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調停手続における資料の収集

ちょうせい第21号(平成12年5月)より

プラクティス公害紛争処理法 ‐第21回 調停手続における資料の収集について

はじめに

 公害は、農作物や建築物などの財産だけでなく、人の健康に重大な被害を及ぼすこともある。しかし、公害においては原因と被害との因果関係がはっきりせず、その究明のためには専門的な知識技術を必要とすることも多く、普通の国民が因果関係を立証して被害の救済を受けることに困難が伴うことが少なくない。公害紛争処理制度は、このような公害の特殊性を踏まえ、裁判所の手続とは別に、行政上の処理制度を設けることにより、公害紛争の簡易・迅速な解決を図ろうとしたものである。このような公害紛争処理制度においては、調停委員会が積極的に資料を収集し、自ら因果関係の究明等に努めることが予定されていると言える。今回は、調停手続における資料収集について見てみることにする。
 なお、審査会等において行う調停等の手続において都道府県が負担する費用(公害紛争処理法(以下「法」という。)第44条第2項)並びに参考人等に支給する額及び方法(公害紛争処理法施行令(以下「令」という。)第16条)は条例で定めることとされているため、これらの事項については最終的には条例の規定・解釈によることになる。

1 総論

 調停手続は、裁判のようないわゆる弁論主義を取っておらず、調停委員会が自ら争点を把握し、紛争の内容に積極的に介入することにより、妥当な解決の方向にリードしていくことが期待されている。そのためには、事案の真相を把握するため資料の収集が不可欠であることから、調停委員会は、調停を行うため必要があるときは、自ら資料を収集することができる。資料の収集は、調停委員会が職権で行うものであり、当事者の申立ては職権の発動を促すに過ぎない。もちろん、当事者の合意を前提とする調停手続の性質上、どのような資料をどのような方法で入手するかについては、当事者の意見を聴取し、その納得を得て行うことが望ましいことは言うまでもなく、実際の手続においても、当事者からの申立てを受けて資料の収集が行われる場合が多い。また、資料の収集を調停期日に行うか調停期日外に行うか、収集に際して当事者の立会いを認めるか否か、その結果について当事者に意見を述べる機会を与えるか否か等についても、調停委員会の判断による。
 資料の収集は、1人又は2人の調停委員に行わせることができる(法第23条の5)。また、特に規定はないが、任意で行われる情報収集については、調停委員会の指示を受けて事務局職員がこれを行うことができると解される(中央委員会については、公害紛争の処理手続等に関する規則(以下、「規則」という。)第16条第2項)。文献や行政資料については、事務局において積極的に収集することも必要であろう。
 資料の収集方法は次のとおりである。なお、このうち(2)及び(7)は、過料の制裁の下に強制的に行う手続である。また、(8)及び(9)は調停委員会ではなく審査会等が行う。

(1) 事件の関係人、参考人の陳述等(令第10条)
 調停委員会は、調停を行うため必要があると認めるときは、事件の関係人(当事者本人及びその代理人、法人の代表者等)又は参考人に、陳述又は意見を求めることができる。参考人は、事件に関係する事実につき、何らかの陳述をし、又は意見を述べることのできる者のうち、事件の関係人を除く者をいう。陳述又は意見は、調停期日に出頭を求めて行わせるか、書面の提出により行う。
 事件の関係人、参考人が陳述し、又は意見を述べるに当たって事前の準備を要する質問事項は事前に連絡しておく。
 参考人に対しては、令第16条の規定に基づく条例の定めるところにより旅費を支給する必要がある。

(2) 当事者の意見聴取(法第32条)
 調停委員会は、調停のために必要があると認めるときは、当事者(令第4条の代表者及びその選定者、法人の代表者等を含む。)に出頭を求め、その意見をきくことができる。正当な理由なく出頭に応じない場合は過料に処せられることがある(法第55条第1項)。これは、紛争の実情を一番よく知っているのは当事者であり、また、紛争の対象となっている権利又は法律関係について処分権限を持っているのも当事者であることから、調停を成立させるためには、直接当事者の出頭を求めることができることとしたものである。このため、調停手続について本人を代理するに過ぎない法第23条の2の代理人はここでいう当事者には含まれない(当事者の法定代理人は含まれると解される。)。
 出頭の要求は、出頭すべき日時、場所、正当な理由がなくて出頭の要求に応じなかったときの法律上の制裁等を記載した書面をもってしなければならない(公害紛争処理法施行規則(以下、「府令」という。)第4条)。同書面は配達証明郵便で送るか、又は受領書を取って手交する。
 なお、法第32条に基づき出頭を要求し意見を聴取する場合であっても、民事訴訟や裁定手続のように宣誓させることはできない。
 当事者からの意見聴取は、通常は、(1)の任意の要請によって行われ、概ね当事者の協力を得ているようである。当事者の合意を要する調停手続において調停委員会の要請にもかかわらず当事者が出頭しない場合には、調停が成立することは期しがたいと考えられ、中央委員会で法第32条の出頭の要求をした事例はない。

(3) 鑑定の依頼(令第10条)
 調停委員会は、調停を行うため必要があると認めるときは、鑑定人に鑑定を依頼することができる。鑑定とは、特別の専門的な学識経験を有する者から、一般的な学識経験や一定の事実にその学識経験を適用して得られた結果を聴取することである。鑑定人は、鑑定を必要とする事項について学識経験を有する者のうちから、調停委員会の判断によって決する。鑑定は、鑑定人に出頭を求めるか、又は鑑定書の提出を求めることにより行う。鑑定を依頼するに当たっては、鑑定事項を個別的、具体的に特定し、依頼書に付記する等して事前に連絡しておく。
 鑑定人には、令第16条の規定に基づく条例の定めるところにより、鑑定料、旅費等を支給する必要がある。

