地方税の意義と役割

地方税の意義

 皆さんの身の周りの上下水道やゴミ収集、警察、消防などの活動は、皆さんが住む都道府県や市町村などの地方団体が担っています。そして、その活動は住民である皆さんが納める「地方税」により運営されています。

 地方税とは、皆さんの住民生活に欠かせない様々な行政サービスにかかる費用を、皆さんで分かち合いながら負担するものなのです。

地方税の役割

 それでは、具体的に地方税が何に使われるのかを見ながら、その役割について説明していきます。

 まず、地方財政の歳入について簡単に確認します。

 下図のグラフは、都道府県や市町村の歳入を項目ごとに合計し、積み上げたものです。2021(令和3)年度の地方団体の歳入の合計は100兆円を超えており、そのうち地方税による収入は合わせて約42兆円となっています。残りは地方交付税や国庫支出金などの移転財源(国から地方に移される財源)などで賄われています。

PDFが開きます。令和3年度歳入決算額の内訳(単位は兆円)

都道府県歳入決算額
地方税 22.20
地方譲与税 2.00
地方特例交付金等及び市町村たばこ税都道府県交付金 0.10
地方交付税 10.21
国庫支出金 16.18
地方債 6.54
その他 11.09
一般財源 34.51
歳入合計 68.32

市町村歳入決算額
地方税 20.21
地方譲与税 0.45
地方特例交付金等 0.36
地方交付税 9.29
各種交付金 3.80
国庫支出金 15.84
都道府県支出金 4.60
地方債 5.23
その他 10.73
一般財源 34.10
歳入合計 70.50

 次に、地方団体が何にお金を使っているのかを歳出の面から確認します。

 下図は、2021(令和3)年度決算をもとに都道府県と市町村の歳出をグラフ化したものです。

PDFが開きます。令和3年度歳出決算額の目的別内訳(単位は兆円)
都道府県歳出決算額
総務費 4.50
民生費 9.34
衛生費 5.17
労働費 0.19
農林水産費 2.44
商工費 12.11
土木費 6.31
警察費 3.29
教育費 10.27
災害復旧費 0.44
公債費 7.04
その他 5.23
歳出合計 66.32

市町村歳出決算額
総務費 8.55
民生費 25.56
衛生費 6.52
農林水産費 1.34
商工費 3.02
土木費 6.55
消防費 1.86
教育費 7.67
災害復旧費 0.34
公債費 5.65
その他 0.53
歳出合計 67.58

 それぞれの項目を見てみましょう。総務費・民生費・土木費・教育費など共通する項目が並ぶ一方で、一方にはない項目もあります。都道府県の警察費と市町村の消防費です。つまり、警察行政は都道府県が、消防行政は市町村が担っていることがグラフから読み取れます。このように、都道府県と市町村、さらに国は、それぞれ事務を分担しながら住民に行政サービスを提供しています。

PDFが開きます。国と地方との行政事務の分担
公共資本については、国が高速自動車道、国道、一級河川の事務を担い、都道府県が国管理以外の国道、都道府県道、国管理以外の一級河川、二級河川、港湾、公営住宅、市街化区域・調整区域決定の事務を担い、市町村は都市計画等(用途地域・都市施設)、市町村道、準用河川、港湾、公営住宅、下水道の事務を担っています。
教育については、国が大学、大学の私学助成の事務を担い、都道府県が高等学校・特別支援学校、小・中学校教員の給与・人事、幼稚園〜高校の私学助成、公立学校(特定の県)の事務を担い、市町村は小・中学校、幼稚園の事務を担っています。
福祉については、国が社会保険、医師等免許、医薬品許可免許の事務を担い、都道府県が町村区域の生活保護、児童福祉、保健所の事務を担い、市町村が市の区域の生活保護、児童福祉、国民健康保険、介護保険、上水道、ごみ・し尿処理、保健所(特定の市)の事務を担っています。
その他の事務に関して、国は防衛、外交、通過等の事務を担い、都道府県は警察や職業訓練の事務を担い、市町村は戸籍、住民基本台帳、消防に関する事務を担っています。

 まとめると、警察・消防や衛生(上下水道、ごみ処理)、教育をはじめとした住民に密接に関わる業務の多くを地方団体が担っており、皆さんの住民生活を支える行政サービスの提供に必要な財源として地方税があるということです。

地方税の原則

地方税は、地方団体が地域の実情に即した行政サービスを提供するために必要な経費を賄うものであり、地域住民がその能力と受益に応じて負担し合うものという性格から、地方税には、特に以下のような原則があるとされています。

 1つ目が「応益性の原則」です。地方団体は行政サービスの提供を主な役割としており、地域に暮らす皆さんは何らかの形でその利益を受けています。そのため受けた利益に応じた税負担をするべきであるとされています。

 次に住民への行政サービスとその行政サービスに必要な経費は年度ごとに大きく増減するものではないため、 地方税は景気変動に左右されず、安定して税収を確保できることが求められます。これを「安定性の原則」といいます。

 そして、すべての地方団体は一定水準の行政サービスを提供することが求められるため、その財源である税収が地域的に偏在することなく、どの地方団体にも普遍的に存在することが求められます。これを「普遍性の原則」といいます。

 一方で、安定性や普遍性については、現実の税制では一定の偏りが生じ得るものであり、これを制度上の工夫によって緩和や再分配を促し、その是正に努めています。

 さらに、地方税には、地域に住む住民が共同体の運営のための負担を分かち合うという「地域の会費」的な性格を持つものであるとされています。これは「負担分任の原則」といいます。

 最後に、地方団体が自らの判断と責任において課税権を行使することが求められます。これは「自主性の原則」といい、「課税自主権」の尊重という形で確保がされています。地方団体が地方税制において有する自主性については「地方団体の自主性」の項で紹介します。

コラム1 地方団体の課税権
 近代国家において課税権には議会を通した国民の同意が必要とされます。これを租税法律主義と呼び、日本国憲法に根拠規定があります。

 そもそも地方団体は、憲法において、民主主義の下で自主的に運営されていくべきことが定められており、その運営のための財源も当然自立的に調達されるべきであるとされています。

 地方税については、地方自治法や地方税法により地方団体の課税権が保障されていますが、同時に、地方税法において地方団体が税を課すには、税目(租税の名称)や課税客体(税を課す対象)、課税標準(税額を計算する上での基準)、税率などについて条例で定めなければならないとされています。つまり、地方団体が課税をするためには、地方議会の議決を通じて住民の同意を得る必要があり、総務省が所管する地方税法を改正したことにより当然に各地方団体の地方税制が改正される、というわけではないのです。これは租税法律主義に倣って、地方税条例主義と呼ばれることがあります。

○日本国憲法

第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

○地方自治法

第223条 普通地方公共団体は、法律の定めるところにより、地方税を賦課徴収することができる。

○地方税法

第2条 地方団体は、この法律の定めるところによつて、地方税を賦課徴収することができる。

第3条 地方団体は、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定をするには、当該地方団体の条例によらなければならない。

2 地方団体の長は、前項の条例の実施のための手続その他その施行について必要な事項を規則で定めることができる。

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