主催者挨拶の後、講師の中尾氏より、人類のライフラインとして重要な社会インフラを支える情報通信技術について、次のようなご講演をいただきました。
「次世代サイバーインフラ」は我々が作った造語ですが、「サイバー」すなわちコンピューターやネットワークに関するインフラということで、人類のライフラインを構成し、ひいては国家の命運を左右するもしれない、非常に重要な社会インフラと考えています。必要な技術としては、大容量・超低遅延・超多数接続に加えて、低消費電力、安全性、拡張性(宇宙・海洋)、自律性(機械学習・AI)などが挙げられ、そうした技術によって「超臨場感通信」「国土通信カバレージ100%」「安全・安心な地域社会」「AIによる堅牢なライフラインの構築」といった価値の創造を国際連携により実現していくことが必要と考えています。
5Gから次の世代のBeyond5G/6Gに向けては、低遅延・省電力・拡張カバレージ・ソフトウェア化の4つが重要になると考えており、そのために、オールフォトニックネットワーク、宇宙利用(NTN)、OpenRAN、AIによる障害検知・低電力化・トラフィック制御、新たな周波数の利用、ローカル5Gによる自営網の発展、ソフトウェア化によるインフラの構築などが重要な方向性と考えています。特に、AIを駆使してグローバル規模でモバイルネットワークを性能向上させ、消費電力の削減、既存のインフラの改善、産学連携による新たなビジネス機会の創出などを目指しています。
そのような状況の中、情報通信と情報科学(特にAI)の融合分野の人材育成が急務であると考えており、学会の整備や産学連携、アカデミアの国際連携の推進など様々な取組を行っています。
さて、ローカル5Gとは、一言で言うと誰でも専用の5Gを整備可能ということで、個別のニーズに応じて柔軟に構築することができ、ユースケースを民主的に開拓するために非常に有効な制度であると考えています。また、通信事業者のエリア展開がすぐに進まない地域でも5Gシステムを構築・利用でき、非常に良いツールであると認識しています。
その普及展開のためには、免許等の規制緩和による整備の容易性向上、端末や基地局の低廉化、ユースケース拡大が必要であり、特にユースケースの拡大については、「どのようにローカル5Gを使うべきか」について人々の理解を進めるために、成功事例(グッドプラクティス)を作るための投資と情報共有が必要と考えています。
また、政府、インフラ事業者、サービス事業者等の全ステークホルダーが普及に取り組むべきであり、例えば政府はローカル5Gの海上利用に係る法的整備、我々は官民共同の「ローカル5G普及研究会」や、基地局筐体の商品化などを行っています。
グッドプラクティスとしては、八丈島空港でのアバターロボットの実証実験で、Wi-Fiや4Gと比較して複数体同時接続を低遅延かつ安定して行えるという結果が得られました。また、衛星通信と組み合わせて、富士山の斜面を走行できるバギーに基地局を搭載してリアルタイムの情報伝達システムを構築し、被災時の救出活動や避難誘導に活用するなど、様々な実証実験を行っています。
これらの「次世代サイバーインフラ」の研究開発は、産学官民すべてのステークホルダーを国際的に巻き込んで実現していくと同時に、ユーザーを早期に取り込んでいくことが必要です。また、将来の情報通信を支える若手の人材育成が非常に重要ですので、通信の重要性を学生に訴えつつ講義を行い、精力的に研究に取り組んでいきたいと考えています。
講演終了後には、聴講者から「Beyond5G/6Gの社会実装に向けて、日本が国際的に先頭を切るためには何が必要でしょうか」等の質問があり、中尾氏から「インフラ投資を加速させるために、ユースケースを開拓し、Beyond5G/6Gの重要性が認められることが必要です。ただ、世界と比較して早い遅いではなく、国際連携によって最終的に日本のインフラ整備がしっかり行われることが重要であると考えています。」とご回答をいただきました。
聴講者からは、「実証実験や研究など、次世代通信の使い方について展望を見せてくれる良い講演でした」、「ローカル5GとNTNの活用など、まさにこれから取り組みたい内容のお話が聞けて良かった」他、多くの感想が寄せられました。
関東総合通信局では、引き続き、関東情報通信協力会との共催により、ICTに関連した様々なテーマによる講演会やセミナーなどの企画を行って参ります。