昭和60年版 通信白書

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1 電気通信分野への競争原理の導入

(1)背 景

 明治2年に電信が,また,同23年に電話が創業されて以来,我が国の電気通信は,主として国又は国に準ずる機関により一元的に運営されてきた。
 電気通信分野は,従来,自然独占性や技術統一性が強く働く分野とされ,これらが上記のような運営体制の根拠となっていた。しかしながら,近年,光ファイバケーブルや通信衛星等の新しい伝送路の出現や,規格の違う複数のネットワークの併存を可能とするインタフェース技術の進展により,こうした特質が弱まってきた。
 また,このような変化に加え,新しい電気通信メディアが次々と実用化されるとともに,利用者ニーズも高度化・多様化しており,これらにきめ細かく対応していくことは,単一の事業体では次第に困難になってきた。電気通信をめぐるこのような時代の変化の中で,56年8月に電気通信政策懇談会,57年7月に第二次臨時行政調査会から,また,59年1月には電気通信審議会から,電気通信事業の活性化と多様なニーズにこたえるためには同分野に競争原理を導入することが必要であるとの趣旨の意見・答申がなされた。一方,電気通信に関する世界的な動向をみた場合も,米国では59年1月にアメリカ電話電信会社を分割したほか,IBMに通信事業への進出を認め,英国においても59年8月に英国電気通信公社を民営化している。

(2)電気通信自由化の構造

 新しい電気通信秩序の骨格となる電気通信事業法(以下「事業法」という。)では,新たな者が電気通信事業者として電気通信分野に参入できることとするなど各種の自由化措置を講じている。
 電気通信事業者の区分については,今後の電気通信の高度化に柔軟に対応できるよう設備の設置の有無に着目し,自ら電気通信回線設備を設置して電気通信事業を営む第一種電気通信事業者と,第一種電気通信事業者から電気通信回線設備を借りて電気通信事業を営む第二種電気通信事業者とに分けている。
 また,これまでの公衆電気通信法では,公衆電気通信サービスの種類,料金,その他提供条件等業務の細部に至るまで法律等で規律していた。これに対し,事業法では,電気通信サービスの種類については郵政省令でその大枠についてのみ示している。料金その他提供条件については事業者の定める契約約款で示すこととし,第一種電気通信事業者の契約約款については郵政大臣がこれを認可することとしている。
 ア.自由化の構造事業法では,電話,専用,データ通信等の電気通信サービスについて競争原理が導入された。また,競争原理は,国内通信,国際通信の別,あるいは基幹的回線分野,市内回線分野の別を問わず,導入されることとなった。
 さらに,電話機やテレックス装置等の端末設備のうち,これまで,いわゆる1台目の端末については,日本電信電話公社(以下「電電公社」という。)等の提供するものの使用が義務付けられていたが,この制限が撤廃された。このことにより,利用者は,一定の技術基準に適合するものであれば,端末設備を自由に選んで設置することが可能となった。
 イ.電気通信事業への参入
 事業法では,電気通信事業への参入に当たっては,設備の設置の有無及び公共性の強さに応じて,許可,登録,届出と三段階の差異を設けている。このように,参入に当たって一定の差異を設けることは,利用者が安全で秩序ある良質なサービスの提供を受けるための担保的な措置である。
 (許可制の第一種電気通信事業)
 第一種電気通信事業は,電気通信サービスを提供するための基盤となる電気通信回線設備を自ら設置し,運用する基幹的な電気通信事業であり,公共性が高いことなどから,許可制としている。
 また,第一種電気通信事業は,装置産業としての性格とともに,その業務区域においてはニーズに応じサービス提供を行わなければならないという特徴をもっている。
 このような,公益的性格が強いという特徴から,電気通信設備の健全な維持運営を図り,良質で安定的なサービスの提供を確保する必要があるため,事業法においては,許可の欠格事由を規定するとともに,その事業の提供に係る電気通信サービスがその業務区域における需要に照らし適切なものであること,その業務区域等について電気通信回線設備が著しく過剰とならないこと,事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎及び技術的能力があることなどの許可の基準を定めている。
 (登録又は届出制の第二種電気通信事業)
 第二種電気通信事業は,自らは通信ケーブルやマイクロ無線,通信衛星等の電気通信回線設備を設置せず,これらの回線設備を第一種電気通信事業者から借り受けてサービスを行う事業である。
 第二種電気通信事業には,特別第二種電気通信事業と一般第二種電気通信事業とがある。
 特別第二種電気通信事業は,本邦外の場所との間の通信を行うもののほか,不特定かつ多数の利用者を対象に,政令で定める基準を超える規模の設備によりサービスを提供するもので,システムダウン等による通信の途絶がもたらす社会的,経済的影響が大きいことから,事業の開始を登録制としている。
 これに対し,一般第二種電気通信事業は,企業グループ等の特定された者の通信需要に応じたサービスを提供するもので,その影響が及ぶ範囲も前者に比べて狭いことから,こうした相違に応じ,事業の開始を届出制としている。
 ウ.電気通信料金
 第一種電気通信事業者の提供する通信サービスの料金は,国民の日常生活に密着した公共料金としての性格を有することから,事業者の契約約款で定め,これを郵政大臣が認可することとしている。
 競争原理を導入した後の電気通信料金は,利用者の最大関心事の一つとなっている。このため,郵政省では,料金認可を行おうとする際に電気通信料金が適正なものとなるよう十分審査するとともに,電気通信に関する学識経験者等により構成される電気通信審議会に諮問することとしている。
 なお,特別第二種電気通信事業者の料金は,その他の提供条件とともに届け出るだけでよく,一般第ニ種電気通信事業者にあっては,届出も不要である。
 エ.その他の公共性確保措置
 (通信の秘密の保護)
 通信は,人間が社会生活を営む上で不可欠なものであり,安心して情報を託し,自由に通信ができるようにするためには,通信の秘密を確保することが必要である。このような趣旨から,通信に対する検閲及び通信の秘密を侵すことを禁止するとともに,電気通信事業に従事する者に守秘義務を課している。
 (利用の公平)
 電気通信事業者に対し,電気通信サービスの提供について不当な差別的取扱いを禁止している。
 (重要通信の確保)
 通信は,経済社会活動の存立基盤を支える中枢神経的機能を担うとともに,警察,防災等国の基本的な機能維持にかかわるものである。このため,電気通信事業者に対し,天災,事変その他非常事態が発生したり発生するおそれがある場合は,これに関連する事項を内容とする通信(重要通信)を優先的に取り扱うことを義務付けている。
 (設備の安全性・信頼性の確保)
 以上のほか,電気通信設備の事故等によるサービスの中断,障害の発生は利用者に不測の損害を与えることとなるので,特に影響の大きい第一種電気通信事業者及び特別第二種電気通信事業者については,設備の安全性・信頼性の確保を義務付けている。

