7 財政マネジメントの強化

地方公共団体や公営企業が、中長期的な見通しに基づく持続可能な財政運営・経営を行うためには、自らの財政・経営状況、ストック情報等を的確に把握し、「見える化」することが重要であり、地方公会計の推進、地方財政の「見える化」や公営企業の経営改革等に取り組む必要がある。

(1)地方公会計の整備・活用の推進及び地方財政の「見える化」の推進

ア 地方公会計の整備・活用の推進

地方公会計は、現金主義会計による予算・決算制度を補完するものとして、発生主義・複式簿記といった企業会計的手法を活用することにより、現金主義会計では見えにくいコスト情報(減価償却費等)やストック情報(資産等)を把握することを可能とするものである。令和4年3月31日時点において、令和2年度末時点の状況を反映した固定資産台帳については都道府県及び市区町村の94.1%に当たる1,683団体が整備済となり、令和2年度決算に係る財務書類(貸借対照表、行政コスト計算書、純資産変動計算書、資金収支計算書の財務書類4表をいう。)については都道府県及び市区町村の91.6%に当たる1,638団体が作成済となっている。

こうした状況を踏まえ、後述する「経営・財務マネジメント強化事業」も活用し、全ての地方公共団体において、決算年度の翌年度末までに固定資産台帳及び財務書類の作成・更新を行うことが求められるとともに、固定資産台帳及び財務書類から得られる情報を資産管理や予算編成等に積極的に活用していくことが重要であり、活用事例の周知を行っている。

また、総務省においては、各地方公共団体が作成した財務書類に関する情報を集約し、統一的な様式に基づく比較可能な形で公表しているところであり、令和2年度決算については、令和4年9月に公表した。

イ 地方財政の「見える化」の推進

地方財政の「見える化」については、「地方財政白書」、「決算状況調」、「財政状況資料集」等により積極的な情報開示を行ってきた。

「財政状況資料集」においては、各地方公共団体の性質別・目的別の住民一人当たりのコストや、施設類型別の有形固定資産減価償却率*2などのストックに関する情報について比較可能な形で公表するとともに、基金の使途・増減理由・今後の方針等について公表している。

地方公共団体においては、住民等に対する説明責任をより適切に果たし、住民サービスの向上や財政マネジメントの強化を図る観点から、住民等へのより分かりやすい財政情報の開示に取り組むとともに、公表内容の充実を図っていくことが求められる。

こうした中、地域の実情や住民のニーズを踏まえて実施されている地方単独事業(ソフト)についても、決算情報の「見える化」が進められてきた。平成29年度決算からは、総務省において、地方単独事業(ソフト)の試行調査結果を公表しており、令和4年度決算額に関する調査(令和5年度に実施予定)からは、決算統計システムによる全数調査を実施する予定である。

(2)公営企業の経営改革

公営企業は、料金収入をもって経営を行う独立採算制を基本原則としながら、住民生活に身近な社会資本を整備し、必要なサービスを提供する役割を果たしている。今後の本格的な人口減少等に伴うサービス需要の減少や施設の老朽化に伴う更新需要の増大など、公営企業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中にあって、各公営企業が将来にわたってこうした役割を果たしていくためには、経営戦略の策定・改定や抜本的な改革等の取組を通じ、経営基盤の強化と財政マネジメントの向上を図るとともに、公営企業会計の適用拡大や経営比較分析表*3の活用による「見える化」を推進することが求められる。

ア 公営企業の更なる経営改革の推進

(ア)経営戦略の改定の推進

経営戦略については、令和2年度までの策定を要請してきたところであり、令和3年度末までに95.5%の事業が策定を完了している。未策定の事業においては、速やかに策定に向けた取組を進める必要がある。

今後は、策定済みの経営戦略について、経営戦略に基づく取組の進捗と成果を一定期間ごとに評価、検証した上で、今後の人口減少等を加味した料金収入の反映やストックマネジメント等の取組の充実により、中長期の収支見通し等の精緻化を図るとともに、料金改定や抜本的な改革を含め、収支均衡を図る具体的な取組の検討を行い、令和7年度までの経営戦略の改定に反映することが求められる。

また、地方公共団体においては、現下の課題である物価高騰への対応や、積極的なデジタルの活用(DX)とグリーン化(GX)の推進などが求められていることを踏まえ、各公営企業においても、これらの課題に積極的に取り組み、経営戦略に適切に反映することが必要である。

あわせて、新型コロナウイルス感染症に伴い生じている生活様式の変化が各公営企業の経営に与える影響についても、適切に反映することが重要である。

(イ)抜本的な改革の検討の推進

各公営企業が不断の経営健全化等に取り組むに当たっては、事業ごとの特性に応じて、民営化・民間譲渡、広域化等及び民間活用といった抜本的な改革等に取り組むことが求められる。令和3年度においては、第48表のとおり、広域化等89件、包括的民間委託37件などの取組が実施されている。

