昭和63年版 通信白書(資料編)

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6-4 電磁波有効利用技術

(1)ディジタル陸上移動通信方式

 自動車社会及び情報社会の発展に伴い,陸上移動通信においてもディジタル通信方式導入の気運が高まってきた。しかし,ディジタル方式の突用化に当たっては,周波数有効利用及びフェージング対策等の解決すべき技術的課題が多い。
 通信総合研究所では,56年度から狭帯域ディジタル陸上移動通信(16kbps)を対象に研究に着手し,誤り訂正技術及び振幅・位相変動補償技術などの一様フェージング対策,並びに隣接チャネル間干渉波除去波技術等の周波数有効利用技術に成果を上げた。また,60年度から広帯域ディジタル陸上移動通信を対象に,都市内多重伝搬路特性の解明と多重伝搬路歪み補償方式の検討など選択性フェージング対策技術に関する基礎的研究を行っている。
 62年度には,周波数有効利用技術としてディジタル信号処理を活用した高密度変調方式の研究,フェージング対策技術として適応等化及びアダプティブアレーによる多重伝搬路補償方式の研究を行った。

(2)準マイクロ波帯における陸上移動通信システム

 郵政省では陸上移動用の周波数帯として,準マイクロ波帯(1〜3GHz)の開発を59年度から進めている。陸上移動用として準マイクロ波帯を使用するためには,電波伝搬特性,システム構成等について技術的検討を行う必要がある。このため,準マイクロ波帯を使用した移動通信システムの一例として「蓄積交換機能を備えたマルチゾーン方式によるFDMAシステム」を構想し,このシステムのネットワーク構成,回線制御方式等の技術的条件について検討を行った。また,電波伝搬データの収集,フェージング対策技術等について,実験実施計画,実験装置の検討を行った。
 通信総合研究所では,62年10月から,都市内における電界強度距離特性の実験を実施している。

(3)40GHz以上の電波利用の研究40GHz以上の周波数の電波のセンシングシステムヘの利用を進めるには,各種物体の散乱特性の解明が基礎的に重要である。

 通信総合研究所では,このため,61年度よりミリ波帯散乱実験計画を進めている。62年度は,61年度に引き続き散乱実験システムの整備を行うとともに,予備的実験を実施した。また,52年度より実施している大気伝搬研究については,ミリ波・光波伝搬実験データの解析を行った。

(4)高機能型無線呼出

 高機能型無線呼出は,これまでの単なる呼出音による呼出しに加えて,数字,文字等の表示によりメッセージを伝送することが可能なものである。
 高機能型無線呼出の信号方式には,諸外国で実用化されているPOCSAG方式,GSC方式,D3方式等があり,いずれの方式も信頼性,加入者収容能力において使用可能である。
 我が国においては,NTT方式及びPOCSAG方式が実用化されている。

 

<3>-6-14表 実用化されている信号方式の概要

 

(5)大容量自動車電話の導入

 自動車電話サービスは,現在NTTにより提供され,加入者は全国で約10万(61年度末)に達している。しかしながら,現行の方式では,首都圏の収容能力の限界に近づきつつある状況にあることからNTTは63年度に大容量の自動車電話を導入する予定である。また,新規参入者も63年度サービス開始を目指し作業をすすめている。

(6)テレビジョン放送用周波数の高密度割当

 テレビジョン放送用周波数を有効利用しチャンネルを高密度に繰り返し使用することによって今後の置局促進を図るための調査研究を進めている。62年度は,同期放送や精密オフセット方式についてとりまとめた。

(7)ファクシミリ放送

 ファクシミリ放送とは,写真など階調のある画像や文字情報をテレビ電波のすき間に重畳して放送し,受信端末の記録紙にプリントさせるか,あるいは高精細度のディスプレイに表示させるシステムである。電気通信技術審議会では,61年7月にアナログ伝送方式による実験仕様が定められ,引き続き,最近の通信系ファクシミリのディジタル化等を踏まえ,ディジタル伝送方式の開発を行っている。63年度中に答申を受ける予定である。

(8)EDTV(高画質化テレビ)

 EDTVとは,現行のテレビジョン方式との両立性を確保しつつ,最近のディジタルTVと画像処理の技術にゴースト除去を加え,高画質化を図るテレビジョン方式である。この方式は将来的な展望を踏まえ,開発を二つの世代に分けて考えており,当面の第一世代は,画面の縦横(アスペクト)比を変えずに画質改善技術の複合化を図るものである。第二世代は,画面のワイド化(アスペクト比の拡大)を含め,高画質化,高音質化を進めるものである。
 62年9月に電気通信技術審議会に諮問され,これと並行して放送技術開発協議会(BTA)で詳細な技術検討が行われており,今後,実際に電波を発射しての野外実験が予定されている。63年度中に第一世代の答申を受け,64年度から実用化される予定である。

(9)FM多重放送

 FM多重放送は,FM放送の電波にもう一つの独立した音声信号,文字信号等を多重して放送するものであり,米国や欧州では専門情報の放送,データ放送等が行われている。
 電気通信技術審議会では,FM多重放送の実用化に必要な技術的条件について60年度から審議を行ってきたが,63年1月,固定受信方式(家庭内等固定した状態での受信に適した方式)について一部答申した。この一部答申さ
れた方式は,48kb/sの伝送速度により,音声信号1チャンネル及び文字信号1チャンネル(1kb/s)を伝送することができるものである。

