1. L5G制度の現状
中国にはL5Gという制度は存在しないが、プライベート5Gという概念はある。また現時点では、プライベート5G専用の周波数が割り当てられていないため、5G周波数を保有する通信事業者が主体となって、電力、鉱山、港といった法人に向けてのプライベート5G網の構築が進められている。
2020年8月に中国聯通が発表した「5G業界専用ネットワーク白書」1によれば、同社の進めているプライベート5G網は、仮想型、混合型及び専用型の三種類に分かれる。それぞれのネットワーク構成イメージ図は以下のとおりである。
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このうち、仮想型と専用型を適用する応用例は下表のとおりである。
タイプ別 | 業界 | 分野 | 主な応用例 | 遅延要求 | 公衆網への依存度 | セキュリティ要求 |
---|---|---|---|---|---|---|
仮想型 | 医療健康 | 院外 | 救急対応 | 中 | 中 | 高 |
院内 | 映像伝送、院内物資管理 | 高 | 中 | 高 | ||
病院間 | 遠隔診療・手術 | 低 | 中 | 高 | ||
金融 | 銀行 | AR補助眼鏡 | 高 | 中 | 高 | |
保険 | デジタル保険 | 低 | 中 | 高 | ||
教育 | オンライン教育 | 4Kインタラクティブ遠隔オンライン教育 | 中 | 低 | 中 | |
VR/AR教育 | VR/AR教育、AI教育及びキャンパススマート管理 | 中 | 低 | 中 | ||
文化 | 観光 | AR観光ガイド、遠隔ガイド | 中 | 低 | 中 | |
娯楽 | ライブ配信車、インタラクティブコンサート | 中 | 低 | 中 | ||
スポーツ | 遠隔観戦、スマートトレーディング | 低 | 低 | 中 | ||
公共安全 | 巡視 | 公安巡回ロボット、ARウェアラブル設備 | 中 | 高 | 中 | |
海上巡視 | 5Gドローン、無人船、水中ドローン | 中 | 低 | 中 | ||
交通巡視 | 巡視ドローン | 中 | 低 | 中 | ||
環境 | エネルギー | スマート電力発電 | 中 | 低 | 中 | |
メディア | ライブ | ライブプラットフォーム、軽量型ライブ中継車 | 高 | 低 | 中 | |
融合 メディア |
スマート融合メディアプラットフォーム、バーチャルスタジオ | 低 | 低 | 中 | ||
映画 | 5G 4K/8K動画、5G VR/AR動画 | 中 | 低 | 中 | ||
スマート交通 | 遠隔操縦 | 遠隔運転プラットフォーム、遠隔運転車 | 高 | 低 | 中 | |
スマート 運転 |
遠隔コントロール | 高 | 低 | 中 | ||
専用型 | 製造 | 鉱坑、油田の自動化/無人遠隔コントロール | 高感度工業コントロール | 高 | 高 | 高 |
大型精密製造 | 製造データの取集・コントロール、ハイレベルセキュリティ設備の接続 | 高 | 比較的高 | 高 | ||
軍隊 | 軍事利用 | 専用通信、ドローン等秘密保持アプリ | 中 | 高 | 高 | |
監獄 | スマート 監獄 |
保安巡視、専用通信 | 低 | 高 | 高 |
また、中国移動が2020年5月に発表した「5Gの業界プライベート網研究報告」においても、法人顧客のニーズに合わせ、混合型、仮想型及び専用型の3種類の5G網の構築案を示した。このうち、混合型の特徴として高性能及び高い独立性を持ち、港、工場、鉱山、医療などのローカルシーンでの利用に向いていること、仮想型の場合は、低コストで実現できることは強みで、工業拠点(パーク)や、ビルといった利用シーンのほか、IoV(車のインターネット)、ライブ配信、電力網、ドローンなどに適すること、専用型の場合は、専門性の高い工場や鉱山、民用航空通信のATG(Air-to-Ground)システムに適するとした2。
一方、中国電信は、2019年6月にメディア、医療、教育、金融、IoT、動画という六つの業界におけるプライベート5G網の開発を進めると表明した。
