通信協議会に変更して活動を続けております。

(2) 非常通信協議会の構成

 総務省が中心となり、消防庁、内閣府、警察庁、防衛省、国土交通省、気象庁、海上保安庁、日本放送協会、都道府県、市町村その他主要な電気通信事業者及び無線局の免許人等、非常通信に関係の深い者によって構成されています。

非常通信協議会の構成
中央非常通信協議会
約40機関
地方非常通信協議会
事務局数:11箇所
構成機関:約1,680機関
地区非常通信協議会等
(注意)事務局数:11箇所
構成機関数:約340機関

(注意)四国地方の場合、地区非常通信協議会的組織として、徳島、香川、愛媛、高知県非常通信協議会があり、県が事務局となり活動しています。

(3) 主な活動内容

 非常通信協議会では、非常時における通信の円滑な実施を確保するため、以下の活動をおこなっています。

1 非常通信計画の策定

 非常時にも円滑な通信が行えるよう非常通信計画を策定しています。

2 非常通信訓練の実施

 災害発生後の公衆回線や消防防災無線の輻輳、商用電源の停電等により、被災想定地と非常本部等(「非常災害対策本部又は緊急災害対策本部」をいう。以下同じ。)間の情報伝達が行えない場合を想定し、非常用電源の使用や非常通信協議会構成員の保有する回線を活用し、被害情報等の重要な情報を伝達する実践的な非常通信訓練を実施しています。
 具体的には、次のような訓練を実施しています。

ア 全国非常通信訓練
中央非常通信協議会が実施期間を定めて地方及び地区非常通信協議会と連携して全国で行う訓練を実施しています。
イ 総合防災訓練における非常通信訓練
防災の日(9月1日)に行う中央防災会議主催の総合防災訓練に参加して実施する非常通信訓練で、昭和57年(1982年)から毎年参加し実施しています。
ウ 各地方又は地区非常通信協議会が独自に行う通信訓練
各地方又は地区非常通信協議会ごとに適宜日時等を定めて実施しています。

3 非常通信の取扱要請

 非常通信協議会は、非常通信規約第5条の3で、構成員等から非常通信の確保の協力を求められた場合やその他非常通信の取扱要請を行うことが必要な場合は、構成員に対して非常通信の取扱要請をおこなえるよう規定しています。

ア 要請会議
 非常通信規約第5条の2で、非常通信の取扱い要請は、非常通信協議会内に設置した合議機関「要請会議」が行うよう規定しています。
 ただし、同会議で協議する時間的余裕がない場合は、中央非常通信協議会会則第8条の4で、要請会議議長が自ら要請を行うことができます。
イ 要請の性格
 非常通信協議会の行う非常通信の取扱い要請は、構成員の協力を前提としておこなっています。

4 非常通信実施体制の総点検

 非常時における通信・放送の確保のため、各地方又は地区非常通信協議会ごとに「一斉点検の日」を設定し、無線局の設備、運用体制等について総点検を実施しています。

5 表彰の実施

 非常通信の一層の普及・啓発をはかることを目的として、非常通信の実施について特に功績のあった者、又は非常通信協議会の運営について特に功績のあった者に対し、表彰を実施しています。

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