総務省においては、これらの抜本的な改革等の取組に係る先進・優良事例を取りまとめた新たな事例集を作成・公表することとしている。

(ウ)公営企業の経営状況の「見える化」の推進

公営企業の経営状況の「見える化」については、各公営企業の経営状況の把握や財政マネジメントの向上に有用であることから、公営企業会計の適用拡大及び経営比較分析表の作成・公表を柱として推進している。

a 公営企業会計の適用拡大

公営企業会計の適用については、「公営企業会計の適用の更なる推進について」(平成31年1月25日付け総務大臣通知)及び「公営企業会計の適用の推進に当たっての留意事項について」(同日付け総務省自治財政局長通知)において、

  • 下水道事業及び簡易水道事業を重点事業とし、令和5年度までに公営企業会計に移行すること
  • 重点事業以外の事業についても、公営企業として継続的に経営を行っていく以上は、原則として公営企業会計の適用が求められること

等としている(第86図)。

第86図 公営企業会計の適用拡大のロードマップ

令和4年4月時点における地方公共団体の公営企業会計適用の取組状況は第49表のとおりであるが、引き続き、各地方公共団体における取組状況のフォローアップや、後述する「経営・財務マネジメント強化事業」等により、更なる取組を促進することとしている。

b 経営比較分析表の活用

経営比較分析表については、総務省において、水道事業、簡易水道事業、工業用水道事業、交通事業(自動車運送事業)、電気事業、病院事業、下水道事業、観光施設事業(休養宿泊施設事業)及び駐車場整備事業の9分野のひな形を作成し、各公営企業において、これを基に作成・公表が行われている。経営比較分析表が、各公営企業において経営課題の把握や経営改革の検討に活用されることが期待される。

イ 水道・下水道事業における広域化等の推進

水道・下水道事業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中、広域化等、適切なストックマネジメント、料金収入の確保、民間活用、ICT等の利活用によるデジタル化の推進などに取り組むことで持続可能な経営を確保することが必要である。

特に、広域化等については、「「水道広域化推進プラン」の策定について」(平成31年1月25日付け総務省自治財政局長、厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官通知)及び「汚水処理の事業運営に係る「広域化・共同化計画」の策定について」(平成30年1月17日付け総務省自治財政局準公営企業室長等通知)を発出し、都道府県に水道・下水道事業の広域化等に関する計画を令和4年度末までに策定するよう要請している。また、計画の策定後においては、都道府県のリーダーシップの下で計画に基づく広域化等の取組を着実に進めるとともに、計画の充実を図ることが重要である。このため、水道・下水道事業ともに都道府県が実施する広域化等の推進のための更なる調査検討に要する経費について、令和5年度から新たに地方財政措置を講じることとしている。さらに、下水道事業については、事務を共同で処理する際に必要なシステム整備費を下水道事業債(広域化・共同化分)の対象に追加することとしている。このほか、引き続き広域化等に伴う施設の整備費等に対する地方財政措置を講じることとしている。

ウ 公立病院経営強化の推進

公立病院は、地域における基幹的な公的医療機関として、へき地医療、救急・小児・周産期などの不採算医療や高度・先進医療を提供する重要な役割を担っており、今般の新型コロナウイルス感染症への対応においても大きな役割を果たしている。

一方、地方公共団体においては、これまでに2回公立病院改革プランを策定し、様々な経営改革に取り組んできたが、公立病院の経営は、医師不足や人口減少等により、依然として厳しい状況が続いている。さらに、今後、新興感染症への対応や医師の時間外労働規制への対応も必要となっているところである。

そのため、総務省は令和4年3月に「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」を策定し、地方公共団体に対して、「公立病院経営強化プラン」を令和5年度末までに策定し、経営強化に取り組むよう要請している。

また、地方公共団体が「公立病院経営強化プラン」に基づき公立病院の経営強化に取り組めるよう、公立病院の機能分化・連携強化に伴う施設・設備の整備費等に係る病院事業債(特別分)や、医師派遣等に係る特別交付税措置等の地方財政措置を講じている。令和5年度においては、公立病院等の施設整備費に対する地方交付税措置の対象となる建築単価の上限について、資材価格等の高騰による建設事業費の上昇を踏まえて引き上げることとし、令和4年度の病院事業債から適用することとしている。

また、不採算地区病院等については、コロナ禍においても病院機能を維持し、地域医療提供体制を確保するため、令和3年度に特別交付税措置の基準額を引き上げたところであるが、この措置を令和5年度においても継続することとしている。

(3)DX・GX等の新たな課題に対応した地方公共団体の経営・財務マネジメントの強化

令和3年度に地方公共団体金融機構との共同事業として創設した、地方公共団体の状況や要請に応じて継続的にアドバイザーを派遣する「経営・財務マネジメント強化事業」については、令和5年度も引き続き実施し、公営企業・第三セクター等の経営改革、公営企業会計の適用、地方公会計の整備・活用及び公共施設等総合管理計画の見直し・実行に加え、新たに、地方公共団体のDX、首長・管理者向けトップセミナー及び公営企業のDX・GXについてアドバイザーを派遣することとしている。



*2 保有する償却資産の取得価額等に対する減価償却累計額の比率であり、耐用年数に対して、資産の取得からどの程度経過しているのかを表す指標

*3 各公営企業の経営及び施設の状況を主要な経営指標やその経年の推移、類似団体との比較により表し、分析を行ったもの

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