世界情報通信事情 World Information and Communication Circumstances

Republic of Singapore シンガポールのLocal 5G(最終更新:令和2年度)

1. L5G制度の現状

シンガポールでは、2020年6月に5G用途の周波数帯として、3.5GHz帯と、26 GHz帯並びに28GHz帯(以下、ミリ波)が同時に割り当てられた。割当事業者並びに帯域幅は以下の表に示した通りである。

シンガポールにおける5G周波数帯の割当事業者と帯域幅
JVCo シングテル TPG
M1 スターハブ
3.5 GHz 100 MHz 100 MHz -
26 GHz帯並びに28GHz帯 800 MHz 800 MHz 800 MHz 800 MHz

出所:IMDA発表資料1を基に作成

市場第2位の移動体事業者スターハブと同3位のM1は入札に当たり、合弁事業コンソーシアム(JVCo)を結成し、3.5 GHzについては両社合同で100 MHz幅を、ミリ波については両社各々に800 MHz幅を割り当てられている。一方、新規参入事業者であるTPGテレコムはミリ波のみを800 MHz幅割り当てられている。
なお、IMDA(情報メディア開発庁)はミリ波について、3.5GHz帯による全国域ネットワークを補完するローカル大容量ネットワークと位置付けており2、両帯域に個別の制度は存在しない。

2. L5Gの実装状況

(1) 現在の市場規模、将来の予測される市場規模

シンガポールでは2020年9月に主要地区を中心に、5Gの商用サービスが開始された。IMDAは3.5GHz帯での5Gサービスについて、2022年末までにシンガポール国内の50%をカバー、さらに2025年末までに全国をカバーすることを義務付けている。
シングテル、スターハブ、M1のMNO3社が2020年9月よりNSA方式でのサービス提供を開始した。一方、SA方式については、シングテルが2020年10月より自社所有の試験施設を拠点に、3.5GHz帯による試験サービスを法人向けにのみ開始している。
また、シングテルは2021年2月、国内最大のショッピングモールVivoCityにおいて屋内5Gサービスを開始、屋外接続ともシームレスに提供することを可能としている。同時に、シングテルは2020年12月より、ミリ波(28GHz帯)を使用した5Gサービスの提供を、オーチャード・ロードやパダン島の主要業務地区で開始した3

(2) L5G振興に係る政府施策

シンガポールではIMDAの主導により各所で5Gトライアルが実施されている。5Gトライアルには、技術トライアル(Technical Trial:TT)と市場トライアル(Market Trial:MT)の2種があり、3.5GHz帯及びミリ波も含む周波数帯の使用が可能である。トライアル実施者は双方についてIMDAの承認を得る必要がある。前者は機器試験やR&Dを実施する非営利のトライアルである一方、後者は商用化されていない新たな技術、サービス、製品の商用可能性を評価するためのものである。
なお、5Gトライアルは、国内MNO4社(シングテル、スターハブ、M1、TPG)との提携により実施される必要があり、現在実施中であるプロジェクトにはすべてこれら4社のいずれかが参加している((6)表を参照)4
IMDAは5Gサービスの推進領域として、1)海事(Maritime)、2)都市交通(Urban Mobility)、3)スマート不動産(Smart Estates)、4)インダストリー4.0(Industry 4.0)、5)消費者アプリケーション(Consumer Applications)、6)政府アプリケーション(Government Applications)の六つの領域を指定している5

この上、これら領域の1)~4)に対して、助成金を付与するとしており、2019年6月27日から2020年5月31日まで申請を受け付けた。助成対象となる5Gトライアルは、1)国内企業が助成申請者となっている、2)国内MNO4社がプロジェクトに参加している、3)プロジェクト期間が18か月以内であることを条件とされる。なお、助成額はIMDAが承認した事業コストの70%以内とされている6
他方、IMDAは2021年1月、5Gソリューションの導入及び商用化の促進を目的とした3,000万SGD規模の基金を新設した。同基金は、5Gエコシステム構築を支援する、IMDAの「5Gイノベーション・プログラム」の一環であり、インフラ支援にとどまらず、5G人材育成のための業界提携や、5G導入を促すソリューションやサービスに対する支援も実施される。2019年に既設の、5G支援を目的とした4,000万SGD規模の基金に続くもので、IMDAは5Gソリューションのプロバイダや技術開発者など、中小企業を含むより多くの企業に新基金を活用してほしいと呼びかけている7

