公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会
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本報告書の構成と活用方法 本報告書は2部構成の本文と付録から成る。 第1部は、本研究会の検討の背景として、ウェブアクセシビリティの重要性の増大や国内外でのウェブアクセシビリティ基準検討の動きを整理するとともに、地方公共団体におけるウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の現状を調査した結果をまとめている。また、調査結果をもとに地方公共団体におけるウェブアクセシビリティ維持・向上に見られる課題を抽出・整理し、第2部の検討につなげている。 第2部は、第1部で整理したウェブアクセシビリティの維持・向上に見られる課題を受けて、「みんなの公共サイト運用モデル」を提示し、さらに3つの地方公共団体でこの運用モデルを実践しその有効性を評価した実証評価の取組と結果をまとめている。 付録は、第2部で述べた「みんなの公共サイト運用モデル」で用いる手順書及びワークシート類をまとめたものである。なお、地方公共団体の現場でウェブアクセシビリティ維持・向上の取組を実践する場合には、最低限、この付録を利用するだけでも十分間に合うように注意が図られている。併せて、ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の全体像を紹介した第2部第1章を一読することで、さらに理解が深まるだろう。 |
はじめに 本研究会が取り扱うテーマと範囲 第1部 公共分野のアクセシビリティ確保に関する課題検討 |
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1.検討の背景 |
1 |
1−1 ウェブアクセシビリティ確保の重要性の増大 | 1 |
1−2 ウェブアクセシビリティの規格整備動向 | 6 |
2.地方公共団体のホームページ等の企画・運用におけるアクセシビリティ配慮状況 |
12 |
2−1 調査の目的と実施概要 | 12 |
2−2 調査結果 | 15 |
2−3 調査結果の考察 | 43 |
3.地方公共団体のウェブアクセシビリティに関する事例調査 |
47 |
3−1 調査の目的と実施概要 | 47 |
3−2 各地方公共団体におけるウェブアクセシビリティ維持・向上の取組状況 | 51 |
4.電子申請におけるアクセシビリティの現状と課題 |
68 |
4−1 電子申請システムにおけるアクセシビリティの重要性 | 68 |
4−2 電子申請システムのアクセシビリティ確保の障害となる要因 | 68 |
4−3 既存の電子申請システムで見られるアクセシビリティの問題 | 69 |
4−4 対応の考え方 | 73 |
5.調査で明らかになった課題の整理 |
74 |
第2部 「みんなの公共サイト運用モデル」の策定 |
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1.ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の全体像 |
79 |
1−1 モデル構築の基本的な視点 | 79 |
1−2 「みんなの公共サイト運用モデル」の全体像 | 81 |
1−3 「みんなの公共サイト運用モデル」の検討テーマと本研究会での検討範囲 | 84 |
2.ウェブアクセシビリティ維持・向上のための事前準備 |
87 |
2−1 基本方針の策定 | 87 |
2−2 取組体制の考え方 | 87 |
2−3 ウェブアクセシビリティに影響を与える対象の調査 | 88 |
2−4 目標・実施計画の設定 | 88 |
3.ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の実施 |
90 |
3−1 ホームページ・リニューアル等の実施手順 | 90 |
3−2 ウェブアクセシビリティの維持・向上のためのワークシート | 92 |
4.ウェブアクセシビリティ対応状況の確認 |
98 |
4−1 簡易点検ガイド | 98 |
4−2 障害者・高齢者による評価手順 | 99 |
4−3 外部からの意見の処理手順 | 99 |
5.ホームページ・リニューアル等実施手順の効果 |
101 |
5−1 実証評価の概要 | 101 |
5−2 「ホームページ・リニューアル等実施手順」で得られた効果 | 108 |
6.今後の取組 |
113 |
6−1 課題と検討の方向性 | 113 |
6−2 「みんなの公共サイト運用モデル」の普及 | 115 |
資料1 公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会・開催要綱 |
116 |
資料2 研究会構成員名簿 | 118 |
資料3 研究会開催の経緯 | 120 |
本報告書で記載されている社名や商品名は、各社の登録商標又は商標です。 |
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はじめに インターネットと携帯電話の普及に代表される情報通信技術(ICT)の発展は、わずか10年余りの間に国民生活のスタイルを大きく変える新たな社会基盤を形成した。今や、電子メールやウェブ(World Wide Web)は国民にとって身近な情報メディアであり、これらは通信や情報提供だけでなく、様々なオンラインサービスの提供にも用いられている。 こうした新たなICT環境を踏まえて、公共分野でのICT利用も新たな段階を迎えている。政府機関をはじめ、ほとんどの地方公共団体がインターネット上にホームページを公開しているだけでなく、ICTを活用して各種の行政サービスを提供する電子政府・電子自治体サービスの実現が、重要な政策課題として推進されているところである。 しかし、インターネットの社会基盤としての重要性が高まり、ICTを活用して提供される公共サービスが充実すればするほど、それらのサービスが利用できない場合の不利益も深刻となり、障害者や高齢者も含めたあらゆる人々がそれらのサービスを利用できること、すなわちアクセシビリティの確保が重要な課題として浮上することとなった。重度の身体障害者の中には窓口に出向いて行政サービスを利用することが困難な人も多く、公共分野のホームページやウェブシステム1では十分なアクセシビリティの確保が特に強く求められる。 このような現状認識に基づき、本研究会では平成16年11月から8回にわたって会合を開き、公共分野におけるアクセシビリティ確保の現状把握と、地方公共団体が実施すべき具体的な対応のあり方を検討してきた。本研究会の発足に先立ち、昨年6月にはウェブアクセシビリティをテーマとする「JIS X 8341-3」2 が策定された。工業標準化法第67条には「国及び地方公共団体は、買入れる鉱工業製品に関する仕様を定めるとき日本工業規格を尊重しなければならない」とあり、公共ホームページ等の調達においてはJIS X 8341-3の内容を十分に踏まえる必要がある。また、公共ホームページ等においてはウェブページの追加・更新等も頻繁に行われることから、アクセシビリティ確保のためには調達だけでなく、日常的な運用の際にも十分な配慮が求められる。 本研究会では、JIS X 8341-3が示すアクセシビリティの要件を踏まえて、地方公共団体がホームページやウェブシステムの構築等に際して、実際にアクセシビリティの維持・向上を実現するための体制、手順、方法を検討し、具体的なウェブアクセシビリティ維持・向上のための運用モデルである「みんなの公共サイト運用モデル」として取りまとめた。 なお、本研究会ではICTを活用した公共サービス、中でもインターネット上で提供するホームページやウェブシステムに焦点を当てて検討を進め、ウェブアクセシビリティの確保を主テーマとしている。しかし、アクセシビリティの確保は、本来、公共サービス全般に求められる課題である。本研究会で策定した「みんなの公共サイト運用モデル」をひとつの例として、ICT活用サービスはもとより、あらゆる公共サービスにおいてアクセシビリティ確保の取組がさらに進展していくことを期待する。 平成17年12月 公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会 本研究会が取り扱うテーマと範囲 アクセシビリティとは 本研究会のテーマは、公共分野のホームページ等におけるアクセシビリティの現状と課題、そして今後の公共分野のホームページ等におけるアクセシビリティ維持・向上の土台となる運用モデルを示すことである。 「アクセシビリティ」という言葉は日本語ではなじみが薄いが、言葉の意味は「使いやすさ」あるいは「利用できること」と説明されることが多い。ホームページ等に限らず、様々な製品や建物やサービスの「使いやすさ」という意味でも用いられる。 本研究会のテーマである「ホームページ等のウェブサイトのアクセシビリティ」(以下、ウェブアクセシビリティという。)とは、高齢者や障害者といった、ホームページ等の利用になんらかの制約があったり利用に不慣れな人々を含めて、誰もがホームページ等で提供される情報や機能を支障なく利用できることを意味する。「使いやすさ」という点では、ユーザビリティの概念と重複する点が多いが、本研究会では特に障害者・高齢者でも支障なく利用できるホームページ等をいかに実現するかに重点を置いた。 なお、実際には、いくらウェブアクセシビリティを考慮したとしても、全く経験のない高齢者や障害者がホームページ等を利用することは困難である。こうした高齢者・障害者のICTリテラシーの向上も含めた高齢者・障害者のICT利活用を支援する人材の育成や体制の整備も必要であろう。3 対象となるホームページ等の範囲 今回、本研究会が検討の対象としたのは主に地方公共団体が提供するホームページ等である。ただし、本研究会で検討したウェブアクセシビリティ維持・向上のための運用モデル(以下「みんなの公共サイト運用モデル」という。)は、政府機関や独立行政法人等の公的機関、さらには民間も含めたホームページ等のアクセシビリティ維持・向上にも有益であると考えている。 また、本研究会の対象は、ホームページで提供される各種情報だけでなく、様々な機能やそれらを実現するウェブシステムも含んでいる。例えば、利用者が情報を入力する入力フォーム、情報検索機能、音声や動画の再生機能、各種プログラムのダウンロード、これらを組み合わせて実現する電子申請をはじめとする各種サービス等である。これらの機能・サービスを提供するプログラムやシステムの構築・提供においても、アクセシビリティの維持・向上が十分に行われるべきであり、本研究会で策定した「みんなの公共サイト運用モデル」の対象にはこれらが含まれている。 さらに、インターネット上では提供されない住民向けシステム、例えばKIOSK端末で提供される情報サービス等でも、情報表現やインタフェースにウェブ技術を用いている場合には本研究会で策定した「みんなの公共サイト運用モデル」がウェブアクセシビリティの維持・向上に有効であり、積極的な活用が望まれる。 各種規格等との関係 ウェブアクセシビリティについては、平成16年に日本工業規格の指針JIS X 8341-3が制定された。本研究会では、JIS X 8341-3を踏まえて、そこに示されているウェブアクセシビリティの要件を検討し実現する具体的な運用モデルを示すことを目指した。したがって、「みんなの公共サイト運用モデル」の検討にあたっては、JIS X 8341-3との整合性に極力留意するとともに、一部のワークシートはJIS X 8341-3の技術解説書4を参照する形式とした。ただし、JIS X 8341-3はその具体的な実現方法や手順を限定していない点には注意が必要である。つまり、本研究会で策定した「みんなの公共サイト運用モデル」は、あくまでもひとつの実現案を提示しているに過ぎず、これ以外の手順や形式を排除するものではない。 現在、W3C5 ではWCAG6 2.0の検討が進められている。また、ISO7 では、ウェブのユーザビリティに関する規格が提案されているが、現段階では、この規格案にウェブアクセシビリティに関する記述が盛り込まれている。ただし、これらについては本報告書の執筆時点では内容が確定していないため、「みんなの公共サイト運用モデル」の検討の下敷きとはせず、その動向を示すに留めた。 1 電子申請や施設予約、データベース検索等をウェブサイト上で行えるようにするシステムのこと。 2 「高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス−第3部:ウェブコンテンツ」 3 総務省「障害者のIT利活用支援の在り方に関する研究会 報告書」(平成17年9月26日公表)を参照のこと。 4 ウェブ開発者がJIS X 8341-3を理解するための参考書。JIS X 8341-3:2004「高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス− 第3部:ウェブコンテンツ」技術解説(http://www.jsa.or.jp/stdz/instac/index.htm) 5 World Wide Web Consortiumの略。ウェブ上で利用される技術の標準化を行う国際団体。 6 Web Content Accessibility Guidelinesの略。W3Cに設置された組織であるWAI(Web Accessibility Initiative)が策定したウェブアクセシビリティに関するガイドライン。現行バージョンの1.0は1999年に策定されたもの。 7 International Organization for Standardization(国際標準化機構)の略。工業標準の策定を目的とする国際機関。 |
第1部
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1.検討の背景 1−1 ウェブアクセシビリティ確保の重要性の増大 1−1−1 インターネットの普及と利用の動向 インターネットの普及は進展し、平成16年末のインターネット利用人口は7,948万人、人口普及率は62.3%、世帯普及率も86.8%に達している。 またインターネットは幅広い分野の情報収集に高い比率で利用されており、いまや日常生活に欠かせないメディアとなっている。
また、体験や日々の暮らしを書き残すため、日記形式の簡易ホームページ「ブログ」8 を開設する人が平成16年から急速に増えており、今後ますますインターネットの利用は広がると予想される。
1−1−2 高齢者、障害者のインターネットの利用 インターネットの利用率を年齢別に比較すると、かつては20代から30代といった比較的若い年齢の男性が利用者の大半を占めていた。いまだ50歳以上の利用率は10代〜40代に比べて低いものの、利用率は増加しており、特に60歳以上の高齢者の利用が平成13年末から平成16年末の間に2.43倍と、大幅に伸びている。
一方、障害者にとっても、インターネットは情報収集の手段としてだけでなく、社会との結びつきを強め、就労にもつながるなど、生活の上で大きな役割を果たすものである。障害者の多くが様々な支援技術9 を使用して、インターネットを利用している。 視覚障害者の場合、画面の内容を把握することが困難となるが、画面読み上げソフトや音声ブラウザ(以下、「画面読み上げソフト等」という。)10 によって画面の文字を読み上げさせたり、文字を点字ディスプレイに出力するなどして利用している。弱視では、画面を拡大するソフトや装置を用いることで利用が可能となる。上肢に障害がある場合はマウスの操作が困難であったり、キーボードで操作できたとしても複数のキーの同時操作が難しいが、スイッチを用いて入力したり、画面上で操作できるソフトキーボード等を用いている。 高齢者・障害者にとっても、健常者同様にインターネットは生活の中に確実に浸透している。しかしながら高齢者・障害者のインターネット、特にマルチメディア表現が豊富なウェブの利用においては、健常者に比べて様々な問題が発生する。支援技術を利用しても、健常者よりも閲覧に時間がかかるなど、多くの困難を伴っている。 JIS Z 8071:2003(ISO/IEC Guide71:2001)「高齢者及び障害のある人々のニーズに対応した規格作成配慮指針」では、高齢者、障害のある人々の情報アクセスを最大限確保する方法として次ページの表(図表1−6 情報に関する箇条での配慮すべき要素)により、配慮すべき要素を示している。 高齢者、障害者の利用上の問題への認識が無く、適切な配慮がなされていないと、支援技術そのものの利用にも支障が生じる。高齢者・障害者の利用の拡大に伴い、アクセシビリティの問題はむしろ大きくなっており、今後ますますその対応が求められる。