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2. L5Gの実装状況
(1) 現在の市場規模、将来の予測される市場規模
2020年末現在、計71万8,000か所の基地局が設置されており、このうちの約3割がプライベート網の基地局とされる。
(2) L5G振興に係る政府施策
工業・情報化部は2020年3月に5Gの発展スピードのさらなる加速を図る施策として、「5Gの発展加速の推進に関する通知」を発表し、5Gの建設ペースを加速する方針を打ち出した。その中では、5Gネットワークの構築の加速化はもちろん、特に5Gの利活用について、「5G+医療健康」や「5G+工業インターネット(Industrial Internet)」、「5G+自動運転」の促進なども明記されている。
中央政府の方針に呼応する形で、各地の地方政府も相次いで各種5G関連政策を公表し、2020年9月までに計460件に達した。内訳では、省レベルでは62件、市レベルでは228件、区・県レベルでは170件に及ぶ。これら政策の多くは基地局の構築、消費電力に対する補助金の拠出、ユースケースの利用促進に関するものであった。
一方、5Gプライベート網の構築促進に関する政策も複数発表されている。下表にその一部を示す。
発表時期 | 発表機関 | 政策名称 | 関連概要 |
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2020年2月 | 国家発展改革委員会、工業・情報化部、科学技術部、財務部など8部門 | 石炭鉱山におけるスマート化発展の加速に関する指導意見 | 2025年までに露天鉱山における運送の無人化を実現する目標を掲げ、そのための5Gプライベート網の構築を推進する |
2020年3月 | 工業・情報化部 | 5G加速発展の推進に関する通知 | 仮想型5Gプライベート網に関する研究・試験的利用に関する取組み、及び関連の標準・技術・応用・整備などのスムーズな実施を求める |
2020年3月 | 広東省工業・情報化庁、広東省通信監理局、広東省発展改革委員会など9部門 | 新型コロナウイルス感染の影響に対応した情報サービスと消費のさらなる促進に関する政策措置 |
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2020年6月 | 北京市経済・情報化局 | 新型インフラ建設の加速アクションプラン(2020-2022年) | 5Gプライベート網の建設強化に加え、冬季オリンピック会場といった特定利用シーンに対応した5Gプライベート網の構築・運営への民間資本の参入を推進する。 |
(3) L5Gサービス提供主体
① 中国移動
中国移動は2515-2675MHz帯(160MHz)と4800-4900MHz帯(100MHz)を保有し、2020年11月末現在、構築したSA型5G基地局数は38万5,000に達した。商用開始したSA型5Gコア網は1億の個人ユーザと2,000万に及ぶ法人の同時オンラインをサポート可能としている。
工業・情報化部のデータによると、2020年11月初めまでに中国で稼働開始した5G基地局の総数は約70万で、このうちの中国移動による5G基地局数は55%を超えている。中国移動は既に全国337の地方都市レベル以上の地域、700超の県レベル地域において5G商用サービスを提供し、人口カバレッジは約30%に達した。2021年には新たに60万の5G基地局を構築する予定で、2.6GHz帯と700MHz帯の基地局を含め、総数は100万超える見通しである。
中国移動は2020年9月末に中興通迅(ZTE)と共同で広州市にて8K高精細VR中継映像サービスの実験を実施し、主にSA型5G環境下における2.6GHzと4.9GHz帯を用いたネットワークスライシング、SPN(Slicing Packet Network)など新技術の利用効果を確かめた。さらに中国移動は工場、電力、鉱山、鉄鋼、港の五つ分野におけるエンドツーエンドのソリューション、典型的な応用シーンなどの開発にも積極的に取り組んでいる。
② 中国電信
