
― 地域への住民参加を考える上で、千代田区におけるポイントは何でしょうか?
石川雅己千代田区長(以下、石川)
千代田区の場合、何を考えるにも、昼間区民(法人企業も含めて)との関係を抜きにして区政というものは意味を持たないですね。災害、安全・安心、産業振興でも、区民だけ対象にしても駄目で、当然、昼間区民との関わりを持って共に生きていきましょうということを考えなければならないのが千代田区です。いざ災害が発生すれば60万人と言われる帰宅困難者が出るわけですが、そうなるともう区民だけの話ではなく、地域社会を考えるときに、昼間区民と定住人口とが、お互いに関係が無いと言っていては困るわけです。
またビジネスマンの方なども1日24時間のうち半分以上は何らかの形で千代田区で生活をしているわけですから、そこをきちんと考えなくてはいけません。その意味で、ICTというのは昼間区民の参加の大きなツールになると思います。
― 昼間区民との関わりが重要ということでしょうか?
石川 私は、2期目の任期にあたり、「共生」を区政運営の基本理念に掲げました。共生というのは、当然、意見の違いや価値観の違いがあって、そういうお互いの違いを乗り越えて生きていくものです。私は、21世紀の社会の中で、この千代田区というところはそういう観点から、壮大な実験をする場だと思っています。ICTという言葉には、真ん中にコミュニケーションという言葉が入っているわけですから、ITでは一方通行的な部分があるけれども、ICTならば昼間区民と定住区民とをつなぐツールとして、昼間区民と夜間区民の共生を実現する上で、いろんな形で政策的に使えるものだと思います。
― 夜間住民についてはどうでしょうか?
石川 区民の居住形態の8割がマンション住まいです。隣近所との関係を構築したくない、と考えるのがいわゆるマンション定住者の方々の考え方なのですが、それでは地域の絆というものが生まれません。いかにマンション族の方々と、区政情報も含めて、双方向コミュニケーションが取れるのか、ということが地域課題として取り上げられており、そういう面でもICTは、いろいろな仕掛けができるのではないかと思いますし、今回の実証実験でもいろいろと考えていければと思います。
― コミュニティがこれからの地域づくりの鍵になりそうですね。
石川 質の高い地域社会をつくるのはコミュニティで、そこをどうつくっていくか、ですよ。大都市になると、「遠くの親類より近くの他人」なんです。災害もそうです。それが質の高い地域社会や国民生活をつくることになると思います。
また横の連携ということで言えば、行政同士の姉妹提携というのは、もう古いんですよ。役人が行き来したところで何の役にも立たないですよ。問題は市民同士の絆というところでしょう。
― 最後に。
石川 最終的には、機械によるコミュニケーションというのは、あくまでもFace To Faceに結びつけるための手段であって、人のつながりや絆をつくるための一つの手段だと思っています。ICTというものも、やはり人と人との絆をつくる手段だと思いますし、そういうことが実現できる社会になればいいと思います。
― 今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。
(本稿は2005年9月21日、千代田区役所にて、石川雅己千代田区長、総務省 牧情報政策企画官、防災科学技術研究所 長坂主任研究員で行った対談をもとに作成しました。)
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