8 Weblogの略。自動ページ生成機能、他のページとの連携機能(トラックバック)、コメント機能等を有する。 9 画面読み上げソフト、肢体不自由者向けの特殊入力装置等、障害者のパソコン操作を支援する専用の機器やソフトウェア。 10 画面読み上げソフトとはコンピュータの画面上に表示される内容を音声で読み上げるソフトウェア、音声ブラウザとはウェブページの内容を音声で読み上げるソフトウェア。 |
1−2 ウェブアクセシビリティの規格整備動向 ウェブアクセシビリティの問題が広く知られるようになったのは、1990年代後半のW3Cの指針策定からである。ここでは、JIS規格制定に至るまでの動きと今後の動向を概観する。 1−2−1 W3Cにおける指針検討の動向 W3Cは、WWW技術の標準化と推進を目的として1994年(平成6年)に設立された国際コンソーシアムである。W3Cの活動領域は、WWW技術に関する情報提供、技術仕様の策定、新技術のプロトタイプ実装等である。 W3Cでは、1997年(平成9年)4月にWAI11 というワーキンググループを設置し、ウェブアクセシビリティの実現方策の検討を開始した。WAIの活動には、以下のものが含まれている。
(1)WCAG1.0 WAIでは、ウェブコンテンツのアクセシビリティ指針を検討しており、WCAG1.0が1999年(平成11年)5月にW3Cから勧告された。このWCAG1.0は、実質的に世界のウェブアクセシビリティ検討の標準ガイドラインとなっている。 (2)WCAG2.0 WCAG1.0の勧告から6年を経過しているが、WAIではWCAG1.0の策定直後からWCAG2.0の開発を進めている。WCAG2.0は、WCAG1.0勧告後のWWW技術の進展やWCAG1.0への各種の意見を踏まえて検討が進められており、2001年(平成13年)8月に草案が公開された。2005年(平成17年)11月末時点での最新ワーキングドラフト12 は2005年(平成17年)11月23日のものとなっている。 WCAG2.0の特徴として、次の3つの要求事項を踏まえて作成されていることが挙げられる。 1)技術非依存 将来に渡って長期間利用するために、特定の技術に依存しないよう、本体の条文は技術非依存な形式で記述されており、個別技術に対応した技術文書が別途用意される。 2)明確な適合条件 WCAG1.0がウェブコンテンツのチェックポイントの集合体になっていたのに対し、WCAG2.0は「達成基準」(Success Criteria)の集合となっている。これらの「達成基準」はコンピュータプログラムでテストできる、あるいは複数の専門家が同じ評価結果を得るという意味でテスト可能である。 3)わかりやすい より広い層に利用してもらうために、その項目が必要な理由を具体例を挙げて説明するなどわかりやすく説明する工夫をしている。 WCAG2.0は次に挙げるウェブアクセシビリティ4原則に基づいて13個のガイドラインが分類され、その下にガイドラインごとの達成基準が示される構成となっている。 1)Perceivable:利用者がコンテンツを知覚できなければならない 2)Operable:利用者がコンテンツのインタフェース要素を操作できなければならない 3)Understandable:利用者がコンテンツやコントロールを理解できなければならない 4)Robust:コンテンツが現在のみならず将来の技術にわたって利用できなければならない WCAG2.0ワーキングドラフトには、WCAG2.0をどう適用するかの一般的なテクニック、達成基準のチェックリストや、HTML13 のテクニック、CSS14 のテクニック、その他のJavaスクリプト15 等のテクニックが記述されている。今後の検討を経てラストコールワーキングドラフトへと進むが、最終的なW3Cの勧告となるまでにはさらに時間を要する見込みである。
1−2−2 ISOの動向 現在のウェブアクセシビリティの事実上の世界標準はWCAG1.0であり、国内では次に詳述するJIS X 8341-3が策定されているが、JISと深い関連があり、影響を与えるISOでもウェブアクセシビリティを扱う規定を策定する動きがある。 ISOに設置されているTC159(人間工学専門委員会)で審議中の規格 ISO/DIS 9241-151 Ergonomics of human system interaction -Part 151: Software ergonomics for World Wide Web user interfaces(人間工学−人間とシステムのインタラクション−第151部:ワールドワイドウェブのユーザーインタフェースのソフトウェア人間工学)が、ウェブのユーザビリティのみならず、アクセシビリティにも言及するようになった。 この規格は2002年(平成14年)9月から審議が開始され、2005年(平成17年)4月現在DIS(Draft of IS)案を作成中であり、今後削除される可能性はあるものの、ウェブアクセシビリティの国際的な活動としてWCAG2.0とともに今後の動きが注目される。 1−2−3 我が国におけるウェブアクセシビリティに関する規格の策定 (1)ウェブアクセシビリティに関する取組の経緯 我が国では、1980年代から高齢化の進展が重要な政策課題として認識されていたこともあり、高齢者・障害者の情報通信利用促進に関する取組は1990年(平成2年)頃から継続的に行われてきた。 ウェブアクセシビリティが課題として取り上げられたのは、WAIによるWCAG検討が進められていた1998年(平成10年)頃からであり、1999年(平成11年)5月には当時の郵政省と厚生省が開催した「高齢者、障害者の情報通信利用に対する支援の在り方に関する研究会」の成果として、「インターネットにおけるアクセシブルなウェブコンテンツの作成方法に関する指針」が発表された。 この指針は、WCAG1.0を日本語訳したものであったため、日本語表記や発音の問題等のウェブアクセシビリティの課題が十分反映されていなかったことから、我が国独自のウェブアクセシビリティ指針の必要性が認識され、JISの制定に至ることとなった。 (2)JIS X 8341-3の制定 平成12年9月、日本規格協会情報技術標準化センター(INSTAC)に「情報バリアフリー実現に資する標準化調査研究委員会」(略称:情報バリアフリー委員会)が設置され、情報バリアフリーのJIS化の検討が開始された。平成13年4月からは、正式に政府からの委託を受けて「情報技術分野共通及びソフトウェア製品のアクセシビリティの向上に関する標準化調査委員会(略称:情報バリアフリー委員会)」(委員長:山田肇 東洋大学経済学部教授、国際大学グローバルコミュニケーションセンター副所長)が組織され、情報バリアフリーに関するJIS原案の検討が進められた。3年間の検討期間を経て、平成16年5月から6月にかけて制定された「JIS X 8341シリーズ」は、「高齢者・障害者等配慮設計指針 −情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス」と題され、第1部が共通指針、第2部が情報処理装置に関する指針、第3部がウェブコンテンツに関する指針となっている。 その後さらに検討が重ねられ、平成17年10月20日には「第4部・電気通信機器」が制定され、平成18年2月には「第5部・事務機器」が制定の予定である。
平成16年6月20日に制定された「第3部・ウェブコンテンツ」(JIS X 8341-3)は、WCAG1.0を尊重し、WCAG2.0の内容を踏まえながら、日本固有の問題やプロセスを取り上げて策定されたものである。JIS規格書は本体と付属書で構成されている。本体では配慮の原則的な考え方が示されており、付属書で具体的な配慮の方法を例示して紹介しているが、この例示は限定的な内容であった。そこで、平成17年7月には技術解説書のワーキングドラフトが公開され、より配慮の実践につながる指針とするべく、さらなる取組が進められている。 (3)ウェブアクセシビリティ関連ツールの整備・提供 JIS X 8341-3が制定されるまで、国内でアクセシビリティが確保されたホームページ等を作る際の指針としてはWCAG1.0が広く用いられていたが、WCAG1.0は膨大な数のチェックポイントの集合体であるため、それらを人手で点検するのは現実的でなく、効果的に点検を行うプログラムが必要とされた。米国では「Bobby」等、いくつかのチェックツールが早期から提供されていたが、これらはインタフェースや点検結果レポートが英語で作られているため、国内での使用に向かなかった。 そこで、総務省では、平成13年から平成15年にかけて、情報通信アクセス協議会ウェブアクセシビリティ作業部会の協力を得つつ、ウェブアクセシビリティ点検システムの開発を進め、「J-WAS」(平成13年)、「ウェブヘルパー1.0」(平成14年)、「ウェブヘルパー2.0」(平成15年)として提供した。これらは、WCAG1.0に準拠した基準でウェブアクセシビリティを点検するプロセスを提供するもので、J-WASとウェブヘルパー1.0はサーバーで提供するASP型、ウェブヘルパー2.0はパソコン上で稼動するアプリケーションソフト型となっている。 また、ウェブアクセシビリティの必要性の認識が広がるにつれ、無料のものも含め民間が提供するアクセシビリティチェックツールも増えており、ホームページ制作ソフトのアクセシビリティ点検機能も充実する方向にある。 11 Web Accessibility Initiativeの略。W3C内に設置された組織で、誰もがウェブを利用できるようにすることを目的とし、ウェブアクセシビリティに関するガイドラインの策定や普及・啓発活動を行う。 12 Web Content Accessibility Guidelines 2.0 W3C Working Draft 23 November 2005(http://www.w3.org/TR/2005/WD-WCAG20-20051123/)。なお、前のバージョン(6月30日版)については日本語訳が公開されている(http://www.jsa.or.jp/stdz/instac/index.htm)。 13 Hyper Text Markup Languageの略。ウェブページを記述するための言語。 14 Cascading Style Sheetsの略。ウェブページのレイアウト情報(フォント、サイズ、文字間、行間等)を指定するための規格。 15 ウェブブラウザ上で実行され、ウェブページに動きや対話性を付加するための言語。 |
2−2 調査結果 2−2−1 提供しているホームページ等 (1)ホームページの総ページ数 ホームページの総ページ数の平均は3716.1ページとなった。人口1万人未満の地方公共団体の大半は5百ページ未満である。また、都道府県のほとんどが1万ページ以上となっている。
(2)モバイルサイトの有無 モバイルサイトを提供している地方公共団体は全体の39.7%であり、規模の大きな地方公共団体ほど提供している比率が高まる。都道府県は100%が提供している。
2−2−2 ウェブアクセシビリティの認識 (1)ウェブアクセシビリティの認知度 ウェブアクセシビリティの「内容を知っている」のは全体の74.1%である。人口が5千人未満の地方公共団体では「まったく知らない」が約2割を占める。5万人以上の地方公共団体のほとんどが「内容を知っている」。
(2)JIS X 8341-3の認知度 JIS X 8341-3の「内容を知っている」のは全体の28.2%だが、地方公共団体の規模が大きくなるほど認知度が高まり、都道府県は100%が「内容を知っている」。
(3)ウェブアクセシビリティ必要性の認識 「首長筆頭に一般職員も必要性を認識している」地方公共団体は全体の1.8%である。「サイト管理者等の職員の一部が認識」の比率が44.9%と最も高いが、地方公共団体の規模が大きくなるにつれて、「サイト管理者等の職員の多くが認識」の比率が高まる。
2−2−3 ウェブアクセシビリティ向上の取組状況 (1)アクセシビリティの確保の取組状況 「既に十分に取り組んでいる」と認識している地方公共団体は全体の2.6%であり、「不十分であり、今後取組を進める」と「今後取組を進めていく予定」がともに4割弱となっている。地方公共団体の規模が大きくなるにつれ、「不十分であり、今後取組を進める」比率が高まる。
(2)アクセシビリティに関する基本方針のホームページへの掲載 アクセシビリティに関する基本方針をホームページに掲載している地方公共団体は全体の6.9%であり、人口10万人以上の地方公共団体や都道府県では掲載している比率が高まる。
(3)アクセシビリティが確保されたウェブページ作成のための指針 「独自の指針等を定めている」地方公共団体は全体の13.5%、「JISやWCAGを参照する」は7.8%であった。人口1万人未満の地方公共団体のほとんどには、「指針となるものはない」。10万人以上の地方公共団体の約半数、都道府県の8割が「独自の指針等を定めている」。
(4)ウェブアクセシビリティの主管部署 「情報政策、情報システム関連部署」が担当しているのは全体の36.3%、「広報広聴関連部署」は20.3%であった。規模の小さな地方公共団体ほど「担当する部署は決まっていない」。人口10万人以上の地方公共団体や都道府県は、「広報広聴関連部署」が担当する比率が高まる。
(5)ウェブアクセシビリティの目標や実施計画の設定 「目標を設定し実施計画を策定」している地方公共団体は全体の1.7%で、「具体的な目標は設定していない」が9割となっている。都道府県は約45%が目標を設定している。
(6)実施計画の定期的な評価 ウェブアクセシビリティについて「目標を設定し実施計画を策定」している21地方公共団体のうち、職員が定期的な評価を実施しているのは42.9%であった。外部評価は行われていない。
(7)ウェブアクセシビリティに関する職員教育 職員教育で最も多いのは「ウェブページ制作の研修の中で」の14.7%であり、職員教育を実施していない地方公共団体は77.9%であった。規模が大きな地方公共団体ほど教育を実施している比率が高まり、都道府県では100%の実施となる。人口10万人以上の地方公共団体や都道府県では、「独自の資料等を制作・配布し啓発」や「アクセシビリティの研修を実施」の実施率も高まる。
(8)職員教育の必要性 職員教育の必要性は認識しているが、「どのようにすべきかわからない」地方公共団体は68.7%であった。必要性を「認識しており、今後実施する予定」は13.0%だが、人口5万人以上の地方公共団体では比率が高まる。
(9)利用者や外部専門家の意見を取り入れるための仕組み 仕組みがあるのは全体の2.0%である。「ない。現在検討中である。」は全体の15.2%だが、都道府県では3割となっている。
2−2−4 ホームページの構築、リニューアルにおける対応状況 (1)ウェブページの制作者 ホームページの構築、リニューアルにおいて「すべて職員が制作した」地方公共団体は全体の25.7%、「一部を業者に発注した」は25.0%、「すべて業者に発注した」は45.7%であった。10万人以上の地方公共団体や都道府県では、一部又はすべて業者に発注した比率が高まる。
(2)ホームページ構築・リニューアルにおける業務手順 業務手順が「明確に定められ、監督者もいた」のは全体の21.4%だが、人口10万人以上の地方公共団体や都道府県では比率が高まる。人口1万人未満では「明確には定められていなかった」が約7割となった。
(3)ホームページ構築・リニューアルにおけるアクセシビリティ対応 アクセシビリティへの配慮は「制作途中で委託先業者と要件を検討」が14.2%で最も多く、次いで「制作途中で職員が試用して評価した」が14.0%であり、「特に何もしなかった」は58.5%である。規模の大きな地方公共団体ほどアクセシビリティに配慮した比率が高まる。都道府県は、ほとんどが何らかの対応を実施しており、最も多い項目は「発注で指針への準拠を要件とした」の61.1%であった。
