地方消費税

 今まで見てきたいくつかの地方法人課税は、地域社会の構成員として幅広く費用を負担してもらう側面がありました。しかし均等割や外形標準課税導入前の地方法人課税は景気変動によって納める税金の額が変わってきてしまい、全国どこにいても、そしてどんなときも一定水準の行政サービスを提供しなければならない地方団体としては少し不安がありました。そこで消費一般に対して広く公平に負担を求める税で、比較的景気の影響を受けにくく、また税源の偏りが小さい地方消費税が創設されました。現在では、地方行政サービスを支える最も重要な税目の1つとして大きな役割を果たしています。

コラム モノの消費・利用に対する税の歴史
〜消費税が創設される前にはどんな税があったのか〜

 1989(昭和63)年度に消費税が導入されるまで、いろいろな品目に課税されていました。いくつかは存続していますが、ここでは消費税導入に伴って廃止された税目を見てみましょう。

【モノの消費に対する課税】
  • 物品税(国税):生活必需品以外のいわゆるぜいたく品や、趣味・娯楽品にかけられていた税(例:ゴルフ用品、ジュエリー、車など)
  • 砂糖消費税(国税):1901(明治34)年から、色の違いによって異なった税率がかけられていた(税率は黒糖<上白糖)
  • トランプ類税(国税):1957(昭和32)年に導入された、ギャンブル性の 高いカードゲーム類にかけられた税(例:トランプ、花札、麻雀牌など)
【モノの利用に対する課税】
  • 通行税(国税):日露戦争の戦費調達を端緒とする税で、移動距離に応じて区分されていた(例:電車、バス、航空機などの利用)
  • 入場税(国税):演芸やスポーツ、競馬場などの入場料金に課された税(例:映画館、競馬場などへの入場)
  • 娯楽施設利用税(地方税):入場税のうち一部施設の利用に課された税(例:ゴルフ場、ボウリング場などの利用)
    →「ゴルフ場利用税」として、ゴルフ場の利用については課税が存続
  • 電気税(地方税):電気料金に対して5%の税率がかけられていた
  • ガス税(地方税):ガス料金に対して2%の税率がかけられていた

地方消費税創設までの経緯

1977(昭和52)年度〜:一般消費税構想

 消費税が創設される前の日本では、所得税や個人住民税など、収入の多い人が多く税金を納める仕組みの税目が税収の多くを占めていました。しかし、当時オイルショックをきっかけに税収が落ち込む一方、ますます増大する社会保障費などの財源を賄うためにも、財政赤字の解消が大きな課題でした。すると今までの税目の税率を上げることが税収確保のためにまず考えられますが、すでにかなりの傾斜がかけられている所得税や個人住民税を操作するのは限界でした。むしろ、所得税・個人住民税については、かねてから給与所得者の間で重税感と不公平感が強く、その改革と減税が課題とされていました。そうして広く薄く公平に負担を求めるような新しい税を導入することが検討されました。そこで注目されたのは、皆さんが普段一般的に行っている「モノを買う(消費する)」ことでした。

1988(昭和63)年度〜:消費税・消費譲与税の導入<1989(平成元)年4月施行>

 1977(昭和52)年度の一般消費税構想から、どのように課税するのかなど細かな話を議論してきました。現在の形である多段階課税、つまりはお店の商品の売上げに課税をし、それを価格に上乗せをして最終的に私たちが負担をするという形で消費税が創設されました。また同時に議論の中で地方の財源を充実させなければならないという意見もあり、消費譲与税という形で一部(消費税収の20%)を地方財源として配分することになりました。

<多段階課税のイメージ>
多段階課税について、ビールが消費者に届くまでの工程を例に説明します。麦の生産者が、加工業者に100円で卸し、加工会社が、生産したビールを小売業者に250円で卸し、小売業者が、我々消費者に300円で販売したとします。このとき、麦の生産者は100円かける8%で8円を、加工業者は250円かける10%の25円から8円を引いた17円を、小売業者は300円かける10%の30円から25円を引いた5円をそれぞれ納税することになります。

