地方公共団体が、地方自治・新時代に的確に対応していくためには、自らの責任において、社会経済情勢の変化に柔軟かつ弾力的に対応できるよう体質を強化することが重要であり、そのためには、職員の資質のより一層の向上を図り、その有している可能性・能力を最大限引き出していくことが必要である。
こうしたことから、この度、「地方自治・新時代に対応した地方公共団体の行政改革推進のための指針」(平成9年11月14日付け自治整第23号)において、長期的かつ総合的な観点で職員の能力開発を効果的に推進するため、人材育成の目的、方策等を明確にした人材育成に関する基本方針(以下、「基本方針」という。)を各地方公共団体が策定することとされているところである。
この指針は、平成8年度の地方行政運営研究会第13次公務能率研究部会における研究成果や各地方公共団体における先進的な事例等を踏まえ、各地方公共団体が基本方針を策定する際に留意・検討すべき事項を参考として提示するものである。
少子・高齢化の一層の進展、住民の価値観の多様化、環境に対する関心の高まり等社会経済情勢が大きく変化しつつある一方、地方分権の推進が実行の段階に到り、地方自治は新しい時代を迎えようとしているが、こうした中で、当該地域の将来像や行政のあり方等を踏まえながら、人材育成の目的及びこれからの時代に求められる職員像について明らかにすることが重要である。
その際、政策形成能力や創造的能力、法務能力等、今後その重要性が高まると考えられる能力の一層の向上を図ることはもとより、地方公務員としての基本的な心構え(公務を担うものとして、地域の行政を担うものとして)や公務員倫理についても人材育成の中であわせて検討すること。
人材育成を実効あるものとするためには、単に研修を充実するだけではなく、職場における様々な場面を人材育成のために活用していくことが必要であり、そのためには、職場の学習的風土づくり等の総合的な取組を推進することが極めて重要であることから、次のような事項について検討すること。
人材育成は、職員自身の主体的な取り組みと任命権者・管理監督者による多様な学習機会の提供等の支援とがあいまって、より大きな効果をあげるものと考えられる。したがって、例えば次のような取組をはじめとして、自己啓発に対する各種支援措置の充実、優れた学習成果に対する表彰及びその施策への反映、人材育成に関する情報誌の発行などにより、職場の学習的風土づくりを全庁的に推進していくことが重要である。したがって、職場風土の改善目標及びそのための具体的な方策について検討すること。
なお、人材育成を実施・支援するための施設(研修施設、図書室、資料室、情報データベース等)のあり方や今後の整備方針などについても検討すること。
人材育成を推進していく上で各職場が留意すべき事項を取りまとめた職場診断表を作成し、管理監督者等に提供することにより、現在の職場のどこに問題があるか、何をなすべきか等についての検討を促すことができる。
自主研究グループ活動をはじめとする自己啓発の成果について、首長等も参加する発表の場を設けることにより、職員の自己啓発に対する意欲を高めるとともに、その成果を広く庁内に普及させることができる。
各種事務事業に対して職員が改善意見等を提案する機会を設けることにより、部局を越えた職員の多彩な発想を引き出すとともに、その自主性や資質の向上を図ることができる。
人材育成を効果的に推進するためには、個々の職員の持つ能力を最大限に発揮させることを人事管理の目的の一つとして明確に位置づけ、例えば次のような取り組みをはじめ、自己申告制度の充実、研修成果の効果測定及び任用への活用、自己啓発によって取得した資格の人事考課への反映などを通じて、人材育成の観点にも十分配慮した人事管理を行っていくことが重要である。
したがって、人事管理全般の中における人材育成の意義と位置づけを再確認するとともに、人事管理と人材育成との連携のあり方について検討すること。
経歴管理(Career Development Program)とは、ジョブ・ローテーションを通じて様々な職場をバランスよく経験することで、視野や知識・技術を幅広く深いものとしていくと同時に、その時々に応じて適切な研修を提供することにより、スキルアップを図り、能力開発や人材育成の度合いをチェックして次のステップへ進むといった複合的な取組であり、職員の多様な適性等を生かした人材育成が可能となる。
特定のポストについて職員からの異動希望をとり、申し出のあった職員の中から審査、選考を行ったうえで配属することにより、組織の活性化及び効率的な行政運営が促進されるとともに、職員の能力を有効に活用することができる。
与えられた職務に対する勤務実績を評価するだけではなく、職員自らがその意思と工夫により目標を設定し、それに対してどれだけ挑戦し、努力し、成果を上げたかという点を評価に反映させることにより、挑戦意欲あふれる職場づくりが図られる。