2−2−5 日常的なホームページ更新における対応状況 (1)更新体制 「特定の担当部署がすべて作成・更新」している地方公共団体が29.2%と最も多く、規模の小さな地方公共団体ほど、その傾向が強い。都道府県は「各部署がそれぞれ作成・更新」が61.1%である。
(2)日常のホームページ更新におけるウェブページ制作者 「すべて職員が制作している」地方公共団体が67.7%と最も多い。人口10万人以上では「一部を業者に発注している」比率が高まり、都道府県では75.0%となっている。
(3)ホームページの自動生成システム(CMS16 等)の導入 ホームページの自動生成システムを全庁又は一部で導入している地方公共団体の割合は全体の約3分の1だが、都道府県では3分の2となる。人口5万人以上10万人未満の地方公共団体では「全庁で導入している」割合が37.3%と高い。
(4)更新における業務手順 更新の業務手順が「明確に定められ、監督者もいる」地方公共団体は25.6%、規模が大きな地方公共団体ほど「明確に定められ、監督者もいる」比率が高まり、人口10万人以上では57.0%となっている。
(5)日常のホームページ更新におけるアクセシビリティ対応 「指針は挙げないが、要件とする」が最も多く16.4%、次いで「具体的な指針への準拠を要件とする」の11.4%であった。一方「特に何もしていない」は65.8%であった。規模が大きな地方公共団体ほど何らかの配慮をする比率が高まる。人口10万人以上の地方公共団体や都道府県では「具体的な指針への準拠を要件とする」、1万人以上10万人未満では「指針は挙げないが、要件とする」地方公共団体が多い。また、都道府県では「公開前にチェックツールを使用」も約20%にのぼった。
(6)利用者の意見を収集する窓口 窓口を「用意している」、「用意していない」地方公共団体が半々となった。規模が大きな地方公共団体ほど窓口を「用意している」比率が高まり、人口10万人以上の地方公共団体や都道府県では約8割が「用意している」と回答した。
2−2−6 ウェブシステムの導入におけるアクセシビリティ (1)ウェブシステムの導入実績 電子申請等のウェブシステムの導入実績が「ある」のは全体の24.3%であり、規模の大きな地方公共団体ほど、導入実績がある。
(2)アクセシビリティの対応状況 ウェブシステム導入時にアクセシビリティに「十分に対応した」のは全体の5.4%であり、「対応はしなかった」が40.3%であった。人口10万人以上の地方公共団体や都道府県では「対応はしたが、まだ不十分」と認識している地方公共団体が最も多い。
(3)ウェブシステム導入におけるアクセシビリティ対応 ウェブシステムのアクセシビリティ対応は「発注で確保を要件とした」が最も多く18.6%、次いで「制作途中で委託先業者と要件を検討」が16.3%である。「特に何もしなかった」は44.7%となった。人口1万人以上10万人未満の地方公共団体は「発注で確保を要件とした」、人口10万人以上と都道府県は「制作途中で委託先業者と要件を検討」の比率が高まる。
2−2−7 アクセシビリティ向上の課題等 (1)アクセシビリティ向上の取組を進める上での問題 地方公共団体規模に関わらず、「担当職員の理解や知識が十分でない」ことを問題に挙げた地方公共団体が最も多く、全体の65.8%となった。また、小規模な地方公共団体は「優先度が低く予算等が配分されない」や「所管部署が明確でない」、大規模な地方公共団体は「異動によりノウハウが引き継がれない」も問題となっている。
(2)国等に期待する支援 「チェックツールや作成支援ツールの紹介」が最も多く54.2%、次いで「デザインテンプレートの整備」の48.0%であった。規模の大きな地方公共団体では「定期評価を実施するための評価手法の整備」や「情報提供サイト等」への期待も大きい。
16 Contents Management Systemの略。ウェブページの自動生成、ホームページ全体の管理等を自動的に行うシステム。 |
2−3 調査結果の考察 2−3−1 地方公共団体の人口別の傾向 人口規模別のクロス集計結果から、下記の傾向を見出すことができる。 (1)規模の大きい地方公共団体ほど、以下の事項に当てはまるようになる。
(2)人口10万人以上の市や都道府県では、以下の項目の比率が高い。
(3)人口5万人未満の小規模地方公共団体では、以下の項目の比率が高い。
以上のように、地方公共団体の人口規模によってアクセシビリティ確保の取組状況やホームページの企画・運用体制、課題等が異なり、小規模地方公共団体では取組が遅れている現状が明らかとなった。 なお、モバイルサイトに関しても、規模の大きい地方公共団体ほど開設する傾向が見られる。携帯電話等を使用したインターネットアクセスは、従来のものと比較して手軽に行うことができ、主婦層をはじめ、高齢者層でも携帯電話のみでインターネットを利用する人々が多く見られるようになってきている。こういった層が容易に情報にアクセスできるよう、地方公共団体が、より積極的にモバイルサイトを開設し、内容の充実を図っていくことが期待される。 2−3−2 ウェブアクセシビリティ確保における課題 アンケートの結果から、ウェブアクセシビリティ確保に「既に十分に取り組んでいる」と認識している先進的な地方公共団体が、企画、制作、運用の過程において、どの程度ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組ができているかを検証した。
先進的な地方公共団体においては、下記の項目の実現が進んでいる。
一方、先進的な地方公共団体においても、以下の項目は実現できていないところが多い。
現状では、先進的な地方公共団体であっても、ウェブアクセシビリティ対応の基本方針や目標設定、外部との連携の仕組み等が実現できていないところが多い。この結果は、多くの地方公共団体で、ウェブアクセシビリティの確保が継続的な改善プロセスではなく、ホームページ・リニューアル時に取り組む一過性のものとして認識されている可能性を示すものと考えられる。 17 例えば、「庁内に利用者・専門家等を委員とする委員会を立ち上げている」、「外部NPO等と連携して協議会を立ち上げている」など。 |
3.地方公共団体のウェブアクセシビリティに関する事例調査 3−1 調査の目的と実施概要 本研究会では、地方公共団体の現実の業務の中で実践可能なウェブアクセシビリティ維持・向上のための運用モデルを示すことを目指している。そのためには、策定する運用モデルが、地方公共団体の現実の業務手順と十分な整合性を持つことが不可欠である。そこで、運用モデルの策定にあたって、地方公共団体で実際に行われているホームページやウェブシステムの調達、運用の業務手順と、そこで取り入れられているアクセシビリティ維持・向上のための取組内容を具体的に把握するため、詳細な事例調査をした。 3−1−1 調査内容 本事例調査では、特に次の2点について、実際の業務事例を詳細にヒアリングし、把握することに努めた。 (1)地方公共団体におけるホームページ等の調達・運用業務の手順 ホームページ・リニューアル、日常のホームページの運用、地域住民が利用するウェブシステムの調達について、複数の地方公共団体へのヒアリング調査により実際の業務手順を詳細に調査した。 (2)対象地方公共団体で実践されているアクセシビリティ配慮の内容と手順 (1)の調査と合わせて、各地方公共団体のホームページ等調達・運用業務において、どのような形でアクセシビリティ維持・向上の取組がなされているかをヒアリング等により詳細に調査した。また、アクセシビリティ維持・向上に向けての課題や今後の取組方針についても調査した。 3−1−2 対象地方公共団体 本事例調査では、次の4つの地方公共団体に対してヒアリングを行い、ホームページのリニューアル、日常のホームページ更新、ウェブシステムの調達について、詳細な調達業務プロセスを調査した。 地方公共団体のICT関連部署の位置づけや人員構成は、地方公共団体の規模によって大きく異なる。小規模の地方公共団体では、ICTを所管する専門部署がなく、ICT関連の専門知識を持つ職員がいない場合も多い。そのため、ICT関連の調達業務プロセスは、地方公共団体の規模によって大きく異なることが予想される。そこで、調査対象地方公共団体の選定にあたっては、対象地域の人口規模が異なる4団体を選定した。 ヒアリング調査対象となった地方公共団体は、以下に示す4団体である。 (1)熊本県 人口 185万人 (平成17年9月現在) 「だれもが暮らしやすく豊かなくまもと」を目標にユニバーサルデザインの取組を積極的に進めている。ウェブアクセシビリティにも早い時期から取り組んだ先進県のひとつ。
(2)東京都世田谷区 人口 81万人 (平成17年11月現在) 東京23区で最大の人口を抱える大規模地方公共団体。区のホームページも約4000ページと大規模。独自のアクセシビリティ指針を早くから整備するなど、ウェブアクセシビリティの先進地方公共団体のひとつ。
人口 6万5000人 (平成17年3月現在) 長野県南部の天竜川流域に位置する。米・野菜・花き・畜産等の農業の他、電気・精密機械等の製造業が多く立地する。日系ブラジル人が多く居住するため、ホームページにはポルトガル語のウェブページも用意されている。ホームページは約3,000ページ。平成18年3月31日に、高遠町、長谷村と合併し新伊那市となる。
(4)愛知県清洲町 人口:1万9000人 (平成17年6月現在) 名古屋市に隣接するベッドタウン。小規模な地方公共団体ながら、各課職員のワーキンググループや、管理職も参加する委員会でリニューアルの方向性を検討した上で実施したウェブアクセシビリティの取組が外部から高い評価を受けている。平成17年7月に西枇杷島町、清洲町、新川町が合併し清須市となった。
3−1−3 調査実施時期 各地方公共団体へのヒアリングは、平成16年11月から17年2月にかけて実施した。ここで記述する各地方公共団体の業務プロセスとウェブアクセシビリティ維持・向上の取組状況は、ヒアリング実施当時もしくはそれ以前の時期に関するものである。 |
3−2 各地方公共団体におけるウェブアクセシビリティ維持・向上の取組状況 3−2−1 ホームページ・リニューアルにおけるアクセシビリティ配慮 ヒアリング対象となった各地方公共団体では、最近のホームページ・リニューアル業務プロセスの中で、何らかの方法でウェブアクセシビリティへの配慮を実施している。ただし、アクセシビリティ維持・向上の取組方法やタイミングは、地方公共団体によってかなり異なっていることがわかった。 (1)熊本県における取組状況 1)ガイドラインの整備 熊本県では、県ホームページのリニューアルに合わせて、平成15年3月に「ユニバーサルデザインに対応した県庁ホームページ作成ガイドライン」を策定し、県庁内でホームページを制作する際のガイドラインとして参照を求めている。この作成ガイドラインでは、アクセシビリティ関連の事項として、文字の大きさ、PDFの扱いや色使い、音声ブラウザの対応等について定めている。 2)熊本県ホームページのリニューアル手順 熊本県では、平成15年度に県ホームページのリニューアルを行い、平成16年3月に公開した。平成14年度まではホームページは情報企画課が担当していたが、主管部署を広報課に変更したのを機に、リニューアルを実施した。検討作業は広報課が中心となって進め、調達業務も担当した。また、専門的知識が必要とされる技術面でのフォロー等は情報企画課が担当した。 熊本県では、以前から、お知らせ等の定型のウェブページは原稿入力だけで自動生成する「各課入力システム」を導入しており、このリニューアルでは各課入力システムの機能拡充も実施した。リニューアルにあたっては、各部局からの要望を広報課で取りまとめ、さらに広報課で検討した改善点を加えてリニューアル方針を作成し、一般競争入札方式によって選定された業者が行っているホームページ維持管理業務の一環として、リニューアルを実施した。
3)各部局、政策の個別ホームページ調達プロセス 熊本県では、各部局、政策の個別ホームページを立ち上げるケースが多々あり、この場合は2)とは異なるプロセスで業務を行う。 個別ホームページの場合は、主管の各部局・課が中心となって企画・調達を行うが、必要に応じて、企画段階で広報課と相談・調整した上で外部業者への発注を行う。技術面のフォロー等は情報企画課が担当し、納品は主管部局・課で検収している。
4)ホームページ・リニューアルにおけるウェブアクセシビリティ維持・向上の取組 平成16年3月のホームページ・リニューアルは、ユニバーサルデザイン化が狙いのひとつであり、当初からウェブアクセシビリティに対する認識があった。ホームページ上で文字拡大・縮小や配色変更の機能を提供している。 仕様書では県のホームページ作成ガイドラインに従うことの記述を盛り込んだ。 (2)世田谷区における取組状況 1)ガイドライン、マニュアルの整備 世田谷区では、平成11年12月に最初のホームページ作成ガイドラインを策定し、この中でウェブアクセシビリティにも言及されており、指針と作成マニュアルが一体となった作りだった。その後平成13年8月にガイドラインを改訂し「ホームページ利用のガイドライン」とした。このガイドラインでは、詳細を別冊のマニュアルで記述する構成とし、これに対応して「ホームページ作成マニュアル」を別途作成した。画面読み上げソフト等への対応や文字サイズへの配慮等が、この作成マニュアルに盛り込まれた。 平成14年10月の区ホームページ・リニューアルの際には、受注業者に「ホームページ利用のガイドライン」と「ホームページ作成マニュアル」を渡し、これらの基準に合わせてコンテンツを作成するよう指示した。 2)区ホームページのリニューアル手順 世田谷区では、平成10年に最初の区ホームページを立ち上げ、平成14年10月にリニューアルを実施した。 このリニューアルにあたっては、広報広聴課を中心に企画立案・業者への提案要求・業者選定・仕様確定を実施した。ただし、業者からの提案を受けた後の業者選定は、まず各課のホームページ担当者会議で候補を絞り込み、さらに広報広聴課、情報政策課、企画課の職員で構成する選定委員会が最終決定をした。 業者選定後は広報広聴課から発注し、業者との詳細検討、画面デザイン確認、検収等の一連のプロセスを広報広聴課が担当した。
3)リニューアル時のアクセシビリティ維持・向上の取組 区ホームページ・リニューアルに際しては、まずウェブアクセシビリティ点検ソフトやコンサルティング業者を活用して、リニューアル前のホームページの問題点の把握を実施した。また、業者への提案仕様書に東京都公式ホームページガイドラインを添付し、さらに制作の過程では画面読み上げソフト等を意識して、人名や地名の読み上げを確認し、必要箇所にはルビを振るなどの対応をした。 (3)伊那市における取組状況 1)ホームページのリニューアル業務手順 伊那市では、平成12年度にホームページのリニューアル検討を開始し、平成13年2月にリニューアルしたホームページを公開した。リニューアルの企画・立案は企画課広報広聴係が担当したが、技術面については企画課情報統計係がサポートし、その後の業務プロセスは情報統計係が中心となって進めた。 検討はまず、庁内各課の代表(課長補佐)で構成するホームページ充実事業検討委員会で内容の見直しに関する情報収集を行い、その結果を踏まえて情報統計係が基本計画をとりまとめた。さらに、情報統計係で仕様書(「伊那市ホームページ充実事業に係る企画提案実施要領」)を作成し、提案コンペを実施した。業者選定後、受注業者を交えてさらに詳細な仕様検討、ホームページ構成検討を実施した。制作開始後の進捗管理、納品時の検収も情報統計係が担当した。
