世界情報通信事情 World Information and Communication Circumstances

Internet Corporation for Assigned Names and Numbers ICANN(最終更新:平成28年度)

国際機関名 ICANN/Internet Corporation for Assigned Names and Numbers
URL http://www.icann.org/
所在地
  • 1.
    Istanbul, Turkey
    Hakki Yeten Cad. Selenium Plaza
    No:10/C K:10 34349 Fulya, Besiktas, Istanbul, Turkey
  • 2.
    Los Angeles, CA, USA
    12025 Waterfront Drive, Suite 300 Los Angeles, CA 90094-2536
    USA
  • 3.
    Singapore
    South Beach Tower, 38 Beach Road, Unit 04-11,
    Singapore 189767
幹部 Göran Marby(事務総長兼最高経営責任者/President and CEO
Steve Crocker(理事長/Chair of the Board of Directors

組織の概要

設立目的

1998年10月、ドメイン名、IPアドレスなどのインターネット基盤資源を、世界規模で管理・調整するために設立された非営利公益法人である。主な業務は、ドメイン名、IPアドレス、プロトコル・ポート番号、ルート・サーバなどインターネットの基盤資源の世界規模での調整と、これらの技術的業務に関連する方針策定の調整である。

沿革

ICANN設立以前は、米国政府の援助を受けつつも、基本的に技術者や研究者のボランティアから構成されるInternet Assigned Numbers Authority(IANA)が、米国防総省との契約に基づきインターネット資源を管理していた。

1993年以降は、米民間企業ネットワーク・ソリューション(NSI)が、米国の政府機関である全米科学財団(NSF)からの委託契約によって「.com」「.org」「.net」のような分野別トップレベルドメイン(gTLD)の登録業務等を行っていた。また、「.jp」のような国別ドメイン名(ccTLD)はIANAから委任された各国・地域の運用者が、IPアドレスはIANA機能・権限を代理していたInterNICが、それぞれ管理を行っていた。

1990年代後半、「.com」ドメイン名の登録数の爆発的増加に見られるようにインターネットの社会的影響力が大きくなり、「.com」ドメイン等の管理を行っていたNSIに独占的という批判が高まり、また、gTLDをもっと増やすべきとの意見が強まるなど、インターネット資源の世界規模での調整をどのように行うかが問題となった。これを受けて、複数関係者による活発な議論が行われ、新組織の設立へ向けた具体的動きが始まったが、1998年1月に、米国政府が発表した「インターネットの名前及びアドレスの技術的管理の改善についての提案」(通称:グリーンペーパー)により、新組織設立に関する動きは中断した。

1998年6月、グリーンペーパーに対するコメントを反映させて、米国政府が「インターネットの名前及びアドレスの管理」(通称:ホワイトペーパー)を発表。ホワイトペーパーは、インターネットが米国政府による投資の下で成立したという主張は維持したものの、インターネットの伝統である民間主導・ボトムアップのプロセスを評価・尊重する内容となっていたため、新しい非営利法人を設立する方針へと議論が収束した。

1998年10月にICANNが設立され、2000年2月にICANN、南カリフォルニア大学、米国政府の三者が、IANAが行っていた各種資源のグローバルな管理の役割をICANNが引き継ぐことで合意した。現在では、IANAは、ICANNにおける資源管理・調整機能の名称として使われている。

ICANNは設立時に、米国・商務省国家電気通信情報庁(NTIA)との間で締結した覚書に従って業務を実施している。覚書には、一定の条件が整えばICANNにすべての管理権限が委譲されることが規定されている。

2013年10月、ウルグアイで開かれた会議に出席したICANN、インターネット・エンジニアリング・タスクフォース(IETF)、インターネットアーキテクチャ委員会(IAB)、ワールドワイドウェブ・コンソーシアム(W3C)、インターネット・ソサエティのトップは、トップレベルドメインの地域登録機関のトップとともに、ICANN/IANAが担当している機能の国際化を加速していくことを目指す声明を発表した。米国・商務省の監督を伴う米国主導の現行制度の変更を主張した。

2014年3月、NTIAはIANAの監督権を放棄し、現体制をICANNが創設する国際的なステークホルダーによる管理体制に移す方針を決定した。この決定に対し、米国の下院共和党は、抑圧的国家によるインターネットの締め付けを許すとの懸念を表明し、米国のインターネット監督権放棄の影響調査を義務付け、放棄を遅らせる法案「Domain Openness Through Continued Oversight Matters (DOTCOM) Act」を提出した。同法案は、商務省予算案の修正条項として共和党が多数を占める下院で可決されたが、上院の予算案審議で削除された。2014年7月現在、共和党は上院に、同法案を審議するよう求めている。共和党は依然として、IANA移譲に強く反対している。

米国政府とICANNの間で結ばれたIANAの運用委託契約は2015年9月30日の期限を前に、同年8月にNTIAによって1年延長された。2016年に入っても共和党のテッド・クルーズ上院議員らは「言論の自由の保護」を理由として委譲に反対し続けたが、2016年9月末をもってICANNへの権限移譲が行われた。ただし、選挙期間中から移譲に反対していたドナルド・トランプ氏が大統領選挙に勝利したことから、今後の見通しについては不透明である。