職員の能力開発は仕事を通じて図られる側面が大きいが、その効果をより高めるためには、職場研修に限らず、仕事を進める過程自体を人材育成の機会として積極的に工夫し、活用していくという取組を組織全体が自覚的に行うことが重要である。
したがって、例えば次のような取組をはじめ、仕事の割り振りや責任分担、進行管理等、仕事の一連の過程を人材育成の観点からも有効なものとするための具体的な方策について検討すること。
一般に、組織の全体目標と個人の目標を上司と部下の協働作業により統合し、各人は設定された目標を「計画」−「実施」−「考査」のマネジメントサイクルに沿って実行していくことをいい、事務事業を効率的・効果的に進めることができると同時に、職員の士気を高揚し、創意工夫を促し、その自己管理に資するという効果がある。
目標による管理については、「職員参加の目標による行政運営−分権の時代の地方公共団体職場活性化マニュアル−(地方行政運営研究会第11次公務能率研究部会・平成6年8月)」も参考とされたい。
QCサークル活動等小集団活動は、職員の自主的な運営のもと、継続的に仕事の質の管理、改善に取り組むことを通じて、行政サービスの質の向上、職場の活性化を進めるだけでなく、職員の主体的な参加により、自己啓発、相互啓発が喚起され、職員の能力開発を促進するという効果がある。
小集団活動については、「TQM発想による創造的行政運営について−TQMの発想・手法を応用した行政運営マニュアル−(地方行政運営研究会第12次公務能率研究部会・平成8年3月)」も参考とされたい。
住民の求めに応じて幹部職員などが出向き、重点事業等について直接住民に説明して理解と協力を求めることを通じて、職員の対人能力の向上や意識改革を図ることができる。
地方公共団体における職員研修は、職員自身が自発的に取り組む自己啓発、職場において上司・先輩等が仕事を通じて行う職場研修(OJT)及び日常の職場を離れた所で実施する職場外研修(OffJT)の3つが柱であるが、それぞれの特性を踏まえ、研修内容の充実、多様化のための方策やそれらをどのように連携させて総合的な能力開発を推進していくのかについて検討すること。
人材育成は本人の意欲、主体性があってはじめて可能となるものであることから、自己啓発は人材育成の基本であると考えられる。
自己啓発を促進するためには、個々の職員の自主性に委ねるだけではなく、例えば次のような自己啓発のきっかけづくりや自己啓発に取り組みやすい組織風土づくりに組織として取り組む必要があることから、そのための具体的な方策について検討すること。
他の地方公共団体や民間企業の職員等と接触・交流する機会の提供や自己啓発度をチェックするリストの配布などにより、職員が自分自身を知り、自己啓発の必要性を自ら認識する契機を与えることができる。
自己啓発を支援するための研修の実施をはじめ、自主研究グループ等に対する各種支援制度の整備、通信教育の紹介・斡旋、学習・研修成果の発表の場の提供等の施策を講じることにより、職員一人ひとりが自己啓発に取り組みやすい職場風土をつくることができる。
職場研修は、特別な経費を必要とせず、日常的に職員個人の特性に応じたきめ細かな個別指導が可能であることから、従来から人材育成の中心的な手法とされている。
職場研修の実施は、各職場や各管理監督者の主体性に委ねるだけではなく、全庁的に推進していくことが重要であることから、例えば次のような職場研修推進のための具体的な方策について検討すること。
なお、職場研修の技法、手順や取組事例などについては、「地方公共団体における職場研修の推進方策に関する調査研究−分権の時代の職場研修マニュアル−(平成9年3月・財団法人自治研修協会)」も参考とされたい。
職場研修の実施主体は各職場の管理監督者であることから、管理監督者を対象とした階層別研修で職場研修の効果的な進め方を取り上げたり、職場研修を含む部下の指導育成が管理監督者の職務であることを改めて明確にすることなどにより、管理監督者の啓発を進めることが重要である。
職場や職員のタイプ別に職場研修のあり方を示すとともに、職場研修の責任者は管理監督者であること、管理監督という概念には部下の指導・育成という教育的要素も含まれていること等を明記した職場研修マニュアル、ガイドブック等を作成して職場の管理監督者に提供することが重要である。
職場研修を全庁的に浸透させて強力に推進するためには、各職場に職場研修推進員を置いたり、職場研修の強化・推進月間等を定めるといった工夫が必要である。
職場外研修は、本来の職務から離れて行われる研修であることから、一定期間集中的に行うことが可能であり、職務を遂行する上で必要な知識・技術を体系的に学習したり、高度・専門的な知識・技術を学習する際には効果的な手法であり、また一方では、他の職場や他の地方公共団体、さらには一般の地域住民等、様々な人々と交流し、相互に啓発しあう機会としても重要である。