2)ホームページ・リニューアル時のアクセシビリティ維持・向上の取組 伊那市では、独自のアクセシビリティガイドラインは策定していない。 ホームページ・リニューアルの際には、提案実施要領の中で「ウェブアクセシビリティの確保の必要性」に言及し、視覚障害者への配慮や文字を大きくすることなどを盛り込んだ。ただし、ウェブアクセシビリティの確保については、通常のホームページの他にテキストベースの「バリアフリーのホームページ」を設けるという対応をとった。 (4)清洲町における取組状況 1)ホームページのリニューアル業務手順 清洲町では、平成9年から観光情報を中心としたホームページを業者委託で制作・公開していたが、平成15年4月に新ホームページへの移行を行うとともに、庁内各課の職員が直接ウェブコンテンツを制作する運用方式に切り替えた。ホームページ・リニューアルの検討は、次のプロセスで進められた。 まず、全面リニューアルのきっかけとなったのは、行政情報が乏しいという旧ホームページに対する住民からの苦情であった。清洲町では助役を筆頭に各局部長が参加する情報化推進委員会で、ホームページに対する苦情の分析と住民の情報ニーズの検討を実施した。その結果、タイムリーな情報提供と積極的な情報公開を実現するために、各課が直接記事を作成し公開する体制が必要と判断され、各部署の職員で構成するワーキンググループを設けて、新ホームページの構成、運用方式を検討することになった。 ワーキンググループは、各課から選出された10名程度の職員で構成され、ホームページ作成ソフトの購入と職員研修、ホームページ作成要領の整備、トップページデザインの検討等を行い、検討開始から6ヶ月間で新ホームページの構築までを実施した。検討過程では技術面のアドバイス等を外部コンサルタントに委託したが、ウェブページの制作はワーキンググループのメンバーが実施した。
2)ホームページ・リニューアル時のアクセシビリティ維持・向上の取組 清洲町では、独自のアクセシビリティガイドラインは策定していなかったが、地域の高齢者がIT講習会等でホームページ作成の知識を得、清洲町のホームページへの意見や苦情が届くようになり、リニューアルの際には高齢者・障害者への配慮が強く意識された。 前述のように、清洲町のホームページ・リニューアルは、各部署の担当職員が集まったワーキンググループで仕様検討からコンテンツ制作までを実施した。ウェブアクセシビリティに関してはこのワーキンググループに外部制作業者を招いてレクチャーを受け、修正した。また、作成に際しては「ホームページ作成要領」により背景色の統一や色覚障害者に配慮した色の組み合わせについて最低限のルールを決めた。また、新ホームページは正式公開前にテスト期間を設けて仮公開し、外部からの意見を収集した。ここでも画像の代替テキストの入れ方等について意見があり、修正した。 3−2−2 日常のホームページ更新でのアクセシビリティ維持・向上の取組 ヒアリング対象地方公共団体では、日常のホームページ追加・更新業務においても、何らかの方法でアクセシビリティの維持・向上や確認が行われている。ただし、その手順や準拠する基準は地方公共団体によって異なっている。 (1)熊本県における取組状況 1)熊本県のホームページ更新業務手順 熊本県では、県ホームページのうち、イベント情報やお知らせ等の定型のページについては前述の「各課入力システム」により、情報発信者である各課担当者が直接入力・更新を行う仕組みを採用している。この場合は、各課で入力された情報は「各課入力システム」で自動的にHTML化され、公開される。 一方、上記以外の情報更新やウェブページの新規作成等については、情報を発信する各課で原稿を作成した後、広報課にウェブページ作成・更新依頼を提出し、広報課に常駐する受注業者のスタッフが制作・公開を行う流れとなる。 このように、熊本県はホームページの主管部署である広報課が一括担当する部分と、情報発信者である各部局が個別に担当する部分が混在する業務構造となっている。
2)日常の更新作業におけるアクセシビリティ維持・向上の取組 熊本県では、平成15年3月に策定した「ユニバーサルデザインに対応した検討ホームページ作成ガイドライン」を、庁内でのホームページ制作の指針としている。 (2)世田谷区における取組状況 1)世田谷区におけるホームページ更新業務手順 世田谷区には約100の課があり、そのうち50課程度がホームページを公開している。ホームページ全体の規模が大きく、更新量も大きくなるため、世田谷区では各課がそれぞれ独自ホームページを持ち、運用管理も各課で行う方針をとっている。外部業者に制作を委託する場合も原則として各課で業者選定を行う。ただし、区のウェブサーバー上にある各ウェブページの更新システムにより、各課で作成したHTMLファイル等をイントラネット上の内部ウェブサーバーにアップロードすると、深夜に公開用サーバーへ転送され自動公開される共通の仕組みを導入している。 区全体のホームページ主管部署は広報広聴課で、各課ホームページ担当者会議を年2回開催し、ホームページ作成ソフトの研修や区が作成したホームページ作成マニュアルの解説、ネット上のモラルの解説等を実施している。 各課のホームページ更新・運用の手順は、課によって異なるが、例として平成16年に新設された「子ども部」のホームページ運用手順は次のようになっている。 子ども部では「せたがや子育て応援ガイドWEB」という個別のホームページを開設している。このホームページで日常的に更新が発生するのはお知らせ情報であり、ホームページ作成の元になる情報は広報広聴課が発行する「広報せたがや」の記事である。広報広聴課から「広報せたがや」のデジタルデータを提供してもらい、子育て関連記事をピックアップして外部受注業者に渡し、HTML化を行う。HTML化したファイルを子ども家庭支援課の職員が読み合わせして内容を確認後、イントラネットのウェブサーバーへファイルをアップロードする。
2)日常の更新業務におけるアクセシビリティ維持・向上の取組 世田谷区では、ホームページ作成マニュアルの中でアクセシビリティの維持・向上の方法や基準について記述し、年2回の担当者会議で広報広聴課が作成マニュアルを解説し、担当職員への周知を図っている。 実際のホームページ追加・更新は各部署がそれぞれ担当しており、職員がホームページ作成を行う部署、業者に外注する部署と様々である。業者に外注する場合には、「ホームページ利用のガイドライン」を業者に渡して、準拠するよう仕様書に明記している。 また、業者委託ではなく区職員が自ら作成したホームページについては、広報広聴課の職員が作成マニュアルを参照してチェックしている。 (3)伊那市における取組状況 1)伊那市におけるホームページ更新業務手順 伊那市の日常のホームページ運用は、実質的には1名のホームページ担当者がほぼすべての業務を担当している。こうした体制は、中小規模の地方公共団体ではしばしば見られるものである。 情報発信を行う各課から原稿が情報統計係の担当者に送られ、この担当者がホームページ作成ソフトを使ってHTML化している。ただし、定期的に発生する広報誌の記事掲載については、外部の制作業者へHTML化を委託している。 HTML化の完了後、制作したホームページのプリントが稟議に付され、内容チェックが行われた後、ホームページ担当者が公開作業を行う。
2)日常の更新業務におけるアクセシビリティ維持・向上の取組 伊那市では、独自のウェブアクセシビリティガイドラインは策定していないが、日常のホームページ追加・更新の際にはホームページ担当者が公開前のコンテンツをウェブヘルパーで点検している。ただし、この点検は新規の追加・更新のみを対象としており、トップページをはじめとする既存コンテンツは対象としていない。 また、市の広報誌記事については定期的に業者委託でHTML化が行われているが、この発注にあたってはアクセシビリティに関する要求は特にしていない。 (4)清洲町における取組状況 1)清洲町におけるホームページ更新業務手順 清洲町では、新ホームページへの移行後、情報発信者である各部署の担当者が公開するホームページを作成する方式での運用を徹底している。具体的な業務プロセスは以下のとおりである。 各課のホームページ担当者は、自らホームページ作成ソフトを使ってホームページで提供する記事のHTMLファイルを作成する。作成したHTMLファイルは各課で印刷し、課内での決裁をとって、その決裁プリントと電子ファイルを企画課のホームページ担当者に提出する。企画課のホームページ担当者は電子ファイルの内容を評価し、問題なければホームページに公開する。問題箇所があれば、各担当課の担当者へ修正依頼を行う。
2)日常の更新業務におけるアクセシビリティ維持・向上の取組 清洲町では、ホームページ・リニューアルの際に独自の「ホームページ作成要領」を策定し、画像の代替テキスト設定の徹底等をルール化した。日常のホームページ追加・更新は、各課でHTMLを作成し、それをフロッピーディスクで企画課へ提出し、企画課からサーバーへアップロードする手順となっている。企画課ではアップロード前に提出されたHTMLの簡易評価を行い、問題があれば各課へ修正を依頼する。簡易評価の内容は、画像の代替テキストの有無、ページタイトルの付け方等である。 3−2−3 ウェブシステム調達におけるアクセシビリティ維持・向上 ウェブシステムの開発は、通常のホームページ構築と異なり、公開後のコンテンツの変更が困難なため、提案依頼時と業者選定後の仕様検討でのアクセシビリティ検討が特に重要となる。ホームページ・リニューアルと異なり、ウェブシステム調達ではヒアリング対象地方公共団体においても配慮が特になされていない事例もあった。 (1)熊本県における最近の調達事例での取組状況 1)業務手順 熊本県では、現在、情報企画課において「情報システムの企画・調達・契約ガイドライン」の策定が進められており、試案が完成している。今後、このガイドラインに基づいて情報システムの調達業務を進めることになる。 当該ガイドラインの調達事例として、熊本県電子申請受付システムがあるが、これは、熊本県及び県内市町村が共同で運用するシステムである。このシステムは、県及び県内市町村で構成する「熊本県・市町村電子自治体共同運営協議会」により、仕様の検討等を実施している。 2)アクセシビリティ維持・向上の取組 熊本県の最近のウェブシステム調達例として「熊本県電子申請受付システム」の開発についてヒアリングした。 このシステムの調達では、仕様書内に「使い勝手の確保」に関する記述が盛り込まれ、ウェブアクセシビリティへの配慮がうかがえるが、ウェブアクセシビリティの確保そのものを要件とはしていない。 (2)世田谷区における最近の調達事例での取組状況 1)業務手順 世田谷区で平成15年2月に公開した「図書館予約システム」の調達プロセスは次のようになっている。 図書館の蔵書検索・予約を行う図書館システムの導入が立案された平成13年度に、区内各図書館の代表で構成されるプロジェクトチームを結成し、仕様の検討を開始した。対外的な窓口として、中央図書館の事務調整担当者が仕様のとりまとめ、提案要求、提案書受付等の事務を担当したが、業者選定は前記プロジェクトチームで実施した。業者選定・発注後にプロジェクトチームと受注業者でミーティングを実施し、詳細仕様の検討を実施した。その後、業者からシステムのプロトタイプが提供され、プロジェクトチームで機能と画面デザインの検討・確認を実施した。また、納品後の検収もプロジェクトチームで実施した。
2)アクセシビリティ維持・向上の取組 世田谷区の最近のウェブシステム調達事例として、上記の「図書館予約システム」の調達業務についてヒアリングした。 このシステムの調達では、検討初期からシステムのアクセシビリティ等が意識されており、業者選定においては各社のパッケージの画面を比較し、画面の使いやすさや見やすさを評価した。 業者決定後には、「ホームページ利用のガイドライン」、「ホームページ作成マニュアル」を業者に渡し、これらの指針・マニュアルの中から遵守すべき事項を整理・提出させた。 開発の初期段階では、業者から表示画面のイメージを提出させ、配色は文字の大きさ、コントラスト等を確認した。特に色の区別がつきにくい利用者にとって問題がないかについて、神奈川県が策定している「色使いのガイドライン」を参考にし、区の総合福祉センターの職員も検証した。 納品前には受注業者がアクセシビリティの評価を行い、その評価報告書をシステムとともに提出させた。
(3)伊那市における最近の調達事例での取組状況 1)業務手順 伊那市では、平成16年4月に、「施設予約システム」を稼動させた。このシステムは、市内の体育館、グラウンド、生涯学習センター等16施設の空き状況の確認と予約がインターネットで行えるものである。施設予約システムの検討・調達は、以下のプロセスで実施された。 本システムはもともと平成17年度以降に開発予定していたもので、平成15年7月に地域活性化センターの助成が決定したために急遽開発を行うことになったものである。主管課である生涯学習・スポーツ課スポーツ振興係が担当し、サーバー等の技術面について企画課情報統計係に相談して仕様書を作成した。平成15年10月に、4社に提案依頼を行い、提案コンペで業者選定を実施した。業者選定は、生涯学習・スポーツ課スポーツ振興係、生涯学習センター、企画課情報統計係で審査会を作り、提案評価と選定を実施した。業者選定後、業者と協議して詳細な仕様を決定した。その後の開発進捗確認は、生涯学習・スポーツ課スポーツ振興係と生涯学習センターの職員で実施した。平成16年3月にプロトタイプができ、業者がデモンストレーションを行い、改善要望を業者に出して最終的な手直しを実施した。
2)アクセシビリティ維持・向上の取組 伊那市の最近のウェブシステム調達例として「施設予約システム」の調達業務フローについてヒアリングした。 このシステムの調達当時(平成15年)、本システムの調達主管課(生涯学習・スポーツ課スポーツ振興係)にはウェブシステムのアクセシビリティ配慮の必要性について十分な認識がなく、調達フローの中でもウェブアクセシビリティを特に意識した取組は行われなかった。 また、短期間の開発だったため、使いやすさ等の評価についても開発途中では十分に行うことができず、発生したバグ対応が優先した。
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4.電子申請におけるアクセシビリティの現状と課題 4−1 電子申請システムにおけるアクセシビリティの重要性 電子申請システムは、電子政府・電子自治体が住民向けに提供する主要サービス項目のひとつであり、提供数が急速に増加している。電子申請システムでは、これまで書面で実施してきた公的機関への各種申請・届出がインターネット上で可能となり、その都度窓口に出かける必要がなくなるため、利用者に大きな便益をもたらすものと言える。 この便益は、外出が困難で窓口での手続をとりにくい身体障害者にとって特に大きい意味を持つ。例えば、印刷された申請書類を読むことができない視覚障害者や、窓口を訪問できない重度の肢体不自由者は、従来は自力での申請や届出が困難だったが、電子申請システムを用いれば手元のパソコンと支援技術を使って自力での申請・届出が可能になることが期待される。 しかし、電子申請システムのユーザーインタフェースが画面読み上げソフト等に対応しないなど、適切なアクセシビリティを確保できていない場合には、上記のような身体障害者にとっての便益が大幅に失われ、身体条件による便益の格差、いわゆるデジタル・ディバイドを発生させる恐れがある。このような事態を回避するため、電子政府・電子自治体サービスにとって、電子申請システムにおけるアクセシビリティの確保は重要な課題と言える。 4−2 電子申請システムのアクセシビリティ確保の障害となる要因 電子申請システム等のウェブシステムのアクセシビリティの維持・向上に向けた取組状況については、前述の地方公共団体に対するアンケートの結果でも5.4%が取り組んでいるに過ぎず、大幅に遅れている。一つの原因としては、そもそも電子申請システムのアクセシビリティについて意識が低く、庁内でも徹底していないことが挙げられる。第3章で記述した地方公共団体へのヒアリング調査でも、ウェブアクセシビリティを担当している部署とは異なる部署がシステムを発注したために、アクセシビリティへの配慮が行われないままシステム開発が進んだという事例が紹介された。 また、仮に電子申請システムのアクセシビリティに関して意識を持っていたとしても、十分なアクセシビリティを確保できないことが多い。受注側がJIS準拠のシステム開発ということで請け負ったとしても、実際の開発が始まると、想定する利用者によって対応範囲が変わってくる、利用技術の現状から電子署名のアクセシビリティ確保が困難、JIS対応のシステム開発は予想以上に作業が多いなど様々な問題が生じ得る。