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海上で利用する無線システム

海上における遭難及び安全の世界的制度(GMDSS)

1 GMDSSの基本的な概念

1 概要
GMDSS(Global Maritime Distress and Safety System)の基本概念は、図1のとおりです。
その目的は遭難事故が発生した場合に、最小限の遅れで、陸上の救助調整センター(RCC;Rescue Coordination Centers 日本では海上保安庁)や遭難船舶の付近にある船舶が捜索救助作業に参加できるようにするため、RCCや船舶が遭難警報を直ちに受信できるようにすることができます。
このシステムは、遭難、緊急、安全通信のほか、海上安全情報(航行警報、気象警報等)も提供します。
すなわち、すべての船舶がどこを航行していても、その船舶自身の安全と、同じ海域を航行している他船の安全のために、必要と考えられる通信を確保することができるようにするものです。

図1:基本概念

GMDSSにおける海上保安通信イメージ図です。衛星などを経由し海上保安庁や近くの船舶に、遭難船舶の情報や海上安全情報を提供することができるシステムです。

2 GMDSSに対する航行区域
GMDSSの特徴の一つに海域の設定があります。GMDSSにおける無線通信システムは、地理的な条件やサービスの内容などに関連して一義的に決められない面もあります。
しかしながら、船舶に搭載されることが要求される装置は、原則的にその船舶の航行区域によって定められています。その航行区域は、次の4つに分けられます。
  • A1海域:DSC(Digitel Selective Calling)を使用するVHF(超短波;Very Hight Frequency)海岸局の通信範囲(20〜30海里)
    • 日本ではA1海域を設定していません。
  • A2海域:A1海域を除いたDSCを使用するMF(中波;Medium Frequency)海岸局の通信範囲(150海里程度)
  • A3海域:A1、A2海域を除いたインマルサット通信衛星の通信範囲
  • A4海域:A1、A2、A3海域以外の海域

2 GMDSSの機能

1 対象船舶
GMDSSを装備しなければならない船舶は、国際航海に従事する総トン数300トン以上の貨物船及びすべての旅客船です(注)
わが国では、それ以外にも、船舶の航行の安全性を一層高めるため、沿岸を航行する一部の船舶を除き、総トン数20トン以上の船舶は、基本的にGMDSS無線設備を設置することとなっています。
ただし、船体の構造その他の事情によりGMDSS設備の機器を備えることが困難なものは、規定どおりの機器を設備しなくてもよい場合があります。
なお、基本的な搭載要件については、表のとおりです。
注記
  • 海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約;International Convention for the Safety OF Life AT Sea条約)による。
2 通信機能
上記の船舶は次の通信を行う機能を持つよう考慮されています。
  • A 救助を求めるための遭難警報の送信
  • B 捜索救助調整通信・・・RCC(救助調整センター)、救助船、付近航行船舶等の相互間で行うSAR(捜索及び救助:Search And Rescue)調整のための通信
  • C 現場通信・・・遭難現場での救助作業通信
  • D ロケーティング通信・・・救助船が遭難船又は生存艇に到達するために、遭難船・生存艇が発する位置表示信号の送信
  • E ブリッジ − ブリッジ通信
  • F 海上安全情報の受信
表:GMDSSにおける基本搭載要件
区分\航行水域 A1 A2 A3 A4 備考
NAVTEX受信機  
EGC NAVTEX水域のみを航行する船舶には不要
VHF無線設備 DSC  
DSC聴守装置  
無線電話 A1海域のみを航行する船舶であって、常に陸上との間で通信ができない場合は一般通信用無線電信等を備えなければならない。
MF無線設備 DSC  
DSC聴守装置  
無線電話 A2海域のみを航行する船舶であって、常に陸上との間で通信が出来ない場合は条約船一般通信用無線電信等(注)を備えなければならない。
直接印刷電信     インマルサット直接印刷電信を備えていれば、MF直接印刷電信は不要
HF無線設備 DSC     A3水域を航行する船舶であって、インマルサット直接印刷電信の設備を備えていれば、HFのDSCは不要
DSC聴守装置     A3水域を航行する船舶であって、インマルサット直接印刷電信の設備を備えていれば、HFのDSC聴取装置は不要
無線電話     インマルサット直接印刷電信の設備を備えていれば、HFの無線電話は不要
直接印刷電信     インマルサット直接印刷電信の設備を備えていれば、HFの直接印刷電信は、不要
インマルサット直接印刷電信       MF直接印刷電信、HF無線電話及び直接印刷電信を備えれば、不要
浮揚型EPIRB  
非浮揚型EPIRB 浮揚型EPIRBは船橋に積み付ける場合又は船橋から遠隔操作できる場合は省略可
レーダートランスポンダ 各舷に1個(総トン数300トン上500トン未満の非旅客船は1個で可)
持ち運び式双方向無線電話装置 旅客船及び総トン数500トン以上の非旅客船は3個、総トン数500トン未満の旅客船は2個
船舶自動識別装置(AIS) 旅客船及び国際航海に従事する総トン数300トン以上の非旅客船、並びに国際航海に従事しない総トン数500トン以上の非旅客船
船舶航空機間双方向無線電話 旅客船のみ必要
船舶保安警報装置(SSAS) 国際航海に従事する旅客船、国際航海に従事する総トン数500トン以上の非旅客船
衛星無線航法装置等(GPS) 国際航海に従事する旅客船、国際航海に従事する総トン数20トン以上の非旅客船、国際航海に従事しない総トン数500トン以上の非旅客船

