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はじめに

 地球温暖化等の地球環境問題は、今日、人類の生存基盤に深くかかわる
重要な問題であり、また、社会経済活動や国民のライフスタイルの在り方に大きな
影響を与える課題である。
 特に、地球温暖化問題は、我が国が世界的に有数のエネルギー消費国で
あり、かつ、二酸化炭素排出国であることから、積極的な取組が求められている。
 一方、情報通信の活用は、交通との代替や交通流の円滑化、生産・流通
活動の効率化等を通じて環境への負荷を低減させるとともに、社会経済活動や国民
の生活様式を環境と調和したものに変え、環境への負荷の少ない経済社会システム
の構築に資することが期待されている。
 このため、平成9年(1997年)9月18日、郵政大臣から「情報通信を活用した地
球環境問題への対応について」の諮問を受け、当審議会では、通信
政策部会に「地球環境問題に関する専門委員会」を設置し、地球環境問題に
ついて幅広い見地から調査審議を重ねてきた。
 本答申はその取りまとめであるが、本答申の政策提言が政府によって確実に実施
され、環境への負荷の少ない循環型の経済社会システムの構築に寄与することを期
待するものである。


第1章 地球環境問題の概要

1 地球環境問題とは

  地球環境問題とは、環境に関係し全地球的な広がりを持つ問題のことで、
 広く世界各国に共通していたり、全地球規模で被害を生じたりする性格を
 持つものであり、次の9つの問題からなる問題群としてとらえるのが一般
 的である。
 (1) 地球温暖化
   人間活動の拡大に伴う温室効果ガス(CO2(二酸化炭素)、メタン、
  亜酸化窒素等)の排出量の増大により、全地球的に気候の自然な変動を
  超えて気温の上昇が生じ、それに伴う海面上昇や、異常気象の頻発など
  により、人類の生存基盤に大きな影響が現れる問題である。
 (2) オゾン層の破壊
   人為的に排出され成層圏に到達したフロン類(炭化水素の水素をフッ
  素、塩素等で置換した化合物)がオゾン層を破壊し、有害紫外線の地上
  到達量が増大し、皮膚がん、免疫機能低下などの人体影響や、湖沼・
  森林の破壊などの生態系への影響が生ずる問題である。
 (3) 酸性雨
   主に化石燃料の燃焼により生じるSOx(いおう酸化物)、NOx
  (窒素酸化物)などを原因とする酸性度の高い雨により、生態系や文化
  財などに被害が生ずる問題である。
 (4) 熱帯林の減少
   非伝統的な焼き畑移動耕作等により、途上国の熱帯林が急激に減少し、
  多くの野生生物種が絶滅に瀕する恐れがあることに加え、大量のCO2
  排出に繋がり地球温暖化を加速させることが懸念される問題である。
 (5) 砂漠化
   干ばつなどの自然現象、家畜の過放牧、過度の耕作、木材の過剰採取、
  不適切な灌漑(かんがい)による塩分の集積により、乾燥化のみでは
  なく、土壌の浸食や塩性化、自然植生の種類減少など土地が劣化する
  問題である。
 (6) 途上国の公害問題
   途上国では経済発展のための重工業化が進み、環境負荷の大きい産業
  にシフトしてきている。また、都市への人口集中に都市基盤整備が追い
  つかず、スラム化が進んでいる。これらのことにより、途上国では環境
  悪化、衛生環境の悪化が問題となっている。
 (7) 野生生物種の減少
   近年の人類の行動に起因する急速な種の絶滅の進行により、生物資源
  の直接的、間接的な利用価値が急速に失われていく問題である。
 (8) 海洋汚染
   海洋資源に対する依存性の増加や人間活動に伴う各種の汚染の拡大等
  に伴い、海洋の環境が悪化する問題である。具体的には、プラスチック
  廃棄物の漂流や、重金属、化学物質による汚染、タンカー等からの油の
  流出が問題となっている。
 (9) 有害廃棄物
   人間の活動に伴い発生する有害廃棄物については、特にそれが、国境
  を越えて移動し、受入先において適正な処分が行われず、人体への健康
  被害や生態系への悪影響などの環境汚染を招くことが大きな問題となっ
  ている。

  以上の問題は、それぞれが長い時間をかけて進むという共通の特徴を
 持つうえに、大気や水、生態系の働きや世界経済などの人間活動を通じて、
 相互に連関しており、全体として一つの問題群を形成している。

           問題群としての地球環境問題


  例えば、温室効果ガスの大気中の濃度が増し、「地球温暖化」が進行
 すれば、「砂漠化」と「熱帯林減少」が拡大する。「熱帯林の減少」が
 進めば「野生生物種の減少」も進み、同時にCO2吸収能力の低下を招き、
 「地球温暖化」が加速する。
  また、地球環境問題の原因を見ると、どの問題についても、大量消費と
 国際的な相互依存関係を特徴とする現在の世界経済の仕組みが深く関係
 している。

2 その他関連する環境問題

  前節の9つの地球環境問題に加え、地球環境問題に関係の深い次の4つ
 の問題について検討を行った。
 (1) 廃棄物・リサイクル
   経済活動の拡大と高度化に伴い、環境が復元する能力を超えた資源
  採取による資源の減少と不用物の排出による環境汚染の問題が生じて
  きている。この廃棄物・リサイクルの問題は、その影響範囲からおおむ
  ね地域的な問題としてとらえられているが、有害な廃棄物が国境を越え
  て移動する場合については、地球環境問題として扱われている。
 (2) 大気汚染
   大気汚染は、人体に健康被害を与える物質の大気中への人為的な排出
  によって生ずる地域的な環境問題であるが、典型的な大気汚染物質で
  あるSOxやNOxは、地球環境問題の一つである酸性雨の原因となっ
  ている。また、NOxは「地球温暖化」の原因となる温室効果ガスの
  前駆物質である。更に、途上国での大気汚染は「開発途上国の公害
  問題」として地球環境問題の範疇に属する。
 (3) 水質汚濁
   水質汚濁は、人為的に水系に排出された人体に健康被害を与える物質
  や、水質を悪化させる物質により、飲料水や食物連鎖を通じた人体への
  健康被害、水域生態系の改変、生活環境の悪化などを招く地域的な環境
  問題であるが、大気汚染の場合と同様に、途上国での水質汚濁は「開発
  途上国の公害問題」として地球環境問題の範疇に属する。
 (4) 環境ホルモン
   環境ホルモン(外因性内分泌攪乱化学物質)は、環境の中にあって
  ホルモンの働きを乱す化学物質であり、近年問題となっている。
   生物に対する影響として最も心配されているのは生殖機能への影響で
  あり、人間についても、精液中の精子の減少、精子の運動能力の低下が
  指摘されている。

  また、情報通信に特に関連し、地球規模の広がりを持つ問題として、
 次の3つの問題を取り上げ、検討を行った。
 (1) 電磁環境
   電磁環境に係る問題として、不法電波、電波発生機器等からの電波に
  よる、各種機器の誤動作発生が問題とされる電磁障害問題と、静的な
  電磁界、極低周波電磁界(送配電線周辺等)、高周波電磁界(電波)に
  よる、生体への熱作用、刺激作用、非熱作用が問題とされる生体電磁波
  問題を取り上げる。
 (2) 宇宙環境問題
   破壊した人工衛星の残骸などから構成される宇宙空間に漂うゴミの
  ことをスペースデブリと呼ぶ。このスペースデブリと人工衛星の衝突
  事故が懸念される問題である。
 (3) 電波天文等をめぐる電波環境問題
   電波天文学では、宇宙からの極めて微弱な電波を観測している。この
  観測業務の運用が、移動衛星等を用いた新たな衛星通信システムによる
  サービスで衛星から発射される電波により妨げられることが懸念される
  問題である。