その原因として考えられるものは、発注時の要件の検討不足と受発注業者の意識の相違が挙げられる。特に以下の3点が注意すべき点として挙げられる。 (1)アクセシビリティの達成度はJISだけでは測れない JISは利用者への配慮の指針を明確にしているもので、アクセシビリティ達成度の目標値となる利用者配慮レベルは特に規定していない。利用者は誰で、どんな配慮が必要で、また、システムではどの程度のアクセシビリティを確保し実現できそうかという配慮レベルについて、サービス提供者が事前に検討し、達成度を測定するための目標を明確にする必要がある。 (2)電子申請システムはアクセシビリティに対応すべき範囲が広い 通常のホームページの場合は、利用者が情報取得することが目的であり、アクセシビリティに関しても対応が比較的シンプルであるが、電子申請システムについては、情報取得だけではなく最終的にサービスを利用できることが目的となる。したがって、表示部分以外のサービスを設計・開発するバックエンド開発部門(プログラマーやSE)とアクセシビリティに関する意識を共有しつつ作業を進めなければならない。 (3)利用技術でのアクセシビリティ対応可能性の検討が必要 利用される技術によっては、アクセシビリティの実現が難しいものがあり、そういった技術に関する情報については、事前に把握しておくことが必要である。例えば、現在、電子署名はJavaを利用して実装されているが、現在我が国で広く普及している画面読み上げソフト等はJavaに対応しておらず、画面読み上げソフト等を利用する視覚障害者は、自ら操作できない。 4−3 既存の電子申請システムで見られるアクセシビリティの問題 電子申請システムを構築するにあたって、具体的にどのような問題が発生するのかについて、電子申請システムを政府機関・地方公共団体等に納入しているベンダー各社からのヒアリングしたところ、現在提供されている電子申請システムでは、利用者が行う利用の準備作業も含めて、次のようなアクセシビリティ上の問題が見られるとの指摘があった。ただし、これらの問題のすべてがひとつの電子申請システムに見られるわけではなく、各ベンダーの提供システムによって該当する問題に違いがある。 (1)利用の準備段階で見られる問題 電子申請システムの利用に際して、利用者はまず必要なソフトウェアのダウンロードやインストール、ブラウザの環境設定、民間認証局やオンラインバンキングの利用契約等を行う必要がある。これらの多くは、電子申請システム以外のホームページで申込みや利用操作を行う必要があり、それらのホームページのアクセシビリティに問題があるケースが見られる。 (2)電子申請の手順で見られる問題 電子申請の利用手順や表示される画面遷移は各システムによって異なるが、次の点でアクセシビリティ上の問題が発生する場合がある。
これらの問題の中には、入力の時間制限のようにプログラムの変更で対応可能なものもあるが、日本語の画面読み上げソフト等の多くがJavaの読み上げに対応していないために発生している問題が多く見られる。ベンダーヒアリングで把握された問題の例を図表4−1に示す。
4−4 対応の考え方 電子申請システムの企画、開発、運用における配慮事項については、第2部で述べるが、国内で多く使われている画面読み上げソフト等ではJavaを読み上げることができないなど、障害者の利用において想定される技術的な問題については、当面、次のような対応をとることが有効と考えられる。
なお、国内の画面読み上げソフト等の支援技術のJavaへの対応については、すでに一部のものではJava表示画面の読み上げ対応を開始しているほか、国内でJavaアクセシビリティAPIに関するドキュメントを整備する動きが活発化しており、Javaへの対応が遅れている画面読み上げソフト等でも、今までよりJavaへの対応が容易になると思われる。加えて、今後は、Java等を活用したより高度なウェブサービスが一層普及していくことが予想されるため、支援技術側での対応も進むことが期待される。 |
5.調査で明らかになった課題の整理 ここまでにまとめたアンケート調査、ヒアリング調査及び電子申請システムに関する調査の結果から、公共分野におけるウェブアクセシビリティ確保に関する様々な課題が明らかになった。ここでは、抽出された課題について、主として業務プロセスの流れに沿って整理する。 (1)調達業務プロセス全体、取組体制について ウェブアクセシビリティに対する職員の意識が低いこと、取組全体の基盤であり出発点となる取組体制や手順が整備されていないことが最初の大きな課題と言える。 (調達業務プロセス全体、取組体制に関する課題)
(2)ガイドラインの策定 アンケート結果によれば、ウェブアクセシビリティに関するガイドラインを整備していない地方公共団体が多い。また、整備されたガイドラインについても、目的や用途が整理されておらず、性格があいまいになっている例が多い。 (ガイドラインの策定に関する課題)
(3)業者選定・発注 ヒアリング調査では、発注にあたって業者の技術レベルを確認する方法がないこと、提案依頼にアクセシビリティ要件を具体的に盛り込むのが難しいことなどの課題が明らかになった。 (業者選定・発注に関する課題)
(4)納品物の検査・検収 アンケート調査結果から、多くの地方公共団体でホームページ等の納品・検収時にアクセシビリティ評価が行われておらず、またその評価手順も確立していないことが明らかになった。特に、ウェブアクセシビリティの達成状況の確認には特に有効な、障害者・高齢者による評価はほとんど行われていないのが実情である。 (納品物の検査・検収に関する課題)
(5)日常のウェブページの追加・更新 アンケート調査結果から、日常のウェブページ追加・更新においてウェブアクセシビリティ維持・向上の取組を実施している地方公共団体はまだ少なく、特に、障害者・高齢者が参画しての評価はほとんど行われていないことが明らかになった。 (日常のウェブページ追加・更新に関する課題)
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第2部
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1.ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の全体像 1−1 モデル構築の基本的な視点 「みんなの公共サイト運用モデル」は、第1部でまとめた地方公共団体におけるアクセシビリティ配慮の現状と課題を踏まえ、できるだけ多くの地方公共団体で活用できるよう策定するものであり、その実践のために必要となる手順書とワークシート類を含んでいる。地方公共団体で実際にウェブアクセシビリティ維持・向上のための業務を行おうとする場合は、「みんなの公共サイト運用モデル」を下敷きとして、それぞれの地方公共団体の実務に合致したものとすることが望ましい。 「みんなの公共サイト運用モデル」の検討、策定にあたっては、特に以下の点を考慮して内容の具体化を図った。 (1)JIS X 8341-3をベースとし、内容の整合性を確保する 工業標準化法第67条には「国及び地方公共団体は、買入れる鉱工業製品に関する仕様を定めるとき日本工業規格を尊重しなければならない」とあり、公共ホームページ等の調達においてはJIS X 8341-3の内容を十分に踏まえる必要がある。また、公共ホームページ等においてはウェブページの追加・更新等も頻繁に行われることから、アクセシビリティ確保のためには調達だけでなく、日常的な運用の際にも十分な配慮が求められる。 「みんなの公共サイト運用モデル」では、公共ホームページ等の調達等におけるウェブアクセシビリティの維持・向上のための具体的な検討項目を提示するが、それらの内容はJIS X 8341-3が求める要件と整合がとれたものとすることを心がけた。 (2)組織的かつ継続的なウェブアクセシビリティ維持・向上の取組モデルとする 第1部のアンケート調査結果を見ると、地方公共団体におけるウェブアクセシビリティ維持・向上の取組は大規模地方公共団体を中心に広がりつつあるものの、ホームページ・リニューアル等に伴う一過性の取組に止まるケースが多いと考えられる。一方、JIS X 8341-3では、第6章「情報アクセシビリティの確保・向上に関する全般的要件」を設けて、企画・制作・保守・運用・検証というホームページ等のライフサイクル全体でのアクセシビリティ配慮を求めている。 「みんなの公共サイト運用モデル」は、その名称からもわかるとおり、ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組を個々のホームページ等の調達に限った一過性のものと捉えず、ホームページ等のライフサイクル全体を通じて継続的な改善を図る、ウェブアクセシビリティに関する組織的かつ継続的な品質管理・改善プログラムとして整理した。 (3)JIS X 8341-3との整合をとりつつ、できるだけ平易な表現、内容とする 第1部の調査結果からも明らかなように、地方公共団体のホームページ等の運用の特徴は、多くの場合、専門的な知識を持たない職員が担当していることである。また、定期的な人事異動により、担当職員が知識を有したとしてもそれが引き継がれず、蓄積されにくい。 「みんなの公共サイト運用モデル」は、こうした地方公共団体のホームページ等の運用の実情を踏まえ、JIS X 8341-3との整合確保に支障ない範囲で、ウェブアクセシビリティに関する専門的な知識を持たない地方公共団体職員でも理解できる平易な表現、内容を目指した。また、専門知識を持つ担当職員の有無等、各地方公共団体の実情に合わせて取組を進められるよう、検討項目のレベル分けを導入した。 (4)職員だけでなく利用者や制作業者の参加を重視した運用モデルとする ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組を適切に実施するには、ホームページ制作に関する技術の知識とともに、障害者・高齢者ユーザーの利用についての理解が不可欠である。このことから、専門業者や利用者の参画により取組を適切に進めることが求められる。 「みんなの公共サイト運用モデル」は、このようなウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の特性を踏まえ、特にホームページ等の調達における制作業者の役割を明確にするとともに、調達プロセスの初期からの利用者参加を想定したモデルとした。 |
1−2 「みんなの公共サイト運用モデル」の全体像 地方公共団体におけるウェブアクセシビリティ維持・向上の取組は、個別のホームページやウェブシステムの調達において実施されるだけでなく、それらの運用を通じて、継続的にウェブアクセシビリティの改善を図るものである必要がある。「みんなの公共サイト運用モデル」の全体の狙いは、ホームページ等のアクセシビリティに関する品質管理プロセスの確立であり、継続的なPDCAサイクルの確立が基本的な形となる。 地方公共団体では、各部署の職員がホームページの制作や運用に何らかの形で関わっているため、こうした品質管理の取組は全庁的・組織的に進める必要がある。こうした組織全体での品質管理・向上の取組モデルとして広く普及しているものには、ISO9000シリーズやISO14000シリーズがあり、参考になると考えられる。 以上の考え方に基づき、ウェブアクセシビリティ維持・向上に必要と考えられる取組をPDCAサイクルとして整理すると、次のようなモデルが考えられる。 全体計画、体制整備(PLAN) 全庁的なウェブアクセシビリティ維持・向上の最初のステップは、ウェブアクセシビリティの所管部署と役割を明確にし、また、ウェブアクセシビリティを維持・向上するための計画と達成目標を設定することである。さらに、具体的なウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の業務プロセスの設定も必要となるが、これについては、この「みんなの公共サイト運用モデル」の手順書及びワークシート類を活用して設定することができる。
計画の実行(DO) 設定した計画と達成目標をもとに、ホームページ等の調達や日常の運用の実施手順を進める。実施にあたっては、担当職員が実施手順の内容や必要な基礎知識・専門知識を習得するための研修、アクセシビリティ確保を容易にする各種ツールやリソースの導入等、様々な取組を並行して進めることになる。
実施成果の検証(CHECK) 実施したウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の効果確認あるいは運用の結果生じるウェブアクセシビリティの低下を把握するため、定期的にウェブアクセシビリティの測定や業務プロセスの実施内容の確認を行う。
プロセスの改善(ACTION) CHECKプロセスで実施した評価で得られた問題点の解決に向けた検討や取組を行う。発生している、あるいは把握されている問題の種類により、実施する見直しの範囲や対象、取組のレベルは様々となる。
図表1−1に、「みんなの公共サイト運用モデル」の全体像を表すPDCAモデルの構造を示す。
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1−3 「みんなの公共サイト運用モデル」の検討テーマと本研究会での検討範囲 前節で挙げたPDCAサイクルの各要素は、地方公共団体のヒアリングから得たウェブアクセシビリティ維持・向上に見られる課題と対応している。PDCAサイクルを実現しようとするときには、まずその構成要素それぞれを検討し、具体化する必要がある。そこで、PDCAサイクルの構成要素と、調査で明らかになった課題を付き合わせ、地方公共団体で実際に運用可能なPDCAサイクルを構築するために必要な検討テーマを抽出・整理した。 検討結果を図表1−2から図表1−4に示す(PDCAサイクルのうち、ACTIONについては実施内容がPLANと重なるため、個別には示さない)。
以上のように、「みんなの公共サイト運用モデル」は非常に広範な範囲の取組を含んでいるが、本研究会ではウェブアクセシビリティ維持・向上に直接作用する部分に焦点を当て、内容の具体化を実施した。 本研究会で設定した検討範囲を図表1−5に示す。