 注記

  1. 「条約船」とは次の船舶をいう。
    1. 国際航海に従事する旅客船
    2. 国際航海に従事する総トン数300トン上の非旅客船(漁労のみに従事する漁船を除く。)
  2. 「一般通信用無線電信等」とは、次のいずれかの設備をいう。
    • (1) HF(短波;High Frequency)直接印刷電信、(2) HF無線電話、(3) インマルサット直接印刷電信、(4) インマルサット無線電話、(5) MF直接無線電信、(6) 次の各号の無線電信等であって、常に陸上と連絡可能な直接印刷電信又は無線電話をいう。
      • ア 次に掲げる周波数帯で運用する船舶局の直接印刷電信又は無線電話
        • (1)中短波帯、(2)短波帯
      • イ 次に掲げる周波数帯で運用する船舶局の無線電話
        • (1)27MHz帯、(2)40MHz帯、(3)150MHz帯、(4)400MHz帯
      • ウ 次に掲げる周波数帯で運用する船舶局の無線電話
        • (1)250MHz帯、(2)800MHz帯
    • 「条約船一般通信用無線電信等」とは、HF直接印刷電信、HF無線電話、インマルサット直接印刷電信、インマルサット無線電話又はデジタル選択呼出装置をいう。
    • 「DSC」とは、デジタル選択呼出装置をいう。
    • 「DSC聴守装置」とは、デジタル選択呼出信号を聴取する装置をいう。
    • 「浮揚EPIRB」とは、浮揚型極軌道衛星利用非常用位置指示無線標識装置をいう。
    • 「非浮揚EPIRB」とは、非浮揚型極軌道衛星利用非常用位置指示無線標識装置をいう。
    • 船舶自動識別装置(AIS;Automatic Identification System
    • 船舶保安警報装置(SSAS;Ship Security Alert System

