1. L5G制度の現状
韓国には5G開始当初、通信事業者以外が5G免許を取得して5Gネットワークを活用するL5Gに相当する制度は存在しなかった。専用の5Gネットワーク構築を希望する施設主は5G免許を保有する通信事業者(SKテレコム、KT、LG U+)と提携し、通信事業者がネットワーク構築と同時にソリューションまで提供するケースが一般的であった。BtoB分野の5G導入拡大を加速化する狙いから、科学技術情報通信部は2021年1月に発表した「5G特化網政策方案」1L5G制度導入方針を示した。5G特化網とは、建物や工場等の特定地域限定で利用可能な5G網であり、該当地域において導入するサービスに特化されたカスタマイズドネットワークのことである。
5G特化網政策方案では28GHz帯(600MHz幅)の割当て、市場早期ニーズ掘り起こしのための実証事業を推進する計画を盛り込んでいる。後章で述べるとおり、地域(ローカル)5G事業者のタイプを構築主体とサービス提供対象に区分して、タイプに応じて自営ネットワーク設置者が届出又は基幹通信事業者の登録等の方法で5G特化網を導入する。5G特化網用途周波数は、既存の移動通信事業者の28GHz帯と隣接する28.9〜29.5GHz帯(600MHz幅)をまず割り当て、6GHz以下の帯域は、地域共同使用などを通じたBtoB周波数追加確保で検討する計画である。割当対象地域画定と割当方式、代価算定、干渉解消対策など詳細な供給案は2021年3月までにまとめる計画である
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2. L5Gの実装状況
(1) 現在の市場規模、将来の予測される市場規模
L5G関連の公開数値は無い。参考として、KT経営研究所が2030年までに5G商用化で約42兆ウォンの経済効果があるという見通しを発表している2。現在、韓国では、5Gの経済効果としてこの数値が主に用いられる。
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(2) L5G振興に係る政府施策
科学技術情報通信部は、5G特化網政策方案に基づき、2021年から港湾や国防など公共部門のL5G実証事業を進めるとともに、L5G装置の実証等を進める方針である。また、国内の大・中小企業との協力を通じてB2B端末開発事業を推進し、端末のエコシステム形成を進めることで、重要な機器‧部品の競争力を高め、R&D拡大とリファレンスの確保も支援する計画としている。
L5G振興に焦点を当てた施策は以上の2点であるが、5G活用サービス全体を促進する政府総合戦略の「5G+戦略」(2019年4月)や、「デジタルニューディール(韓国版ニューディールの中軸を構成するデジタル化戦略)」(2020年7月)では、主に公共・法人向けサービス分野から先行して実証事業を行いながら早期にサービスモデルを開発し市場拡大を図る方針である。5G+戦略では、指定された重点戦略サービス分野(①AR/VR 等体験型コンテンツ、②スマート工場、③自律走行、④スマートシティ、⑤デジタルヘルスケア)で幅広い実証事業が推進される。コロナ禍克服のための雇用創出とデジタル化を進めるために打ち出された大型国家事業のデジタルニューディールでは、データ・AI活用サービスの基盤インフラとなる5G全国網の早期構築を進めることに重点が置かれ、5Gインフラ投資への税額控除拡大方針も盛り込まれているが、法人専用ネットワーク促進に絞られた施策は見当たらない。
税制優遇については通信事業者の5Gインフラ早期整備のために5Gネットワーク投資に対して法人税を控除する方式が取り入れられている。まず、早期5Gインフラ整備促進策として、2018年12月末から2020年12月31日までの時限措置で基地局構築費の最大3%まで税控除できる優遇措置などを導入している。さらに、科学技術情報通信部は、政府横断で進める5G産業活性化の強化を図り、「5G投資促進3大パッケージ」を2020年1月にまとめ、5Gネットワーク投資に対する税額控除幅を拡大している。政策パッケージの主な内容は次のとおりで、2020年以降は5G関連産業育成のための政策を本格化する。
- 5Gネットワーク税額控除拡大(以下の表参照)
首都圏地域での控除率1%を2%に拡大。非首都圏地域は控除率を据え置くが控除対象に新たに工事費を含める。
- 現行の周波数割当対価と電波利用料を周波数免許料に統合し一元化
- 新設5G基地局の登録免許税緩和
現行 | 首都圏(税特法第25条) | 非首都圏 (税特法第25条の7) |
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5G装置購入費 | 1% | 2+1% |
工事費 | 1% | 0% |
現行 | 首都圏(税特法第25条) | 非首都圏 (税特法第25条の7) |
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5G装置購入費 | 2% | 2+1% |
工事費 | 2% | 2+1% |
- * 網掛けは控除幅拡大部分
また、2020年7月15日に政府が発表したコロナ禍克服景気回復策である「韓国版ニューディール総合計画」では、5G網早期全国拡大のため投資の税額控除等、民間投資のインセンティブを整備することが盛り込まれた。現時点で税額控除の詳細内容は発表されていない。なお、韓国の5Gネットワーク投資に対する税額控除は特にL5G促進をうたったものではなく、全国網の早期整備促進を目的としている。
(3)L5Gサービス提供主体