1993(平成5)年度〜:地方消費税の導入<1997(平成9)年4月施行>

 1989(平成元)年の消費税の導入のときに、地方財源の確保の方法として地方消費税ではなく消費譲与税という形がとられたのはいくつか理由がありました。それは制度が複雑になってしまうこと、そして納税義務者等の事務負担が多くなってしまうということでした。しかし来る少子高齢化時代に向けて、地方団体の自主財源を新たに確保して地域福祉を充実させる必要にも迫られていました。また、税制全体が所得から消費へとシフトしていく中で、当時国税以上に間接税に対する直接税の比率が高かった地方税において、財政運営の安定化を図る上でも、バランスのとれたタックス・ミックスを構築する必要もありました。そこで1997(平成9)年に地方分権の推進、地方財源の確保による地域福祉の充実などのために、消費譲与税に代えて地方消費税が創設されました。なお、消費税は国に、地方消費税は都道府県に申告・納付することになると、手続が煩雑になるおそれもあり、納税義務者の事務負担に配慮するなどの観点から、当分の間は、国が消費税と地方消費税を併せて賦課徴収することとされました。

地方消費税の清算

 現在の地方消費税制度は、買い物を通して私たち(消費者)が税金を負担し、お店が私たち(消費者)から預かった税金を国を通じて地方団体に納めるという形になっています。このように税金を負担している人と納める人が違う税を間接税といいます。そうすると、例えば自分の住む都道府県にあるお店で、別の都道府県で生産された商品を買った場合、自分たちが払った税金の一部は自分の都道府県には入らなくなってしまいます。しかし本来は、最終消費地である自分の都道府県の税収とされるべきものです。これでは地方財源の確保や地方福祉の充実のために創設された地方消費税の意図に反してしまいます。そのために都道府県ごとの消費に関する統計データなどを基準として、お互いの税収を調整する清算制度があります。

<清算のイメージ>
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地方消費税の清算について説明します。東京都に本社がある鳥取県の缶詰工場が、岡山のスーパーに3,000円で缶詰を卸し、岡山のスーパーが岡山県在住の消費者に4,000円で販売したとします。地方消費税率を1.76%とすると、多段階課税の例から、缶詰工場の東京本社は、3,000円かける1.76%で53円を東京都に、岡山県のスーパーは4,000円かける1.76%の70円から53円を引いた17円を岡山県に、それぞれ納めます。そして、東京都は、缶詰工場の東京本社から納められた53円を岡山県に払い込むことで、地方消費税を最終消費地に帰属させています。 (注1)実際には、国の消費税分を合わせた8%がそれぞれの段階で申告納付される (注2)1.76%は、軽減税率適用時の率(8%*22/100)

市町村への交付

 地方消費税が創設された際、個人住民税の減税と消費譲与税の廃止が行われましたが国としてはこれに伴う市町村の財源不足を補填する必要があり、地方消費税の2分の1を市町村に交付することとしました。この市町村への交付金は、国や都道府県とともに社会保障の担い手となる市町村の安定的な財源を確保するうえで大きな役割を果たしています。

 なお、市町村ごとの消費に関する統計データが存在しないことを踏まえ、その代わりに、人口や従業者数のデータを基準に配分しています。(次に述べる引上げ分は人口のみ)

社会保障・税一体改革(引上げ分の地方消費税収の使途の明確化)

 日本では1989(平成元)年に最初3%で消費税が導入されてから、1997(平成9)年に5%、2014(平成26)年に8%、そして2019(令和元)年10月から10%と税率が引き上げられてきました。そのうち地方消費税は1997(平成9)年に1%で導入され、2014(平成26)年には1.7%、そして2019(令和元)年10月には2.2%に引き上げられました。近年日本は急速な少子高齢化に伴い、国の歳出に占める社会保障関係費の割合が増加しています。それを受けて2014(平成26)年からの引上げ分はすべて社会保障に関する施策の経費に使うことを約束して税率を上げることにしました。これが社会保障・税一体改革です。ここでいう社会保障とは、従来高齢者向けと言われてきた医療・介護だけでなく、子育て支援や教育無償化を拡充するなど、全世代に向けられています。

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消費税率が5%の時には、消費税収5%から地方分2.18%を引いた国分2.82%は、高齢者3経費と呼ばれる、基礎年金、老人医療、介護に充てられていました。消費税率の10%への引上げに際して、消費税収10%から地方分3.72%を引いた国分6.28%は、社会保障4経費と呼ばれる年金、医療、介護、少子化対策に充てられることになり、地方分3.72%のうち引上げ分1.54%は、全て社会保障財源に充てられることになりました。

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