1. L5G制度の現状
(1) 5G戦略と5GTT
英国では、デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)が、2017年3月に、「5G戦略」を発表した1。これは、5G分野において英国が世界のリーダーとなるべく策定されたもので、同戦略の推進により、①5Gネットワークの普及の加速、②5Gによってもたらされる生産性・効率性の最大化、③英国内外における新たなビジネス機会の創出と国内投資の誘発、という三つの成果を追求する内容となっている。
現在、英国では、同戦略に基づき、政府主導の「5Gのテストベッド・トライアル(5G Testbeds and Trials : 5GTT)」プログラムが実施され、幅広い産業分野において多くのプレイヤーが参加する形で、ルーラルエリア及び都市部におけるユースケースの実証実験が展開されている。
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(2) 共用アクセス免許とローカルアクセス免許
通信庁(Ofcom)は、2019年7月25日、「ローカル免許を通じたワイヤレスイノベーションの実現-モバイル技術を支えるスペクトラムの共用アクセス」と題する文書を発表し、共用ベースで利用可能な周波数を「共用アクセス免許」又は「ローカルアクセス免許」として先着順で割り当てることとなった2。両免許ともに、電気通信役務としてサービスを提供することも、日本のL5Gのようにプライベート(自営)用として利用することも可能で、5Gの可能性が広がりつつある。
「共用アクセス免許」は、既存免許人(公共業務、衛星局、アマチュア無線等)との共用を前提としたうえで、小規模事業者やコミュニティグループなどに門戸を開き、イノベーションや新規利用者を創出することを企図したものである。
一方、「ローカルアクセス免許」は、英国の移動体通信事業者に既に免許されている周波数を、地域によって使用されていない、あるいは、向こう3年以内の使用計画がない場合、新たなユーザーに開放するものである。
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(3) 5GTTにおける免許の形態
5GTTにおける免許の形態としては、大きく分けて、以下の3つの形態がありうる3。
- ①既存ネットワークプロバイダとの協定
- ②イノベーション・トライアル免許(イノベーション・リサーチライセンス)4
(さらに以下の2種類のカテゴリが存在)
- ②-1イノベーション・リサーチ免許(アカデミック・研究目的)
- ②-2デモンストレーション・トライアル免許(新しいシステム、電波コンセプトを試験するための非商業・非永続ベースのライセンス)
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- ③ローカルアクセス免許
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2. L5Gの実装状況
(1) 現在の市場規模、将来の予測される市場規模
英国において、L5Gに特化した市場規模に関するデータに関する公式な言及は確認できていない。「5G戦略」においては、世界全体で2035年までに、12兆3,000億米ドルの市場規模になるとのデータが提示されている5。
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(2) L5G振興に係る政府施策
上述のとおり、英国では、政府主導の5GTTプログラムが進展しており、L5Gも含めた振興施策が数多く実施されている。DCMSは、5GTTプログラムの開始以来、英国全体で24の5GTTに資金を提供してきた。これらのテストベッドでは、約70の異なる5Gテクノロジー製品アプリケーションを試してきた6。そのなかで、主なL5G(プライベート5G)の5GTTの事例としては、以下がある。
| 5GTTプロジェクト名 | 主なプレイヤー |
|---|---|
| 主な分野・内容 | |
| 「WM5G」7 | ウエスト・ミッドランズ合同自治体(WMCA)傘下の組織「WM5G」、O2等 |
| 製造業、ヘルスケア等 | |
| 「5G ENCODE」8 | Zeetta Networks、Telefonica等 |
| 複合材料製造の生産管理 | |
| 「5G Enabled Manufacture(5GEM)」9 | フォード社、ボーダフォン等 |
| 製造分野の生産管理 | |
| 「Liverpool 5G Create」10 | ブルー・ワイヤレス(Blu Wireless)、ブロードウェイパートナーズ等 |
| 健康状態の遠隔管理等を含むヘルスケア・ソーシャルケア | |
| 「ウスターシャー5Gコンソーシアム」11 | ウスターシャーLEP(Local Enterprise Partnerships)、O2、BT、ヤマザキマザック等 |
| ロボット工学、ビッグデータ分析、AR over 5G等 | |
| 「5G AMC 2」12 | BAM Nuttall、AttoCore等 |
| 建設プロセス管理等 |
出所:UK5G13等
