公的統計の統一性又は総合性を確保し、利用の向上を図るためには、公的統計が統計基準に基づいて作成される必要がある。日本標準職業分類は、このような統計基準の一つとして、公的統計を職業別に表示するために、個人が従事している仕事の類似性に着目して区分し、それを体系的に配列した形で設定されたものである。
日本標準職業分類の原形は、大正9年の第1回国勢調査で用いられた職業分類に遡る。
この職業分類は、今日から見ると産業分類に近く、それに若干の職業的な色彩が加味されたものであった。当時はまだ職業分類と産業分類の概念が明確に区分されておらず、職業分類という名称の下に産業分類が行われていたというのが実態である。職業分類と産業分類が区別されたのは、昭和5年の第3回国勢調査の時である。その後、昭和15年の第5回国勢調査以降は、毎回、同調査に用いられる職業分類が産業分類とは別に作成されている。なお、大正14年の第2回国勢調査及び昭和10年の第4回国勢調査では、職業別表示は行われていない。
現在の形で職業分類が設定される契機となったのは、戦後、国際連合が提唱した1950年世界センサスである。同センサスには我が国も参加することになり、総司令部(GHQ)の示唆によって、内閣に置かれた統計委員会に1950年センサス中央計画委員会が設置され、センサスの実行計画と基礎事業である各種分類の研究が進められた。また、この際に、各種の専門部会と並んで、委員会、幹事会及び小委員会から構成される職業分類専門部会が設けられた。
同部会は、昭和25年9月に昭和25年国勢調査用職業分類を作成したが、引き続き、標準分類を作成することになっていたので、更に標準職業分類技術委員会を新設して研究が進められた。
行政機構の改革により、昭和27年8月から統計委員会職業分類専門部会は、組織の構成は従来どおりのまま、行政管理庁統計基準部職業分類専門部会となったが、昭和28年3月には日本標準職業分類の草案が刊行された。なお、この草案は、その後、昭和32年3月に再刊されている。
他方、前記行政機構改革により、行政管理庁長官の諮問機関として、昭和27年8月に統計審議会が設置され、同年9月の第1回統計審議会で、統計調査に用いる職業分類の基準の設定に関する諮問(諮問第2号統計調査に用いる職業分類の基準の設定について)が、産業分類、商品分類、地域分類及び建設物分類の基準の設定に関する諮問と並んで行われた。
これを受けて、同年11月には統計審議会に職業分類専門部会が設置され、日本標準職業分類の設定は同部会で審議されることになった。
その後、総理府統計局による昭和30年国勢調査用の職業分類の作成、また昭和33年(1958年)には、国際労働機関(ILO)による国際標準職業分類(ISCO)の設定があり、日本標準職業分類は、これらの経験及び研究も考慮して審議された。
このような経過を踏まえて、昭和35年3月の第90回統計審議会で日本標準職業分類の設定に関する答申がなされ、行政管理庁はこれを受けて、同月に日本標準職業分類を設定した。
日本標準職業分類の設定の後、社会経済情勢の変化によって職業の面にもかなりの変化が認められるようになり、標準分類の適用に当たって現状にそぐわない点が生じてきたこと、及び昭和43年(1968年)に国際労働機関(ILO)によって国際標準職業分類(ISCO)が改定されたこと(1966年10月の第11回国際労働統計会議で改定案を採択、1967年2月〜3月の第168回総会で承認)から、改定が企画され、昭和43年5月の第188回統計審議会において、日本標準職業分類の改定に関する諮問が行われた。
この諮問に対して、昭和45年2月の第209回統計審議会において答申が行われ、これを受けて行政管理庁は同年3月に第1回目の日本標準職業分類の改定を行った。
その後も、我が国の社会経済情勢の変化に伴う職業構造の変化に適合させるため、昭和54年12月に第2回の改定、同61年に第3回改定、そして平成9年12月に第4回の改定を行った。
従来の日本標準職業分類は、法令に基づいて設定されたものではなく、その周知も告示によるものではなかった。平成19年5月、第166回国会において、公的統計の体系的かつ効率的整備及びその有用性の確保を図ることを目的とした新統計法(平成19年法律第53号。以下「新法」という。)が成立し、公的統計の作成に際し、その総合性又は統一性を確保するための技術的基準である「統計基準」という概念が設けられた。統計基準は、統計分類を含め、公的統計の作成に当たって基準となるものを総称するものとして、統計法に基づき総務大臣が設定するものである。また、新法の規定により統計委員会が設置され、統計審議会は統計委員会に改組された。
