平成3年版 通信白書

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第2章 豊かな生活と情報通信

2 地域間経済格差と情報通信

 (1)各国の経済発展と情報通信

 情報通信は、経済社会開発を円滑に進めるためには不可欠の手段であり、情報通信基盤の整備は各国の社会経済の発展と密接な関係に立つ。しかしながら電気通信をはじめとする情報通信の整備や運営には多額の費用を要することから、各国は、それぞれの国情に応じた経済発展戦略を踏まえ、情報通信基盤の整備を進めることが必要である。
 近年、著しい成長をとげたアジアNIEsの中には、情報通信基盤を戦略的に整備することによって産業構造の変換を伴う経済成長を円滑に行ってきた国が見受けられる。
 その具体的な例として国際金融業の自由化によって高度な成長をとげたシンガポールと、製造業を中心とした産業構造の高度化を達成した大韓民国を取り上げ、経済発展と情報通信のかかわりをみていく。
 シンガポールは、典型的な都市国家である。そこでは国際金融センタの設立、観光客の誘致、仲介貿易等に活路が求められた。そのためには国際的な航空・海運網の整備と並んで情報通信ネットワークの充実が図られた。
 国際金融取引についてはニューヨークやロンドンをはじめ、主要な市場と信頼性の高い高速・大容量の情報通信ネットワークの形成が前提となる。観光や貿易の仲介にしても予約システムや取次・決済のために高水準の通信ネットワークの形成が必要とされる。そのために積極的に情報通信ネットワークの整備が進められた。
 その結果、1988年には、百人当たりの電話機普及率が45.59と、アジアにおいては日本に次ぎ、先進国とほぼ同様の水準となっている。また、国内電気通信網では、1987年に全電話局を結ぶ伝送路の光ファイバ網の整備を終えるとともに、交換機のデジタル化が進められ、ISDNの構築が順調に進められている。また、国際電気通信網についても、衛星や海底ケーブルにより、世界の大部分の国と直接に接続し、ASEAN地域における国際通信センタとなっている。
 これらにより、金融部門においては、非居住者の預金利息について源泉徴収税を免除するなどの金融市場育成策とあいまって、東京に次いで香港に並ぶ、アジアにおける国際金融センタとなっている。
 このようなシンガポールの情報通信基盤の整備には、我が国も経済協力等を通じて貢献してきた。1970年度及び1971年度において、衛星地球局の設置を行うための有償資金協力を行ったほか、シンガポールの情報通信分野の人材を育成するために、1980年度以降10年間にわたり「日本・シンガポールソフトウェア技術研修センター」に対するプロジェクト方式の技術協力を実施し、コンピュータ・ソフトウエア分野の専門家を派遣してきた。また、1984年度以降7年間にわたり、「生産性向上プロジェクト」に対するプロジェクト方式の技術協力を実施し、生産性向上のためのビデオ教材作成に関する専門家を派遣したところである。
 次に、大韓民国では、工業を中心に農工業の積極的な育成が図られ、70年代には「漢江の奇跡」といわれる高度成長を達成した。
 近年では製造業を中心に国際競争力が強化され、1985年以降には、大幅な経常収支の黒字を計上し、被援助国から援助国へと転換した。同時に経済構造の高度化も進み、電気通信に対する需要が著しく増大した。
 このため、大韓民国では、80年代以降、情報通信基盤の充実が以前にもまして進められており、1979年における百人当たりの電話機普及率が7.76であったのが、1988年には29.58になり、他のアジアNIEs諸国とほぼ同様の水準に達している。また、大韓民国においては、従来国営の電気通信事業を公社化することによって経営の効率化を図ったが、より一層の合理化及び生産性の向上を図るために公社の民営化を行っているところであり、情報通信基盤の高度化に向けて積極的な取組が進められている。
 我が国は、大韓民国の情報通信基盤の整備に、資金協力及び技術協力の両面にわたって貢献してきた。資金協力については、1965年度、1972年度及び1976年度において電気通信設備の整備に対して累積で143億2,500万円の有償資金協力を行っている。また、技術協力については、情報通信分野における研修員の受入れや専門家の派遣を行っている。
 以上、シンガポール及び大韓民国における経済発展と情報通信基盤のかかわりをみてきたが、これらの例にもみられるように、各国の情報通信の基盤整備は各国の経済発展の在り方と深くかかわっている。我が国としても、それぞれの国情に応じ、今後ともソフト・ハードの両面で開発途上国の情報通信基盤の整備に協力し、各国の経済発展に寄与することが必要である。
 

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