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2.ウェブアクセシビリティ維持・向上のための事前準備 2−1 基本方針の策定 地方公共団体は、ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組を行うにあたり、まず基本方針を定め公開することが重要である。基本方針は内外に公開することにより、地方公共団体職員、ホームページ利用者の双方にとって、地方公共団体が目指しているホームページ等の方向性や取組姿勢を知るよりどころとなる。 付録1「基本方針策定ガイド」は、地方公共団体が、ホームページやウェブシステムの制作・運営におけるウェブアクセシビリティ維持・向上に向けた基本的な方針を定める際に、参考となる情報を提供するものである。地方公共団体は、同ガイドを参考に基本方針を定める。また、基本方針は、ホームページ上で公開し、庁内だけでなく一般にも広く周知し、理解を求める。 2−2 取組体制の考え方 ウェブアクセシビリティは、ホームページ等の品質に関わるテーマであり、地方公共団体においてはウェブアクセシビリティの維持・向上をホームページ等の運営・管理業務のひとつとして位置づけ、担当部署(以後「アクセシビリティ担当部署」と呼ぶ)を明確に決定しなければならない。また、上記基本方針を幹部(首長、助役等各地方公共団体で決める者)が承認することで、全庁的な取組と位置づけることが重要である。 アクセシビリティ担当部署は、ウェブアクセシビリティ維持・向上を図るため、前章で示したPDCAサイクルを実施する。具体的な実施手順については、アクセシビリティ担当部署の職員が中心となって実施するが、アクセシビリティ担当部署だけで実施できるものではなく、関係する各部署との協力体制を作ることが重要である。この体制を構築するために示したのが付録2「取組体制構築ガイド」である。 例えば、ウェブアクセシビリティ維持・向上のための企画・準備段階(PLANの段階)では、ウェブサーバーの管理を行う情報システム部門等の部署と、ホームページの全体管理を行うホームページ担当部署の協力が不可欠であるが、地方公共団体の職制、事務分掌によってアクセシビリティ担当部署は、このどちらかの部署が兼ねる場合が多いと考えられる。 また、ホームページのリニューアルや更新・運用の段階(DOの段階)では、ホームページで情報提供を行う各部署の協力が必要になる。この段階ではウェブアクセシビリティ維持・向上はアクセシビリティ担当部署を中心に、全庁的な取組として進めることが必要になる。 また、取組体制は庁内だけでなく、外部の関係者も含めて整備することが求められる。想定される関係者は、ホームページの制作やウェブシステムの開発を受注する制作業者と、障害者・高齢者を含むホームページ利用者(外部モニター)である。制作業者は、各コンテンツや機能の制作・開発にあたってアクセシビリティ担当部署と十分に連携をとって必要な配慮を行う。障害者・高齢者を含む外部モニターは、ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の各段階で参加し、必要な情報や意見をアクセシビリティ担当部署へ提供し、ホームページ等のアクセシビリティ評価を行う。このように、ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組は、横断的な協力体制を作って進める必要がある。 2−3 ウェブアクセシビリティに影響を与える対象の調査 ウェブアクセシビリティに影響を与える対象は、地方公共団体が提供するホームページ、ウェブシステム全般に及ぶ。 地方公共団体のホームページでは、定型的な行政情報の提供とは別に、個別のテーマを扱うものや、期間限定の情報を扱うものなど、いわゆる「サイト内サイト」が複数存在し、それぞれ別の担当部署により管理されているケースも多い。また、施設予約や申請書ダウンロード等、様々なウェブシステムが目的に応じて開発・提供されることも増えている。 ホームページの利用者にとっては、庁内における担当の厳密な違いはあまり重要な問題でなく、このようなサイト内サイトやウェブシステムも含め、その地方公共団体ホームページの提供サービスであると一律に認識し利用していることが多い。地方公共団体においては、提供する様々な情報やサービスを利用者が安心して利用できるよう、ウェブアクセシビリティに影響を与える対象を幅広く設定するよう努力しなければならない。 ウェブアクセシビリティに影響を与えるコンテンツや業務を把握するためには、付録3a)「対象調査票(例)」を参考に定期的な調査を行う。 2−4 目標・実施計画の設定 地方公共団体において、対応の具体的な目標や計画が設定され、その進捗や成果を適宜把握することは、ウェブアクセシビリティ維持・向上を図る上で重要である。 付録3「目標・実施計画設定ガイド」は、地方公共団体がウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の目標や計画を検討する際に、参考となる情報を提供するものである。 地方公共団体は、このガイドを参考に、ウェブアクセシビリティに影響を与えるコンテンツや業務について、それぞれ個別に達成すべき目標、到達スケジュール等をできるだけ具体的に設定する。また、定期的にウェブアクセシビリティ確保状況をチェックする際に、設定した目標・計画を指標として達成度の定期評価を行い、定期評価の結果、必要に応じて目標・実施計画の見直しを行う。 |
3.ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の実施 3−1 ホームページ・リニューアル等の実施手順 前章で設定した目標・実施計画に従って、実際にウェブアクセシビリティが確保されたホームページやウェブシステムを構築するために、調達の手順、日常的なウェブページの追加・更新の手順を策定した。各手順の詳細については、付録4「ホームページ・リニューアル等実施手順」で図示しているが、概要は次のとおりである。 (1)ホームページ等の調達の実施手順 地方公共団体のホームページやウェブシステムを新規に構築、又はリニューアルする際には、外部委託で行われる場合が想定される。しかし、現状では発注担当者と制作業者の双方の理解が十分でないため、従来の手順で外部委託した場合、ウェブアクセシビリティが十分確保されていないホームページやウェブシステムができあがってしまうことがある。そこで本研究会では、調達の実施手順を示した。「ホームページ・リニューアル等実施手順」では、発注者である地方公共団体と受注業者が、調達のどの段階でどのような検討・対応を行うかを説明している。 1)ホームページ・リニューアル(提案コンペ方式)での実施手順 提案コンペ方式によりリニューアル業務を委託する業者を選定する際に、受注希望業者に対してウェブアクセシビリティ対応の提案を求める。ウェブアクセシビリティ対応の詳細な方法については受注業者決定後に検討を行う。 ホームページ全体の検収の前に、ウェブページのひな型となるテンプレートが作成された時点でウェブアクセシビリティの評価を行う。 2)ホームページ・リニューアル(競争入札方式)での実施手順 競争入札方式では、受注業者が決定した後に、受注業者とウェブアクセシビリティ対応についての詳細検討を行う。この後の手順(テンプレート段階、最終的な検収段階の2回の評価等)は、提案コンペ方式の手順と同じである。 3)ウェブシステム調達での実施手順 ウェブアクセシビリティの維持・向上はホームページだけでなく、HTML等の技術で作られるウェブシステムでも必要である。検索や予約といった様々な目的を達成するために開発されるウェブシステムでは、一般にホームページよりも多様な情報提供手段が用いられたり、利用者の情報入力や操作が複雑だったりすることが多く、ホームページと同様かそれ以上のウェブアクセシビリティに対する配慮が求められる。しかし現状では、ウェブアクセシビリティが考慮されずに開発され提供されることが多いのが現状である。地方公共団体が新規にウェブシステムを調達する場合には、この実施手順に基づき、受注業者ができる限りのウェブアクセシビリティ対応を行うよう求めなければならない。 業者選定が提案コンペ方式の場合はホームページ・リニューアル(提案コンペ方式)と同様の手順で受注希望業者に対してウェブアクセシビリティ対応の提案を求める。表示画面のHTMLサンプルの制作時、プロトタイプ18 の表示画面制作時、最終的な検収時の3段階でウェブアクセシビリティの評価を行う。 (2)ウェブページ追加・更新の実施手順 ホームページのウェブアクセシビリティを維持するためには、日常的なウェブページの追加・更新においても、実施手順を明確にし、実践する必要がある。特に、多くの担当者がウェブページの追加・更新に携わっている地方公共団体では、関わるすべての担当者が実施可能な手順を確立しなければならない。本研究会においては、公開前に行うべき対応、公開後に行うべき対応を「ウェブページの追加・更新」の手順として示した。 3−2 ウェブアクセシビリティの維持・向上のためのワークシート 「ホームページ・リニューアル等実施手順」では、地方公共団体が定めた基本方針に基づいて、最初にウェブアクセシビリティの達成目標を設定し、次にその目標に応じた対応を行うという段階を踏み、ウェブアクセシビリティの維持・向上を図っていく。 本研究会では、地方公共団体がウェブアクセシビリティ対応のレベルの設定や、具体的な対応方法の決定を行うための4つのワークシート(「基本検討シート」、「対応方針回答シート」、「詳細検討シート」、「実施内容確認シート」)を策定した。これらのワークシートは、ホームページやウェブシステムの調達にあたって、発注者である地方公共団体と、受注又は提案を行う制作業者との間で必要な情報をやりとりし、段階的にウェブアクセシビリティの要件を検討できるように設計した。これらのワークシートの検討結果は、制作業者向けの調達仕様になるだけでなく、ホームページの運用段階で職員が用いるガイドラインを作成する際の基本情報となる。 ホームページ等の調達やウェブページの追加・更新の際にどの段階で、誰がこれらのシートを使用するかについては、付録4「ホームページ・リニューアル等実施手順」で解説している。また、各ワークシート本体と使用方法等の詳細な説明も、付録4a)〜d)で示しているが、以下に概略を述べる。 3−2−1 基本検討シート (1)位置づけと目的 ホームページ等の調達の際に、受注業者へウェブアクセシビリティ対応を求めるためには、その方針を調達の仕様としてできるだけ明確に示すことが重要である。現状では、仕様においてウェブアクセシビリティ対応を求めていなかったり、記述内容があいまいであることが多い。 「基本検討シート」は、ホームページ等の調達の際に使用するワークシートである。地方公共団体はこのシートを活用し、自らの対応方針を決め、提案コンペや入札の説明の際に仕様として受注希望業者に示す。地方公共団体が対応方針を示すことにより、受注希望業者はホームページ等の制作にあたって必要となるウェブアクセシビリティ対応と地方公共団体が求めるレベルを知ることができ、確実な対応が進められる。 この「基本検討シート」を活用して定められた対応方針は、ホームページ作成ガイドライン等にアクセシビリティ対応を盛り込む際に参考とする。 (2)使用するにあたって必要な知識等 「基本検討シート」は、地方公共団体の職員が使用することを前提とした。「基本検討シート」に記述されている対応方針を理解するためには、「ウェブアクセシビリティの考え方」、「配慮のあるホームページ制作方法」についての基礎知識が必要である。下記ホームページ、HTML等関連情報に関する書籍やホームページ等を事前に参照した上で使用することが望ましい。
また、PDFは、紙文書での体裁をほぼそのまま保つことなどができるが、アクセシビリティへの十分な配慮が必要となる。したがって、PDFでアクセシビリティを確保するために必要な知識(作成ソフトの設定等)が十分でない場合は、本当にPDFを利用する必要があるのかどうか、再検討する必要があるだろう。 (3)シートの構成 検討項目を「レベル1(最低限の対応)」「レベル2」の2つに分け、各項目について、検討が必要な背景の「説明」とともにウェブアクセシビリティの「対応方針」を示した。一部の項目については、「選択のヒントと注意」を参考に、地方公共団体で「対応方針」を選択することとしている。 (4)使用の際の注意点 調達の手順に沿って使用する場合、基本検討の段階で地方公共団体ではどうしても判断のつかない項目があることが想定される。その場合は当該項目の判断を保留し、受注業者決定後の詳細検討で方針を検討することとしている。提案コンペや入札の説明の際には、保留の項目については複数の方針を併記して示し、受注業者と協議の上いずれかに決定する旨を説明する必要がある。 3−2−2 対応方針回答シート (1)位置づけと目的 提案コンペ方式により受注業者を選定する場合は、ウェブアクセシビリティへの対応方針も含め審査を行うことが求められる。 「対応方針回答シート」は、ホームページ・リニューアルやウェブシステム調達において、提案コンペ方式により受注業者を選定する際に、提案コンペに参加する受注希望業者がウェブアクセシビリティの具体的な対応方針を提案するために使用するワークシートである。 提案コンペに参加する業者は、提示された各項目について、提案する具体的な対応方針を記入して、提案資料のひとつとして地方公共団体に提出する。地方公共団体は提出された「対応方針回答シート」をその他のリニューアルやウェブシステム構築に係る提案と併せて審査して業者選定を行うことで、ウェブアクセシビリティが確保されたホームページやウェブシステムの構築が可能となる。 (2)シートの構成 基本検討シートに準じた構成とし、レベル1、レベル2の区分と各項目の番号・順番は基本検討シートと同様とした。基本検討で地方公共団体が決定した対応方針に対して、提案コンペに参加する受注希望業者が「実施する対応の概要」欄や必要に応じて「参考資料」欄を記入する。 (3)使用にあたっての注意 提案コンペの受注希望業者は、本シートで地方公共団体により示された「対応方針」と異なる対応を提案する場合には、「実施する対応の概要」欄に実施する対応の概要と併せてその理由も必ず記述する必要がある。 3−2−3 詳細検討シート (1)位置づけと目的 ホームページやウェブシステムのアクセシビリティを確保するためには、様々な細かい制作ルールや技術的な対応方針、そのホームページ等の固有の要素への対応方針を定めることが必要である。調達においては、これらのルールや方針を、実際の制作に入る前に検討し、できる限り明確にしておくことが重要である。ルールや方針をあいまいにせず、細かく規定しておくことで、業者の到達目標が明確となり、検収において確認されるべき点も明確となる。 「詳細検討シート」は、ウェブアクセシビリティ対応を具体的にどのように行うかを検討するためのワークシートである。 ホームページ・リニューアルやウェブシステムの調達において、「基本検討シート」を活用し対応方針を決定した後、具体的な対応方法を決める際に使用する。 また、「詳細検討シート」での検討結果は、ホームページ作成ガイドライン等にウェブアクセシビリティ対応を盛り込む際に参考とする。 (2)使用するにあたって必要な知識等 ウェブアクセシビリティ対応のためには、制作技術に関わる問題と、地方公共団体の内部の運用体制等に関わる問題が、複雑に絡み合っている。 制作技術に関わる問題の検討は、HTML及びウェブアクセシビリティに関する全般的な知識を必要とする。そのため、このシートを用いた検討は、必要な知識を有している受注業者が主導することを想定している。また、検討の際には、以下の資料等を参照した上で行うことが望ましい。特にJIS X 8341-3や技術解説については、必要に応じて参照することが求められる。
(3)シートの構成 「基本検討シート」に準じた構成とし、各項目に必要な検討内容と具体的な対応方法の例や選択肢を示した。なお、「基本検討シート」を使用した検討によって、詳細検討が不要となった検討項目は省いて使用する。 また、背景となる問題や詳しい技術等は、JIS X 8341-3の技術解説を参照することとした。 (4)使用にあたっての注意点 このシートにしたがって対応方法を決定した後、「テンプレート制作」、「ページ制作」の段階で決定した対応方法と異なる方法で制作する必要が生じた場合は、対応方法の見直しを行う必要がある。 3−2−4 実施内容確認シート (1)位置づけと目的 調達においては、ウェブアクセシビリティの配慮が当初設定した方針どおりになされているかどうかを、地方公共団体が確認の上で検収しなければならない。 「実施内容確認シート」は、外部委託によるホームページ・リニューアルやウェブシステム調達の際、実施されたウェブアクセシビリティ対応の内容を地方公共団体が確認するために使用するワークシートである。 ホームページ・リニューアルやウェブシステム調達の受注業者は、実施したウェブアクセシビリティ対応の概要を記入して、地方公共団体に報告する。地方公共団体は提出された「実施内容確認シート」を参照しながら、納入されたホームページ等を評価、検収する。 また、「実施内容確認シート」での回答は、ホームページ作成ガイドライン等にアクセシビリティ対応を盛り込む際に参考とする。 (2)シートの構成 「基本検討シート」、「詳細検討シート」に準じた構成とし、レベル1、レベル2の区分と各項目の番号・順番は各検討シートと同様とした。「基本検討シート」で地方公共団体が示した対応方針の各項目について、「詳細検討シート」により対応方法を検討・決定した内容と制作の際の実施状況を、受注業者が記入する。 (3)使用にあたっての注意 受注業者が作成する際には、詳細検討シートで決定した対応方法と異なる方法で制作した場合には、必ず「対応内容の説明」欄に変更内容とその理由を記述する必要がある。 18 プログラムの試作版やハードウェアの試作機のこと。製品開発を進める上で、基本的な設計に問題がないかどうかをチェックするために作成する。 |