L5G制度導入前の2021年3月時点では、専用ネットワークでの5G活用を希望する地方自治体や企業は、5G免許を持つ通信事業者3社(SKテレコム、KT、LG U+)のいずれかと提携し、通信事業者が当該機関専用の法人向けサービスとして専用5Gネットワークを構築していた。導入ソリューションやサービスまで通信事業者が提供する場合も多い。
SKテレコムの場合、法人専用5Gネットワーク構築サービスを「Private-5GX3」というブランドで提供し、法人ネットワークとデバイス管理サービスを提供している。KTは2019年5月から世界初の取組みとして5G法人専用ネットワーク商用サービスを開始している。
2021年初めに発表された5G特化網政策方案では、地域(ローカル)5G事業者のタイプを構築主体とサービス提供対象に区分して、タイプに応じて自営ネットワーク設置者が届出又は基幹通信事業者の登録等の方法で5G特化網を導入する計画である。
区分 | 構築主体 | 構築地域内のサービス提供対象 | 導入方法 |
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タイプ1 | ユーザ企業 | ユーザ企業限定 | ユーザ企業が自営網設置者として届出 |
タイプ2 | ユーザ企業 | ユーザ企業+パートナー、訪問者等 | ユーザ企業が基幹通信事業者として登録 |
タイプ3 | 第三者など | ユーザ企業+パートナー、訪問者等 | 第三者が基幹通信事業者として登録 |
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(4) L5Gサービス導入主体(ユーザー企業)、導入主体数
5G特化網制度施行前の現時点で、L5Gに相当する5G特化網は通信事業者3社のみが構築できるが、これまで構築されたネットワークはいずれも実証試験レベルである。他方、5G特化網のニーズ調査によると、ソフトウェア事業者やインターネット企業を中心にニーズがあったとされており、Naverが参入意欲を見せている。これまでのBtoB 5Gネットワーク及びソリューション導入主体には、製造業、大手総合病院、士官学校、地方自治体等があり、これまでに専用の5Gネットワークを導入した事例は以下の表のとおり。なお、当該機関の発表では5Gの一般ネットワーク又は専用ネットワークのどちらであるのかを明記していないため判別が難しいものも含む。
① SKテレコム
分野 | 導入機関・内容等 |
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スマート工場 |
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建設 |
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医療 |
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造船 |
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分野 | サービス内容等 |
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防衛 |
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エネルギー |
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観光 |
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② KT
分野 | 導入主体・内容 |
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スマート工場 |
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建設 |
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スマートシティ |
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医療 |
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放送・メディア |
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レジャー |
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分野 | サービス内容等 |
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交通 |
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防衛 |
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自治体 |
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③ LG U+
分野 | 導入機関・内容等 |
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スマート工場 | LG電子グループ工場のスマート化 |
交通(モビリティ) |