組織案内

理事会、三つの支持組織、四つの諮問委員会などによって構成されている。ICANNの各構成組織による議論に、全世界からの自由な参加による議論が加えられ、その勧告を参考にして最終意思決定機関である理事会が方針の決定を行う。

理事会は、広範な地域・分野からの代表により構成される。指名委員会により指名される8名、支持組織が選出する6名、At-Large諮問委員会(個人インターネット・ユーザの代表)が選出する1名によって構成される理事15名、議決権のないリエゾンメンバー5名、事務総長兼CEO1名から構成されている。

主な財源はドメイン名取扱事業者(レジストラ、レジストリ)から支払われる手数料等である。

活動内容

インターネットの維持に必要な管理業務として、具体的に次の三つを行う。

  • 1.
    インターネットにおける、以下の三つの固有識別子の割振・割当ての調整
    • ドメイン名(「Domain Name System(DNS)」と呼ばれるシステムを形成)
    • IPアドレスと自律システム(AS)番号
    • プロトコル・ポート番号とパラメータ番号
  • 2.
    DNSルート名サーバ・システムの運用・展開の調整
  • 3.
    これらの技術的業務に関連する、方針策定の合理的で適切な調整

最近の活動状況

年に3回開催されている定期会議と、その他必要に応じて開催される理事会特別会議で意志決定が行われる。

2013年7月、南アフリカ共和国ダーバンで開催された定期会議で、ICANNは4つの一般トップレベルドメイン(gTLD)の利用を承認するレジストリ契約を3社と締結した。これにより、中国語、ロシア語、アラビア語のgTLDが利用可能になった。ICANNはこの契約が新gTLDプログラムにおいて歴史的なことであると説明している。

2016年11月、第57回定期会議がインドのハイデラバードで開催され、IANAの監督権がアメリカ合衆国からICANNに移譲されてから初めての定期会議となった。ICANNのRam Mohan理事はインタビューに対して、規制機関としてではなく、国際社会に公平に奉仕する機関としてのICANNの新たな立場を強調した。 近年、ICANNはアフリカでのDNSビジネス構築を目指しており、2016年5月にケニアのナイロビにオフィスを開設した。しかし、新規gTLDである『.africa』AFRICAの使用権に関しては2016年11月現在も紛糾が続いている。

主要国の対応状況

ICANNには、世界の各地域から様々な関係者が参加しており、北米や欧州、アジアからも理事が選出されている。日本からはGACに総務省、ccNSOにJPドメイン名の割当業務を行う(株)日本レジストリ・サービス(JPRS)、GNSO及びASOに国内IPの割当業務を行っている(社)日本ネットワーク・インフォメーション・センター(JPNIC)等の関係者が参加し、情報収集や意見交換を行っている。

2003年と2005年に、情報社会における格差是正を目的の一つとして、国連が支援し、ITUの主導で開催された世界情報社会サミット(WSIS)の第1フェーズ(ジュネーブ会合、2003年)で、米国のICANNがIPアドレスやドメイン名を管理していることが、主要論点の一つとして取り上げられ、現行の資源管理体制を維持したい先進国と、一部の発展途上国との間で意見が対立した。第2フェーズ(チュニス会合、2005年)での議論の結果、「情報社会のためのチュニス・アジェンダ」が合意に至り、下記が提案された。

  • インターネットに関する国際的な公共政策問題における「協力強化」の必要性を認識する。「協力」には、関連国際機関の利用により、インターネット資源の調整・管理に関する公共政策問題についての原則を策定することを含む。
  • 国連総長に、2006年第2四半期までに、マルチステークホルダーの政策対話のための新しいフォーラムの会合である「インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)」を開催するよう依頼する。IGFは民主的で透明であるべきである。

チュニス・アジェンダでは、IGF設置以外には、インターネット・ガバナンスに関する記述がなかったため、ジュネーブ会合で議論の対象となったICANNの体制は、米国政府による関与も含め、現状維持ということになった。また、インターネット・ガバナンスに関する議論はIGFで行われるようになり、ICANNは本来の課題である技術的課題に集中するようになった。

同アジェンダの規定に基づき、2006年からIGF(事務局:国連)が開催され、ステークホルダー間でのインターネットに関する政策対話が行われている。2016年12月、メキシコ・グアダラハラで、第11回目となる「IGF2016」が開催され、83か国から2000人以上が参加した。IGFの開催から10年目を迎えた同会合では、「包括的及び維持可能な成長の実現」をメインテーマとし、国際協調や戦略的パートナーシップの重要性や、サイバーセキュリティー・IoT・人口知能(AI)によるインパクトなどについて取り上げられた。

また、近年IGFでは、年1回の会合に限らず、継続的に活動を実施してくことを重視しており、既存のプラクティスを文書化して記録するベストプラクティスフォーラム(BPF)や、異なる複数の組織の協働を促すDynamic Coalition(毎月開催)などの取り組みが挙げられる。