4.ウェブアクセシビリティ対応状況の確認 4−1 簡易点検ガイド (1)位置づけと目的 障害者・高齢者ユーザーが利用しやすいホームページ等を提供するために、地方公共団体は、ホームページ等の企画・制作・運用の各段階でウェブアクセシビリティの対応状況を確認することが重要である。 ウェブページ制作の際は、公開前に文法チェッカー、ウェブアクセシビリティ専用チェックツール、画面読み上げソフト等や配色のシミュレーションソフト等のツールを用いて、各ウェブページにウェブアクセシビリティ上の問題がないかを点検し、必要に応じた修正を行うことが重要である。 しかし、地方公共団体においてツールを用いた点検は、ツール購入予算の有無、パソコンへのツールのインストールの可否、ツールを使いこなす技術の有無等の観点から実現が難しいことがある。簡易点検ガイドは、地方公共団体の職員がツールを用いずに手軽に点検できる手段を示したものである。 (2)使用にあたって必要な知識等 簡易点検ガイドにより見つかった問題箇所の修正は、「詳細検討シート」に記載された作成方法や対処策の例、「JIS X 8341-3 技術解説」等を参照しながら行う。
(3)シートの構成 「基本検討シート」のレベル1、レベル2の検討項目のうち、ツールを用いずに点検できる方法を示した。各点検項目には「詳細検討シート」の該当番号を表した【詳細検討シート対応項目番号】を付記した。 また、参考として、ツールを使った点検方法や、無償で提供されているツールの情報収集に役立つサイトを示した。 なお、ウェブアクセシビリティ上の問題箇所の修正に活かすために、点検結果やその対応結果を記録するものとして、別途「簡易点検結果記入シート」を用意した。 (4)使用の際の注意点 ツールを用いずに点検できる項目は一部であるため、可能な限り、ツールを使った点検にも取り組むことが望ましい。 4−2 障害者・高齢者による評価手順 (1)位置づけと目的 障害者・高齢者に利用しやすいホームページ等を提供するために、障害者・高齢者ユーザーにホームページ等を実際に閲覧・操作してもらうことによって、チェックシートやチェックツールではわからなかった問題点を把握し、ウェブアクセシビリティ維持・向上に役立てることが重要である。 「障害者・高齢者による評価手順」は、専門家や専門の器材・設備に頼ることなく、利用者自身の利用環境を活用して、地方公共団体のアクセシビリティ担当職員自らが簡易にユーザー評価を準備・実施し、ウェブアクセシビリティ向上に役立てることのできる方法を示したものである。 (2)シートの構成 地方公共団体の職員がユーザー評価を実施できるように、実施の概要だけでなく、操作課題の例やメールアンケートの文例等、具体例を示した。 (3)使用の際の注意点 多様な利用者の特性や利用環境を理解し、ウェブアクセシビリティ維持・向上の必要性を認識するために、アクセシビリティ担当部署職員は、本手順に従い、必ず(最低1回以上は)利用者の評価現場に立ち会う経験が必要である。 4−3 外部からの意見の処理手順 (1)位置づけと目的 JIS X 8341-3の第6章「6.4 フィードバックに関する要件」では、利用者の意見を収集する窓口を用意し、利用者からの意見をウェブアクセシビリティの維持・向上に活かすことが求められている。また、「6.5 サポートに関する要件」では利用者とコミュニケーションを取れるよう、問い合わせ先をホームページ等で明示することとしている。地方公共団体のホームページ等においても、日常的に利用者の意見等を収集し、それらに対応することが求められる。 「外部からの意見の処理手順」は、利用者からの問い合わせや意見をウェブアクセシビリティの維持・向上に活かすための手順を示したものである。 (2)使用の際の注意点 既に多くの地方公共団体のホームページには、利用者からの問い合わせや意見を受け付ける何らかの窓口が用意され、寄せられた多種多様な問い合わせや意見が、内容に応じて各担当部署に振り分けられているものと思われる。 アクセシビリティ担当部署は、外部からの意見の処理手順を参考に、既存の問い合わせ窓口や体制を活用しつつ、利用者の意見の中からウェブアクセシビリティに関する要件を整理し、対応の優先順位づけを行い、必要に応じた修正や見直しを行うことが求められる。 |
5.ホームページ・リニューアル等実施手順の効果 5−1 実証評価の概要 「ホームページ・リニューアル等実施手順」と関連するワークシート類の有用性を検証するため、平成17年7月から9月にかけて、熊本県、高知県土佐清水市、東京都世田谷区の3つの地方公共団体において実証評価を実施した。 実証評価では、研究会で検討中のワークシート類を用いて、実際にホームページのアクセシビリティ検討や評価等を行い、ワークシート類の効果や問題点の確認を実施した。
次に、各地方公共団体での実施内容と経過について述べる。 5−1−1 熊本県 (1)実施概要 人口185万人(平成17年9月現在)の大規模地方公共団体であり、早くから「やさしいまちづくり」を目標に、バリアフリーに取り組んできた。平成14年には「くまもとユニバーサルデザイン振興指針」を策定し、県全体でユニバーサルデザインの取組を先進的に進めている。県の公式ホームページ内にも「くまもとユニバーサルデザインネット UD21くまもと」を開設しており、今年度中のリニューアルの実施が決まっている。 実証評価では、既にウェブアクセシビリティ確保の取組を進めている地方公共団体がリニューアルでウェブアクセシビリティを向上させる場合の検証を行うため、リニューアル後の「UD21くまもと」のホームページが、レベル2のウェブアクセシビリティを確保することを目標に「ホームページ・リニューアル」の手順を試行した。
(2)実施経過 ホームページ・リニューアル等実施手順「ホームページ・リニューアル(提案コンペ方式)」のプロセスのうち、基本検討からテンプレート評価までを試行した。実施にあたっては、情報企画課が主体となり、広報課、ユニバーサルデザインの主管課である政策調整課とともに実証評価の取組体制を整えた。基本検討の過程においては、既存ホームページの問題点を把握するために「簡易点検ガイド(実証評価時は「簡易点検表」)」を用いて評価した。なお、随意契約のため、今回の実証評価では「対応方針確認シート」による業者選定は実施していない。
5−1−2 高知県土佐清水市 (1)実施概要 人口約18,000人(平成17年10月現在)の小規模の地方公共団体で、企画広報室情報企画係の係長以下3名の職員がホームページ、情報関連事務をすべて担当している。これまで担当職員個人のスキルに頼ってウェブアクセシビリティの配慮を実施してきたものの、明確な方針がなく、ウェブアクセシビリティ確保の取組が進んでいなかった。現行の土佐清水市ホームページは5年間が経過しており、平成18年度に全面リニューアルを計画している。今回の実証評価は、次期ホームページのガイドライン策定を視野に入れながら、最低限対応が必要なレベル1のウェブアクセシビリティ対応を目標として、「ホームページ・リニューアル」の手順を試行した。
(2)実施経過 土佐清水市では、リニューアルのための庁内ワーキンググループを設置しており、このワーキンググループで実証評価に取り組んだ。熊本県と同様、この実証評価では「ホームページ・リニューアル(提案コンペ方式)」手順の基本検討から、制作したテンプレート(サンプルページ)の評価までのプロセスを試行した。なお、全面リニューアルにあたり、既に実証評価の実施前に随意契約で業者が決定していたため、「対応方針確認シート」による業者選定は実施していない。
5−1−3 東京都世田谷区 (1)実施概要 人口81万人の大規模地方公共団体である。世田谷区のホームページは一部にCMSが導入されているが、今後全面的にCMSを導入してリニューアルすることが決まっている。今回の実証評価は、地方公共団体の職員が日常業務として行う更新作業における実施手順の有用性を検証するため、まだCMSを導入していない部分を対象に実施した。 対象としたのは世田谷区ホームページの一部である「世田谷保健所」の「トップページ」、「健康危機情報」、「お知らせ」の3ページである。世田谷区でCMSが未導入の部分は、各主管課がそれぞれ独自にウェブページの作成・更新を実施しており、「世田谷保健所」のウェブページは主管課である健康企画課の職員がホームページ作成ソフトを使用して作成している。 この実証評価では現行の作業手順を踏まえながら、研究会で検討中のワークシート類を使用して、「ウェブページの追加・更新」手順を試行したものである。
(2)実施経過 実証評価の実施にあたっては情報政策課が中心となり、ホームページ全体を管理する広報広聴課、世田谷保健所の主管課である健康企画課が互いに役割分担を明確にした上で各種ワークシート類を用いた作業を開始した。既存ホームページの問題点を把握するための評価、情報政策課・広報広聴課によるウェブアクセシビリティ検討の後、検討結果を踏まえて、広報広聴課・健康企画課で現行のホームページを修正し、修正後のウェブページを追加する際に使用するテンプレートを作成したものである。さらに、修正後のウェブページを更新する前に、障害者、高齢者によるユーザー評価も実施した。
5−2 「ホームページ・リニューアル等実施手順」で得られた効果 「ホームページ・リニューアル等実施手順」を実施したことにより、各実証評価実施団体のホームページのアクセシビリティ上の問題が発見、改善された。熊本県、土佐清水市はテンプレートやサンプルページ段階までの実施であったため効果の最終的な確認には至らなかったが、世田谷区では高齢者によるユーザー評価で修正後のホームページが使いやすくなったことが評価されており、ウェブアクセシビリティの向上が確認できた。さらに各地方公共団体で実施に携わった職員のウェブアクセシビリティへの認識の深まり等の効果が見られた。 以下、試行した「ホームページ・リニューアル等実施手順」ごとに得られた効果と、実証評価から浮かび上がった今後の課題について述べる。 5−2−1 「ホームページ・リニューアル」手順の実施による効果 (1)地方公共団体における効果 リニューアルを行い、誰もが使えるホームページを構築するためには、リニューアルの契約仕様書にウェブアクセシビリティ対応のための業務を盛り込む必要がある。この場合、仕様として何が必要となるのかを職員がホームページ作成方針や予算、その他の様々な状況に応じて判断・決定する必要が生じる。 調達の際に適切な仕様を作成するためにはウェブアクセシビリティやJIS X 8341-3に関する知識を職員が有することが必要となる。しかしながら、一般行政職で定期的な人事異動によりホームページ等の担当として配属される職員が、HTMLやウェブアクセシビリティに関する専門的知識を有していることは稀であり、また配属後に十分な知識・スキルを習得しても、そのノウハウを異動後に引き継いでいくことは難しい。「ホームページ・リニューアル」手順を実施することで、仕様の中にウェブアクセシビリティ対応を行うことが明確に示され、その具体的な方法については受注業者と協議することができ、目標とするホームページ等が実現しやすくなるといえる。 仕様書作成段階で有用性が高いというだけでなく、職員のウェブアクセシビリティの認識を高めるという観点からもこの手順は効果的である。今回実証評価を実施した熊本県、土佐清水市で実証評価に携わった職員の多くも、ウェブアクセシビリティの概念は理解しているが、実務上の対応に必要な技術的な知識は有しておらず、本研究会で検討中であった「基本検討シート」「詳細検討シート」の内容を理解するのが困難な状態であった。「基本方針策定ガイド」にも、使われている用語等が難しい、との指摘があった。 しかし、これらに何が書かれているのかを理解しようと、職員が自ら関連資料を読むなどして勉強しており、基本方針策定や基本検討作業を通して、ウェブアクセシビリティ対応の具体的なイメージを掴むことができた。 これに対して「簡易点検ガイド」は、実証評価を実施した各地方公共団体で「わかりやすい」という評価であった。ウェブアクセシビリティ上の問題は漠然と画面を見ているだけでは把握できないことが多い。このガイドは、ウェブアクセシビリティを意識していないと気付くことができない問題点を発見でき、職場環境の中で随時行うことができるため、職員にとって有用性が高い。 また、障害者・高齢者によるユーザー評価については、テンプレート・サンプルページ段階での評価ではあったが、現場に立ち会った職員は、想像していなかった利用者の操作の様子を目の当たりにし、新鮮な驚きを覚えている。 一連の「ホームページ・リニューアル」手順を実施することにより、新たに構築されるホームページのアクセシビリティが確保されるだけでなく、この手順に携わること自体が職員のウェブアクセシビリティへの認識を深めることに大きな効果を生むと期待される。 土佐清水市は実証評価実施後の感想として、「この実施手順が示されなければ、ウェブアクセシビリティを確保したリニューアルを行うことは困難だろう」としている。「ホームページ・リニューアル等実施手順」で示されたリニューアルの手順とそれに関連するワークシート類は、特に現在取組が遅れている小規模な地方公共団体にとって、有効な手引きとなると考えられる。 (2)リニューアルの受注業者における効果 リニューアルの調達の際、発注者である地方公共団体が十分な理解のないまま作成し、ウェブアクセシビリティの対応内容が漠然とした仕様書を業者に示してしまうと、受注業者にとっては、コストの見積りや作業工程に不確定要素が多くなり、業務が進めにくい。「ホームページ・リニューアル」手順の実施により、発注者の求めるウェブアクセシビリティ対応が具体的に示され、制作後にその結果を発注者とともに評価することは、受注業者にとって業務が進めやすくなるというメリットがある。 熊本県の実証評価においては、レベル2の難度の高い対応を求めたが、受注業者は「詳細検討シート」の内容を理解した上で制作に臨むことができた。レベル1の対応を目標とした土佐清水市においても、「詳細検討シート」をもとに、市と受注業者が十分な協議を行いながらスムーズに作業を進めることができ、実証評価でも効果が認められた。 制作業者によってはいまだ十分な知識やスキルを有していないケースも想定されるが、今後公共分野のホームページ等の制作に携わる際に必須となることであり、この実施手順を行うことにより、それまでウェブアクセシビリティに対する意識の低かった制作業者のスキルアップも期待できる。 また、この実施手順を行わず、漠然とした仕様により調達した場合、その成果物は受注業者のウェブアクセシビリティに関する理解度、知識、スキルによってウェブアクセシビリティの確保の度合いが大きく異なってくると考えられる。納品・検収時、あるいはテンプレート段階等の制作の途中でウェブアクセシビリティ上の問題が発見され、その対応を求められたとき、契約変更等が発生することも考えられる。「基本検討シート」「詳細検討シート」では一部に制作の過程で発注者と協議しながら対応を決定する項目があるが、コスト面も含めた十分な発注者との協議を行うことによって、契約後の仕様変更に伴うリスクを減らすことができ、この点についても業者にとって効果があると考えられる。 (3)「ホームページ・リニューアル」手順の効果を高めるための課題 今回の実証評価では検討作業に伴う受注業者の負担を減らす工夫が今後の課題として挙げられた。土佐清水市での試行では、受注業者が実施手順における検討作業に伴うコストとして、全体コストの5%〜10%を想定したが、これは業者により様々であると考えられる。熊本県からは、特に障害者の方が利用する特殊ソフトウェア等の支援技術について、受注業者がすべての情報を得ることは困難であり、評価のために新たにソフトウェアの導入が必要となれば、業者の負担が増えてしまうため、支援技術や対応方法に関するナレッジデータベースを構築し無償公開するような取組が行えないかとの提案があった。 また、ユーザー評価について、今回は実証評価という期間が制約された中、テンプレート評価時のみの実施となったが、特にリニューアルの際には基本検討段階で取り入れることが重要である。リニューアルの方向性を定めるには、前提として多様な利用者を理解することが必要であり、方向性が定まったものを後から修正することは困難である。また、土佐清水市では実施後に、「基本検討でユーザー評価を実施していれば、そこで有益な情報が得られ、基本検討での職員の作業の負担も軽くなっただろう」と考えている。基本検討段階、評価段階、それぞれの段階の適時にユーザー評価を実施するよう、特に注意する必要がある。 