第2章 地球温暖化問題の現状

1 地球温暖化の要因

  CO2等のいわゆる温室効果ガス(CO2、メタン、亜酸化窒素等)は、
 地表から放出される赤外線の宇宙空間への放射を抑える働き(温室効果)
 を持っており、大気中にこれらの温室効果ガスが一定量存在することに
 より、地球の平均気温が一定の水準に保たれている。
  人類の温室効果ガスの排出は、大量の石炭の燃焼を始めた産業革命以降
 に大きく増加し、特に第二次世界大戦以降、人類の活動が質的量的に変化
 したことに伴い急激に増加している(資料1)。この結果、将来的には、
 全地球的な気温の上昇が生じ、それに伴う気候の変動等の深刻な影響をもた
 らす可能性があることが懸念されている。
  産業革命以降の人為的な温室効果ガスの排出によりもたらされた温室
 効果のうち、CO2が占めるウェートはIPCC(Intergovernmental 
 Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の報告によれ
 ば約7割であり、主に化石燃料(エネルギー)の消費による人為的なCO2
 の排出が地球温暖化の主たる要因とされている。

2 地球温暖化とその影響予測

  IPCCが行った分析(平成7年(1995年)第二次評価報告書)によれば、
 現在までの傾向が今後とも継続した場合、21世紀末には、世界全体の
 人為的なCO2排出量は平成2年(1990年)の3倍強(同報告書における
 「中庸ケース」の場合)となり、大気中のCO2濃度は、現在の約360
 ppmvから約700ppmvまで上昇すると見込まれている(資料2)。この結
 果、地球全体の平均気温は約2℃、海水面は約50cm上昇するとの予測が
 なされている。
  温室効果ガスの濃度上昇に伴う影響については、完全には解明されて
 いないが、大気中のCO2濃度が現在の2倍となった場合、海面上昇による
 低地の海没や高潮被害の拡大、気候変動による洪水や干ばつの頻発や、
 植生の大きな変化に伴う食料生産格差の拡大、マラリアなどの熱帯性の
 伝染病の増加等、様々な影響を生じる可能性、特に、不可逆的な影響や、
 現在予測し得ないような影響が生じる可能性が指摘されている。

  生態系に危険な影響を及ぼすことのない温室効果ガスの濃度レベルに
 ついては、現在のところ科学的な見解は定まっていないが、IPCCに
 よれば、大気中のCO2濃度安定化のためには、CO2排出量を究極的には
 現在の半分以下とすることが必要であるとされている。このことは世界
 全体の人為的なCO2排出量を昭和25〜35年(1950〜1960年)以前の状況
 に戻すことを意味しており、今後の発展途上国の経済成長、人口増加を
 考えると更に厳しい排出抑制・削減が必要となる。

3 気候変動枠組条約策定の経緯とその後の動向

  昭和60年代(1980年代後半)から、地球環境問題が深刻な問題として
 クローズアップされるなか、昭和63年(1988年)、国連の機関であるUN
 EP(国連環境計画)とWMO(世界気象機構)のもとにIPCCが組織
 され、地球温暖化の予測や対策等に関する世界各国の科学的・技術的研究
 成果の収集、分析を開始した。
  こうした科学的な知見の充実を踏まえ、地球温暖化問題に対する国際的
 取組についての必要性に対する認識が増し、平成4年(1992年)のリオデ
 ジャネイロで開催された地球サミットにおいて、地球温暖化問題への対応
 に関する枠組みを定める気候変動枠組条約が成立した。同条約では、先進
 国については、温室効果ガスの人為的な排出量を平成12年(2000年)まで
 に従前の水準に戻すことが温室効果ガスの濃度安定化に寄与するもので
 あることを認識して、気候変動緩和のための政策・措置をとること、
 政策・措置の実施状況を締約国会議に通報すること等を義務として規定
 している。他方、発展途上国については、今後の経済成長に伴い温室効果
 ガス排出増加は避けられないことを考慮して、温室効果ガスの排出状況の
 通報等に義務が限定されている。
  気候変動枠組条約においては、平成12年(2000年)以降の温暖化対策に
 ついては定めがなかった。このため、平成7年(1995年)3月にベルリンで
 開催された第1回締約国会議(COP1)において、第3回締約国会議
 (COP3、平成9年(1997年)12月京都にて開催)で平成12年(2000
 年)以降の先進国における温室効果ガスの排出抑制・削減のための数量化
 された目的の設定、温暖化防止のための政策・措置等について、結論を
 得ることとされた(「ベルリン・マンデート」)。
  COP3では、京都議定書が採択され、先進国が平成20年(2008年)
 から平成24年(2012年)までに、温室効果ガス6種類(CO2、メタン、
 亜酸化窒素、PFCs、HFCs、SF6)の排出量を、全体で平成2年
 (1990年)比で、少なくとも5%削減することが規定された。排出削減目標
 数値は国ごとに違い、我が国の削減率は6%とされた。京都議定書は批准
 国が55ヶ国以上、批准国の基準年における温室効果ガス排出量の合計が
 全体の55%を超えた時点で発効する(資料3)。
  第4回締約国会議(COP4、平成10年(1998年)11月ブエノスアイ
 レスで開催予定)では、COP3で十分な議論が行われなかった温室効果
 ガス排出量の具体的な算出手順や手続きについて議論される予定である。

4 我が国の温暖化対策の現状

  我が国では気候変動枠組条約の成立に先立ち、平成2年(1990年)の
 「地球環境保全に関する関係閣僚会議」において、「地球温暖化防止行動
 計画」を決定し、温暖化対策を計画的総合的に推進するための政府の方針、
 今後取り組んでいくべき対策、国際的枠組みに貢献していくうえでの基本
 的姿勢を明らかにした。我が国の温室効果ガス排出量(温室効果をCO2
 換算)の90%以上はCO2であるが、CO2の平成12年(2000年)の目標
 は、1人当たりCO2排出量について平成12年(2000年)以降おおむね平成
 2年(1990年)レベルで安定化を図ること、また、CO2排出総量が平成12
 年(2000年)以降おおむね平成2年(1990年)レベルで安定化するよう努める
 こと等がその内容である。
  我が国のCO2排出量の実績をみると、平成2年度(1990年度)から平成5
 年度(1993年度)までは、景気が停滞していたこともあり、「地球温暖化
 防止行動計画」の目標とおおむね同レベルであったが、平成6年度(1994年
 度)から景気の緩やかな回復等を背景として増加している(資料4)。
  平成7年度(1995年度)までのエネルギー関連のCO2排出量を部門別に
 みると、産業部門においては、景気の停滞もあり総排出量はほぼ横這いで
 推移しているものの、製造業のGDP当たりのエネルギー消費原単位は、
 悪化に転じている。また、民生部門、運輸部門においては、生活様式の
 変化等を背景に一貫して増加傾向にあり、平成7年(1995年)での対平成2
 年(1990年)比で民生部門で15.5%、運輸部門で16.3%増加している
 (資料5)。
  我が国のCO2排出量は世界で4番目の5%を占めている。また、一人当
 たり排出量はOECD平均は下回るが、全世界平均の2倍以上となって
 いる(資料6)。
  我が国のCO2排出量の今後の見通しについて政府部内で合意されたもの
 として、平成6年(1994年)に気候変動条約事務局に提出された第1回国別
 報告書における平成12年(2000年)の排出量見通しがある。これによると
 平成12年(2000年)の排出量は平成2年(1990年)の排出量を3%ほど上回
 るとされている。また、平成12年(2000年)以降については、平成9年
 (1997年)に提出された第2回国別報告書において、現在実施されている
 対策の効果のみを勘案し、追加的な対策の効果を織り込まない場合、平成
 22年(2010年)で平成2年(1990年)レベルに比べ20%増加すると試算
 されている。
  また、地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議報告書
 においては、産業・運輸・民生の各分野における新たな対策を実施する
 ことにより、平成22年(2010年)時点におけるCO2排出量が平成2年
 (1990年)比で安定化すると試算されている。
  平成9年(1997年)12月、COP3で採択された京都議定書の着実な
 実施に向け、閣議決定により内閣に地球温暖化対策推進本部が設置され、
 地球温暖化防止に係る具体的かつ実効のある対策が総合的に推進されつつ
 ある。


