土壌汚染による被害は?

ちょうせい第29号(平成14年5月)より

Q&A こんなときは? 第18回

 公害紛争・苦情処理に携わる地方公共団体の担当者の皆さんの疑問にお答えする「こんなときは?」のコーナーです。今回も業務の参考となると思われるものを選んで掲載します。公害紛争処理制度等についてご質問等がありましたら当委員会事務局総務課企画法規係までおたずねください。

土壌汚染による被害を理由とする公害事件の取扱いについて

 最近、市街地における土壌汚染が問題となってきています。これらの土壌汚染は、過去に行われた工場等の操業による汚染が、現在になって発見されるといったもので、今国会に土壌汚染の対策のための法律案が提出されています。この土壌汚染をめぐり紛争が生じる可能性がありますが、公害に係る紛争であることから、公害紛争処理制度の対象となります。そこで、以下では2 つの事例をもとに、想定される土壌汚染に係る紛争をいくつかのパターンに分けて考え方を整理してみたいと思います。

事例1
 ある高層マンションの建設現場で、鉛、トリクロロエチレン等の有害物質で汚染された土壌及び地下水が発見された。マンション開発会社A は汚染土壌の搬出及び汚染されていない土壌による埋め戻し等の対策を講じた。当該土地を含むマンション開発地域は、かつて化学製品製造会社B が所有する工場であったが、工場移転にともない10 年前にA がB から跡地を購入、マンション開発を進めていた。既に本件マンション開発は8 割方完成し、当該部分の分譲は既に終了しているが、残りの部分についても開発が進められている。
 マンション住民の自治会C は、汚染物質が残存しているはずであると考え、A に対し本件開発地域全体の土壌汚染対策をとるよう要望したが、A は、(1)必要な措置は講じられており日常生活に問題は生じないこと、(2)汚染原因者はA ではなくB であることを理由として、これ以上の対策を行うつもりはないと回答した。

事例1

1)C がB 又はA に対して土壌汚染の調査と対策を求めて申請した場合
 公害紛争処理制度の対象となる紛争は公害に係る民事上の紛争です。公害紛争処理法では、第 2 条において、「この法律において「公害」とは、環境基本法(平成5 年法律第91 号)第2 条第3 項に規定する公害をいう。」と規定しており、「公害」とは、「事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下及び悪臭によって、人の健康又は生活環境にかかる被害が生ずることをいう。」と定義されています。
 本件において、C は、居住する地域において土壌の汚染が発見されたことから、その汚染による将来的な健康・財産被害のおそれを主張しています。
 そして、汚染は本件開発地域のほぼ全体に広がっていると考えられることから、「相当範囲にわたる」汚染ということがいえます。
 ここで、B は本件土壌汚染の原因者で、その汚染は工場の操業という「事業活動その他の人の活動」に伴って生じたものといえます。
 したがって、CB 間の紛争は「事業活動その他の人の活動」に伴って生じた公害に係る紛争といえます。
 一方、 A は、本件開発地域の土地をB から10 年前に購入し、保有していましたが、本件土壌汚染については、直接の原因者ではありません。しかしながら、A によるマンションの建設分譲という「事業活動その他の人の活動」に伴って土壌汚染の拡大による被害のおそれが生じたというのですから、CA 間の紛争は「事業活動その他の人の活動」に伴って生じた公害に係る紛争といえます。
 したがって、表題の申請は公害紛争処理制度の対象として受け付けることができます。

2)住民 C´がB に対してマンションの資産価値の低下による損害の賠償を求めて申請した場合
  C´は、自らが所有するマンションの部屋を売却しようとしましたが、土壌が汚染された土地に建つマンションであることを理由に、周辺の相場よりも相当に低い買取価格しか示されませんでした。この場合C´は、土壌汚染による生活環境の悪化を原因とするマンションの資産価値の低下という財産被害を主張して、B に対して損害賠償を求めることが考えられますが、この様な紛争も公害に係る紛争であるといえるので、公害紛争処理制度の対象として受け付けることができます。

3)A がB に対して当該土地の資産価値の低下による損害の賠償を求めて申請した場合
  A は、土壌汚染の発見後に自ら対策を講じたものの、土壌が汚染されていた土地であることから、土地の評価額が周辺土地の相場と比較して著しく低下し、当該土地でのマンション開発を継続することが困難になりました。この場合A は、土壌汚染を原因とする当該土地の資産価値の著しい低下という財産被害を主張して、B に対して損害賠償を求めることが考えられますが、この様な紛争も公害に係る紛争であるといえるので、公害紛争処理制度の対象として受け付けることができます。

事例2
 
事業者 B は、A が所有する土地において操業していた金属製造工場を廃止した。そこでA は当該土地にマンションを建設する計画を立てたが、建設に当たって土壌調査を行ったところ、高い濃度の総水銀による汚染が発見された。汚染による健康・財産被害のおそれをなくしてマンション建設を急ぎたいA は、当該土地について自ら汚染土壌の撤去、浄化等の対策を行い、その費用についてB に請求した。しかしB は、工場施設の撤去、跡地の整地によって必要な措置は講じていると主張し、請求に応じない。
 また、B が操業を行っていたのは当該土地のみであるが、この事実を知った周辺住民のグループC が、同様の汚染が周辺地域にも広がっている可能性があること、地下水や井戸水が汚染されている可能性があることを主張し、A に周辺地域も含めた詳細な調査と汚染拡大の防止、さらに、それらを行うまでマンションの建設を中止することを求めた。

事例2

1)周辺住民 C がA 又はB に対して汚染の調査と拡大防止を求めて申請した場合
 上記のとおり周辺住民C は当該土地における土壌汚染を放置することによる健康被害のおそれを主張しています。
 汚染原因者であるB の行った金属製造業は、「事業活動その他の人の活動」に当ります。一方、A は本件土壌汚染の直接の原因者ではありませんが、当該土地を所有・管理する者であり、C によれば適正な管理を怠れば、将来、土壌汚染に係る被害が生じるおそれがあるというのですから、事業活動に伴って生じた土壌汚染被害に係る紛争といえます。
 また、土壌汚染による被害は周辺住民にもおよぶおそれがあることから、「相当範囲にわたる」といえます。
 したがって、この場合については公害紛争処理制度の対象として受け付けることができます。

2)A がB に対してA が行った汚染土壌の撤去及び土壌の浄化に要した費用を求めて申請した場合
 A が求めているのは、B が汚染原因者であるにもかかわらず、汚染物質の適正な処理をしなかったために生じるであろう公害(土壌汚染による健康・財産被害)を未然に防止するため、A が負担した費用です。これは、公害被害を未然に防止するための費用負担に関する紛争、即ち、公害に係る民事上の紛争であり、公害紛争処理制度の対象として受け付けることができます。

公害等調整委員会事務局 総務課

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