新法の成立を背景に、総務省では、平成9年12月時点の内容を基に、5回目の改定に相当する案を作成し、平成21年4月、新法に基づき、統計委員会に対して同案を新たに統計基準として設定することについての諮問を行い、同年8月、統計委員会の答申がなされた。これを受けて、総務省は、同年12月に日本標準職業分類を統計基準として設定し、公示した。
従来の職業の定義「個人が継続的に行い、かつ、収入を伴う仕事をいう。」を見直すとともに、仕事及び報酬の定義を追加した。
職業分類が、個人の就業形態及び仕事の期間や継続性とは独立したものであることなどを明示した。
複数の分類項目に該当する仕事に従事しているものの職業の決定方法について、従来の手順を見直した。
分類表の改定に当たっては、次の観点を考慮した。
このうち、ii.及びiii.は全分野についての改定の視点であり、過去の改定においても意識されてきたものである。
今回の改定においては、特に、生産工程作業に従事する人や技術者の分類に関して、「i. 産業分類又は商品分類的な視点からの独立」を意識して項目を設定した。
従来の分類では、主に人が従事している産業や生産活動の結果作り出される製品別に職業を設定していた。これは、職業を区分するメルクマールを、主に製品を開発したり製造したりするのに要する技術・知識の内容として、産業や製品の区分と職業の区分が対応するものとしていたことによるものである。しかし、産業の発展に伴って、技術は高度化、専門化し、生産工程も複雑化、分業化が進み、同一製品であっても、要求される技術分野は細分化されるとともに、製造する工程が複数の段階に分化した。この結果、従来、職業を区分するメルクマールとしていた製品を製造する技術・知識という視点だけでは、職業としての等質性が失われるようになってきたことから、新たな視点での分類体系の設定が必要となってきたところである。
以下では、今回の改定の具体的な内容について、平成9年12月時点の分類表(旧分類)からの大きな変更点について説明する。
全般的な見直しを行ったが、特に、産業分類又は商品分類的な視点からの独立を意識して大きく変更したのは次の分野である。
産業分野別の視点から設定されていた旧中分類の「機械・電気技術者」及び「鉱工業技術者(機械・電気技術者を除く)」を統合し、これらの技術者が扱う製品の製造に関する技術分野別に「製造技術者(開発)」及び「製造技術者(開発を除く)」を新設した。
旧分類では、生産工程に従事するものの分類について、大分類「I 生産工程・労務作業者」の中の、亜大分類「I-1 製造・制作作業者」の中・小分類において、主に生産活動の結果作り出される製品別に職業を設定していた。
今回の改定では、職業分類を産業分類又は商品分類と独立させる観点からも、各種製品を製造する生産工程から、横断的に共通部分として考えられる「製造・加工」、「組立」、「整備・修理」、「検査」の4つの部分に区別した。
更に、作業形態に着目し「主に自動化された装置・プラントなどの生産設備の稼働状況のモニタリング、運転状況の調整を行うなどの自動化された生産設備を操作する仕事」と「道具や機械器具などを用いて直接、製品の製造・加工処理を行う仕事」に区別した。
また、旧分類の中・小分類である「従事する産業又は仕事の対象である製品」は小分類とし、これらを生産工程別、製品グループ別及び作業形態別に集約し、次のように分類して、新たな中分類として設定した。
作業形態 | ||||
---|---|---|---|---|
主に機械設備の制御・監視(間接処理) | 主に道具等を用いた製造・加工処理(直接処理) | |||
生 産 工 程 |
製造加工 | 金属製品 | 中分類49 「生産設備制御・監視従事者(金属製品)」 | 中分類52 「製品製造・加工処理従事者(金属製品)」 |
金属製品以外 | 中分類50 「生産設備制御・監視従事者(金属製品を除く)」 | 中分類53 「製品製造・加工処理従事者(金属製品を除く)」 | ||
組立 | 機械 | 中分類51 「機械組立設備制御・監視従事者」 | 中分類54 「機械組立従事者」 | |
整備・修理 | 中分類55 「機械整備・修理従事者」 | |||
検査 | 金属製品 | 中分類56 「製品検査従事者(金属製品)」 | ||
金属製品以外 | 中分類57 「製品検査従事者(金属製品を除く)」 | |||
機械 | 中分類58 「機械検査従事者」 | |||
その他 | 中分類59 「生産関連・生産類似作業従事者」 |
PDFファイル 分類項目対照表(:57KB)
諮問第17号 日本標準職業分類の統計基準としての設定について(諮問)(内閣府ホームページ)
諮問第17号の答申 日本標準職業分類の統計基準としての設定について(内閣府ホームページ)