中国電信は3400-3500MHz帯(100MHz)を保有し、2020年末現在、3500-3600MHz(100MHz)を保有する中国聯通と共同で38万の5G基地局を構築し、うち、2社による共用率は93%に達し、カバーした都市数は300以上となる。
中国電信は、5G+クラウド・イノベーション業務、5G+工業インターネット、5G+業界応用という三つの側面に着手し、これまで、スマート警務、スマート交通、スマート・エコシステム、スマート建設、メディアライブ、スマート医療などの10大分野における利用の試みを進めてきた。例えば、医療分野では、2020年3月2日、四川大学華西医院は、中国電信が構築した5Gダブルギガネットワークと遠隔CTスキャン・アシスタントを利用して、湖北省黄岡市黄州総医院の新型肺炎患者に対する遠隔CTスキャン検査を実施し、中国初となる省を跨いだ5G+遠隔CTスキャンの実施に成功した。
③ 中国聯通
中国聯通は3500-3600MHz(100MHz)を保有し、2020年末現在、3400-3500MHz帯(100MHz)を保有する中国電信と共同で、38万の5G基地局を構築し、うち、2社による共用率は93%に達し、カバーした都市数は300以上となる。屋内カバーでは、中国電信、中国聯通、中国広電の3社が、全国規模で3300-3400MHz帯を共同使用することとなっている。
5Gサービスの開発に向け、200の5Gモデルプロジェクトを立ち上げ、50の5Gジョイント・オープン・ラボを設立、100以上の5G活用革新的商品をインキュベート、20以上の産業向け5Gアプリケーションの標準を策定するとしている。2022年の北京冬季オリンピック・パラリンピックにはミリ波を用いたサービスを提供予定である。
同社傘下のネットワーク研究院は、5Gイノベーションセンターを設立し、ニューメディア、スマート製造、スマートネットワーク、スマート医療、スマート教育、スマートシティを含む10の業界を中心に多くの利活用を開発してきた。
2020年10月に中国聯通は、江西省南昌市にある小藍経済開発区においてVR/ARパークを開設した。主に三つの役割を担うとしている。一つ目は産業イノベーションの推進。データセンターと応用プラットフォームを構築し、VRやAR、MR、ホログラフィックなどの技術を用いて、スマート製造・医療・教育・観光などの分野におけるユースケースの開発を加速させる。二つ目は、産業エコシステム形成の促進。アリババやテンセント、華為技術(HUAWEI)などVR産業に取組んでいる企業との連携を図り、関連人材を積極的に誘致し、江西省における産業エコシステムの形成を促す。三つ目は、国全体のVR産業の発展促進。新設パークの優位性を発揮し、3億に達する自社の移動体通信ユーザに向けてのサービス提供などを通じて、VR関連の消費マーケットを拡大させていく。
(4) L5Gサービス導入主体(ユーザー企業)、導入主体数
これまで、工場、鉱山、港湾、医療、電力、交通、保安、教育、観光、スマートシティなど10の分野において、一定の成果が挙げられている。中国移動の場合は、北京、成都、深セン、青島、天津、福州、武漢、南京、貴陽、瀋陽、鄭州、重慶の12都市を中心に、医療、教育、製造業など14の分野において、それぞれのトップ100の企業を対象とした応用事例を展開しているとされる。なかでは、ハイアール、三一重工、華菱湘鋼、アモイ港、天津港、南方電網、鄂城鋼鉄などが既に5Gプライベート網の構築が展開されているとのメディア情報がある。
(5) 主なサービス・アプリケーションの例
① スマート医療
中国移動は2020年9月、「5Gスマート医療クラウドプラットフォーム」を発表した。COVID-19対策においても多くの病院にて5G遠隔医療システムを構築し、5G医療車診察、遠隔超音波等のサービスを実施してきた。現在、400以上の医療機関と協力して5G遠隔手術、遠隔診察診断、緊急救助等のアプリケーションを構築している。
