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「ICT研究開発支援セミナー」
-九州総合通信局とNICTが連携して地域のICT研究開発を支援-

 九州総合通信局は、令和6年1月25日(木)、国立研究開発法人情報通信研究機構(以下、NICT)及び一般社団法人九州テレコム振興センター(以下、KIAI)との共催により、熊本城ホール及びオンライン配信のハイブリッド形式で、「ICT研究開発支援セミナー」を開催し、全国から150名を超える皆様にご参加いただきました。
 本セミナーでは、NICTの研究開発のほか、大学、高等専門学校、及び公益財団法人の講師による地域課題解決の取り組みやNICT委託研究の採択課題の紹介を行いました。
 
 はじめに主催者を代表して、塩崎充博九州総合通信局長が挨拶を行いました。
 本セミナーは、地域におけるICT研究開発を支援する目的で開催していること、また、NICTは従来から社会課題や地域課題に取り組む企業や大学に対して、実証型の研究開発を支援しており、これらの支援がデジタル田園都市国家構想推進にも寄与していること等を紹介しました。

塩崎局長

〈塩崎局長〉

 
【講演内容】
(1)NICTの研究開発紹介(30分)
  「Beyond5Gで10年後の産業活動はここまで変わる!
     〜産業分野の垣根を超えて新たなサービスを創成するオープンプラットフォームとは?〜」
   講師:NICT Beyond5G研究開発推進ユニット Beyond5Gデザインイニシアティブ 石津 健太郎 氏
 
 はじめに、Beyond 5Gが浸透した新たな社会、Society 5.0の世界、2030年以降の生活がどのようになるか、NICTの研究者が考える未来の世界について、イラストやアニメーションを使って紹介されました。NICTでは、2030年以降の社会生活をイメージしたホワイトペーパーを示し、未来生活をイメージしたシナリオを作り、社会の需要と組み合わせて未来図を描きながら、どのような技術が必要かを抽出し、それらを実現するための研究開発に取り組み、サービスを構築しながら開発を推進しているとお話しになりました。
 さらに、Society 5.0や、サイバー空間(主にコンピューターやネットワークによって構築された仮想的な空間)とフィジカル空間(現実世界)の高度な融合において、情報が循環していく考え方(サイバーフィジカルシステム)を説明されました。実現の過程で、様々な分野の産業が業種の垣根を越えて連携することが不可欠であり、膨大なシステムの組み合わせを連携させるための調整機能を持つ、オーケストレーターのような仕組みを作る必要があるとお話しになりました。
 最後に、Beyond 5Gの研究開発の世界動向について、海外でも研究や投資が盛んに行われ、産業を巻き込んだ開発が進められており、日本も世界動向に遅れを取らないよう努める必要があると指摘されました。取り組みの事例として、ドイツの研究プロジェクトやBeyond 5G研究開発イベントの様子を紹介し、通信分野だけでなく産業分野など様々な業界を巻き込んで開発する必要性を提案されました。

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT) 石津氏

〈国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT) 石津氏〉

 
(2)ICTによる地域課題解決の取組紹介(30分)
  「地域課題解決アプリ開発教育の事例」
   講師:公立大学法人熊本県立大学 総合管理学部 教授
      同大学 デジタルイノベーション推進センター長 Apple Distinguished Educator 飯村 伊智郎 氏
 
