主催者挨拶の後、講師の大槻氏より、人工知能(AI)を活用したスマートヘルスケアの最新技術について、次のようなご講演をいただきました。
ヘルスケアにはさまざまなものがあるが、高齢化社会における見守り、例えば転倒等の異常検知や、睡眠状態・ストレスのモニタリングなどが注目されている。その際、呼吸、心拍、血圧、体温といった「生体信号」は非常に重要な情報であり、どのように検出するのかが課題である。
心拍は、自律神経系といくつかのホルモンの影響を受けて変動しており、ストレスを測る指標としても活用されている。
この心拍の検出方法は、現在、様々な技術が開発されていて、例えばスマートウォッチなどに搭載されているPPGセンサー(光を出して血液の成分の反射を見る技術)や、カメラ、レーダーを用いたものがある。レーダーはカメラと違い映像が必要ないためプライバシーに配慮でき、また非接触で検出できるという大きな利点があるが、ノイズがある中で微小な信号をどう検出するかという課題がある。
そこで着目されているのがAI技術である。AIを活用することで心拍数の推定精度を飛躍的に向上させることや、ノイズが多いレーダー信号から心電図信号を高精度に再構成することができるようになってきている。
また血圧測定についても光やレーダーを活用した血圧推定技術が開発されており、ここでも深層学習が大きな役割を果たしている。例えば、多数の他人のデータから未だデータがない人の血圧を推定することも可能になってきている。
こういった非接触生体信号検出技術は、排泄予測、誤嚥、無呼吸症候群、睡眠障害、認知症、パーキンソン病など、幅広い分野での応用が期待されている。
次に、LiDARと呼ばれる技術について紹介する。これは、光を使って距離を測定するリモートセンシング方式で、自動運転にも欠かせない技術である。このLiDARと、先ほど紹介したレーダーを組み合わせることで、例えば転倒の検知に加えて心拍などの生体信号の高精度な検出など、より高度な行動検知や見守りシステムを構築することが可能になる。しかも、LiDARは顔などの個人情報を直接取得しないため、プライバシー保護の観点からも非常に有効である。
最後に、精神疾患の早期検出についてお話しする。精神疾患の判断は、現状では問診票の結果から医師が経験により診断を行っており、主観的かつブレが大きい傾向がある。そこで、精神疾患の患者に特徴的な言葉の使い方や会話の内容をAIで分析して判断する研究が進められており、我々も自然言語モデルを活用し早期検出ができるような技術の開発に取り組んでいる。会話の音声をそのまま用いるのに加えて、文字に起こしてAIに分析させたり、顔の画像から特徴を抽出してAIに判断させたり、表情解析から認知症を検出したりと様々なアプローチを試みており、特に日本では、精神科を受診することへの抵抗感が依然として強いため、このような技術による早期検出が非常に重要になると考える。
このように、AI・深層学習は、スマートヘルスケア分野においても非常に重要な役割を果たしている。大規模言語モデルもうまく活用しながら今後もスマートヘルス分野に貢献していきたい。
講演終了後には、聴講者から「見守り技術について、転倒した場合と自らがベッドに横たわる場合を区別して検出できますか。」等の質問があり、大槻教授から「通常の識別と比べて難しくはなります。しかし、センサーでは単に体が横になることを見ているわけではなく、例えば骨格の動き等を見ており、技術的にそれらを識別することは可能ですし、実際に我々の研究でも識別できております。」と御回答をいただきました。
本講演を聴講された方からは、「医療分野へのICT技術の活用について最新の情報が得られて極めて有用でした。」「AIを用いて、人の話す言葉や行動パターンから、認知症やうつ病の客観的判断ができるところにたいへん興味を持ちました。」他、多くの感想が寄せられました。
関東総合通信局では、引き続き、関東情報通信協力会との共催により、ICTに関連した様々なテーマによる講演会やセミナーなどの企画を行って参ります。