昭和60年版 通信白書

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1 対外経済問題への対応

 電気通信は,その技術先導性,高付加価値性のゆえに,今後の社会経済の発展において戦略的重要性を有することから,先進諸国はその振興のために各種の施策を講じている。
 フランスのテレマティーク政策,EC諸国共通の電気通信政策,米国のアメリカ電話電信会社の企業分割等がこの典型的なものである。
 こうしたことを背景に,電気通信の分野においては,現在,通信機器貿易,電気通信サービス市場への外資参入,越境データ流通(TDF)といった諸問題が発生している。

(1)通信機器貿易問題

 ア.NTT資材調達問題
 NTTの資材調達については,56年1月以来,ガット政府調達協定及び日米政府間取決めに基づき内外無差別の開放的な調達手続を採用しており,この結果,NTTの外国企業からの調達実績は56年度44億円(うち米国38億円),57年度110億円(同86億円),58年度348億円(同312億円),59年度351億円(同318億円)と増加している。
 NTTでは,ガット政府調達協定及び日米政府間取決めに基づき内外無差別を原則に,主として公衆電気通信設備以外の電柱,車両,オフライン用コンピュータ,事務用物品等については最低価格応札者に落札する競争入札方式(トラック<1>),公衆電気通信設備のうち既に市販されている製品又はその改造品については総合的に最も有利な提案を行った業者の製品を選定する方式(トラックII)及び公衆電気通信設備のうち市販製品がなく新たに開発を要する製品については共同開発パートナーを内外無差別に公募し,開発終了後はその業者から調達する方式(トラックIII)を適用して調達を行っている。
 さらに,NTTは,外国企業からの調達促進を図るため,英語による申請書の受付,外国企業に対するセミナー等を行っている。
 我が国としては、NTTの外国企業の参入機会増大の努力について引き続き米国等の理解を求めていく考えであり,郵政省としても,我が国の通信機器市場の一層の透明性を確保する観点から,外国企業の参入機会増大に引き続き努めるようNTTを指導することとしている。
 イ.電気通信端末機器等の基準・認証
 電気通信事業法の下では,これまで電電公社とKDDが作成していた電気通信端末機器等の技術基準を国が定めることとし,これらの技術基準適合認定についても国又は国が指定した認定機関が行うこととしている。
 これに対し,米国等から,この新たな基準・認証制度によって外国製通信機器の取扱いと外国企業の参入が制約されるのではないかとの懸念が表明された。
 こうしたことを背景に,60年1月末から6月末までの間,日米次官級協議電気通信セクター会合(4回)、端末機器技術基準日米専門家会合及び電波法に関する日米専門家会合の各種会合を開催して協議を行った結果,電気通信端末機器等の基準・認証については,内外無差別の市場開放を基本原則とした以下の措置を講ずることとした。
[1] 自己認証への移行電気通信端末機器の技術基準適合認定に際しては,内外を問わず,申請者データを全面的に受け入れることとしたほか,認定マークの自己表示を認めた(60年4月に実施)。
  また,高周波利用設備のうち,電子レンジについては,型式指定に代えて,60年中に自己認証制度を導入することとしている。
[2] 規格基準の見直し電気通信端末機器の技術基準について,従来の公衆電気通信法の下での53項目から21項目に削減した(60年4月及び7月に実施)。
  自動車電話,コードレス電話及びポケットベルの技術基準を見直す。
[3] 認証手続の簡素化・迅速化電気通信端末機器の接続を容易にするための技術基準適合認定について,対象機器をアナログ電話網に接続される端末機器に限定せず,ディジタル網等のネットワークに接続される端末機器も含むすべての端末機器に拡大し,すべての端末機器の接続手続を筒素化した(60年4月に実施)。
  電気通信端末機器の技術基準適合認定について,書類審査を原則とするほか,申請書類の簡略化(提出部数の削減,資料項目の削減)及び審査期間の明確化(原則として2か月以内)を図った(60年4月に実施)。
 既に実施済みである電気通信端末機器技術基準適合認定の標準的な事務処理期間(2か月以内)を指定認定機関の業務規程に明定した(60年8月に実施)。
 ウ.輸入促進施策我が国にとって,外国製通信機器の輸入を図ることは,経済摩擦の解消に資することはもとより,通信の高度化を図る上でも,また利用者である国民の利便性向上を図る上においても好ましい結果をもたらすものと期待される。
 このため,通信衛星を含む外国製通信機器の輸入を促進する観点から,60年度において通信機器に関する日本輸出入銀行の製品輸入金融の金利引下げが実現されたほか,通信衛星の輸入に関し,同行の長期低利融資の適用が決定された。また,電子交換機等6品目の通信機器について関税を撤廃することとしている(61年に実施予定)。
 エ.市場アクセス改善のためのアクション・プログラム60年7月30日に,政府・与党対外経済対策推進本部は「市場アクセス改善のためのアクション・プログラムの骨格」を決定した。これに基づき郵政省では,市場アクセスの改善を図り,通信機器貿易問題等の対外経済問題を総合的に解決するため,「郵政省アクション・プログラムの骨格」を独自に策定した。

(2)電気通信サービス市場への参入

 電気通信事業法の下では,新たな者が電気通信事業に参入できる体制をとっているが,これに関し,米国等から外国企業の参入についても自由にされたいとの要望が電気通信事業法の立案・審議過程で寄せられた。
 電気通信は,社会経済活動の存立基盤を支える神経系統に相当するものであり,サービスの適正・安定的な供給を図ることが重要であるが,他方,多様な通信需要に応じるためには,外国企業の優れた技術や経営を導入することも必要である。
 我が国の電気通信サービスを開放的なものにすると同時にその活性化を図るため,国民経済において基幹的役割を果たす第一種電気通信事業については、外資比率が3分の1未満であれば,これを認めることとした。また,第二種電気通信事業は,利用者の多様な要望にきめ細かく対応する事業であり,内外無差別の原則の下で競争原理が有効に働くことが利用者の利益にもなることから,外資規制を設けないこととした。

(3)越境データ流通(TDF)問題

 コンピュータによって自動的に処理されるデータの越境データ流通(TDF:Transborder Data Flows)は,企業活動の国際化,国際データ通信サービスの進展等の要因により,近年急速に増大している。
 一方,各国の政策の中には,プライバシーデータ保護等,自由な国際間データ流通を制約するものも存在しており,これらを総合的に調整し,円滑な国際間データ流通を維持,促進することが国際的な関心事となっている。
 この問題は,越境データ流通(TDF)問題と呼ばれており,我が国においても早くから調査研究が行われている。
 国際的には,OECD(経済協力開発機構)において,約10年前から活発な検討が行われ,その結果,1985年4月の閣僚理事会でデータの自由流通の原則を確認する「TDF宣言」が採択された。
 このTDF問題は,今後の国際ネットワークの在り方,情報通信産業の発展,先端技術の振興等にも深くかかわる問題として,ますますその重要性を増していくものと考えられる。
 このため,我が国としては,TDF問題に対する総合的な調査・研究体制を強化し,諸外国との情報交換を十分に行うとともに,OECD等の活動に積極的に参加していくこととしている。

 

 

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