 飯村教授の研究室では、人とコンピューターが豊かに共存し、安全で安心できる快適な社会の実現を目指しています。この目標に向けた人材育成の事例についてお話になりました。
 学習環境のデザインにおいて重視している点は、(1)好奇心を大切にする、(2)着実に成長する、(3)抜群の成果を出す、の3点を挙げられました。
 具体的には、研究室では基礎から応用研究、そして社会実装を目指した課題解決の実践を研究領域としています。学生はロードマップを基に、学年を超えたチームでの研究活動を通じて、実社会の課題解決を目的としたアプリケーション開発や映像制作、ワークショップ開催などに取り組み、個々の成長を目指しながら、チームで得た知識やスキルを活かして、各自の興味関心のある研究テーマ(卒業研究、自主的な研究)に取り組んでいるとのことです。
 また、研究室の学生は、様々な団体や社会人と協力した共同研究として、社会問題解決に取り組んでおり、そのアプローチとして、文理の枠を超えたアプリ開発を行い、これらを公開しています。この取組は、学生が社会問題解決を通じて様々な気づきを得る機会として活用されていることを紹介されました。
 共同研究を進めるためには、学生の研究テーマと実社会の課題が合致する必要があるため、教授が適切な研究を見極めた上で、学生たちが社会実装を目指しているとのことでした。また、世の中が求めている解決策を学生ならではの視点で社会実装することが重要で、そこに導いてあげるように教育していると説明され、実際に実装された官公庁や教育機関のアプリの紹介も行われました。
 最後に、最先端のテクノロジーと人間との親和性の重要性に触れ、アプリケーションの操作画面の芸術的で革新的なデザインの必要性について言及するとともに、今後は、ソフトウェアがハードウェアの能力を最大限に引き出し、テクノロジーが人の能力を増幅または拡張させることで社会問題解決に寄与すると考えられており、そのため、これらのソフトウェアを生み出せる人材育成を継続して行うことが重要だと強調されました。
 

熊本県立大学 飯村氏

〈熊本県立大学 飯村氏〉
 

(3)NICTと地域連携(30分)
  「地域連携 高度研究開発×地域(北九州)〜GX・DXな社会実現に向けた取組」
   講師:公益財団法人北九州産業学術推進機構〈FAIS〉
      グリーンイノベーション推進本部 ロボット・DX推進センター DX推進課長 小川 健一 氏
 
 はじめに、FAISが研究機関ではなく、研究を支援する機関であることが説明され、ロボット・DX推進センターによる支援活動が紹介されました。
 次に、北九州市での地域連携について、現在も拡大しており、大学を含む複数の研究所との連携が進んでいること、特に、NICT、九州工業大学、FAISが共催したアイデアソン・ハッカソンは、三者間の連携を深めるきっかけとなったこと、また、「キレイな空気プロジェクト」というNICTとFAISの共同プロジェクトでは、地元高校生が先端技術を体験し、その成果を北九州市の環境ミュージアムで発表する機会があったこと等を紹介されました。
 さらに、「映像IoT鳥の目カメラプロジェクト」として、皿倉山展望台に設置予定のカメラを、同ミュージアムに設置予定の「鳥の目カメラ」の操作端末を使用し、「バーチャル展望台」として、市のSDGsや環境保全活動の一環として活用する取組み事例が紹介されました。
 この取組は研究開発の社会実装支援がFAISの役割であることから、多くの人に利用していただき、多くのフィードバックを得ることが重要であると説明されました。
 最後に、昨年末に設立された北九州GX推進コンソーシアムについて触れられ、産学官金が一体となった推進体制が説明されました。
 今後も九州総合通信局やNICTと連携し、北九州市の情報産業の振興に努める意向が強調されました。

公益財団法人北九州産業学術推進機構〈FAIS〉 小川氏

 〈公益財団法人北九州産業学術推進機構〈FAIS〉 小川氏〉
 

 (4)NICTの委託研究紹介1(30分)
  「信州伊那谷におけるLPWA通信網の構築と鳥獣罠センサーの高度活用」
   講師:国立大学法人信州大学 農学部 准教授 渡邉 修 氏
 