(3) L5Gサービス提供主体

シンガポールでは、IMDAがミリ波について、3.5GHz帯による全国域ネットワークを補完するローカル大容量ネットワークと位置付けており、両帯域に個別の制度は存在していない。したがって、すべての5GサービスはMNOに付与された免許により提供されており、日本のローカル5Gに相当するようなサービスは現状では存在しない。
また、IMDAはMNOに対して卸売サービスの提供を義務付けているが、ミリ波5Gは義務付けの対象となっていないため、ミリ波5Gの提供主体はMNOに限定されることになる8

(4) L5Gサービス導入主体(ユーザー企業)、導入主体数

上述の通り、シンガポールでは、国内MNOがIMDA及び関連の政府系機関と連携し、官民共同の5Gトライアルを実施している。現在、実施中の5Gトライアルは、(6)の表に示した9件であり、参加主体は16組織である(IMDA及び「5G PIXEL Living lab」を使用する中小企業を除く。

(5) システム件数や契約件数等のユーザーのL5Gの利用状況・普及状況

ミリ波5Gサービスの契約数や提供数の統計は現状では不在である。

(6) L5Gを活用した主なサービス・アプリケーションの例や主な提供事業者

IMDAによる5Gトライアル

以下の表に示した5Gトライアル案件にはシングテル、M1、TPGのMNO3社が参加しているが、スターハブの参加したトライアルは現状では不在である。なお、IMDA発表資料では、各トライアルが3.5GHzを使用しているか、ミリ波を使用しているか等のシステム要件については総じて言及されていない。

5Gトライアルの種別、参加主体、内容の一覧
トライアル種別 参加主体 内容
海事
  • 海事港湾庁(MPA)
  • PSA(港湾運営事業者)
  • シングテル(MNO)
  • M1(MNO)
5Gを利用したガイド付車両(AGV)とクレーン車両の自動管理
海事
  • MPA
  • Airbus(航空機メーカ)
  • M1(MNO)
5Gを利用したSingapore Maritime Drone Estateにおけるドローンの航行管理
都市交通
  • 南洋理工大学(NTU)
  • M1(MNO)
5Gを利用したNYUキャンパス内における車両自動運転(C-V2X)、交通インフラ、ドローン飛行の管理
スマート不動産
  • CapitaLand(不動産デベロッパ)
  • Navinfo DataTech(スマートモビリティ関連企業)
  • TPG(MNO)
5G実装のスマート不動産「Science Park 1 and 2」の開発。加えて、同地区での車両自動運転(C-V2X)の実施。
インダストリー4.0
  • 科学技術研究庁(A*STAR)
  • 再製造技術開発センター(ARTC)
  • シングテル(MNO)
5Gを利用したインダストリー4.0(注:製造業におけるオートメーション化およびデータ化・コンピュータ化)ソリューションの開発
インダストリー4.0
  • IBM(情報機器メーカ)
  • サムスン(通信機器メーカ)
  • M1(MNO)
5Gを利用したインダストリー4.0(注:製造業におけるオートメーション化およびデータ化・コンピュータ化)ソリューションの開発
インダストリー4.0
  • JTC(政府系デベロッパ)
  • コンチネンタル(自動車部品)
  • M1(MNO)
5Gを活用した自律走行搬送ロボット(AMR)の使用や建設現場の安全分析等の開発
消費者アプリケーション
  • Razer(ゲーム機器メーカ)
  • シングテル(MNO)
5Gを利用したクラウド・ゲーミング・ソリューションの開発
消費者アプリケーション
  • 中小ICT企業数社
IMDAが5Gサービス開発拠点「5G PIXEL Living lab」を設置。中小ICT企業の5Gソリューション開発(AI、VR/AR等)の拠点として提供

出所:IMDA発表資料9を基に作成

通信事業者独自のサービス展開

通信事業者独自の5G展開としては、最大手MNOであるシングテルが、2019年より設置している無人販売店「UNBOXED」において5Gの活用を推進している事例がある。UNBOXEDでは、5Gを活用した非接触サービスを積極導入し、ソーシャル・ディスタンス対策のためにセキュリティシステムと体温チェック機能を実装したスマートロボット「スタンレー」や、顧客の感情を検知してパーソナライズなアドバイスを提供するデジタル・セールス・コンサルタント「Stella」等が提供された。UNBOXEDにはこれまで7万人が訪れ、顧客体験満足度96%を達成したという。
今後、シングテルはUNBOXEDにより、5G対応AIと店内のリアルタイム分析によって両者が通信し、シームレスで迅速なサービスを提供することを目指すとしている10

(7) L5G普及促進に向けた主体の有無

シンガポールでは、IMDAが主体となって5G普及に向けた施策を官民共同で実施しており、5Gの普及促進を企図する民間団体等の存在は確認できなかった。