第3章 地球温暖化問題に対する情報通信の活用

1 情報通信の特性とCO2排出削減対策における役割

  情報通信の発達の結果、人類の利便性は飛躍的に向上し、現在では人類
 の生活を支える主要なインフラストラクチャーの一つとして認識されて
 いる。
  情報通信の持つ特性として、空間の超越(遠隔地間での情報伝達や情報
 交換を可能とする)、時間の超越(情報伝達や情報交換を即時・同時に
 行うこと)、保存性(情報を長期に安定的に保存する)といったことが
 指摘されているが、このような特性が地球温暖化問題の解決に寄与する。
  まず、情報通信の空間の超越という特性の活用により、人の移動が情報
 の流通に代替され、運輸部門における環境負荷の軽減に貢献する。例えば、
 情報通信を活用して自宅やサテライトオフィス等において勤務を行う新し
 い働き方であるテレワークが普及することにより、通勤等の人の移動が
 削減される。
  また、情報通信の活用により、社会経済活動の効率化が進み、同じアウ
 トプットを出す場合における環境負荷の低減(原単位の改善)が実現され
 る。例えば、CALSやEDIの導入は、調達や製造工程、流通・消費
 段階等様々な局面で効率化を促進し、資源の効率的使用が進む。
  さらに、情報通信により、エネルギー消費や有害物質排出の時間や場所
 とその量が平均化・分散化され、ピーク時に合わせて作られる設備の整備
 水準の引下げも可能となる。
  また、適切な環境対策を講ずるためには、環境の現状や変化の動向等を
 的確に把握する必要があるが、このような環境に関するデータの収集
 (モニタリング)、情報の整理、提供等に果たす情報通信の役割は、極め
 て重要である。
  このほか、教育や啓発の面では、情報通信システムの活用により環境の
 現状や必要な対策等に関する情報が的確に提供され、国内外のすべての
 人々が環境問題を自らの問題として捉えることが可能となり、温暖化対策
 への積極的な参加が促されることとなる。
  また、CO2排出削減効果を有する各種の情報通信システムの普及の
 促進のためには、デジタル化の推進など高度情報通信インフラの整備が
 重要である。
  なお、以上のように、情報通信システムの利用は、様々な局面でCO2
 の排出を削減する効果を有しているが、一方、これらのシステム・機器の
 製造、使用から廃棄までのライフサイクルを考えた場合は、CO2排出
 増加要素も合わせ持っており、情報通信システムのCO2排出削減効果を
 考える場合には、これら各段階におけるCO2排出についても併せて考え
 る必要がある。

2 情報通信システムのCO2排出削減効果

 (1) CO2排出削減効果を有する情報通信システム一覧
   各種の情報通信システムのうち、CO2排出削減効果が比較的大きいと
  思われるものをまとめると、次表のとおりである(ただし、観測・環境
  計測や情報提供・教育啓発分野等のシステムについては、表に含めず、
  本章3、4及び第7章において言及する。)。
   これらの各システムは、それぞれ、交通の代替の促進や産業・流通活動
  の効率化、環境に配慮した生活様式への移行支援などを通じて、CO2
  排出のより少ない環境負荷低減型の経済社会活動やライフスタイルの実現
  を促す機能を有しているものと整理できる。

システムメニュー
        
関連竿ルギー
 消費部門 
  システムの概要  
          
  CO2排出削減効果例  
            
テレワーク   
        
        
        
運輸・民生
     
     
     
情報通信を利用し、通
勤等を排除し効率的な
ワークスタイルを形成
するシステム    
通勤交通の代替、オフィス
ビル増築の削除、都市の分
散           
            
ITS     
        
        
運輸   
     
     
高度なナビゲーション
等の高度な交通システ
ム         
交通流の円滑化による渋滞
の解消         
            
LANシステム 
        
        
        
産業・運輸
・民生  
     
     
オフィスや工場内に分
散しているコンピュー
タ等を接続する情報通
信システム     
伝票・帳票類等の紙の削減
、紙廃棄物の削減    
            
            
電子メールシステ
ム等インターネッ
ト・アプリケーシ
ョン      
運輸・民生
     
     
     
通信回線を通じ、コン
ピュータリーダブル情
報をやりとりするシス
テム        
業務交通の代替、無駄な紙
使用の削減、都市の分散化
            
            
ビル管理情報シス
テム      
        
民生   
     
     
高度情報通信によって
、オフィス環境を自動
制御するシステム  
業務環境の効率化による省
エネルギー効果     
            
電子出版・電子新
聞       
        
        
産業・運輸
・民生  
     
     
CD-ROM等の電子媒体に
より、雑誌、書籍、新
聞等を出版するシステ
ム         
紙使用(製造・流通)の削
減、紙廃棄物の削減   
            
            
遠隔教育・在宅教
育システム   
        
        
運輸・民生
     
     
     
過疎地等の教育機関 
(分校等)の充実、社
会人や中退者等の教育
のためのシステム  
通学交通の代替、学校設備
の効率化        
            
            
CALS/EDI
        
        
        
産業・運輸
・民生  
     
     
電子データの活用によ
り、製造・流通・消費
といった経済活動を効
率化するシステム  
製造段階でのペーパーレス
化、流通・消費段階での効
率化          
            
遠隔生産管理  
        
産業・運輸
     
遠隔地から工場での生
産を制御するシステム
無駄な生産の削減、オペレ
ータ移動の代替     
廃棄物・リサイク
ル情報システム 
        
産業・運輸
・民生  
     
廃棄物の管理や、リサ
イクル情報の発信を行
うシステム     
リサイクルの効率化   
            
            
共同輸配送システ
ム       
        
運輸   
     
     
統合納品や混載など、
効率化による積載率向
上のためのシステム 
貨物車の交通量の減少  
            
            
遠隔検針システム
        
        
        
運輸   
     
     
     
電気・ガス・水道等の
メータを情報通信を用
い自動的に検針するシ
ステム       
職員訪問の省力化、移動の
代替          
            
            
自販機POSシス
テム      
        
        
運輸   
     
     
     
自販機の中身の情報を
各営業所に発信し、適
切な補充を行うための
システム      
輸送車の無駄な走行の削除
            
            
            
TV会議システム
        
        
運輸・民生
     
     
企業の拠点を通信回線
で結び、会議を行うた
めのシステム    
出張・業務交通の代替  
            
            
電子窓口    
        
        
        
運輸・民生
     
     
     
行政手続きのための窓
口を近隣に配置し、利
用しやすくするための
システム      
行政機関までの交通の代替
、ペーパーレス化による紙
使用の削減       
            
遠隔医療・在宅医
療       
        
        
運輸・民生
     
     
     
専門医の足りない地域
での検診、高齢者や動
きの取れない病人への
検診のためのシステム
通院・往診交通の代替  
            
            
            
オンラインショッ
ピング     
        
        
        
運輸・民生
     
     
     
     
インターネット等によ
り、自宅にいながら、
海外を含む様々な店で
様々な製品を購入でき
るシステム     
買い物交通の代替、通販カ
タログ等の紙使用の削減 
            
            
            
オンライン予約 
        
        
        
        
運輸・民生
     
     
     
     
インターネット等によ
り、自宅にいながら乗
り物、演劇、コンサー
ト等のチケットを予約
できるシステム   
予約のための移動の代替、
結果として無駄な移動の削
減           
            
            
電子決済システム
        
        
        
運輸・民生
     
     
     