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(3) L5Gサービス提供主体
5GTTの事例では、大手移動体通信事業者4社(BT/EE、O2 UK、ボーダフォン、スリーUK)が、多様な産業界のプレイヤーと連携して、プライベート5Gネットワークを提供している。
(4) L5Gサービス導入主体(ユーザー企業)、導入主体数
5GTTの事例では、製造業者や、地方自治体がプライベート5Gの導入を実証している。例えば、製造分野の「5G Enabled Manufacture(5GEM)」14プロジェクトにおけるフォード社や、同じく製造業分野の「ウスターシャー5Gコンソーシアム(Worcestershire 5G Consortium)」15プロジェクトにおけるウスターシャーLEP(Local Enterprise Partnerships、地方産業パートナーシップ)等の事例がある。導入主体数に関しては具体的な数字が入手できていない。
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(5) システム件数や契約件数等のユーザーのL5Gの利用状況・普及状況
システム件数や契約件数等のユーザーのL5Gの利用状況・普及状況に関する具体的な数字は入手できていない。
(6) を活用した主なサービス・アプリケーションの例や主な提供事業者
大手移動体通信事業者によるL5Gを活用した主なサービス・アプリケーションの事例は以下のとおりである。
① BT/EE
BTは、2021年2月、ウエスト・ミッドランズ合同自治体(WMCA)傘下の組織WM5G等と、コベントリーにある官民連携技術研究施設「製造技術センター(MTC)」で、プライベート5Gネットワークを立ち上げた16。5Gを活用して、マルチエッジコンピューティングとロボット工学のアプリケーションを実証し、製造業者の生産性向上を目指す。
② O2
O2は、2021年2月、イタリアの航空宇宙大手のレオナルド社と提携し、防衛及びセキュリティ分野におけるプライベート5Gネットワークの実証実験を開始した17。レオナルド社とO2は、5Gを活用し、防衛部門が要求する高いセキュリティ基準を満たし、企業のデジタルインフラ内におけるセキュリティ保証を実現するとしている。
③ ボーダフォン
ボーダフォンは、2020年11月2日、自動車エンジニアリングおよび開発コンサルタント会社HORIBA MIRA社に対し、自動運転車の開発とテストの加速のためのプライベート5Gネットワークの提供を開始した18。
HORIBA MIRA社の顧客は、新興企業から定評のある自動車メーカーまで、車車間通信(V2V)、路車間通信(V2I)などの自動運転技術の開発を加速させることができる。車両は相互に通信し、交通信号と集中型交通管理システムをリアルタイムで使用できるため、事故やその他の緊急事態に即座に対応できる。
④ ベライゾン
ベライゾンは、4月1日、ノキアと協業して、同社にとっては欧州初となるプライベート5Gの展開に関する契約をアソシエイテッド・ブリティッシュ・ポーツ(ABP)と締結した。英国南沿岸部にあり、自動車、クルーズ船の最大級の港の一つであるサウサンプトン港に、英国本土の港として初のプライベート5Gを導入する。港のリアルタイム分析、物品追跡、自動走行、安全監視等に利用される19。
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(7) L5G普及促進に向けた主体の有無
① デジタルカタパルト
L5Gに特化はしていないが、英国の大学や企業と共同でデジタル技術を応用研究、実用化に結び付ける目的で「デジタルカタパルト(Digital Catapult)」が設立されている20。
デジタルカタパルトは2020年9月10日、5G技術を使用した製品及びサービスを開発するプログラム「5Gテストベッド・アクセレレーター・プログラム(5G Testbed Accelerator Programme)」を発表した21。同プログラムは、クリエイティブ業界で働くテクノロジーのスタートアップ企業向けに、5G技術を使用した新しい製品とサービスの開発及びテストに必要なツール、設備、専門知識へのアクセスを提供する20週間のプログラムである。
② UK5G
前述デジタルカタパルト同様、L5Gに特化していないが、5Gの展開に向けた政府及び産業界による連携枠組みである5Gイノベーションネットワーク「UK5G」22が活動している。UK5Gは、2018年3月26日に、DCMSによる支援を受け、ケンブリッジ・ワイヤレス、Knowledge Transfer Network(英国の技術移転ネットワーク)及びTMフォーラム(テレコム・オペレーションに関する世界的な業界団体)が中心となって設立された23。5Gエコシステムに関わるさまざまな組織(世界レベルの研究機関、テック企業、規制機関、投資家等)の意見調整やニーズ集約等の役割を果たしている。
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(8) L5Gシステムの導入価格(NW設備・構築、L5Gアプリケーション費用など)
L5Gシステムの導入価格に関する具体的な数字は入手できていない。