 NICTの委託研究である本研究について、LPWA通信網の構築や罠センサーの開発経緯、現場導入時の地元住民や自治体、企業との協力について紹介され、LPWAとセンサーの今後の活用方法や展開に関する提案がありました。
 LPWAについては、携帯電話網など他の商用の通信手段と比較して、省電力で長距離通信が可能な点、通信条件が不利な山間部でもカバーできる点、電池交換やメンテナンスが2〜3年に1回で済む点、通信費などのランニングコストが低い点がメリットとして挙げられました。一方で、基地局設置の導入コストがかかる点がデメリットとして説明されました。この罠センサーの導入により、見回り業務の時間が約3分の1に短縮され、車移動の減少によるエネルギーコストの削減、捕獲実績の向上、捕獲前の関係者への連絡による作業の安全化や出勤前の時間の有効活用などの事例が紹介されました。
 さらに、LPWAの高度活用に向けた取り組みとして、通信環境が不利な高標高地域での気象観測や、人口が少ない河川源流域での水資源管理のための雨量観測、温度センサーや雨量計の設置による豪雨災害への備えや水資源・森林資源保護のための活用方法が紹介されました。

信州大学 渡邉氏

〈信州大学 渡邉氏〉
 
 
(5)NICTの委託研究紹介2(30分)
  「ブルーカーボン貯留量の自動計測システムの開発による漁村の脱炭素・収益向上に向けた取り組み」
   講師:独立行政法人鳥羽商船高等専門学校 副校長 情報機械システム工学科 江崎 修央 氏
 
 海洋生物の炭素貯留の重要性やNICTの委託研究についてお話しになり、三重県・鳥羽市における産学官連携の取組の紹介やブルーカーボンクレジットの申請・登録により漁村にもたらされる新たな収益の可能性について述べられました。
 研究概要として、海域における藻類の炭素貯留量の自動算出手法について、漁船搭載型の観測カメラにより海中を撮影し、撮影画像からAIで藻類を自動識別、測量ソフトを使って撮影画像を3次元化し、海底地形を再現して藻類の体積を算出、藻類別の体積×藻類別の炭素貯蓄量で、海域の炭素貯蓄量の算出を行うという流れを説明されました。
 次に3つの研究開発項目について説明されました。
 1つ目は、低コストかつ軽くて保守性が高い海中撮影用の漁船搭載型のカメラ(IoT海洋モニタリングシステムの「うみログ」を活用)の紹介と、クラウドを使用した海中の画像データ収集の方法について解説されました。カメラは操船者一人で自動撮影でき、水中ドローンに比べて利便性があり、また、撮影した画像データは、クラウドにアップロードする際にGPS情報を付加しているため、どこでどんな映像を撮影したのか地図と紐づけて確認できることを述べられました。
 2つ目は、炭素貯蓄量の算出システムの構築についてのお話で、画像データから藻の種類の識別や体積の算出、観測海域の炭素貯蓄量の算出、藻場データの地図アプリでの表示について説明されました。
 3つ目は、藻場の創出と保全体制の構築について、天然藻場の環境条件を把握し、新たな藻場造成の提案を行うことや、養殖される藻類の炭素貯留量を計測し、新たな評価基準を検討していること、自治体や民間企業と協力して漁協の活動をJブルークレジットへ登録していく動きについて解説されました。

鳥羽商船高等専門学校 江崎氏

〈鳥羽商船高等専門学校 江崎氏〉
 
 
 各講演後の質疑応答では、セミナーの会場参加者と活発な意見交換が行われました。
 展示デモコーナーでは、参加された高校生をはじめたくさんの方々に、Beyond 5Gが実現する2030年以降の未来をVRゴーグルで体験していただきました。また、参加者が直面している地域課題や地域連携、研究開発の取り組みなどについて、熱心な意見交換や情報交換が行われました。
 
 九州総合通信局では、引き続き、NICTやKIAI、関係機関と連携して、地域におけるICTの利活用やDXを推進する取り組みを支援してまいります。
 なお、共催の九州テレコム振興センター(KIAI)によるICT研究開発支援セミナーの開催報告及び本セミナーの一部講演資料は、以下のURLからダウンロードできます。
 https://www.kiai.gr.jp/jigyou/R5/jigyou06.html別ウィンドウで開きます
 
お問合せ先:情報通信部情報通信連携推進課 096-326-7314

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