オンラインショッピン
グ等の小口決算や電子
マネーによる決済等を
可能にするシステム 
決済のための金融機関まで
の移動の代替      
            
            
バーチャル・エン
タテイメント  
        
        
運輸・民生
     
     
     
仮想空間等を用いて、
あたかも実体験をした
ように思わせるシステ
ム         
レクリエーション移動の代
替           
            
            
電子モール   
        
        
運輸・民生
     
     
実際の店舗を使用せず
商品を販売するシステ
ム         
店舗維持・増設の削減、在
庫置き場維持・増設の削減
            
電子図書館   
        
        
        
民生   
     
     
     
図書館にある蔵書を電
子化し、各家庭で閲覧
できるようにするシス
テム        
図書館への移動の代替、図
書整理、維持のためのエネ
ルギー削減       
            
エネルギー需給管
理システム   
民生   
     
地域のエネルギー需給
を管理するためのシス
エネルギーの平準化、需給
の最適化        
(注)情報通信システムそのものではないが、バーコード化は、上記のような各種
  情報通信システムを導入した様々な経済社会システムのより一層の効率的な運
  用をもたらすものであり、CO2削減にも大きく寄与するものと考えられる。

 (2) 定量的分析
   当審議会では、テレワーク、ITS、LANの進展等による紙の削減等、
  CO2排出削減効果が大きいと思われる情報通信システムを中心に、削減
  効果に関する定量的分析を行った。その結果の概要は次のとおりである。

  試算結果(平成22年(2010年)の削減量)の概要

    シ ス テ ム 名   
 CO2削減量(炭素換算)
 テレワーク         
    129万トン   
 ITS           
    110万トン   
 LANによる紙の削減    
     53万トン   
 インターネット等      
     50万トン   
 ビル管理情報システム    
     36万トン   
 電子出版・電子新聞     
     25万トン   
 遠隔教育・在宅教育システム 
      3万トン   
   削 減 量 合 計   
    406万トン   

   今回の試算は、各種の情報通信システムのうち、上記7つのシステム
  のみを対象として、その活用による直接的効果のみを試算したものであり、
  例えば、電子商取引等、大きな削減効果を有するものが含まれていない。
  このため、この試算は、情報通信システムの活用による削減効果全体の
  一部分に過ぎないが、試算結果の406万トンは、平成22年(2010年)に
  おける我が国全体の削減見込みである5,650万トン(注)の約7%に
  相当する。したがって、試算されていない部分を考慮すると、情報通信の
  活用は、CO2の排出削減に大きく貢献するものと考えることができる。
   なお、この削減目標の5,650万トンに含まれているのは、ITSと
  テレワークの一部の220万トンのみ(注)であることから、上記試算に
  より、我が国全体の削減可能量が更に約200万トン近く増加することと
  なる。


(注)我が国全体のCO2排出量の削減見込み               
   COP3に向けて開催された関係審議会合同会議においては、今後、新た
  な削減措置を講ずることにより、平成22年(2010年)において、5,650
  万炭素換算トンのCO2排出を削減し、平成2年度(1990年度)の排出量(3
  億700万炭素換算トン)と同じになると試算されている。       
   この試算には、テレワークによる削減110万炭素換算トン(運輸部門 
  における削減分のみの数値)及びITSによる削減110万炭素換算トン 
  等が含まれており、この両者だけで、運輸部門の削減量の約2割を占める(
  資料7)。                             

   高度情報通信社会が実現する21世紀を展望すると、ここで試算した
  システムに限らず、各種の高度な情報通信システムの利用が一層進展する
  ことにより、情報や人・モノの流れが一変するとともに、個人と地域、
  組織、社会との関係や企業における組織や就業形態等に大きな変化がもた
  らされ、CO2排出の少ない環境負荷低減型の経済社会の実現が急速に
  進むものと予測される。

 各情報通信システムごとの試算内容は、次のとおりである。

 ア テレワーク
平成22年(2010年)におけるCO2排出削減量(炭素換算)         
                            合計129万トン
 平成22年(2010年)のテレワーク人口(月2回以上テレワークを行う
者の総数)を2,080万人と推計し、CO2削減要素(通勤、出張、
業務移動の削減等)とCO2増加要素(情報通信ネットワークの構築運用等)を考
慮して、CO2排出削減量を求めた(資料8)。
 なお、今回の試算には含まれていないが、テレワークの進展による効果には、都
市の分散やそれに伴う建物の低層化によるCO2排出削減効果等がある。

 イ ITS(高度道路交通システム)
 平成22年(2010年)におけるCO2排出削減量(炭素換算)         
                            合計110万トン
 この値は、ITSを構成する様々なシステムのうち、(1)ナビゲーションの高度化
(2)自動料金収受システム(3)交通管理の最適化の3つのシステムの普及による削減
効果を試算したものである(資料9)。
 この試算は、合同会議に向けたITS関係5省庁(警察庁、通商産業省、運輸
省、郵政省、建設省)の試算に基づき、実現性をより考慮した仮定に修正した。

 ウ LANによる紙の削減
平成22年(2010年)におけるCO2排出削減量(炭素換算)         
                             合計53万トン

 産業連関表、紙・パルプ統計を用いて、LANを導入した場合の伝票・帳票類削
減、プリンタ用紙削減などの紙消費量の削減ポテンシャルより
CO2排出削減量を試算した(資料10)。
 総削減量のうち、洋紙・和紙分が23万炭素換算トン、板紙分が30万炭素換算
トンである。

 エ インターネット等の活用による国際業務移動の代替
平成22年(2010年)におけるCO2排出削減量(炭素換算)         
                             合計50万トン
 インターネットの利用がCO2排出に与える影響は多面的であるが、量的な側面
  からは、電子メールやWWWの利用による国際業務移動の代替(海外出張の削
  減)が、削減の原単位が大きく経済効果も大きいゆえに注目される。また、国
  際TV会議も国際業務移動の代替に貢献する。
 これらの効果について、情報通信を活用している企業に対するアンケート調査等
により実態データを得て、CO2排出削減量の試算を行った(資料11)。
 航空機による国際業務移動交通量(人キロ)の今後平成22年(2010年)までの伸
びについては、過去10年の実績を参考に年率7%の増加が続くものと仮定し、こ
の一部が情報通信により代替されるものとして
算出した。

 オ ビル管理情報システム
平成22年(2010年)におけるCO2排出削減量(炭素換算)         
                             合計36万トン
 平成22年(2010年)までのビル管理情報システムの導入規模及びそれに伴う熱回
収空調システムや自動調光照明システム等によるエネルギー消費の減少量を想定し
CO2排出削減量を求めた(資料12)。

 カ 電子出版・電子新聞
平成22年(2010年)におけるCO2排出削減量(炭素換算)         
                             合計25万トン
 電子出版・電子新聞は、最近開始されたばかりで、その実数も極く
わずかであるため、平成22年(2010年)における普及状況の有効な推計は困難であ
る。ここでは、平成2年(1990年)の書籍、新聞等の発行量の10%が電子出版・電
子新聞に移行すると仮定してCO2排出削減量を試算した(資料13)。
 総削減量のうち、電子新聞分が15万炭素換算トン、電子出版分が
10万炭素換算トンである。

 キ 遠隔教育・在宅教育システム
平成22年(2010年)におけるCO2排出削減量(炭素換算)         
                              合計3万トン
 平成22年(2010年)度児童・生徒・学生(以下、学生等とする)数を想定し、遠
隔教育・在宅教育を行った場合のCO2排出削減量について
推計した(資料14)。
 交通の代替により、交通機関の利用が減少し、それに伴いエネルギー消費が減少
するものとした(自家用自動車での通学は考えない)。

 (3) ケーススタディ
   我が国全体を対象とするものではないが、情報通信の活用によるCO2
  排出低減効果が定量的に求められている事例としては、以下のものがある。

