平成3年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

第2章 豊かな生活と情報通信

(1)移動体通信技術

 ア 移動体通信の動向
 無線を利用した移動体通信技術は船舶や航空機の安全の確保のための唯一の通信手段として発達し、陸上においては、警察、防災など主に公共的な通信手段として利用されてきた。
 80年代に入り、モータリゼーションの進展に伴い、自動車を相手とする通信や自動車相互間の通信需要が増大するにつれ、パーソナル無線、MCAシステムの導入など、簡易に利用できる陸上無線システムが導入されてきた。
 今日では、航空及び海上の人命の安全確保のための通信システムも大きく変化している。1992年からは、通信衛星技術やデジタル通信技術を取り入れた「海上における遭難及び安全の世界的な制度」(GMDSS)により船舶、航空機、衛星、陸上施設が常時結ばれ、従来の中波帯や短波帯を用いた通信より簡単に、しかも効果的に通信が可能となる。
 また、日常の生活や産業活動の場面において利用できるシステムも多様化が進展するとともに、ポケットベルや携帯電話の普及など、より小型で身近な通信手段となっている(第2-4-3図参照)。
 我が国の移動体通信の利用状況の推移を見ると、昭和55年がら2年9月末間に自動車・携帯電話は105倍、ポケットベルは4.3倍と急増している。また、2年のコードレス電話の出荷台数は243万台で前年の3.6倍となっており、電話機の出荷台数の29.2%を占めている。
 自動車・携帯電話について、諸外国の現状をみると、北欧諸国の普及が目覚ましく次いで英国、米国の順となっており、日本はその4分の1から13分の1程度の普及状況となっている。
 イ 移動体通信の未来と技術的課題
 「いつでも、どこでも、誰とでも」通話ができる技術として、移動体通信技術は情報通信のパーソナル化の進展に不可欠なものである。例えば電気通信事業者、メーカー、利用者等に対して郵政省が行ったアンケート調査(注9)では、移動体通信の今後10年後の「ビジネス・ユースに加えたパーソナル・ユースの増大」傾向について、「極めて強くなる」または「強くなる」と答えた者が94.4%と極めて高くなっている。
 そこで、移動体通信の未来をパーソナル通信の実現におくと、そのための技術的課題は大きく分けて次の5点となる。
(ア)電波需要増大への対応
 現在、陸上の移動体通信に利用されている周波数は、第2-4-4図のとおりであり、特に首都圏において周波数事情はかなりひっ迫している状況にある。現在、新たな周波数帯の開発利用としては、従来より高い周波数領域である準マイクロ波帯のMCA無線への利用が始まっているが、今後各人が端末を所持するようになれば、一層の周波数の不足が想定される。周波数帯域の狭帯域化やデジタル化による周波数資源の有効利用と新たな周波数資源の開発を一層進めていく必要がある(第2-4-5図参照)。
(イ)パーソナル化への対応
(端末の小型化、軽量化の推進)
 最新の携帯電話は小型化、軽量化により体積が150cc前後、重量が250g前後と、体積、重量とも3年程の間に約3分の1となり、文字どおり身近に携帯できるようになった。今後ともシステムの多機能化、デジタル化を進めるとともに、小型、軽量、低電力消費型で高機能な機器の開発、そのための小型のアンテナや電池の開発等を進める必要がある。
(パーソナル通信番号の検討)
 従来の電話では、電話機に電話番号が付され、電話機を呼び出すシステムであるのに対し、個人対応の番号(パーソナル通信番号)は、相手があらかじめ指定した端末を通じて、「いつでも」「どこでも」直接個人を呼び出すシステムである。これにより追いかけ電話、親展電話、テレマーケティング等のサービスが可能となるほか、発信者は、自分の番号を用いて通信することにより、ICカードなどを用いてどの端末からでも自分の番号に課金することが可能となる。パーソナル通信番号の導入には番号付与の方法、番号管理等を含め検討が必要である。
(ウ)デジタル化、ISDN化への対応
 通信の秘匿性の確保、伝送効率または伝送品質の向上、固定系デジタル回線またはISDNとの接続を可能にすること等の観点から移動体通信システムのデジタル化が現在進められており、デジタル自動車電話については4年度中にもサービスが開始される予定である。移動体通信のデジタル化にあたっては、目的・効果を明確にし、移動体通信に最適な技術の開発を進める必要がある。
(エ)移動体衛星通信への対応
 従来、主に固定通信に利用されてきた衛星通信は、地球局技術の発達、マルチビームアンテナ等のアンテナ技術の発達、トランスポンダの送信電力の増大等により、移動体通信においても使用が可能となってきた。移動体衛星通信は1機の衛星で広範囲がカバーでき、高品質、高機能の通信が可能である反面、建物等の遮へいにより通信が困難となるので、目的や使用形態に応じて地上系と使い分けていく必要がある。
(オ)国際標準化の推進
 パーソナル通信技術の標準化の動向として、CCITTでは、固定網・移動網の別によらず、パーソナル通信番号(PTN)に基づいて通信の設定を可能とするサービス((U)PT((Universal)Personal Telecom-munications))について検討を進めている。CCIRでは、(U)PTを実現する一つの移動体通信システムであるFPLMTS(将来公衆陸上移動通信システム)について検討を進めている。

第2-4-3図 移動体通信の種類

第2-4-4図 移動通信用周波数帯の利用状況

第2-4-5図 周波数高度利用化の経緯

 

第2章第4節2 今後発展が期待される情報通信メディアの動向 に戻る (2)ハイビジョン技術 に進む