3 GMDSSの通信

1 遭難警報
  • ア 遭難警報は、救助を行い、救助の調整をする機関に対し、発生した遭難事故について迅速に、かつ確実に通報するためのもので、このあて先は、付近航行の船舶又はRCCです。
    RCC海岸局又は海岸地球局で警報を受信したときは、RCCは、捜索救助の船舶等又は付近の船舶に遭難警報を中継します。
    遭難警報には、遭難船舶の識別、遭難の場所並びに実行可能な場合には、遭難の種類及び救助を容易にするその他の情報を含めることができます。
  • イ 無線設備は、あらゆる海域において、船舶から陸上向け、船舶から船舶向け、陸上から船舶向けの三方向に遭難警報が送信できるように設計されています。
    警報が良好に送信される確率は非常に高く、かつ、短時間で送られるので、救助の可能性は格段に改善されます。
    遭難船舶の100海里以内に他の船舶がない場合には、衛星通信やHF通信により陸上のRCCに通報され、救助が行われるよう設計されています。
  • ウ 警報を発信する装置の搭載要件は、SOLAS条約により規定されており(国内的にも関係法令で、海域、航海の態様等により詳細に規定されています。)、警報は、主に、次のような方法によって送信されます。
    • A1海域を航行する船舶は、VHFのDSCを使用して周波数156.525MHzで船舶から船舶向け及び船舶から陸上向けの警報を送信します。
    • A2海域を航行する船舶は、MFのDSCを使用して周波数2187.5KHzで船舶から船舶向け及び船舶から陸上向けの警報を送信します。
    • A3海域及びA4海域を航行する船舶は、MFのDSCを使用して周波数2187.5KHzで船舶から船舶向けの警報を送信し、船舶地球局、HF帯のDSC設備又は衛星EPIRBを適切に使用して船舶から陸上向けの警報を送信します。ただし、衛星EPIRBは全ての海域で使用が可能です。
  • エ 遭難警報の送信は、通常は手動で行われ、すべての遭難警報は手動で受信証が送られます。
    船舶が突然転覆又は沈没したときは、浮標型の衛星EPIRBが自動的に作動します。
  • オ 遭難船舶の付近にある船舶に対するRCCからの遭難警報の中継は、船舶地球局に対しては衛星通信で、船舶局に対しては適切な周波数を使用して地上系通信で行われます。
    なお、衛星系では、広い海域にあるすべての船舶が警報を受けることを避け、遭難船舶の付近にある船舶のみが警報されるように、通常「海域呼出し」が使用されます。
2 捜索救助調整通信
  • ア 捜索救助調整通信は、遭難警報を受けた後に行われる捜索に参加する船舶及び航空機の調整に必要な通信であり、RCCと遭難現場の海域にある「現場指揮官」又は「海上捜索調整船」の間の通信を含むものです。
  • イ この調整通信は、SAR作業のために、一般的には一方向のみ特別の通報を送信する警報とは異なり、双方向に通報を送受信することができるものでなければならず、無線電話及びNBDPによる遭難安全通信は、このような通報を送り、受けるために使用することになります。
  • ウ このシステムで、調整通信に使用するものは、無線電話若しくはNBDP又はこれらの双方です。この通信は、船舶の備える無線設備及び事故の発生海域に応じて、地上系通信又は衛星系通信で行われます。
3 現場通信
現場通信は、通常、無線電話又はNBDPにより遭難・安全通信用に指定されたHF帯又はVHF帯の周波数で行われます。
これらの通信は、遭難船舶と救助の船舶等との間のものであり、遭難船舶及び生存者の救助に関するものです。
航空機が現場通信に含まれる時は、これらは通常、周波数3023kHz、4125kHz及び5680kHzを使用することができます。
更に、SAR航空機は、周波数2182kHz若しくは156.8MHz又はこれら双方の周波数その他の海上移動業務用周波数で海上の船舶と通信するための設備を備えることが必要となります。
4 ロケーティング信号
ロケーティング信号は、遭難船舶の発見又は生存者の位置決定を容易にするためのものであり、救助船舶等の周波数9GHz帯レーダーに応答して、そのレーダー画面上にレーダートランスポンダ(SART;Search and Rescue Rader Transponder)の位置を表示するものです。

写真1:レーダー

写真2:SARTレーダートランスポンダ

 
5 海上安全情報の提供(MSI;Maritime Safety Information)
船舶向けの航行警報、気象警報及び緊急な情報が提供されます。MF帯では、周波数518及び424KHzによるNAVTEX(Navigation Telex)により、また、インマルサット経由ではEGC(Enhanced Group Calling)により送信されます。
6 一般通信
このシステムにおける一般通信は、遭難、緊急及び安全の通信以外の港務通信、交通管制通信などの船舶の運航に関する通信及び電気通信業務の通信を言います。これらの通信は近距離ではVHF帯用周波数で行われています。
7 ブリッジ対ブリッジ通信
船舶間通信は、船舶の安全な移動を支援するための航海当直者相互間で行う船間のVHF無線電話通信です。

4 GMDSSのに用いられる通信システム

写真提供 日本無線株式会社(JRC)