  ア セブンイレブンにおける共同配送の実施
    セブンイレブンは、そのポリシーである「単品管理=発注・在庫管理
   手法」を推進する基盤として、物流システムと情報システムを包括する
   独自のトータルシステムを構築した。
    物流システムの特徴としては取引問屋の集約化と共同配送化が挙げら
   れる。現在、セブンイレブンでは温度帯別の共同配送を行っている。
   商品のカテゴリーにとらわれず、メーカー、共同配送センターから
   トラック、店舗に至るまで同一温度帯で管理される。
    情報システムによるネットワーク化、CALS/EDIのチェーン内
   運用と、物流システムによる温度帯別共同配送の結果、1日1店舗当た
   りの納品車両台数は、昭和49年(1974年)の70台から平成9年(1997
   年)には9台と約8分の1に削減されている。この輸送効率の向上に
   より納車車両の走行量は削減され、大きなCO2排出削減効果が得られ
   ている。

  イ 菱食と相鉄ローゼンとによる卸−小売同盟の形成
    加工食品卸売の菱食と食品スーパーである相鉄ローゼンとの間でED
   Iの導入が行われている。
    従来はブランド別に取引を行っていたが、相鉄ローゼンはカテゴリー
   別にEDIによる自動発注を行い、それに対応して菱食は相鉄ローゼン
   の棚割通りに商品を集荷するようになった。
    その結果、検品時間が50〜60分から10〜20分に削減されたと
   同時に、商品の補充回数も一日4〜5回から1回に減った。これにより
   貨物車の走行量が削減されCO2排出も削減された。

  ウ ファクトリー・ブティック方式の実現
    ニットウェアを扱う伊丹編物では、工場と専門店を一体化させたファ
   クトリー・ブティック方式を実現させた。CG(コンピュータ・グラ
   フィックス)やCADの活用により、完全受注生産ながらコストダウン
   を実現している。
    見込み・大量生産から、情報を有効に使った受注・個品生産へ移行し、
   無駄な生産を削減した。
    通常の1着のセーターの場合、流通に係るエネルギー消費は、製造に
   係るエネルギー消費の約4分の1である。そのエネルギーを削減できた
   ということで、大きなCO2排出削減効果が得られていると考えられる。

  エ 福岡市天神地区における共同集配送の実施とその評価
    福岡市天神地区は福岡市の交通拠点であるとともに商業の中心地でも
   あるため、交通混雑が最も激しい地区である。そのため、交通混雑の
   緩和などを目的とし、昭和53年(1978年)から共同配送が、更に昭和
   61年(1986年)から共同集配送事業が開始され、現在に至っている。
    平成4年(1992年)の「マクロ集配輸送計画モデルの構築とその「地区
   型共同輸配送評価への適用(家田仁、佐野可寸志、常山修治:土木計画
   学研究・論文集No.10,1992)」に関する研究では、共同輸配送等の物流
   施策の評価に応用するためのマクロモデルを構築し、そのモデルを天神
   地区の共同集配送に適用し効果を分析している。それによると、トラッ
   ク台数は65%、総走行距離は69%の削減となっている。
    また、都市計画・交通工学関係の専門学会の調査では、CO2排出に
   ついて80%程度の削減効果が得られるものとしている。

  オ 川崎駅前地区における共同輸配送実験とその評価
    川崎市駅前地区では、平成6年(1994年)10、11月の2ヶ月間に、
   行政主導の地域の環境改善(NOx排出量削減)対策を検討するため、
   共同輸配送のモデル実験が行われた。参加店舗は50店舗、共同配送車
   には低公害車であるCNG(圧縮天然ガス)トラックと軽トラックが
   使用された。
    平成7年度(1995年度)に環境庁が行った地球温暖化対策技術評価調査
   では、この実験結果に基づき、平成12年(2000年)において46%の
   CO2排出削減効果が得られるものと推計している。

  カ 浜松市の住民サービス窓口分散化
    浜松市では、平成5年度(1993年度)から市内27カ所に設置された
   「市民サービスセンター」において住民窓口サービス(届け出、証明の
   受理等)を提供している。
    これにより、住民は窓口サービスを受けるために本庁まで出向く必要
   がなくなるため、移動量が減るものと考えられる。平成6年度(1994年
   度)に開催された郵政省の「情報通信と環境問題に関する調査研究」で
   は、自動車による本庁来庁者の地域分布データ等に基づき、この移動量
   の低減による浜松市内の自動車からのCO2排出削減量を試算した。
    この結果、例えば一度の乗用車走行により2件の申請を行うとした
   場合、市内の自動車走行量の約0.25%が抑制され、CO2排出量は
   264炭素換算トン/年(市内自動車総排出の約0.12%)削減され
   ると推計された。

 (4) 定性的分析
   CALS/EDIについては、導入される分野が極めて広範であり、
  各業界において果たす機能や普及の度合い等が大きく異なるので、定性的
  な分析に止めた。ただし、一部の業界への導入に関しケーススタディ的に
  試算を行った。

  ア 分析の考え方
    CALS/EDIを含めた製造・流通・消費の情報化による経済活動
   の変化のイメージは、次のとおりである。
   (1) 自動車物流については、共同輸配送等が増加する。また、製造業と
    流通業の融合に伴い、サービスが高度化していく。
   (2) 道路交通については、ナビゲーションシステムの進展など、ITS
    が順次、実用化される。
   (3) 製造段階については、CALS等により効率的な調達や製造行程の
    効率化が進む。また、EDIを介した流通業との融合や、顧客対応の
    情報化による効率的な受注生産などが進む。
   (4) 流通段階については、EDI等により効率的な商品取引が進む。
     また、インターネットを利用したオンラインショップの開設などの
    無店舗販売の導入が進む。
   (5) 消費段階については、在宅でのオーダーの実現や、ネットワークを
    介した製造工程への参加などが進む。

  イ CO2排出への影響
    以上を前提に、CALS/EDIの進展がどのような効果を生み、
   CO2排出にどのような影響を与えるかについて定性的に分析した。
   CO2排出への影響については、その低減に資するもの((+)で
   表示)だけではなく、逆に増加に結びつくもの((−)で表示)もある。

・製造段階
  事 象  
情報化の関わり
環境に関連する効果
主なCO2排出への影響要素  
調達・取引情
報の電子化 
      
CALS/EDIの進展
インターネット、PC通 
信の進展   
伝票・帳票類の削減
受注ミス等の削減 
         
(+)紙資源消費量削減   
             
             
CAD等設計・製
造データの共
有     
      
      
CALS/EDIの進展
イントラネット、LANの
整備の進展  
       
       
中間段階の省力化 
並立作業によるリード
タイムの短縮     
業務目的人流の削減
ハードコピーの削減
(+)業務用エネルギー消費量低減
(+)紙資源消費量削減   
(+)人流交通量低減    
             
             

・流通段階
  事 象  
情報化の関わり
環境に関連する効果
主なCO2排出への影響要素  
取引情報の電
子化    
      
CALS/EDIの進展
インターネット、PC通 
信の進展   
伝票・帳票類の削減
受注ミス等の削減 
         
(+)紙資源消費量削減   
             
             
店舗の電子化
・オンライン
ショッピング
      
      
      
      
      
インターネット、PC通 
信の進展   
CALS/EDIの進展
       
       
       
       
       
購買目的人流の削減
在庫量の削減   
中間流通削減   
店舗建設削減   
         
         
         
         
(+)店舗・倉庫建設資源、エネ
  ルギー量等低減     
(+)中間流通、購買移動の人
  ・物流交通量の低減  
(−)潜在需要の顕在化による
  生産量増加      
(−)配送頻度増加等による物
  流交通量増加     
ECR/QRの進 
展     
      
      
      
      
CALS/EDIの進展
メーカーの生産
管理     
棚割管理等  
       
       
無駄な生産削減  
在庫量の削減   
検品の簡略化   
リードタイム短縮 
伝票・帳票類削減 
         
(+)紙資源消費量削減   
(+)倉庫建設資源、竿ルギー量
  等削減        
(+)廃棄物量低減     
(−)配送頻度の増加等による
  物流交通量増加    