(4) 文書又は物件の収集
 文書又は物件の収集は、当事者が自発的に提出したものを受領し、又は所持者に対し任意に提出を依頼することによって行う。任意の提出の依頼は、当事者以外の者に対しても行うことができる。
 提出された文書又は物件について、返還を要するときには、文書は写しをとった上、物件は検査をし写真を撮る等した上、速やかに提出者に返還する。
 なお、強制的な収集については(7)参照。

(5) 現地調査
 公害の加害行為及び被害を把握し、妥当な解決方法を探るために、公害の現場に行って実態を把握することは不可欠である。現地調査を行う場所が工場、事業所等で管理者がいるときには、あらかじめ日時、場所、当事者を立ち会わせることの可否等について当該管理者の了解を求める。
 なお、強制的な立ち入り調査については、(7)参照。

(6) 事実の調査
 上記の外、特別の方式によらず、かつ、強制力を用いずに資料を収集し、調査することを「事実の調査」と言っている(規則第16条第2項)。審査会等については法令上特段の規定はないが、事件の関係人や参考人から事情をきいたり、文書を調べたり、専門家から意見をきくなど適当と認められる方法によることができる。
 調停委員会は「事実の調査」を事務局の職員に行わせることができる。ただし、審査会等については独自の事務局を持っていないため、都道府県が被申請人である等の事情がある場合には、調査の中立性を疑わせるようなことのないよう十分留意が必要であると思われる。

(7) 文書の提出等(法第33条)
 いわゆる重大事件においては、調停委員会は、必要があると認めるときは、当事者から当該調停に係る事件に関係のある文書又は物件の提出を求め、又は、紛争の原因たる事実関係を明確にするため、当事者の占有する工場、事業場その他事件に関係のある場所に立ち入って、事件に関係のある文書又は物件を検査することができる。正当な理由なく提出を拒む場合は過料に処せられることがある。文書等の提出要求の方式については、府令第5条、立入り検査の方式については、令第15条及び府令第6条に規定がある。
 調停は、当事者の合意に基づいて紛争を解決しようとするものであるから、一般的に強制的手段になじまないといえる。しかし、法第24条第1項に規定する重大事件は、被害の程度が著しく、その範囲が広いものであることから、当該紛争がどのような形で解決されるかについて社会的影響も大きいので、特に事実関係を究明した上で公正な解決を図ることが要請される。このため、重大事件に関する調停を行う場合に限って調停委員会に強制的手段を用いる権限を与えることとされたものである。重大事件は、原則として中央委員会が扱うこととされているが、法第38条の規定により、引継ぎがあった場合には、審査会等において扱うこともできる。
 なお、これまでのところ法第33条の規定による文書等の提出命令及び立入検査が行われたことはない。

(8) 資料提出の要求等(法第43条)
 審査会等は、関係行政機関に対し、資料の提出、意見の開陳、技術的知識の提供その他必要な協力を求めることができる。審査会等が行うこととされているが、協力を求めるかどうかの実質的な判断は調停委員会が行うことが適当であり、調停委員会の要請に基づき、審査会等の長の名前で協力を求めることになろう。
 資料としては、当事者の故意過失、損害の種類、範囲、数量等についての当該紛争に関係する資料、公害防止対策、助成措置等に関する資料等事件解決に必要な一切の資料が含まれる。また、その他必要な協力としては、原因物質の採取、分析、測定の実施等その事件解決に必要であれば、その範囲に制限はない。
 ただ、資料提出の要求等は相手方の任意の協力を求めるものであり、協力を得られる範囲は、相手先の予算、業務の都合等による。このため、実際の問題としては、資料提出の要求等を行うに当たって、担当職員は、あらかじめ依頼先の関係者と十分協議することになろう。

(9) 調査等の実施
 法律上に規定はないが、公害紛争の迅速かつ適正な解決を行政的に図るという制度の趣旨から、審査会等は、自らの所掌事務に必要な資料を入手するために、調査等を行うことができると解される(法第43条の規定に基づき、都道府県知事に調査を求めることもできる。)。また、条例等において「審査会は、専門の事項を調査させる為、専門調査員を置くことができる」旨の規定があれば、専門調査員を任命して調査をさせることもできる。
 調査については、当事者自身の実施が原則であり、当事者の負担による調査の可否がまず問題となるが、これができない場合には、審査会等が調査を行う必要性(データに中立・公平性が求められること、他の手段ではデータの入手ができないこと等)、当該紛争の解決に当たっての必要性(専門的・科学的見地からの調査なしでは因果関係・被害状況等が把握できない、調査により被害状況が明らかになれば妥当な調停成立が見込まれる等)、当該紛争の性格(紛争の社会性、被害の重大性等)等の要因を総合的に勘案して、審査会が調査を行うか否かを判断することになろう。
 なお、このような調査は、審査会等の業務に必要な範囲内で審査会等の責任と負担により実施するものであって、これに要する費用は、法第44条にいう「手続に要する費用」には該当しないと解される。
 審査会等においては予算上の制約も大きいと思われるが、公害紛争の迅速かつ適正な解決のため、必要が認められる場合には、積極的にこれを行っていくことが必要である。

公害等調整員会事務局

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