1 地上通信
地上通信(地上波を利用する通信)は、MF、HF、VHF通信であって、次の装置が用いられます。
MF無線電話、HF無線電話、VHF無線電話(国際VHF、双方向無線電話)、DSC(デジタル選択呼出装置)、NBDP(狭帯域直接印刷電信)、NAVTEX、AIS(船舶自動識別装置)及びSART(レーダートランスポンダ)

写真3:AIS 船舶自動識別装置

写真4:双方向無線電話装置

 
  • ア 遠距離サービス
    • A 地上遠距離通信に使用される電波は短波であって、船対陸、陸対船の双方向通信に利用されます。
      インマルサットがカバーする海域では、短波は衛星通信の代替として使用されます。
      インマルサットのカバー外地域では、短波のみが遠距離通信の手段となり、遭難警報及び安全通信を行うため、4、6、8、12及び16MHz帯の周波数が割り当てられています。
    • B DSCは、遭難警報及び安全呼出しのための基本設備のひとつです。
      HF帯の遠距離通信では電波の伝搬が不安定なことが多いため、遭難船の位置や、通報を与える地理的区域、そのときの電波伝搬状況等を考慮して、最も適切な周波数が選択されなければなりません。
    • C DSCの呼出しに続く遭難、安全通信は、無線電話あるいはNBDP、又はその両方で行われます。
  • イ 中距離サービス
    • A 中距離サービスには2MHz帯が使用されます。船対陸、船対船、陸対船の通信には、2187.5kHzがDSCによる遭難警報及び安全呼出しをするために使用されています。
      また、2182kHzは、遭難通信(SAR調整通信と現場通信を含む。)に使用され、2174.5kHzがNBDPによる遭難安全通信用として使用されます。
    • B 陸上から船舶向けに500kHz帯の周波数が使用されます。
      具体的には、航行警報及び気象警報を送るために518kHzと424kHzがNAVTEXシステムとして提供されています。

      写真5:MF/HF無線電話装置

      写真6:ナブテックス受信機

       
    • C 近距離サービス
      • 近距離サービスには専らVHF帯が使われます。
        156.525MHz(ch70)がDSCによる遭難通報と安全呼出しのために、156.8MHz(ch16)が捜索救助協力活動と現場通信などの遭難安全通信のための電話として用いられます。この中には船位通報や気象通報、航行警報及び気象警報なども含まれます。

        写真7:VHF無線電話装置

        写真8:GPS 衛星無線航法装置

         
    • ア 衛星通信は、海上の安全を確保し、GMDSSの導入及び確実な通信網の確立にとって、重要な役割を果たします。
      衛星通信は、船舶から陸上向け及び陸上から船舶向けの双方に利用されます。
      1.5GHz、1.6GHzの周波数帯で運用するインマルサット衛星システムは、船舶地球局又は衛星EPIRBを使用して船舶からの警報の手段を提供し、また、無線テレックス及び必要なときは無線電話を使用する双方向の通信やSSAS(船舶保安警報装置)警報伝送を提供することができます。
      NBDPを使用する船舶向けの海上安全情報は、標準C型船舶地球局設備又はそのための専用受信設備のいずれかを使用し、インマルサットシステムを通じて提供されます。

      写真9:インマルサットC型船舶地球局

      写真10:インマルサットF型船舶地球局

       
    • イ 406MHz〜406.1帯で運用する低極軌道衛星EPIRBサービス(COSPAS-SARSATシステム)は、遭難警報の主な手段を提供し、このシステムを通じて運用するフロートフリーの衛星EPIRBの位置を決定するために利用されます。
      このシステムでは、衛星が移動することによって発生するドップラ効果により、NNSS(Navy Navigation Satellite System)を逆にした原理でEPIRBの位置を算出します。

      写真11:EPIRB 非常用位置指示無線標識

      写真12:SSAS 船舶保安警報装置

       
    • ウ 衛星通信については、次に挙げる二つのタイプの船上設備が使用されます。
      • A インマルサット船舶地球局
      • B 衛星EPIRB(手動で作動し、かつ、船舶の沈没にフロートフリーであり、自動的に作動することができるもの)

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