世界情報通信事情 World Information and Communication Circumstances

Federal Republic of Germany ドイツのLocal 5G(最終更新:令和2年度)

1. L5G制度の現状

ドイツ連邦ネットワーク庁(BNetzA)は、2回の意見招請を踏まえ2019年3月11日に「無線ネットワークアクセスアプリケーション用の3.7GHz-3.8GHzの範囲の将来のアプリケーションプロセスのための基本フレームワーク」を発表した。
申請手続は、2GHz及び3.4GHz-3.7GHzのオークションが終了し、ローカル5Gの免許申請が2019年11月21日に開始された。基本フレームワークの概要は以下のとおり。
地域における5G(lokalen 5GあるいはCampus-Netze mit 5G)周波数利用のために申請を提出することができる。例えば工業団地や見本市会場だけでなく、農業・林業地への割当ても含まれる。申請者は、周波数使用のコンセプトを提示しなければならない。特に、周波数の効率的な使用がどの程度保証されているかを実証する必要がある。なお、ここでの5Gの通信方式はNR方式を導入するものとし、3.7G~3.8GHzは、NR Bandとしてはn77またはn78の導入が可能である。ドイツでは移動体通信事業者(MNO)各社がすでに5Gサービスを商用化しており、NR Bandはn78を導入している。免許期間は最長10年間であるが、2040年12月31日を超えることはない。ただし、TKG第55条(9)に基づき、延長の可能性がある。TKG第142条(1)及び(4)に基づき、周波数使用料条例に従って周波数割当手数料1が徴収される。

2. L5Gの実装状況

(1) 現在の市場規模、将来の予測される市場規模

2021年5月17日現在、ローカル5G免許は126件の申請があり、そのうち123件に対して免許が付与されている2

(2) L5G振興に係る政府施策

インダストリー4.0政策に基づき、IoTを中心とした5Gの産業利用を推進している。なお、技術中立の原則により、5G以外の技術を用いてもよいが、2018年9月に公開された考慮事項に基づき、連邦ネットワーク庁は、26GHz帯(24.25~27.5GHz)活用の将来のフレームワーク条件案を作成し、2020年2月21日までパブコメにかけられていた。2021年12月17日には「ローカルブロードバンド26GHz周波数の使用に関する管理規則」が策定されたのち、2021年1月1日より免許申請が開始され、2021年5月6日現在、5件の申請があり5件の免許が交付された3
なお、26GHz帯は、テクノロジーやサービスに中立な方法で利用でき、ワイヤレスネットワークアクセスで電気通信サービスを提供できるものとし、ローカル5Gにも利用可能であるが、産業4.0やIoTに実装し、技術中立的な利用を想定している。

(3) L5Gサービス提供主体

全国規模の通信事業者がプライベート5Gとして提供する場合とサービス提供・利用主体が、L5G免許を取得して自ら提供する場合がある。

(4) L5Gサービス導入主体(ユーザー企業)、導入主体数

公開されている免許人は、ITコンサルティング、システム開発、ソフトウェア開発、通信機器製造、電気通信事業者・通信サービス事業者、放送局・放送設備運営、その他製造業、輸送機器製造業(航空宇宙、自動車、その他)、見本市運営・施設、地方自治体・第三セクタ、公益事業体、会計サービス、物流、大学・研究機関等、多様な業種や主体(一般企業、地方政府、公営企業等)である。

(5) システム件数や契約件数等のユーザーのL5Gの利用状況・普及状況

L5G免許人数は公開されているがL5Gの契約数や提供数の統計はない。

(6) L5Gを活用した主なサービス・アプリケーションの例や主な提供事業者

主要なL5Gサービスは以下のとおり。

① 自動車業界

アウディ(Audi)は、工場でWi-Fiを活用しており、産業用ロボットの運用に利用しているが、より高速かつフレキシブルに稼働させつつリアルタイムにデータを収集するために、2018年からローカル5Gの試験導入を始めている。現時点では、部品を溶接するロボットに適用しているが、既に目覚ましい成果が得られているとして、数年以内に他のドイツ工場内に敷設し、その後で全施設のWi-Fiを5Gに更改することも検討し、そのためにローカル5G免許を取得した。アウディの他にも、ダイムラー(Daimler)やBMW、ポルシェなどの自動車メーカーも免許を取得した。
なお、BMWとライプツィヒ市は協力して、連邦運輸デジタルインフラストラクチャー省からの10万ユーロの資金支援を受け2021年から2023年の予定で実証実験「Tri5G」プロジェクトを実施する予定である4。Tri5Gプロジェクトの目的は、自動車、ロジスティクス、ITクラスターの5G利用例を科学および公共アプリケーションとネットワーク化することである。主に自動車産業、急便、付加価値輸送、ライプツィヒ空港周辺の地方公共交通機関は、別々のソリューションを回避するために、5Gネットワークに統合していく予定である。

② 研究開発

フラウンホーファー研究所 集積回路研究所は、レムゴ(Lemgo)のリッペ工科大学 産業情報技術研究所(inIT)とともに、最初のプライベート5Gネットワークの1つを運営している5。その目標は、自動化と生産のための新しい産業用アプリケーションとビジネスモデルである。これらには、信頼性、セキュリティ、スピードが要求されるため、5Gが必要である。スマートファクトリーOWLを運営している両者は、2020年3月に、ローカル5Gネットワークを構築した。WLANやLTEでは実現が難しいため、5Gの帯域幅と伝送品質保証を活用し、ローカル5Gを導入した事例である。

③ 物流自動化

2020年4月初頭、シェーベル(Schäberle)のローカル5G免許申請が連邦ネットワーク庁により承認された。これにより、同社は独自の5Gライセンスを持つドイツで最初の物流サービスプロバイダーになった6。 ローカル5Gを使用することにより、大量のデータを送信できるだけでなく、新しいモバイル無線規格も大幅に高速に応答できる。これにより、ほぼリアルタイムでのデータ転送が可能になる。ローカル5Gにより、運用プロセス内の広い領域が自動化される。2021年7月に完成予定の、特に危険物質用の新しいロジスティクス・ホールは、計画段階ですでにプライベートLTE / 5G技術の恩恵を受けている。

④ 道路・交通

ローカル5Gを利用したヨーロッパ最大の産業研究ネットワークは、アーヘン工科大学ITセンターに構築予定である7。フラウンホーファー研究所 生産技術研究所によると、連邦交通デジタルインフラ省の支援を受け、今後3年間で620万ユーロを投じる予定。スウェーデンのインフラストラクチャ・サプライヤーであるエリクソンが、ネットワーク・インフラストラクチャを構築する。なお両者は既にローカル5G免許を取得している。
アーヘン工科大学のメラテン・キャンパスにある「5G Industry Campus Europe」は、約1平方キロメートルの外側のエリアと、いくつかの機械棟がある7,000平方メートルのエリアで構成されている。フラウンホーファー研究所によると、施設には「今のところ唯一のインフラストラクチャ」が装備されている。複雑な製造プロセスを監視するための5Gセンサー、モバイルロボットの使用、場所を超えた生産チェーンの実装など、業界での具体的な活用に行かせる研究が行われる予定である。

(7) L5G普及促進に向けた主体の有無

製造業が主な利用者であることから、2018年4月にドイツの電機電子工業連盟(ZVEI)が「5G Alliance for Connected Industries and Automation(5G-ACIA)」を発足させ、通信業界とともに5Gの製造業への導入を促進させる取組みを開始している。
当初は、ローカルLTEや構内無線LANから始まり、現在はL5G、ハイブリッド5G、プライベート5G等の製造業への導入を促進している。