5−2−2 「ウェブページの追加・更新」手順の実施による効果 日々更新されるホームページのアクセシビリティを確保し、それを維持し、さらに向上を図るためには一定のガイドライン等が必要となる。「ウェブページの追加・更新」手順の実施により、各地方公共団体が有している、あるいは今後策定するホームページ作成のガイドライン等でウェブアクセシビリティ対応を明確にし、実効性のあるものにすることができる。 世田谷区には、「世田谷区ホームページ利用のガイドライン」、「ホームページ作成マニュアル」があり、この中にはウェブアクセシビリティへの対応についても示されている。これらに基づき各課にホームページの作成が任されているが、HTMLの知識・スキルが十分でない各課の職員が、ウェブアクセシビリティ対応に係る項目をすべて理解して実施するのは困難である。今回の実証評価の対象となった「世田谷保健所」のウェブページは、主管課の職員がホームページ作成ソフトを使用して日常のウェブページを作成しているが、マニュアル内で注意が促されているウェブアクセシビリティ上の問題点が含まれている状態であった。 今回の実証評価では、「簡易点検ガイド」とチェックツールを用いて、現行のホームページの問題点を洗い出したが、この作業で主管課の職員がそれまでウェブページを作成していながら気付いていなかったウェブアクセシビリティ上の問題点を発見することができた。リニューアル手順で実証評価を実施した熊本県・土佐清水市と同様に、「簡易点検ガイド」は予備知識のない職員にも使える手引書として有効であることが確認できた。 ウェブアクセシビリティ維持・向上のための対応については、「基本検討シート」、「詳細検討シート」を使用して検討した。この検討はHTMLやウェブアクセシビリティについて一定の知識を持った情報政策課と広報広聴課の職員が行い、現行のホームページ作成ソフトを使用した更新手順で可能な範囲に限られたが、検討の結果を踏まえて修正されたウェブページは高齢者によるユーザー評価で好意的な評価を得られた。 一連の手順の実施によりウェブアクセシビリティの向上効果が得られたことが確認できたが、世田谷区では、特に有意義だったのがユーザー評価であった。操作を見てわかること、設問以外のことでも現場にいて全体的な印象から受けることが、職員のウェブアクセシビリティへの認識を新たにすることとなった。 今回の実証評価で手順を試行した結果を踏まえ、世田谷区ではこれまで実施していなかったユーザー評価というステップをガイドラインの中に加えていこうと考えている。また、「基本方針策定ガイド」を参考に、指針の中に盛り込むウェブアクセシビリティに関する基本方針の案も策定した。 リニューアルの手順を試行した熊本県でも、「基本検討シート・詳細検討シートはガイドラインの策定や見直しの際に多くの地方公共団体で参考になるだろう」との感想を述べている。検討結果をもとにガイドラインを整備すれば、リニューアル調達のたびに専門的知識やスキルを要する詳細検討を行う必要もなくなり、ホームページのアクセシビリティを維持することができる。 なお、「基本検討シート」「詳細検討シート」は、専門的知識が十分でない職員が対応を選択・決定するには難しい内容ではあるが、事前に参照するべき資料等を示したことによって、ガイドライン等の策定のために勉強する際の参考資料として活用できるようにした。また、ホームページの作成・更新を外部委託によって実施している場合には、受注業者へのウェブアクセシビリティ対応の仕様として、「ホームページ・リニューアル」手順と同様に使用できるものである。 また、ユーザー評価等の一連の手順を職員が経験することでも、「ホームページ・リニューアル」手順を実施した熊本県、土佐清水市と同様に職員の意識改革の面での多大な効果が見られた。今回実証評価を実施した世田谷区はCMSの導入が決定しており、今後他の地方公共団体でもCMSの導入が進むことが考えられるが、適切な画像の代替テキストの設定等、ウェブアクセシビリティの対応は機械的に対応できないものがある。更新作業によりウェブアクセシビリティを低下させず、維持・向上していくためには、「ウェブページの追加・更新」手順の実践が求められる。 |
6.今後の取組 6−1 課題と検討の方向性 (1)職員研修プログラム等の充実 地方公共団体におけるウェブアクセシビリティ配慮の大きな課題のひとつが、人事異動によって担当職員が定期的に入れ替わり、知識や技術の継承が難しいことである。この点を補うには、新任の担当者が必要な知識を短期間に修得できる研修プログラムや教材の充実が求められる。 現在、地方公共団体職員向けのウェブアクセシビリティに関する研修については、地方公共団体の情報化等に関する研修等を実施している財団法人地方自治情報センター(LASDEC)において、既存の研修に取り込むなどの動きが始まっているところである。具体的には、本年度セミナーにおいてウェブアクセシビリティに関する内容が盛り込まれ、また、月刊誌では「Webアクセシビリティ&ユーザビリティ講座」の連載が行われているところであり、今後も積極的なウェブアクセシビリティに関する研修の実施に期待したい。 将来的には、eラーニングプログラムとしてオンラインで提供するなど、地方公共団体の職員が必要に応じていつでも利用できる環境があればより効果的であろう。 加えて、ウェブアクセシビリティを担当する職員が最新の技術情報の入手や知識や経験の共有・蓄積が可能となるよう、情報共有の仕組みを用意することも有効であろう。 (2)関係者のウェブアクセシビリティスキル評価手法の整備 ホームページのリニューアル等では多くの場合、制作を外部業者に発注するが、制作業者のアクセシビリティに関する知識や技術レベルが事前に発注側で把握しにくいという課題がある。この課題に対しては、「みんなの公共サイト運用モデル」における各種ワークシート(基本検討シート、対応方針回答シート、詳細検討シート、実施内容確認シート)を活用することはもちろんだが、それに加えて、制作業者の技術者向けにウェブアクセシビリティに関する認定試験が行われ、ウェブアクセシビリティに関する知識・技術レベルの認定等が実施されることにより、さらに客観的に制作業者のアクセシビリティに関する知識や技術レベルを把握することが可能となるであろう。 (3)共通基盤・リソースの整備 ウェブアクセシビリティの確保のためには、共通の基盤やリソースが整備されていたほうが、コスト面で、より効率的に対処できることから、将来的にはこのような共通の基盤やリソースが整備されることが望まれる。 例えば、ホームページ作成の際のひな型(テンプレート)がウェブアクセシビリティの観点から十分に検討し設計されている場合、そのテンプレートを使って作られる実際のウェブページについても、容易にウェブアクセシビリティを維持することが可能となる。大規模で財政的に余力のある地方公共団体では、その地方公共団体独自のテンプレートをホームページ・リニューアルの受注業者に作成させることができるだろうが、中小規模の地方公共団体等も考えると、既成の安価なテンプレートが用意されていたほうが、よりウェブアクセシビリティ対応の敷居が低くなるだろう。 (4)障害者・高齢者を含めたウェブアクセシビリティ評価環境の整備 ウェブアクセシビリティ対応において、障害者・高齢者の参加を得ることは特に重要だが、適切な障害者・高齢者モニターを見つけることが難しい場合も多い。 現在、障害者のICT利活用を支援するための施設として、厚生労働省の支援を受けて、全国的に視聴覚障害者情報提供施設や障害者ITサポートセンターの整備が進められている。これらの施設で実施している事業は様々であるものの、多くの施設で障害者モニターの紹介が可能であり、また、現在可能でない施設についても、今後可能となることが期待されている。 また、今後は、様々な条件や経験を持つ障害者・高齢者モニターを登録し、障害者・高齢者が地域内の地方公共団体のウェブアクセシビリティの評価に活躍できるような環境が整うことも期待される。 (5)ウェブアクセシビリティや業務プロセスの定期評価手法の検討 「みんなの公共サイト運用モデル」のPDCAサイクルのうちCHECKプロセスでは、アクセシビリティ定期評価や、ウェブアクセシビリティ維持・向上のための業務プロセスの定期評価を行う必要がある。これに対して、本研究会ではその大枠を検討し本報告書に示した。 今後、中長期的には、ウェブアクセシビリティに関する適切な指標を設定し自動チェックツール等を用いた効率的な評価手法や、ウェブアクセシビリティ水準を適切に定量化(ベンチマーク)する手法、業務プロセスの評価項目や業務見直し内容の導き方等適切な業務プロセス評価手法等についても検討を進めていくべきであろう。 6−2 「みんなの公共サイト運用モデル」の普及 本研究会で実施したアンケート調査でも明らかになったとおり、地方公共団体でのウェブアクセシビリティ維持・向上の取組は、昨年6月のJIS X 8341-3の制定以降、一定の広がりを見せているものの、まだまだ大きな動きにはなっていない。 本研究会で検討した「みんなの公共サイト運用モデル」は、地方公共団体におけるウェブアクセシビリティ対応の現状と課題を踏まえて、中小の地方公共団体で実践可能なウェブアクセシビリティ維持・向上の取組モデルを示したものであり、「みんなの公共サイト運用モデル」を広く普及させることは、様々な規模の地方公共団体でのウェブアクセシビリティ維持・向上の取組を促進する上で、非常に有益である。 今後、この「みんなの公共サイト運用モデル」の普及のため、本研究会の成果物を全地方公共団体に送付し、インターネット上でも公開することにより、地方公共団体の担当者が容易に参照できるものとすべきである。加えて、全国各地で地方公共団体の担当者向けセミナー等を開催し、「みんなの公共サイト運用モデル」の利用方法等を紹介するなどして、「みんなの公共サイト運用モデル」の積極的な活用を促すための取組を継続的に実施していくことによって、全国的にウェブアクセシビリティ維持・向上の気運を高めていくことが重要である。 なお、今回の実証評価において、地方公共団体の担当者は、高齢者や障害者が一体どのようにしてホームページ等を利用しているのか、実際に見たことがなかったが、ユーザー評価によって高齢者や障害者の利用シーンを実際に見ることで、ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の必要性を強く実感することができた。こうしたことを踏まえると、今後の「みんなの公共サイト運用モデル」の普及に向けた取組の過程において、高齢者や障害者の方々が実際にホームページ等を利用しているシーンを映像等で紹介することは、地方公共団体の担当者の意識を大いに高める効果があることが期待できるだろう。 |
資料1 公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会・開催要綱
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資料2 研究会構成員名簿
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資料3 研究会開催の経緯 |
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第1回 | ||||||||
日時 | 平成16年11月17日(水) | |||||||
議事 | (1) | 公共分野におけるアクセシビリティ確保の現状と課題について | ||||||
(2) | 地方公共団体の現状について | |||||||
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(3) | 今後の進め方について |
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第2回 | ||||||||
日時 | 平成16年12月24日(金) | |||||||
議事 | (1) | 地方公共団体ウェブサイトのアクセシビリティの実態 | ||||||
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(2) | Webシステムのアクセシビリティ確保に必要なアプローチ(第3回に延期) | |||||||
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(3) | WCAG 2.0の現状とW3C/WAIの状況 | |||||||
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(4) | 米国政府機関・州政府の取り組み IDEAS 2004報告 | |||||||
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第3回 | ||||||||
日時 | 平成17年1月27日(木) | |||||||
議事 | (1) | Webシステムのアクセシビリティ確保に必要なアプローチについて | ||||||
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(2) | 利用者参加の在り方について | |||||||
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(3) | 今後の議論の方向性について | |||||||
(4) | 地方公共団体におけるウェブサイトの企画・運用等に関するアンケート(案)について |
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第4回 | ||||||||
日時 | 平成17年3月30日(水) | |||||||
議事 | (1) | 地方公共団体におけるウェブサイトの企画・運用等に関するアンケート調査結果について | ||||||
(2) | X8341-3技術解説について | |||||||
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(3) | アクセシビリティ対応確認シートの素案等について |
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第5回 | ||||||||
日時 | 平成17年5月27日(金) | |||||||
議事 | (1) | アクセシビリティ検討シート等について | ||||||
(2) | アクセシビリティ簡易点検表について | |||||||
(3) | 障害者・高齢者による評価手順について |
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第6回 | ||||||||
日時 | 平成17年7月13日(水) | |||||||
議事 | (1) | これまで検討してきた各種ドキュメント案の修正について | ||||||
(2) | アクセシビリティ基本方針の策定等について | |||||||
(3) | アクセシビリティ配慮手順実証評価の実施について |
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第7回 | ||||||||
日時 | 平成17年10月7日(金) | |||||||
議事 | (1) | アクセシビリティ配慮手順実証評価の報告について | ||||||
(2) | 各種ドキュメント案の修正について | |||||||
(3) | 「e都市ランキング |
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(4) | 報告書骨子案について |
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第8回 | ||||||||
日時 | 平成17年11月25日(金) | |||||||
議事 | (1) | 電子申請システムにおけるアクセシビリティの確保について | ||||||
(2) | 報告書(案)について |
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