  ウ ケーススタディ的な試算
    ケーススタディとして、卸売部門におけるCALS導入によるCO2
   排出削減効果を平成2年(1990年)産業連関表から得た卸売部門の投入・
   産出構造及びCO2排出原単位を用いて試算した。

    前提条件として、平成22年(2010年)においてCALS/EDIの
   普及により、卸売部門でのGDP当たりエネルギー投入量が低下し、
   平成2年(1990年)比で20%改善されるとした。また、生産、消費段階
   での効果は、卸売部門からの間接(誘発)効果の中に含まれると考えた。
    試算の結果、平成22年(2010年)におけるCALS/EDIの普及に
   よる卸売部門でのCO2削減量は217万炭素換算トンと算出された
   (資料15)。


3 情報通信を活用した地球温暖化の観測・計測

  情報通信を活用した地球温暖化の観測・計測は、人類の活動によるCO2
 放出と海洋や森林によるその吸収のメカニズムを明かにし、CO2だけで
 なく他の地球温暖化気体の分布やその変成過程を明らかにするとともに、
 これら地球温暖化気体の濃度上昇による気候変動等の影響の解明等に大き
 く貢献するもので、確実で有効なCO2排出削減対策の策定、国際間の調整
 等の具体的な保護政策の実現に必要不可欠である。
  情報通信の活用、特に電波・光リモートセンシングによる地球温暖化
 及び影響の観測・計測の現状と課題は次のとおりである。

 (1) 大気の観測・計測
   水は海洋・陸域と大気の間の熱循環において主要な役割を果たしている。
  特に太陽エネルギーの大部分が集中する赤道・亜熱帯域の水・エネルギー
  循環が極めて重要である。このために日本と米国は共同で、世界で初めて
  の宇宙からレーダによる降水観測を行うために熱帯降雨観測衛星(TRMM)を
  平成9年(1997年)11月に打ち上げ、観測を開始している。
   地球温暖化のメカニズムの解明と予測において、雲及びエアロゾルが
  放射収支に果たす役割の解明が不可欠で、このために世界気象機関の下に
  組織された世界気候計画(WCRP)では衛星搭載のミリ波雲レーダやミー散乱
  ライダによる観測を提言している。
   エルニーニョ現象、エアロゾルや地球温暖化気体の分布などと密接に
  関連し、環境形成の鍵となる大気運動の立体的な観測の必要性が指摘され
  ており、このためにはウィンドプロファイラによるネットワーク観測や
  衛星搭載ドップラ・ライダが有効である。

 (2) 海洋の観測・計測
   大気と海洋の間のCO2などの物質の交換、運動量やエネルギーの交換
  を評価するためには、海面水温、水蒸気量、気温プロファイル、海上風
  ベクトルなどの物理量の総合観測が必要となる。ADEOS衛星(みどり)
  には海色海温計OCTSとNASAのマイクロ波散乱計NSCATが搭載され、海面
  水温、海上風ベクトルなどの広域観測を行った。平成11年度(1999年度)
  には、この後継機であるADEOS-IIが打ち上げられる予定である。また、
  郵政省通信総合研究所では、亜熱帯地域における、貿易風など風の鉛直
  構造、海流・波浪、降水など、大気と海洋の総合観測・計測を行うための
  技術開発を目指して、沖縄にウィンドプロファイラ、短波海洋レーダ、
  マルチパラメータ・レーダからなる観測・開発拠点の整備を平成9年度
  (1997年度)より開始した。

 (3) 陸域の観測・計測
   CO2など地球温暖化気体の分布や排出・吸収源の評価のためには植生
  の分布、光合成活性、バイオマス、土壌水分などの植生や地表面の状態の
  観測が不可欠である。
   このために、ADEOS-IIに搭載予定のグローバル・イメージャ、航空機や
  人工衛星に搭載される高分解能合成開口レーダが極めて有効である。

 (4) 地球温暖化と災害
   バングラデッシュにおける水害など、近年、環境問題と自然災害が結合
  して複雑な様相を示している。地球温暖化による気候変動、海面上昇、
  生態系の変化、人口の移動などによって、今後一層このような傾向が進む
  と考えられ、この面の観測・計測の強化が必要である。


4 情報通信の活用による地球温暖化に関する教育啓発及びライフスタイルの変革

 (1) 情報通信の活用による地球温暖化に関する教育啓発
   近年のCO2排出量を見ると、国民のライフスタイルに密接に関係する
  民生部門及び運輸部門で一貫して増加していることから、国民の自発的
  かつ積極的な地球温暖化防止に向けた取組が期待される。そのため、地球

  温暖化の現状や今後の状況、望ましいライフスタイル、先進的な取組事例
  等、様々な分野の情報を、テレビ、ラジオ等に加え、インターネット等の
  情報通信を活用して的確に提供することにより、学校教育を含めた様々な
  教育、啓発活動を推進し、国民一人一人が地球温暖化問題を自らの問題
  として捉えるようにすることが極めて重要である。これにより、国民一人
  一人が、日常生活の中で実行できる自発的な取組が促される。
   インターネットを活用した環境情報の提供の例として、COP3に向け
  て、気候変動枠組条約事務局からの要請を受けた郵政省の呼びかけに応じ、
  我が国の情報通信関連企業22社が「日本COP3情報支援システム推進
  協議会」(CCIJ)を結成し、構築したCOP3に関するインターネッ
  トを通じた情報提供システムが挙げられる。このシステムには、会議期間
  中に国内外から100万件を超える利用があり、条約事務局等から高い
  評価を得た(資料16)。今後開催される地球環境関連の国際会議や各種
  イベント等において、このような情報通信システムの活用を進めることに
  より、地球環境問題に対する議論を活性化し、地球温暖化問題を含めたす
  べての地球環境問題に貢献することが期待される。
   また、インターネットホームページを活用したNGOによる情報提供が
  行われており、今後の発展が期待される。

 (2) 情報通信の活用によるライフスタイルの変革
   既に我が国では情報通信は生活と密接に結びついており、今後ますます
  その関係が深まっていくものと考えられる。先に述べたテレワーク、
  ITS、CALS/EDIなどのCO2排出削減効果を有する各種の情報
  通信システムは、21世紀には広範に普及し、国民のライフスタイルを
  大きく変革していくものと予想される。
   国民一人一人は、こうしたCO2排出削減効果を有する各種の情報通信
  システムを積極的に活用していくとともに、より日常的な生活行動の中
  でも、情報通信をCO2排出削減のために活用する努力をきめ細かく積み
  上げていくことが必要である。
   資料17は、いくつかの日常生活行動がどの程度のCO2排出を伴うもの
  か示したものだが、これを見ると、例えば、30km離れた場所に自動車で
  移動(2,240グラムのCO2を排出)して打ち合わせを行う代わりに、10
  分間の電話(8グラムのCO2を排出)で済ませれば、CO2の排出量を2
  80分の1に減らすことができることが分かる。

   このように、情報通信の活用により大きなCO2排出を伴う行動を置き
  換えることができる場合(特に移動の代替)は、積極的に置き換えていく
  ことで、低CO2排出のライフスタイルを築いていく必要がある。
   一方、情報通信の活用は、無条件にCO2排出の低減に結びつく訳では
  ない。例えば、文書情報を電子化し、ペーパーレス化を図れば、紙の生産、
  廃棄に伴う環境負荷の低減が期待できるが、その情報をプリンタなどで
  また紙に出力してしまうとその効果はなくなってしまう。また、パソコン
  などの各種の情報通信機器の未使用時に電源を入れたまま放置すれば、
  無駄なCO2排出が増加する。こうした情報通信の活用がCO2排出の増加
  に結びつく側面を、国民一人一人が日常生活の中で抑えるように留意する
  ことも重要である。