研修所研修は、多数の職員に職務を遂行するうえで必要な知識を体系的に学ばせるのに効果的であること、一定期間集中的に行うことができることなどの利点があることから、昇任や配置換えといった様々な機会をとらえて、できる限り多くの職員に研修を受ける機会が与えられるよう留意することが必要である。
また、研修プログラムの作成に当たっては、職場の意見を十分反映させ、時代の変化に即応した有意義で効果的な研修となるよう常に心がけることが重要である。
なお、行政の枠にとらわれない発想の転換等を促す契機ともなる地域住民や民間企業との合同研修の実施や、特定職種に係る専門的、実務的な知識・技能を習得させるために各部局が主体となって行う集合研修の活用についても、あわせて検討すること。
地方公共団体間の派遣研修は、都道府県・市町村間、広域行政圏内の市町村間などで行われているところであり、先進的な行政手法の実地での習得、幅広い視野の涵養等の利点があることから、その趣旨・目的を明確にし、より有意義な派遣となるよう検討するとともに、専門職員を含む幅広い分野での派遣研修についても検討すること。
また、行政需要の複雑高度化に対応するための大学院等への派遣や経営感覚等を身につけるための民間への派遣についても検討すること。
なお、自治大学校、市町村職員中央研修所、全国市町村国際文化研修所などにおいては、常に時代の変化に即応した高度、専門的な研修を提供しているが、こうした全国的な研修機関に対する派遣研修についても、人材育成を推進するための有効な一方策として活用していくことが重要である。
高度、専門的な研修をはじめとして、必要性が高いにもかかわらず単独の地方公共団体では対応が困難であると考えられる研修については、都道府県、市長会、町村会等が行う研修や広域市町村圏単位で行われる研修などの広域での共同研修の活用及びその充実を検討すること。
なお、広域での共同研修は、広域的な交流による相互啓発の機会となり、また、市町村間の連携を一層緊密にする契機ともなるものであることから、現在こうした取組がなされていない場合等には、広域で共同研修を実施するための仕組みづくりについて検討すること。
地方公共団体は多種多様な職種、階層等の職員により運営されていることから、一般的・平均的な実務遂行能力に加え、多様で高度な専門能力や特定の分野における高度な業務に対応できる能力の養成など、それぞれの職種、階層等にふさわしい研修を行うよう努めることが必要であり、例えば次のような研修などについて、どのような内容を中心にいかなる手法を用いて研修を行っていくのかについてきめ細かく検討すること。
新ゴールドプランの推進等に伴い、保健福祉の専門職の必要性がますます高まってきているが、その専門能力をより充実させるような育成のあり方について検討すること。
議会事務局、監査委員事務局、人事委員会事務局等の職員については、その職務の拡大等に伴い専門的能力の育成強化が求められているが、こうした職員に対する研修機会の拡大、研修内容の充実、共同研修の実施、相互の人事交流の促進等について検討すること。
研修をより効果的で魅力あるものとしていく上で、研修担当職員の果たす役割は極めて大きいことから、研修担当職員の育成方策について検討すること。
人材育成を効果的に推進するためには、首長のリーダーシップのもとに総合的な取組を推進し、職場風土、人事管理等の改善や研修の充実を図るとともに、職員の一人ひとりが意欲を持って自己啓発等に取り組んでいくことが重要であるが、そのためには、管理監督者の自覚と部下に対する適切な指導・助言、さらには、こうした取組を支える人材育成担当部門の体制整備が不可欠である。
管理監督者は、職員の能力開発のニーズを的確に把握し、それぞれの能力や性格に応じた指導を行いうる立場にあり、また、その人材育成に対する取組姿勢が職員の意識や職場の雰囲気に大きな影響を与えることから、人材育成を推進していく上で極めて重要な役割を担っている。
したがって、管理監督者にこうした自覚を促し、意識啓発を不断に図っていくための方策や管理監督者に不可欠な指導力や統率力などの管理能力の向上方策等について検討すること。
人材育成を効果的・系統的に推進していくためには、職員全体の育成体系を立てるとともに、個別の取組を総合的に調整していく必要があり、人材育成の総合的調整・管理を行う部門が不可欠である。
したがって、人材育成担当部門(人事課、人事委員会、職員研修所等)の体制、機能、相互の役割分担、さらにはこうした部門と各部局・職場との連携のあり方等について検討すること。
また、全庁的に人材育成を推進していくため、部局横断的な連絡調整組織の設置の必要性についても検討すること。
人材育成は各地方公共団体自らが行うことが原則であるが、例えば、都道府県と市町村との共同での研修所設置や、研修講師養成のための研修、新しい課題に対応した高度な研修、情報の提供等を通じた市町村の人材育成に対する都道府県の協力などにより、都道府県と市町村が人材育成の面で相互に連携を深めることも重要であることから、具体的な連携方策についても、地域の実情に応じて検討すること。