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調停案の受諾の勧告と調停案の公表

ちょうせい第11号(平成9年11月)より

プラクティス公害紛争処理法 第11回

はじめに

 調停手続は、調停委員会が、当事者双方の主張を聞き、争点について事実の調査をすることによって事実関係を究明し、これに基づき、当事者双方の互譲、妥協を図るよう調整、説得に努め、必要であれば調停案を提示するという手順を踏む。
 調停委員会が提示した調停案が当事者の一方又は双方から拒否された場合には、さらに第2次、第3次の調停案を作成して提示することもできるが、当事者の承諾が得られない場合には、合意が成立しないため、調停手続はその期待された効果を挙げられないまま終わることとなる。
 そこで、公害紛争処理法は、「当事者間に合意が成立することが困難であると認める場合において、相当であると認めるときは、一切の事情を考慮して調停案を作成し、当事者に対し、30日以上の期間を定めて、その受諾を勧告することができる」(法第34条第1項)こととし、一定の場合に、「調停案の受諾の勧告」という特別の形式で調停案を提示することにより、調停案に法律上特別の効果を付与し、調停の成立を促す制度を設けている。
 また、受諾を勧告した調停案は、いわば調停委員会のその事件の解決に関する最終的な判断であることから、社会一般にその内容を正確に周知させるとともに、世論の批判にさらし、併せて、その結果を当事者が調停案の諾否を決する際の判断の材料とすることができるようにすることが望ましい場合がある。この場合には、調停手続の非公開の例外として、調停案の受諾の「勧告をした場合において、相当と認めるときは、……当該調停案を公表することができる」(第34条の2)こととしている。

1 調停案の受諾の勧告

(1) 要件
 調停委員会が調停案の受諾を勧告することができるのは、「当事者間に合意が成立することが困難であると認める場合において、相当であると認めるとき」である。調停案の受諾の勧告は、当事者双方の明示の意思表示によって合意を成立させるという原則の例外をなすものであるから、勧告するのが相当であるかどうかの判断は、慎重に行う必要がある。
 具体的には、当事者の双方又は一方が自分の主張を固執して譲らないが、もう一歩の歩み寄りによって合意成立が可能であり、調停委員会の最終勧告があれば、積極的反対はないと認められるような場合、あるいは、合意成立の蓋然性は必ずしも高くないが、事案の公共性等その性質、内容により、調停委員会が妥当と考える解決案を明らかにする意義があるような場合が、勧告を相当とする場合であろう。
 公害等調整委員会が扱った事件で調停案の受諾の勧告を行ったのは、北陸新幹線騒音防止等調停申請事件(公調委平成3年(調)第8号・平成4年(調)第1号)だけである。本件事件では、「当事者間に合意が成立することが困難であると認めたが、本件事件が公共の利益に深くかかわる性質を有し、かつ、その紛争解決が社会的に重大な意義を有することにかんがみ」勧告を行っている。また、都道府県公害審査会等(以下「審査会等」という。)が扱った事件で調停案の受諾の勧告を行ったものは約30件あるが、この中では、例えば家具製造工場からの大気汚染等の被害の防止を求める事件において、「粉塵、煤煙及び騒音については、早期に紛争を解決することが申請人らの生活環境の現状からみて大きな意義を持つと考え」て勧告を行ったものがある。
 調停を求める事項の一部についてのみ上記要件が当てはまる場合には、その部分について手続を分離し、受諾を勧告することも可能である。

(2) 期間
 調停案の受諾の勧告を行う場合には、「30日以上の期間」を付与しなければならない。これは、当事者に調停案を受諾するかどうかを考慮する余裕を与えるためである。したがって、少なくとも30日を必要とするが、それ以上何日にするかは、事案の性質により調停委員会が定めることとなる。また、当事者が複数である場合には、個別に期間を計算することになるから、それぞれ異なる期間を付与することもできる。さらに、複数の当事者について一律に特定の日時を調停案を受諾しない旨の申出の期限として指定する場合には、すべての当事者について30日以上という法定期間が確保できるよう配慮する必要がある。
 北陸新幹線騒音防止等調停申請事件においては、30日の期間を付して調停案の受諾の勧告を行っている。審査会等の扱った事件では、通知した日から30日を経過した後の直近の月末を期限とするものや2か月程度の期間を付与しているものもみられる。
 なお、期間の計算については、民法の原則に従うこととなる(規則第4条)。