(10)放送衛星によるテレビジョン放送の有料方式

 有料方式は,放送視聴者が,特定の放送番組の視聴を希望し,放送事業者と対価的契約を結ぶことによって放送サービスを受ける方式であり,衛星放送に適用が考えられている。
 有料方式は,放送信号にスクランブルをかけて送信し,受像機側でスクランブルを解き,正常な画面に復元するものである。契約受信者は,このスクランブルを復号するためのかぎをもっことによって,有料放送番組を正常に受信できる。
 スクランブル方式等の有料方式に関する技術的条件については,BS-2bを用いた実験の成果等を踏まえて63年中に電気通信技術審議会の答申が行われることとなっている。

 

<3>-6-15図 有料システムの概要

 

(11)放送衛星によるデータ伝送

 我が国の衛星テレビジョン放送の方式においては,音声を副搬送波方式のディジタルチャンネルで伝送している。このディジタルチャンネル(伝送容量2,048kb/s)ではテレビジョン音声以外のデータも伝送できる能力を有しており,この伝送容量上の余地(以下「データチャンネル」という。)を利用して,他の用途のサービスに適用することが技術的に可能となっている。
 将来,このデータチャンネルを利用したサービスとしては,有料テレビジョン放送を実施する際に必要となる関連情報(料金情報,加入者情報),市況情報,電子新聞,パソコンソフト等の伝送が考えられる。
 データチャンネルを使用する場合の共通データフォーマット等の共通的伝送規格等の技術条件については,62年にはBS-2bを利用した伝送実験が実施され,この実験結果を踏まえて63年3月に電気通信技術審議会の答申がまとめられた。答申では,各種サービスのデータを<3>-6-16図に示すような288ビット長のパケットでデータチャンネルに多重する方式が示されている。

 

<3>-6-16図 パケットの構成

 

(12)ハイビジョン

 ハイビジョンは,現行のテレビジョン放送に比べて,はるかにきめが細かく鮮明で,しかもワイドな画面により迫力と臨場感にあふれた画面が得られるテレビジョン放送であり,65年打上げ予定のBS-3での実用化をめざしている。
 ハイビジョンの規格については,電気通信技術審議会及び放送技術開発協議会(BTA)において審議が行われている。62年8月には,ハイビジョンのスタジオ規格についてBTA規格が制定され,また62年12月には,BTAが中心となりBS-2bを利用した衛星伝送実験が実施された。
 ハイビジョンの国際規格については,国際電気通信連合(ITU)の国際無線通信諮問委員会(CCIR)で検討が行われており,電気通信技術審議会ではCCIRの検討状況を踏まえた上で64年度中の答申を目指している。
 また,CATV,光ファイバ,SHF地上波を用いた伝送方式についでも調査研究を開始した。

 

 

<3>-6-17表 現行テレビジョン方式とハイビジョンのスタジオ規格の比較

 

(13)VLBIによる高精度測位技術

 VLBIは同じ電波源から輻射される電波を遠くはなれた二つのアンテナで独立,同時に受信して,電波が二つのアンテナに到達する時間差を超精密に測定するものである。
 通信総合研究所は,58年度に完成したわが国独自のVLBIシステムを用いて,59年度から62年度の4年度にわたり,日米共同実験を実施し,史上初めて,太平洋上の島々が日本列島へ接近していることを確認するとともに,その移動の原因である太平洋プレート運動を正確に測定することに成功した。
 この成果は,プレートテクトニクス理論の検証として,長期的地震予知に役立つものである。

(14)電波音波共用大気隔測装置(RASS)

 RASS(Radio Acoustic Sounding System)は,音源とドップラ・レーダとで構成されており,音波面からのレーダ・エコーを受信し,そのドップラ周波数と音波移動速度の関係式から風と気温の高度分布を算定する遠隔測定装置である。
 62年度は,風がある場合のRASSによる気温高度分布の有効な測定法を数値モデルに基づくシミュレーションで明らかにし,実測時に応用し有意なデータが得られた。また,対流圏・成層圏の風向・風速・気温の連続観測を実施した。

(15)マイクロ波リモートセンシング

 電波によるリモートセンシングは,通信の分野と並んで,電波の利用分野の大きな柱である。特にマイクロ波帯の電波を用いると,可視・赤外域の光を利用する場合とは異なり,昼夜の別なく,天候にもほとんど影響されることなく観測が可能となる。
 通信総合研究所では,電波の有効利用の立場から,[1]当所が開発した航空機搭載マイクロ波散乱計/放射計等による宇宙からの降雨観測に関するNASAとの共同研究,[2]海洋の油汚染監視用の小型・高性能な航空機搭載側方監視レーダー(SLAR)の研究開発,[3]海洋観測衛星(MOS-1)搭載マイクロ波放射計(MSR)を用いた検証実験,[4]多周波FM-CWレーダーによる稲,雪氷等のマイクロ波散乱特性の研究等を進めている。

(16)レーザリモートセンシング

 レーザリモートセンシングとは,レーザ光と物質・物体や原子・分子等との相互作用を利用し,種々の物質・物体や大気中の原子・分子等を測定するものである。
 通信総合研究所では,光化学スモッグ発生時に,オゾンの三次元分布を測定する航空機搭載型炭酸ガスレーザレーダーの開発と,レーザを局発光として太陽,光のヘテロダイン検波を行い,成層圏の大気汚染分子を検出するための基礎技術の研究を進めている。

 

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