世界情報通信事情 World Information and Communication Circumstances

European Union 欧州連合(EU)(最終更新:令和3年度)

機関概要

設立目的

欧州域内の経済的統合を目指して発展してきた欧州共同体(European Community:EC)を基礎に、1993年11月、「マーストリヒト条約」に従って創立された。加盟国間の経済・通貨の統合、共通外交・安全保障政策の実施、欧州市民権の導入、司法・内務協力の発展等が創立目的として挙げられている。

加盟国

2021年11月現在、欧州連合(EU)の加盟国は27か国である。1951年調印のパリ条約によって欧州石炭鉄鋼共同体(European Coal and Steel Community:ECSC)が創設、更に1957年のローマ条約によって欧州経済共同体(European Economic Community:EEC)と欧州原子力共同体(European Atomic Energy Community:EURATOM)が設立されて以来、EU(EC)は拡大を続けてきた。

ECSC、EEC、EURATOMを設立した6か国(ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、オランダ)は「原加盟国」と呼ばれる。また1995年の第4次拡大までの加盟国を「EU15か国」、2004年以降の加盟国を「新規加盟国」と呼ぶことがある。現在、加盟候補国としてアルバニア、北マケドニア、モンテネグロ、セルビア、トルコが欧州理事会により承認され、コソボとボスニア・ヘルツェゴビナが潜在的加盟候補国と位置付けられている。

2016年6月23日、英国ではEU離脱の是非を問う国民投票が実施され、離脱が52%、残留が48%の結果となった。英国は2017年3月29日にEUに対して正式に離脱を通告し、同年6月からEUと英国間で離脱交渉が開始された。その後、2020年1月にEUと英国がそれぞれ離脱協定に署名し、同年2月1日より英国はEU加盟国でなくなり、EUにとって第三国となった。移行期間も2020年12月31日をもって終了している。

EUの組織

EU法の種類

EU法は第一次法と第二次法に分類される。第一次法はEUを基礎付ける条約、第二次法は、条約に法的根拠を持ち、そこから派生する法である。第二次法(以下、EU法)には適用範囲と法的拘束力の強弱によって、①規則(Regulation)、②指令(Directive)、③決定(Decision)、④勧告・意見(Recommendation/Opinion)の4種類が存在する。

EU法の立法過程における決定手続

EU法の立法過程における決定手続には、欧州議会の関与の程度に応じて、①通常立法手続、②同意手続、③諮問手続の3分類が存在する。通常立法手続においては、欧州議会と欧州連合理事会は、少なくとも1回は提案(法案)の審議に加わることができる。

EUの主要機関

EUには様々な機関が存在しているが、通信分野においては、欧州理事会、欧州連合理事会、欧州議会、欧州委員会、欧州連合司法裁判所が主なものとして位置付けられる。

欧州理事会(European Council 「EUサミット」又は「EU首脳会議」と呼称されることもある。欧州連合の全体的な政治指針と優先課題を決定する。リスボン条約によって正式な機関として位置付けられ、欧州理事会議長(いわゆる「EU大統領」)とEU外務・安全保障政策上級代表(同「EU外相」)が新設された。メンバーは加盟国の元首・首脳と欧州委員会委員長、欧州理事会議長で構成され、外務・安全保障政策上級代表も任務遂行に参加する。全体の会合は最低年4回開催され、同時に経済、雇用、産業等の個別の分野の政策に関する論議が行われる。
欧州連合理事会(Council of the European Union EUの主たる決定機関である。「閣僚理事会」又は「EU理事会」と呼称されることもある。欧州議会と立法機能及び予算権限を共有し、共通外交及び安全保障政策と経済政策調整で中核的な役割を担う。本部はブリュッセルに置かれ、特定の会議はルクセンブルクで開かれる。議長国は半年交代の輪番制であり、2022年1月~2023年6月期の議長国は、2022年前半がフランス、2022年後半がチェコ、2022年前半はスウェーデンとなっている。
欧州連合理事会は、加盟国の分野別閣僚(担当大臣)によって構成される。分野は10分野(一般事項、外交事項、経済財政事項、司法内務分野における協力、雇用・社会政策・健康・消費者事項、競争、運輸・電気通信・エネルギー、農業・漁業、環境、教育・若者・文化・スポーツ)あり、それぞれの理事会を総称して欧州連合理事会と呼ぶ。
欧州議会(European Parliament 欧州連合理事会と並ぶ、EUの主たる決定機関である。欧州議会は、本会議はストラスブール(フランス)、一部の本会議、委員会及び事務局支部がブリュッセル、事務局本部はルクセンブルクに置かれている。
本会議では、各委員会で討議された法案等についての報告書が審議されるほか、EU内部の事項、国際情勢等も討議され、決議・勧告等が採択される。委員会は、具体的な政策を討議し、欧州議会としての意思決定のため準備を行う。
欧州委員会(European Commission EUの執行及び政策決定機関としての機能を担い、主に以下を所掌する。
  • EUの政策及び法案の提案
  • EU法(条約、条約の規定に基づく決定等)の公正な適用の監督
  • EUの行政及び執行機関として機能
  • 競争法分野における立法
欧州連合司法裁判所(Court of Justice of the European Union EU諸条約を含めたEU法の遵守を確保するため、その解釈、適用及びEU諸機関のすべての行為において必要な司法上の保護措置の実施を役割とする。欧州連合司法裁判所は、欧州司法裁判所、一般裁判所で構成される。

