地方税の意義と役割

地方税の意義

 皆さんの身の周りの上下水道やゴミ収集、警察、消防などの活動は、都道府県や市町村などの地方団体が担っています。そして、その活動は住民である皆さんが納める「地方税」により運営されています。

 地方税とは、住民生活に欠かせない様々な行政サービスにかかる費用を、皆さんで分かち合いながら負担するものなのです。

※地方団体とは、都道府県や市町村を指します。地方税法では「地方団体」という語句が使われているため、このページでも地方団体という語句を使って説明します。地方税法については、下記のコラム「地方団体の課税権」で説明します。

地方税の役割

 それでは、具体的に地方税が何に使われるのかを見ながら、その役割について説明していきます。

 まず、地方団体はどのようなところから収入を得ているのでしょうか。

 下図のグラフは、都道府県や市町村の歳入を項目ごとに合計し、積み上げたものです。2023(令和5)年度の地方団体(都道府県および市町村)の歳入の合計は約128兆円であり、そのうち地方税による収入は合わせて約45兆円となっています。残りは地方交付税や国庫支出金などの移転財源(国から地方に移される財源)などで賄われています。

 なお、一般財源とは、使い道が限定されておらず、地方団体が自由に使うことのできる財源のことです。これに対し、国庫支出金や都道府県支出金などは国や都道府県によって使い道が決められています。

PDFが開きます。令和5年度歳入決算額の内訳(単位は兆円)

都道府県歳入決算額
地方税 23.37
地方譲与税 2.32
地方特例交付金等及び市町村たばこ税都道府県交付金 0.07
地方交付税 9.70
国庫支出金 7.86
地方債 4.34
その他 10.82
一般財源 35.47
歳入合計 58.49

市町村歳入決算額
地方税 21.25
地方譲与税 0.45
地方特例交付金等 0.14
地方交付税 9.31
各種交付金 3.98
国庫支出金 13.21
都道府県支出金 4.80
地方債 4.32
その他 11.81
一般財源 35.14
歳入合計 69.29

 次に、地方団体が何にお金を使っているのかを歳出の面から確認します。

 下図は、2023(令和5)年度決算をもとに都道府県と市町村の歳出をグラフ化したものです。

PDFが開きます。令和5年度歳出決算額の目的別内訳(単位は兆円)
都道府県歳出決算額
総務費 3.82
民生費 9.40
衛生費 2.88
労働費 0.18
農林水産業費 2.46
商工費 6.14
土木費 6.11
警察費 3.34
教育費 9.75
災害復旧費 0.34
公債費 6.66
その他 5.55
歳出合計 56.65

市町村歳出決算額
総務費 8.35
民生費 25.88
衛生費 5.93
農林水産業費 1.37
商工費 2.33
土木費 6.48
消防費 1.95
教育費 8.13
災害復旧費 0.27
公債費 5.64
その他 0.53
歳出合計 66.86

 それぞれの項目を見てみましょう。総務費・民生費・土木費・教育費などは都道府県と市町村で共通しています。一方で、都道府県の警察費や市町村の消防費など、片方にしかない項目もあります。このことから、警察行政は都道府県が、消防行政は市町村が担っていることがグラフから読み取れます。このように、都道府県と市町村、さらに国は、それぞれ事務を分担しながら住民に行政サービスを提供しています。

PDFが開きます。国と地方との行政事務の分担
公共資本については、国が高速自動車道、国道、一級河川の事務を担い、都道府県が国管理以外の国道、都道府県道、国管理以外の一級河川、二級河川、港湾、公営住宅、市街化区域・調整区域決定の事務を担い、市町村は都市計画等(用途地域・都市施設)、市町村道、準用河川、港湾、公営住宅、下水道の事務を担っています。
教育については、国が大学、大学の私学助成の事務を担い、都道府県が高等学校・特別支援学校、小・中学校教員の給与・人事、幼稚園〜高校の私学助成、公立学校(特定の県)の事務を担い、市町村は小・中学校、幼稚園の事務を担っています。
福祉については、国が社会保険、医師等免許、医薬品許可免許の事務を担い、都道府県が町村区域の生活保護、児童福祉、保健所の事務を担い、市町村が市の区域の生活保護、児童福祉、国民健康保険、介護保険、上水道、ごみ・し尿処理、保健所(特定の市)の事務を担っています。
その他の事務に関して、国は防衛、外交、通貨の事務を担い、都道府県は警察や職業訓練の事務を担い、市町村は戸籍、住民基本台帳、消防の事務を担っています。

 まとめると、警察・消防や衛生(上下水道、ごみ処理)、教育をはじめとした住民に密接に関わる業務の多くを地方団体が担っており、このような、皆さんの住民生活を支える行政サービスの提供に必要な財源として地方税があるということです。

地方税の原則

 地方税は、地方団体が地域の実情に即した行政サービスを提供するために必要な経費を賄うものであり、以下のような5つのがあるとされています。しかし、安定性や普遍性については一定の偏りが生じてしまうものであり、制度を工夫することよって緩和や再分配を促し、偏りが少なくなるように努めています。

(1) 応益性の原則
 地方団体は行政サービスの提供を主な役割としており、地域に暮らす皆さんは何らかの形でその利益を受けています。そのため、受けた利益に応じた税負担になることが求められます。
(2) 安定性の原則
 行政サービスの内容と経費は年度ごとに大きく増減するものではないため、景気変動に左右されず、安定して税収を確保できることが求められます。
(3) 普遍性の原則
  すべての地方団体は一定水準の行政サービスを提供することが求められるため、その財源である税収がどの地方団体にも偏りなく存在することが求められます。
(4) 負担分任の原則
 地方税は地域に住む住民が共同体の運営のための負担を分かち合うという「地域の会費」的な性格を持つことが求められます。
(5) 自主性の原則
 地方団体が自らの判断と責任において課税権を行使することが求められます。これは「課税自主権」の尊重という形で確保がされていますが、この内容ついては「地方団体の自主性」の項目で紹介します。
コラム 「地方団体の課税権」
  

近代国家において課税権には議会を通した国民の同意が必要とされます。これを租税法律主義と呼び、日本国憲法で定められています。

 そもそも地方団体は、憲法において、民主主義の下で自主的に運営されていくべきことが定められており、その運営のための財源も当然自立的に調達されるべきであるとされています。

 地方税については、地方自治法や地方税法により地方団体の課税権が保障されていますが、同時に、地方税法において地方団体が税を課すには、税目(租税の名称)や課税客体(税を課す対象)、課税標準(税額を計算する上での基準)、税率などについて条例で定めなければならないとされています。つまり、地方団体が課税をするためには、地方議会の議決を通じて住民の同意を得る必要があり、総務省が地方税法を改正した場合に、自動的に各地方団体の地方税制が改正される、というわけではないのです。これは租税法律主義に倣って、地方税条例主義と呼ばれることがあります。

○日本国憲法

第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

○地方自治法

第223条 普通地方公共団体は、法律の定めるところにより、地方税を賦課徴収することができる。

○地方税法

第2条 地方団体は、この法律の定めるところによつて、地方税を賦課徴収することができる。

第3条 地方団体は、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定をするには、当該地方団体の条例によらなければならない。

2 地方団体の長は、前項の条例の実施のための手続その他その施行について必要な事項を規則で定めることができる。

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