第4章 情報通信事業におけるCO2排出削減対策

1 情報通信事業のCO2排出量

  電気通信・放送事業は現代社会の基幹産業の一つであるが、重厚長大な
 産業である素材産業やエネルギー産業に比べ、産業内での消費エネルギー
 は少なく、CO2排出量は非常に少ない。
  平成2年(1990年)の産業連関表より求めた、我が国の産業部門別のCO2
 排出量(部門内での直接排出量)と、CO2誘発強度(当該部門の生産額
 当たりの部門内直接排出量及び部門外で誘発するCO2排出量)
 (資料18)をみると、通信、放送の両部門に、情報通信インフラ建設に
 係る電気通信施設建設部門を加えた3部門の部門内直接CO2排出量
 (主に部門内での化石燃料の燃焼によるもので、電力消費に伴う排出は
 発電部門に計上されるので含まない)は約25万炭素換算トンで、国内
 総排出量の約48%を占める産業部門からの排出量(1.51億炭素換算
 トン(エネルギー転換部門の転嫁分を含む))の0.17%に過ぎない。
  また、同じく3部門のCO2誘発強度から算出した部門外誘発CO2
 排出量(部門内の電力消費に伴う排出や、部門内で使われる機器の製造
 や輸送に伴う排出等を含む)は、約197万炭素換算トンであり、産業
 部門からの排出量の1.3%となっている。
  このように情報通信事業からのCO2排出量は、他産業への波及を考慮
 しても産業部門全体からの量から見ると非常に少ないが、CO2排出削減
 には多面的、総合的取組が欠かせないことから、我が国の基幹的産業の
 一つとしてCO2排出削減に積極的に取り組む必要がある。

2 電気通信・放送業界の取組の現状と今後の方向

 (1) 対策の分類
   電気通信事業及び放送事業におけるCO2排出削減対策は、大別して、
  電気通信・放送サービスを提供するために必要な設備(交換機、送信機
  等)に関連する対策と、企業としての一般的な対策(オフィスの省エネル
  ギー等)の2つに大別できる。

 (2) 事業用設備等に係る対策
   情報通信事業者のCO2排出は、情報通信ネットワークを構成する情報
  通信設備及びそれらを収容する建造物より発生する。
   1で述べたように、情報通信ネットワークは、そのものがCO2排出量
  の少ないシステムであるとともに、TV会議システムやITS等のCO2
  排出削減効果の高い情報通信システムの基盤となることを考えると、非常
  にCO2排出負荷が低い社会インフラであるといえる。
   とはいうものの、やはりLCA的観点(機器の材料・製法、ネットワー
  ク・建造物の原料・工法等)からの省エネルギー化、省資源化を進めて
  いくことも重要である。このため、事業用の設備等の調達に当たって、
  CO2の排出やその他の環境への負荷の小さな製品を優先的に調達する、
  いわゆるグリーン調達制度の導入・徹底が必要である。
   さらに、ネットワークに接続された発信・受信用機器、建造物の省エネ
  ルギー化、省資源化を進めていくことも重要である。
   通信・放送事業では、インフラ・機器等の整備のほか、情報の発信・
  受信、番組・コンテントの作成、ソフトウェアの開発等の業務が発生する。
  これらの各段階における省エネルギー化も必要となる。
   なお、電気通信・放送事業においては、高い信頼性をもって設備の運用
  を行う必要がある。この信頼性を担保するためのバックアップ用設備等
  について、CO2排出削減目的の省エネルギー化等を行う場合は、信頼性
  を損なわないよう留意が必要である。

 (3) 一般的な対策
   通信・放送事業者は一般的なオフィス使用企業としての側面も持つため、
  次のような省エネルギー、CO2排出削減対策も必要となる。

  ア オフィスの省エネルギー・省資源
    オフィスビルの省エネルギー(照明、暖房等)、節水、ペーパーレス
   化、省エネルギー型OA機器等の導入、テレワークの導入、低公害車の
   導入等、他の業種と同様の様々な対策が考えられる。

  イ 社会・地域貢献
    地域住民との交流を図り、植樹・植花活動や地域の環境保護活動への
   参加や援助などを通じ、間接的にCO2排出の削減を促すことが可能で
   ある。
    また、情報通信メディアが有する情報提供機能を活用し、環境問題に
   関する情報提供を積極的に行うことにより、広く国民に対する啓発活動
   を推進することも考えられる。

 (4) 情報通信業界におけるこれまでの取組の例
  ア NTTにおける取組
    NTTでは、企業理念に基づく環境問題への取組を強化するため、
   平成3年(1991年)に環境問題対策室を設置し、地球環境保護推進委員会
   を発足させた。その後「NTT地球環境憲章」を制定し、グループ全体
   で環境問題に取り組むための体制を整備した。
    より具体的な方針としては、「NTT地球環境保護基本プログラム」
   が制定され、「企業責任の遂行」として、地球温暖化対策、紙資源対策、
   廃棄物対策、オゾン層保護対策の4つの対策項目と、環境保護に寄与
   できる各種の電気通信サービス・技術の提供、環境保護社会活動等への
   参画・支援を課題として取り上げ、各種取組を実施してきた。
    このうち、地球温暖化対策については、CO2排出量を平成12年
   (2000年)以降、平成2年(1990年)レベルに抑制することを目標として
   いる。現在、NTTは、年間36億kWhの電力を使用しており(全国
   の購入電力の約0.5%に相当)、この分、CO2の発生を誘発して
   いる。このため、電力使用量に関しては「Save POWER運動」
   により、平成12年(2000年)における目標値を定めて各事業所における
   消費電力削減を進めている。
    また、このような現場レベルの省エネ運動と並行して、低消費電力
   LSIの開発・導入、パワーサプライ制御技術の開発・導入、コジェ
   ネレーションシステム導入、300kWh級の太陽光発電システム等
   クリーンエネルギーの開発・利用、建物の設計に当たってのLCA手法
   の採用による最適エネルギー設計、低公害車の導入など、さまざまな
   地球温暖化対策を推進している。

  イ NHKにおける取組
   (1) 電力使用量等の推移
     昭和49年(1974年)のオイルショックを機に大幅な省エネを実施し
    て契約電力を1割削減したのを除き、職場環境の維持やニュースセン
    ターの運用、設備増設に伴い、増加傾向にある。
   (2) 設備運用上の節減対策
    a 室温管理などこまめな空調機運転や冷凍機の運転制限等を実施。
    b 夏期の電気使用の最盛期(13時〜16時)の電力使用抑制。
    c 冷凍機の運転を夜間に移行する等、夜間蓄熱運用の実施。
    d 受電力率改善による節減。
   (3) 今後の節減
     夏場の推奨室温を28℃にするなど、機会あるごとの社内PRを
    実施し、一層の節電を推進する。

  ウ 民間放送(日本テレビ)における取組
    省エネ施策として、以下のような省エネルギー設備の導入その他の
   施策を実施している。
    電気関係では、不要な電流の発生の防止による自動力率制御、負荷の
   増減に応じた変圧器の稼働台数制御、畜熱漕の利用による深夜電力の
   有効利用と電力の平準化、照明自動点滅器の採用等の施策を実施して
   いる。
    空調関係では、ゾーニング制御、外気導入による室温制御、ソーラー
   システムの採用、動力の回転制御による省エネルギー設備の採用等を
   実施している。
    水関係では、排水の再利用・備蓄等を推進している。