2021年1月には、広東省にある順徳病院において国内の医療業界初となるSA型5Gネットワークスライシングの商用を実現した。5G、エッジコンピューティング、ネットワークスライシングなどの技術を用いて、院内ネットサービス体験センター、救急センター、AR外科プラットフォーム、遠隔医療センターを構築した。同病院は5Gによるフルカバーが実現されており、救急車による患者の救急移送時に5Gによる大容量医療映像データの即時伝送が実現されたほか、院内物流AIロボットによる院内の物資搬送、遠隔医療、スマート病室、ロボットによる診療科案内など10以上の利用シーンが実現され、病院の管理効率とサービス向上につながった。
② スマートポート
2020年5月に中国移動は華為技術(HUAWEI)と共同で、アモイ港の98.89%をカバーする5Gネットワークを構築し、中国遠洋海運グループ及び東風自動車グループと共同で構築した5Gスマート・アモイ港が試験的に運用開始となった。港内において、5Gエッジコンピューティングとネットワークスライシングの組合せにより、運転行動分析、AGV(自動搬送車)遠隔制御、自動運転など5Gを用いたアプリケーションを実現し、作業効率と作業安全の大幅向上につながった。今後、中国移動は引き続き中国遠洋海運グループ及び東風自動車グループと共同で5Gスマート港建設を段階的に推進し、2025年までに沿岸にあるコンテナハブ港のユビキタス連携や、インテリジェント化システムの実現を目指すとしている。
また、年間コンテナ取扱量が500万TEUに達する寧波港においてもSA型5G基地局58局を構築し、MEC(マルチアクセス・エッジコンピューティング)の採用で低遅延を実現した。TDD+FDD協調方式によるSUL(付加アップリンク;Supplementary Uplink)ソリューションとの併用により、上り通信速度が最大で747Mbps、常時310Mbps、平均遅延9msを実現。つり上げ作業の自動化率が90%に達し、年間で約15億円の人件費の節約につながっている。
③ 5G工場
パソコン世界大手のレノボ・グループは2020年9月、安徽省合肥市に構える工場で5Gを活用した生産ライン2本を稼働させた。生産ラインはレノボの自主開発で、今後のスマート工場での導入拡大につなげていく方針である。今回稼働した生産ラインは、工業インターネットを活用しており、収集した生産・運行・品質データなどを蓄積し、製造業のスマート化に役立てる3。
④ 鉄鋼製造所
武漢市にある宝武武漢鋼鉄グループ鄂城鋼鉄有限責任公司における専用型5Gプライベート網の構築が計画されており、2019年12月、中国移動と中国信科は同プライベート網を構成する初の5G基地局を設置した。専用型5Gプライベート網の構築により、業務データの収集、処理はすべてローカル5G網内で完結される。同プライベート網が完成後、遠隔操作、品質検査といった利活用の開発が期待される4。
⑤ 変電所
中国聯通は2020年5月に青海―河南±800kV超高圧直流プロジェクト豫南変電所内における5G網のエリア内フルカバーを実現した。5Gネットワークに基づくロボットがエリア内を全面的にモニタリングする。同変電所は5Gネットワークに適した巡回点検ロボット、ドローン、高画質監視カメラを設置し、設備の巡回点検・監視設備の感知能力を高め、超高圧プロジェクトの安全で安定した運営を保証した5。
⑥ 5G+IoTによるぶどう栽培
2020年8月、江蘇省無錫市にある阿偉生態ぶどう園栽培業者は中国移動による5G+IoTの整備で、スマホによりリモート・リアルタイムでブドウの成長や外観などの確認ができるようになった。また日照、温度差、湿度、種・苗の原産地、虫害などの重要データも把握できる。ブドウ栽培の全プロセスにおける管理の難題を効果的に解消しており、ぶどう産業の手間暇を省きコストを削減し、生産量と生産効率を高めている。
従来では雨期または高温の季節になると、栽培業者が自ら園内に入り降雨・被災状況をチェックし、施肥や虫害予防も完全に経験が頼りであった。今や栽培業者は事前にぶどう園内に高画質動画モニタリング設備やセンサーなどを設置し、5Gネットワークの高速・低遅延などの特徴を利用し、VRパノラマ技術と結びつけることで、ぶどう栽培の過程における管理の難題を解消した。
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