(3) 方法
 調停案の受諾の勧告は、その調停案及び指定された期間内に調停案を受諾しない旨の申出が到達しなければ当事者間に調停案と同一の内容の合意が成立したものとみなされる旨を記載した書面でしなければならない(令第12条1項、規則第19条1項)。なお、代理人は、特別の委任を受けていなければ調停案を受諾することができないことから、調停案の受諾について特別の委任を受けている場合に限り、代理人に対して調停案の受諾の勧告を行うことができる。また、代表者は、他の当事者のために調停案を受諾することはできないことから、代表者に対して調停案の受諾の勧告を行うことはできない。
 調停案の受諾の勧告は、調停期日においても調停期日外においても行うことができる。

(4) 効果
 調停案の受諾の勧告を行った場合に生ずる効果は次のとおりである。

 ア 調停案を受諾する旨の申出があった場合
 当事者の双方から調停委員会に対し、調停案を受諾する旨の申出があった場合には当事者間に調停案と同じ内容の合意が成立する。
 
 イ 調停案を受諾しない旨の申出があった場合
 当事者の一方又は双方が調停委員会に対し、指定された期間内に調停案を受諾しない旨の申出をした場合には、当該調停は打ち切られたものとみなされる(法第36条第2項)。調停案を受諾しない旨の申出は、書面でしなければならない(令第12条第2項、規則第19条第2項)。この書面は、指定された期間内に調停委員会に到達することが必要である。
 
 ウ 調停案を受諾しない旨の申出がなかった場合
 指定された期間内に当事者から受諾しない旨の申出がない場合には、期間の経過とともに、当事者間に調停案と同じ内容の合意が成立したものとみなされる。当事者の一部だけから不受諾の申出があった場合には、残りの当事者についてのみ調停案と同じ内容の合意が成立したものとみなされる。

(5) 当事者への通知
 当事者から、調停案を受諾しない旨の申出がなく合意が成立したものとみなされた場合又は調停案を受諾しない旨の申出があり調停が打ち切られたものとみなされた場合には、それぞれ指定された期間経過後当事者に対し、遅滞なく、書面で合意が成立したものとみなされた旨又は合意が成立しなかった旨の通知をしなければならない(令第12条第3項、規則第19条第3項)。いずれの場合も、改めて調停期日を開く等の措置は必要なく、受諾の勧告によって手続は終結することになる。

2 調停案の公表

(1) 要件
 調停委員会が調停案を公表することができるのは,調停案の受諾の勧告をした場合において,「相当と認めるとき」である。「相当と認めるとき」とは,個々の具体的事件ごとに,調停委員会が,その事件の持つ公共性の程度や調停の経過等の事情を考慮して決めることになる。
 北陸新幹線騒音防止等調停申請事件においては,「本件事件の持つ社会的重要性にかんがみ,調停案の内容を明らかにすることにより,広く社会一般の理解を求め,かつ,世論の動向を当事者が諾否を決する際の判断の資料とすることを期待して」調停案の全文を公表している。審査会等の扱った事件では,冷暖房室外機の振動・騒音の差し止めを求める調停事件において,当該「冷暖房室外機の騒音が公害防止条例に定める規制基準を大幅に上回っている現状にかんがみ,紛争調停の経過等について世論の反応を求め,その動向を当事者が調停案の諾否を決する際の参考とすることを期待し」て調停案を公表したものなどがある。

(2) 理由
 調停案の公表は,社会一般の人々が調停案が妥当なものであるかどうかを判断することができるよう,調停委員会が当該調停案の内容を相当と判断した理由を付して行わなければならない。

(3) 方法
 公表の方法としては,通常,新聞,テレビ,ラジオ等の報道機関に対して発表することや官報に掲載することが考えられる。その他調停委員会が相当と認める方法をとることもできる。

公害等調整委員会事務局

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