現行の規制枠組と手続

欧州電子通信コード(通信分野)

2016年9月14日、欧州委員会は、2015年5月に発表したデジタル単一市場戦略の一環として、既存の「電子通信規制パッケージ」の4指令を一本化し、EU域内における通信規制の更なる調和、市場の公平性の確保、高速ブロードバンド網への投資促進等を目的とする施策を組み込んだ「欧州電子通信コード(European Electronic Communication Code:EECコード)」の提案を行った。主な内容は以下のとおりである。

  • 競争と投資の予測可能性の増進
  • 周波数の効率的な利用
  • 消費者保護の強化
  • 安全なオンライン環境と公正な市場の実現

2018年6月、欧州議会と欧州委員会は、5G展開のための周波数割当、大容量の固定網展開強化、市民のアクセス機会増大とセキュリティ対策といった同案の内容で合意した。同月に欧州連合理事会が欧州電子通信規制者団体(Body of European Regulators for Electronic Communications:BEREC)の意見を基にまとめた修正案には、「電子通信」定義の見直し、SMP(Significant Market Power)事業者の卸売事業における義務の再規定と規制機関の役割の強化、ユニバーサル・サービス範囲の拡張、移動体通信着信料金の欧州域内での単一化等が盛り込まれた。この提案は2018年12月17日に成立し、3日後の12月20日に新たな指令として発効した。

オーディオ・ビジュアル・メディア・サービス指令(AVMS規制分野)

欧州議会は、2007年11月29日、「オーディオ・ビジュアル・メディア・サービス(AVMS)指令(2007/65/EC)」を採択した。正式名称は「テレビ放送活動の遂行に関し、加盟国において法律、規則、行政行為によって制定される規定の調整に関する1989年10月3日付け理事会指令(89/552/EEC)の改正についての2007年12月11日付け欧州議会及び理事会指令」。加盟国には2009年末までにAVMS指令を国内法に反映させることが義務付けられた。

AVMS指令の目的は、今日的な競争促進の枠組みを、欧州のテレビ事業者及びそれに類するサービスを提供する事業者に適用することであり、新しい広告コミュニケーション形態によってオーディオ・ビジュアル・コンテンツの資金確保のための柔軟な規制を適用することである。配信に用いている技術に関係なく、欧州市場でオンデマンド・サービスを行っているすべての企業が活動領域を形成することができるとしている。

政策動向

新欧州委員会のデジタル政策

2019年7月にフォン・デア・ライエン次期欧州委員長(当時)が公表した「次期欧州委員会の政治的ガイドライン2019-2024」において、「デジタル時代にふさわしい欧州(A Europe fit for digital age)」が優先政策課題の一つに掲げられ、「5Gネットワークの標準策定」など、六つのアクションが挙げられている。

欧州委員会は2020年2月19日、上述の優先政策課題の下、「ヨーロッパのデジタルの未来を形作る(Shaping Europe’s digital future)」という目標を示し、併せて「欧州データ戦略」と「人間中心主義のAI開発政策」を公表した。更に欧州委員会は、以下の三つがこの先5年間におけるデジタル分野での主要な柱であるとしている。

  • 人に役立つ技術
  • 公正で競争力のある経済
  • 開かれた、民主的で持続可能な社会

欧州委員会は2021年3月9日、2030年までを「デジタルの10年(Digital Decade)」とし、2030年までの具体的な施策事項である「デジタル・コンパス(Digital Compass)2030」において、以下の四つの柱を示した。

  • デジタルスキル及び高度デジタル技術専門家:成人の80%によるデジタル基本技術の習得。ICT専門家のEU域内雇用2,000万人。
  • 高セキュリティ/高パフォーマンス/持続可能なデジタルインフラ:全世帯のギガビット接続。全人口の5Gカバー。気候変動中立なエッジコンピューティングノード設置等。
  • ビジネス分野のDX:域内企業の4分の3によるクラウド・コンピューティング、ビッグデータ、人工知能の活用。中小企業の90%によるデジタル集約技術の活用等。
  • 公共サービスのデジタル化:主要公共サービスのオンライン化。全市民によるeヘルスへのアクセス。市民の80%への電子IDの普及。

デジタル単一市場戦略

2015年5月、欧州委員会は「デジタル単一市場戦略」を公表した。デジタル単一市場戦略は、三つの柱とそれぞれに連なる16の重要アクションで構成されている。デジタル単一戦略では、デジタル分野における加盟国間の制度的調和を進め、制度の違いや地理的要因による障壁を取り除くことにより、EU域内において統一的な市場を実現し、年間4,150億ユーロの経済効果と数十万の雇用が創出され、知識社会の発展が期待されるとしている。デジタル単一市場戦略に盛り込まれたアクションは逐次実行されている。

電波政策

具体的な周波数帯の分配につき、EUは加盟各国に各種の勧告や決議を出している。

2016年9月、欧州委員会は5Gアクションプランを公表し、2018年末までに5Gネットワークの立ち上げに向けた共通のタイムスケジュールを設定し、2020年末までに全ての加盟国の少なくとも一つの主要都市において完全な5G商業サービスの開始、2025年末までに全ての都市部及び主要の地上交通路が5Gのカバーエリアとなることを目指している。5G向けの周波数については、欧州委員会が三つの周波数帯(1GHz以下、1-6GHz、6GHz以上)を含む暫定リストを作成し、順次加盟国と合意形成を図ることとしている。