 (5) 他業界の動向
   経団連では、平成3年(1991年)に経団連地球環境憲章を策定し、地球
  環境の保全に向けて自主的かつ積極的な取組を進めていくことを宣言した。
  また、平成8年(1996年)7月には、経団連環境アピールを取りまとめ、
  地球温暖化対策や循環型経済社会の構築などに向けて、より具体的な取組
  を宣言した。このアピールに呼応して、平成8年(1996年)12月に各業界
  団体ごとに行動計画が策定され、平成9年(1997年)6月、経団連環境自主
  行動計画として取りまとめられた。
   経団連環境自主行動計画には、製造業・エネルギー産業を中心に、
  流通・運輸・金融・建設・貿易など37業種、138団体が参加している。
  通信・放送業界はこれには参加していないものの、前述のように、自主的
  に目標や計画を立てて環境問題に積極的に取り組んでいる企業も多い。

   行動計画に参加している多くの業種はCO2排出削減に係る数値目標を
  設定している。実際、18業種で製品当たりのエネルギー原単位あるいは
  CO2原単位の改善を、14業種でエネルギーあるいはCO2総量の削減を
  目標に掲げている。また、サービスあるいは製品の使用段階での省エネル
  ギー化を目標に掲げているものが8業種ある。目標の設定年は平成12年
  (2000年)としている業種もあるが、多くの業種では平成22年(2010年)と
  している。
   計画に含まれる対策については、多くの業種でエネルギー利用効率の
  改善を主眼としており、オフィスの省エネルギーを含む操業管理の面での
  きめ細かい工夫、設備・プロセスの改善、あるいは、技術開発とその成果
  の導入などをメニューに加えている。その他、廃熱の有効利用、LCAに
  よる製品の設計段階からの配慮、植林の推進などを加えている業種もある。
   行動計画は毎年レビューされ、結果が公表される予定である。

 (6) 通信・放送業界における今後の取組
   昨年11月、当審議会は、地球温暖化対策に焦点を絞った中間取りまと
  めを公表し、その中で「情報通信事業分野における自主的計画策定の
  支援」を提言した。これを受け、郵政省では、通信・放送関係業界に自主
  行動計画の策定を要請し、現在、業界団体において自主行動計画の策定に
  向け、作業が進められているところである。
   今後、自主行動計画を確実に推進するため、地球温暖化対策の実施状況
  について、年1回、当審議会を活用したフォローアップを行うこととする。

 (7) 地球温暖化対策推進法案について
   地球温暖化防止を目的とする我が国初めての法律である「地球温暖化
  対策の推進に関する法律案」が国会に提出されている。
   同法律案は、地球温暖化対策の推進を図るため、政府において地球温暖
  化に関する基本方針を定め、国、地方公共団体、事業者及び国民が基本
  方針に基づいて、地球温暖化対策を取ることを求めている。特に事業者に
  対しては、地球温暖化対策に関する計画の作成・公表及びその実施状況の
  公表に努めなければならないこととされている(資料19)。


第5章 情報通信端末機器の低CO2排出対策

1 情報通信端末機器の稼働時消費電力削減

  情報通信端末機器には、パソコン等のように急速に普及台数が増加して
 いるものが多い。
  カラーテレビのように近年大型化により消費電力が増加している機器が
 ある(資料20)。また、留守番機能付き電話機のように多機能化により
 消費電力を増加させている機器もある。
  同一機能、同一サイズの機器については、省エネルギー化が漸進して
 いるものの、大型化や多機能化、あるいはその複合効果により、機器1台
 当たりの加重平均エネルギー消費は増大の傾向がみられる。
  機器運用時の省エネルギー化についてはこれまでも改善が進んできたが、
 製造時や廃棄時も含めた総合的な環境配慮がなされた改良はようやく近年
 になってから行われてきている。

2 情報通信端末機器の待機電力削減

  情報通信端末機器の消費電力は減少傾向にあるものの、利便性を重視
 した改良の結果、非使用状態時、あるいは入力待ち時に消費する「待機
 電力」の発生が新たな問題として浮上してきている。
  待機電力が発生するという例としては、次のものを挙げることができる。
(1) 非使用時に通電したまま(つけ放し)の電力消費            
(2) 起動時の待ち時間を減らすための待機機能               
(3) 電気製品全般のリモコン操作機能                   
(4) 電話、ビデオ等のメモリ保持機能(留守電機能、タイマー録画機能)、内 
  蔵時計機能                              

  現在、待機電力が問題となっている情報通信端末機器としては、次の
 ものがある。
(1) 家庭用                               
  テレビ、ビデオ、留守番電話機、FAX、充電器(コードレス電話、携帯電
  話、PHS用等)、パソコン、プリンタ、ディスプレイ 等       
(2) 業務用                               
  FAX、パソコン、プリンタ、ディスプレイ 等            

  これらの情報通信機器のうちには、通電待機がその機能の本質をなすも
 のがあり、一般の家電製品のリモコンの待機のように単に利用者の利便
 性・快適性を向上させる目的の待機とは異なり、稼働時の一形態という
 とらえ方をすることが適当であると考えられる。
  また、待機電力について考える際には、単に稼働時消費電力に対する
 待機電力の割合だけではなく、消費・稼働電力の絶対値の大小も考慮した
 うえで、必要な施策を考えていくべきである(資料21)。

3 情報通信機器の消費電力及び待機電力に関する規制の現状

  消費電力及び待機電力については、省エネ法(エネルギー使用の合理化
 に関する法律)による規制のほか、国際的には国際エネルギースタープロ
 グラムがある。

 (1) エネルギー使用の合理化に関する法律(省エネ法)による規制
   昭和54年(1979年)に策定された法律であり、情報通信機器について
  は、製造業者等を対象に、省エネルギーの判断基準、表示事項、エネル
  ギー消費効率の測定方法等を規定している。
   判断基準は、目標年度を平成12年(2000年)としたときに国内事業者
  が達成すべき消費効率を数値で表している。消費電力はいずれの機器で
  も待機電力についても規定している。
  (1) 電子計算機における改善方策例
   超高密度CMOS素子利用、高密度配線基盤の採用、高力率電源の採用等
  (2) 磁気ディスク装置における改善方策例
      ディスクサイズの小型化、低発熱モータの採用、高効率化電源の
     採用等
  (3) ビデオテープレコーダーにおける改善方策例
   リモコンスタンバイ電力の削減、電源供給系統の合理的設計、表示機能の省電力
  化等
  (4) テレビジョン受信機における改善方策例
   蛍光体改良等のブラウン管の改善、液晶パネルによる小型化、リモコンスタンバ
  イ電力の削減等

   現在、同法は省エネルギーの強化のための改正が図られており、同種
  の製品の中で最もエネルギー消費効率のよい製品に合わせて省エネル
  ギーの判断基準を設定するトップランナー方式の導入や、工場・事業所
  におけるエネルギー使用合理化の徹底のための各種措置の導入を含む
  改正法案が国会に提出されている。

 (2) 国際エネルギースタープログラム
   平成7年(1995年)に策定され、日米欧を中心に進められている国際
  省エネマーク制度である。
   継続的に使用されることの多いオフィス機器5品目(コンピュータ、
  ディスプレイ、プリンタ、ファクシミリ、複写機)の、特に待機時の
  エネルギー消費量の抑制を主眼とした消費電力基準を設け、基準適合
  製品には国際エネルギースターロゴの使用が認められる。このプログラ
  ムは任意なため、強制力はない。

4 ネットワークの高機能化によるCO2排出削減対策

  上記の機器単体の省エネルギー対策では、機器の単体レベルにおける
 省電力化に加え、ファクシミリにおけるメモリー受信のような省電力の
 ための運用方法等も導入されている。夜間においては、国内における電話
 ネットワーク全体のトラフィック量が減少することから、電話交換網全体
 の通信制御方法や稼働方法についてインテリジェント化を図ることにより、
 同様な省電力効果が得られるものと考えられる。
  一方、インターネットの発展に伴い、近年急増しているルーターなどで
 構成された常時通話の状態にあるネットワーク機器に関しても、新たな
 技術開発により、トラフィック量に応じた柔軟な交換機能を実現し、待ち
 受け時の消費エネルギーを削減することが望ましいものと考えられる。

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