(3)有効かつ公正な競争条件の確保

 電気通信分野の効率化,活性化を達成するためには,既存事業者と新規参入事業者との間に有効かつ公正な競争条件を確保することが必要である。このため,事業法では各種の措置がなされている。
 (会計の整理)
 第一種電気通信事業者の提供する電気通信サービスに関する料金が適正に算定され得るよう,郵政省令で定める勘定科目による分類その他会計に関する手続に従って会計を整理するよう義務付けており,その中で,競争制限的な内部相互補助を防止する措置を講じている。
 (相互接続の確保)
 新規参入の第一種電気通信事業者のネットワークは,既存の第一種電気通信事業者のネットワークに接続することにより一層効用を増し,公共の利益の増進につながる。このため,第一種電気通信事業者間で回線を相互に接続する場合は,適正な条件の下でこれが行えるよう接続に当たっての協定を認可事項としている。
 また,協定締結に当たり,接続料金等について双方の協議が調わない場合等で,当事者から申立てがあった場合は,郵政大臣は接続命令を発することができることとしている。
 (行政的機能の分離)
 電話機やテレックス装置等の端末機器の技術基準適合認定,端末機器の工事担任者試験,端末設備接続の技術基準の制定等は,これまで,電電公社等の業務の一環として行われてきたが,電気通信分野に競争原理が導入されたことに伴い,これらの行政的機能は郵政大臣が行うこととなった。
 このうち,前二者については、行政事務の簡素合理化及び民間能力の活用の観点から,それぞれ指定認定機関及び指定試験機関に行わせることとしている。
 (土地等の使用特権)
 従来,電電公社は,自らの事業に必要な線路及び空中線並びにこれらの附属施設を設置するため,土地等の使用特権を認められていたが,これを第一種電気通信事業者すべてに認めることとしている。

第1-1-1表 電気通信事業の区分とその枠組み

 

多彩な電話機器

 

 

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