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建設 |
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医療 |
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分野 | サービス内容等 |
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交通 |
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建設 |
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防衛 |
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港湾 |
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教育 |
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医療 |
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農畜産 |
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(5) システム件数や契約件数等のユーザのL5Gの利用状況・普及状況
BtoB向け5G関連統計の発表は無い。BtoCの5G加入者数のみ科学技術情報通信部が毎月統計を発表している。5Gスマート工場については、5G+戦略(2019年4月)の一環として、2022年までに中小企業工場1,000か所の5Gスマート工場化を進める目標がたてられたため、政府が必要な政策的支援をしている。なお、現時点の5Gスマート工場の普及状況は発表されていない。
(6) L5Gを活用した主なサービス・アプリケーションの例や主な提供事業者
通信事業者が提供中の5G法人向けサービスは以下のとおり。
① SKテレコム
- 中小企業向け廉価版スマート工場サービス
ビッグデータ分析ソリューション「メタトロン・グランドビュー」をクラウドで毎月ベースのサブスク形態で提供。5Gベースのこのソリューションは、工場内の設備に取り付けられたセンサーを通じて回転数や振動といった多様なデータを収集・分析して設備の状態やメンテ時期をリアルタイムで予測し、設備運用を効率化する4 - 5Gスマート工場ソリューション5
- Private 5GX
法人専用5G網を構築し、デバイスをリアルタイムで制御するサービス6。 - 5GX Public Edge
SKテレコムの局舎にパブリッククラウドを設置して全国単位のBtoBtoCサービスに最適化したモバイルエッジコンピューティング(MEC)環境を提供するサービス。リアルタイムストリーミングやライブVR、VR/AR活用学習、ロボット制御等で利用。 - 5GXクラウド
5G MEC基盤のクラウドサービスで、顧客の近距離で最適なネットワークを提供。マシンビジョンやロボット遠隔制御等のスマート工場や体感型メディアイベント等での利用向き。
② KT
- 中小企業向け5Gスマート工場プラットフォームと5G製造クラウド7
- 5Gベースのマシンビジョンサービス「5Gスマートファクトリービジョン8」
- 法人専用5Gサービス(2019年5月~)
専用装置を通じ企業内ネットワークと一般加入者網に分離してアクセス。認証された端末のみ企業内網にアクセス可能9。
③ LG U+
- 法人専用5Gネットワークサービス(2020年5月~)
法人専用5G網は産業用(監視カメラ、センサー、ロボット等)や業務用端末のデータ通信に使われる。港湾クレーンの操縦や地雷除去用掘削機制御等の精密操作が必要な分野やスマートファクトリーに最適としている。商用化にあたっては、GS EPS、斗山インフラコア、釜山港湾公社、LG系列社との協業等で5G法人専用網の検証を進めてきた。 - スマートドローン
LTE/5G活用の国内初のクラウドドローン制御システム
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(7) L5G普及促進に向けた主体の有無
通信事業者が提供する5G法人専用ネットワークやL5G普及促進団体は無いが、5G関連スマート工場関連では以下の機関がある。なお、5Gには限定しないが中小ベンチャー企業部系のスマート工場普及促進団体も存在する。
- 5Gスマート工場アライアンス:
2018年12月にSKテレコムが5Gスマート工場規格標準化を主導するため、政府(産業通商資源部、科学技術情報通信部、中小ベンチャー企業部)を含む国内外の19機関と立ち上げた。アライアンスのホームページはあるが、活動状況の詳細は掲載されていない10。
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(8) L5Gシステムの導入価格(NW設備・構築、L5Gアプリケーション費用など)
5G関連システムの価格や導入コストの公開情報は無い。前述のSKテレコムの下記サービスについてはホームページに料金表がある。
- Private 5GX
法人専用5G網を構築し、デバイスをリアルタイムで制御するサービス。2020年発売予定とされる法人専用プランと付加価値サービスの料金表はホームページに掲載がある11。
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