EUのAI関連政策におけるガードレール(規制措置)と振興策の二本柱
EUのAI関連政策は、AI開発競争における遅れに対する懸念を背景に、AIリスクから基本的な権利を保護するガードレール(規制措置)と振興策の二本柱で構成されている。
規制措置については、2024年5月に成立したEU「AI法」が中心的な規制となっている。同規則は、AIに関する世界初の法的枠組であり、AIに関する国際基準の設定において欧州の主導的立場を強化するねらいがある。また、リスクレベルに応じたAIシステムの分類を採用しており、EUで使用されるAIシステムを「禁止」「高リスク」「限定的な危険性」「最小限の危険性」の4段階に分類し、個別の規制を設けている。さらに、様々な用途に利用可能な機能を備えた「汎用AI」(General-Purpose AI:GPAI)モデルについては、これら4段階の分類とは別に固有の義務を定めている。
一方、EUにおけるイノベーションを促進するAI振興策も複数公表されている。まず、欧州のAI戦略のバックボーンとして、AI開発に必要となる大規模なコンピューティングインフラを整備する計画が進行している。欧州委員会が2024年1月に公表した「AIイノベーション・パッケージ」は、「AIファクトリー」を中心的施策としており、欧州全域のAIイノベーションを醸成するAIハブの相互接続ネットワークを構築し、計算能力、データ及び人材を結合してイノベーションを推進するとしている。2025年2月には、2,000億EURの投資をAIに動員する「InvestAIイニシアチブ」を公表し、AIファクトリーの約4倍となる約10万個の最新AIチップを搭載する「AIギガファクトリー」の構築を含むAIプロジェクトに資金を提供する。さらに、欧州委員会は2025年4月、EUがAI分野で世界的リーダーになることを目標とする「AI大陸行動計画」を発表し、五つの柱として、①大規模AIデータ及びコンピューティングインフラの構築、②大規模で高品質なデータへのアクセスの拡大、③EUの戦略的部門におけるアルゴリズム開発とAI導入の促進、④AIスキルと人材の強化、⑤規制の簡素化を示している。
規制の簡素化とAI規制の見直し
2期目に入った欧州委員会のフォン・デア・ライエン体制が推し進めている、行政負担等の軽減を目指す規制簡素化において、デジタル分野に関連する複数の規則を簡素化するオムニバス法案が2025年11月に公表された。同オムニバス法案には、「AI法」の改正案も含まれており、高リスクAIに係る規律の適用開始の延期や、中小企業(SME)向けの緩和措置を小規模ミッドキャップ企業(SMC)にも拡大すること等が提案されている。